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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
臥薪嘗胆編
30/73

第30節 バイバイ



「のぉハルトとやら。なぜ邪魔をする? 」


 ぼんやりと二人の前に立つ。

 ヒカゲを助けるとは言ったけど……これじゃあ簡単に殺されそうだなぁ。


「そやつは悪じゃ。生きる価値もないほどにのぉ 」


「あなたの価値観なんてしらないし、なにが悪とか興味ない。だから……すこしだけ付き合いの長いほうを守りたいの 」


 でもヒカゲがやってたように、やさしく笑って中指をたてる。

 するとツムギの首筋に血管が浮かびあがった。


「ほうか 」


 ツムギが剣を構えると、それに付いた数個の刃が砕けた。


((イスクス) )


 右腕にあかいヒビを走らせ、あの一振を躱そうとする。

 でも剣が振られると、右腕と右足は宙をまい、ぺたりと膝をついてしまった。


(代償魔術とか言ってたし、砕けた刃の数だけ自分を強化する感じかな? )


「ツムギさん、殺したらダメですよ? 」


「分かっとるわい! 四肢をもぐだッ」


「なんでよそ見してるの? 」


 落ちた足を投げ、ツムギの頬にかかとをぶつける。

 たいしたダメージはないけど、イラつかせるならこれで十分。


「ほう? 」


 笑いながらキレるツムギに対して、にっこりと笑みを浮かべる。

 すると反応できない速度で接近され、剣でお腹を貫かれた。


「お前はなにも分かっとらんのぉ。その気になればお前などすぐに殺せるんじゃぞ? 」


「じゃあはやく殺してよ 」


「っ!? 」


 右足の断面でツムギを蹴りとばす。

 ブチブチという音ともに剣が抜け、大量の血があふれ出る。


 やっぱり……二人以前にツムギと戦っても勝てない。

 だったらこの手しかないよね?


「夜空にうかぶ墓標たち。わたしはそれを荒らす者 」


「っ!? 」


 詠唱をはじめると、高速で接近してきたツムギの剣が右胸を貫いた。


 肺が完全につぶれる。

 でも息を吸う。


「わたしの足は貶すため、わたしの手は冒涜のために 」


「っう!!! 」


 今度は喉を、つぎは顎をつぶされた。

 それでも言葉をつむぐ。


「この胸は骸を抱くために、この瞳は涙をながすために 」


「なぜ喋れる!!? 」


 焦るツムギからお腹をなぐられ、ゴキバキと背骨を折れた。

 そのまま地面に投げつけられ、瓦礫が後頭部にぶち当たる。

 でもやさしく笑いながら、ツムギに顔を近づける。


「だからわたしは墓を荒らす。クソのような歴史を終わらすために、未だ過去の罪に囚われるもののために 」


「花語……ユキザクラ 」


 死なない私に焦ったのか、ずっと傍観していたシグレは白い花弁を散らした。

 でも


「ありがとう……これを待ってた 」


「ツムギさん!! 」


 左手で花弁をつかみ、粉雪となる腕を噛みちぎってツムギにプレゼント。

 触れたものを粉雪とするなら……それを渡された人はどうなるのかな?


「ふっ!! 」


 けれどツムギは左手で腕をはじくと、粉雪に変わる自分の左腕をすぐさま切り落とした。

 

 不意の一撃なはずなのに、どこまでも合理的にダメージを最小限に抑えられた。


「終わりじゃ 」


 剣が振り下ろされる。


 でもごめんね。

 それはただのミスリードだよ。


「これは終幕。世界をとさず終わりの嘆き 」


「なっ!? 」


 中断した詠唱をおえる。

 すると世界を夜が呑んだ。


 夜空にうかぶ無数の星々。

 そこから私たちを守るようになにかが落ちてきた。


 それはクマのような異形。

 3メートルをこえる巨人。

 その背ですすり泣く、弓もつ女神。

 薬品のような臭いがする、白い蛇の頭。


 ツムギたちがそれに気を取られてる隙に、蛇の吐息で自分とヒカゲの体を治癒する。


「よっこいしょ 」


 治った手でヒカゲをかかえ、落ちてきた星くずのソリに乗り込む。

 瞬間、刃が砕ける音とともに異形たちは消滅し、飛んできたなにかから心臓を貫かれた。


「逃がすと思うたか? 」


 刃がまわり、すごい形相をしたツムギから胸をかき回される。

 でも怖い顔をするツムギに微笑みかけ、ただ優しげに手を振ってみる。


「ばいばーい 」


「っ!!! 」


 ソリは加速し、瞬きする間もなくツムギたちは消えた。

 気がつけば空に太陽があり、辺りには人気がない。

 

(逃げれたのかなぁ……というかここってどこだろ? )


 心臓に突き刺さった剣を抜き、辺りを確認してみる。


 人気のない草原。

 反り立つ壁。

 正確な場所はわからないけど……壁があるなら学園の端っこかな?


「っ……ハル……ト? 」


「あっ、起きたんだね。よかった〜 」


 地面に転がるヒカゲを壁によりかからせ、開いた右目だけをじっと見つめ返す。

 

「……大丈夫か? 胸に穴……あいてるけど 」


「うん、平気平気。それよりヒカゲの方こそ大丈夫? 黒い渦が全身に浮き出てるけど……なんで治癒したのに消えてないの? 」


「ハハッ……だろうな。最近……何度も体を再生させて……何度も遺産をつかってたからな。もう……限界が来たみたいだ。たく……いくらなんでも……早すぎんだろ 」


「じゃあ助け損だね 」


「あぁ……悪いけどな 」


 ゼーゼーと苦しそうに呼吸をするヒカゲを見てると、どうしてか胸が締め付けられる。


(なんだろう……この感覚 )


「まぁ……お前のおかげで……明日くらいまでは生きられそうだ 」


「……生きてどうするの? 」


 奇妙な感覚に戸惑うけど、いまはヒカゲに聞きたいことを優先する。


「助けたけどさ、私はいますぐ死ぬべきだと思う。ヒカゲが何をしたいかは知らないけど……たった一日でそれを叶えることは無理なんでしょ? それを理解しながら生きるなんて地獄だよ? 」


「ハハッ……お前からそう心配されるって……変な気分だ。でも大丈夫……絶望することなんか……もう慣れてる。今はただ……あの人のことを思って居たい 」


 穏やかな顔をつきのまま、ヒカゲは目を閉じる。

 絶えだえながらに呼吸はしてるけど……目を離したらいつの間にか死んでしまいそう。


「……やっぱりヒカゲってさ、ゲシュペンストのことなんて最初からどうでも良かったんでしょ? 」


「なんで……そう思う? 」


「なんとなくかな 」


「……そうかよ。まぁ……半分あたりだ 」


 体を横にたおし、ヒューヒューと息を荒らげるヒカゲ。

 その顔の前に座りこみ、最後に一つだけ……質問をしてみる。


「ねぇ、最後の質問。ヒカゲって人間を怨んでるみたいだけどさ、どうして私を殺さなかったの? 首をつかまれた時も、敵意はしたけど殺意はしなかったし 」


「お前は……ヤマトやユウトを……貶したりしなかったし……なにより…… 」


「なにより? 」


「髪が……黒かったから…… 」


「……そう 」


 その一言で、自分の中にある考えは確信に変わった。


「これから……お前はどうするんだ? 」


「ゲシュペンストが生きるべきか死ぬべきか……その答えをさがすよ 」


「そうか……なぁ……俺も最期に……一つだけ 」


「なぁに? 」


「絶望して苦しむくらいなら……他人にその苦しみを押し付けていいんだ……誰を蹴落としても……なにを殺しても……自分が幸せになれれば……それでいいんだ 」


「ヒカゲに言われても説得力ないよ 」


「ハハッ……だろうな。でも……覚えてて欲しいんだ 」


「……うん、覚えておくね。バイバイ、ヒカゲ……短い時間だったけど、一緒に居られて楽しかったよ 」


 死にかけるヒカゲの額にキスをし、軽く頭をなでてこの場所から離れる。


『幸せになれればそれでいいんだ』


 ヒカゲからもらった最期の言葉を、なんどもなんども……心の中でつぶやきながら。

 もう二度と会えないヒカゲのことを思いながら。


 

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