第29節 いらない子
『あー……どうもバカ共、ヒカゲ・ルミルだ。アホみてぇに殺し合いしてるお前らに朗報。俺の手元に死にかけのハルト・ディアナがいる。だからゲームを終わらせたい奴は中央闘技場に来い、じゃな 』
瓦礫がつまれた中央闘技場だった場所。
そこから拡音魔具で全校に声をとどけ、そのまま魔具を叩きこわす。
(うし、これでゲシュペンストが集まるはずだ )
「ねぇ、こんなんで集まるの? 」
「おまっ、倒れたフリしてろって 」
「でも気になるじゃん 」
死にかけの人間を演じてほしいんだが、血まみれのハルトは興味津々に声をかけてくる。
「簡単に説明してやっから、それ終わったら寝てろよ? 」
「うん 」
「んじゃさっきの話、どう思った? 」
「罠。胡散臭い。ぜったい裏があるし、これで集まるやつはバカ 」
「あぁ、だから人間はほぼ来ない。けどゲシュペンストなら来るんだよ 」
「どうして? 」
「ゲシュペンストには質がある。ヤマトやユウトみたいなのは自分で考え迷うことはできるがな、質の悪い奴らは……前にしか進めない獣とおなじだ。だから人間を救いたいって思ってるんなら、罠だとわかってても飛びつかずには居られねぇんだ 」
「それじゃあ私は寄せ餌なんだ 」
「あぁ、まぁ殺させねぇから安心しろ 」
「ふーん 」
簡単な説明を終えると、ハルトは死にかけの役に戻ってくれた。
けれど唐突に……変なことを聞かれた。
「ヒカゲってさ、ゲシュペンストのことが嫌いなの? 」
「……んな訳ねぇだろ 」
「でも反人間軍と合ったとき、アイツらを殺そうとしたでしょ? さっきも獣とおなじだなんて言ってたし……うまく言えないけど、ゲシュペンストっていう肩書きだから愛してる感じがする 」
「…………随分おしゃべりになったな 」
「ふふっ、元からよく喋るよ? 」
「そうかよ 」
話をはぐらかしてる中、かすかに足音が聞こえた。
顔をあげれば数十人から囲まれており、その誰もが武器を持っている。
「よぉお前ら、そこで死にかけてる人間がハルト・ディアナだ。ゲームを止めてぇのならそいつをころ」
「コロス 」
腐臭に群がる虫のように、天才にすがり付くクズのように。
数人のゲシュペンストは躊躇うことなくハルトへ襲いかかる。
(クズ共が )
考えなしに突き進むゲシュペンストたち。
けれどその足元から異龍のアギトが現れ、クズ共は巨大な口へと呑み込まれた。
だがゲシュペンストたちは止まらない。
罠があると分かっているのに、バカみたいに足を進めて呑まれていく。
「あれ? あれ? 人間を助けたくて……なのに人間を殺さなきゃダメ? あれ? 」
「殺さなきゃ生かさなきゃ守らなきゃ好きなのに好きなのに?? ん……どうして殺さなきゃ? 」
そんなバカどもは放っておき、自己矛盾を起こしてる2人のゲシュペンストに近寄る。
「あっ、人間……あなたは」
「寝てろ 」
右腕を異龍へと創りかえ、自己崩壊する前に2人を呑み込む。
……こういうゲシュペンストは救われて欲しい。
そんな願いを胸の中でつぶやきながら。
「ねぇねぇ、そんなバクバク食べていいの? 」
「おまっ!? だから死にかけのフリしてろって 」
「だってもう居なくなったもん 」
いつの間にか背後にいるハルトにビビってしまう。
だがその言葉通り、あたりを見渡しても瓦礫しか転がっていない。
「はぁぁ、あんまり集まらなかったな 」
「それで? 殺したの? 」
「殺してねぇよ。異龍は体内で人間を繁殖させて栄養にする生物だ、それをイジって仮死状態で保存できるようにしてる 」
「ふーん、じゃあ次はどうするの? 」
「すこし様子を見る。それでダメなら次の手を」
「次の手のぉ 」
「っ!!! 」
聞き覚えのない声と突き刺すような悪寒。
すぐさまハルトの頭を押さえつけた瞬間、飛んできた何かが右腕を斬り落とした。
(樹天槍 )
落ちる腕を黒い槍に創りかえる。
だがそれを握るよりもはやく、槍ごと体をたたき斬られた。
(舐め……るな!!! )
「ほう? 」
腰の断面から螺旋の尾をつくり、高速で動くなにかを弾き飛ばす。
「はぁ……はぁ…… 」
「ヒカゲ・ルミルは人間と聞いたが……それは間違いのようじゃのぉ 」
「ハハッ……人間からも狙われるとおもってたが、最初にお前が来るか 」
下半身を無理やりつなげ、砂煙の向こうにいる人間へと中指を立てる。
砂煙をはらう剣。
それには小さな刃が無数に集まり、擦れあう鉄はジャラジャラと鳴く。
その剣は老人の腕によって握られ、俺をにらむ顔もシワがよる老人のものだった。
……この学園にいるババアなんぞ、アイツしかいねぇ。
「『天陸宇下第62位 』代償者……ツムギ・コナエル 」
「お前さんはケルパー王国の出身か。ならワシの目的はしっておろぉ? 」
「あぁ、ゲシュペンストの全滅だろ? 数年前……家族を欲求が暴走したゲシュペンストに殺され、けれど事件をもみ消すためにケルパー王国を追放された。だからそういう思想に目覚めたって聞いたが…… 」
「理由なんぞどうでも良いわい。ゲシュペンストを殺す、それを庇う人間を殺す。それだけじゃ 」
「ハッ、単純だな 」
艶なき白い髪をなびかせ、異様な剣を構えるツムギ。
それに合わせ、手元に五発だけ装填された銃を創りだす。
「……勝てると思っとるのか? 」
「俺は人間を滅ぼすことが目的だ。だったら……テメェらが敵になるくらい想定済みなんだよ!!! 」
「ほうか 」
酷くつまらなそうな声は耳元から聞こえた。
(いつの間)
だが接近されたと気がつく頃には、首は体から落ちた。
「む? 」
感覚の残る指先でトリガーを引き、落ちる頭蓋に弾丸を撃ちこむ。
ツムギの刃はすぐに頭を潰しに来るが、弾丸はすでに脳に達している。
『また頼るのか? 』
(うるせぇよ老害が )
首の断面からあふれた無数のムカデ。
それらが刃を受け止め、武器を伝ってツムギの手元へと這い上がる。
「っ!! 」
異質な光景のせいか、ツムギは後ろに引いた。
その一瞬でムカデは体を形成し、カサカサとうごめく虫どもを螺旋の鎧でおおい尽くす。
鎧の自重で立つことはできないが、身体中から龍の、胎児の、泥の、ドラゴンの足を創りだし、無数の足で地面を這う。
全身を這うムカデが叫びたくなるほどきもちわるい。
身体中に生えた足の感覚が脳にあつまり、拒絶反応が脳をかき混ぜる。
「ウー……ヴぅー!!! 」
それでも全身に創りだした多眼を脳に接続。
全方位にひらけた視界でツムギをにらむ。
「これまた面妖じゃのぉ 」
「ぜっっテeぇえ……ごろず!!! 」
「花語……アジサイ 」
全ての足で地面を蹴る。
けれど気がつくと、紫色の花たちが地面をおおっていた。
「……あっ? 」
全身の鎧が砕け散り、創りだした足もすべて崩壊。
丸裸のまま地面に倒れてしまう。
(なにが……起こって!? )
「もーうツムギさん! 一人で突っ込んだら危ないって言ったじゃないですか!! 」
「すまんのぉシグレ。じゃが助かったわい 」
「……どういたしましてです。まったく、ツムギさんは誰かが見てないと勝手に死んじゃいますからね〜 」
聞き覚えのない声。
その先には星夜のような黒い服に身をまとい、青空を思わせるような長髪をした少女がいた。
少女は俺の目線に気がついたのか、くしゃりと可愛らしい笑みを浮かべた。
けれど心臓は張り裂けそうなほど高鳴っており、恐れのせいか震えが止まらない。
「あぁ、自己紹介がまだでしたね。『天陸宇下 第40位』 花紬 シグレ・アオギです 」
「なんで……天陸宇下が二人も…… 」
「あなたを殺すためにツムギさんと手を組んだんです。ゲシュペンストの枷を容易に外せる存在なんて、世界中から敵視されても仕方ないでしょう? 」
「……ハッ、単純で……助かるわ 」
震えをかみ殺し、さらに三発……自分の頭に弾丸を撃ち込む。
これでリミッターは四つ外れた。
良くて廃人。
悪くて即死。
だがコイツらを殺るためには……そのくらいの代償なんて湯水のように払わなくてはいけない。
(ぜっテェ……コろ*・.*Zがぁ!!! )
思考が暴走し、創られた無数の遺産が全身を引きちぎる。
けれど無数に枝分かれした背骨が肉片をつなげ、両腕には龍や胎児の頭、両足と四つにわかれた背の肉からは、ムカデと螺旋の尾、世界樹そのものが根付く。
「ォゴェ……ガ……ぁあああぁあ!!!! 」
「シグレ、ちと下がっとれ 」
「えぇ、下がらないと服が汚れちゃいそうです 」
「ブゥガ!!! 」
肥大した尾を振り下ろす。
その余波はあたりの瓦礫を消し飛ばし、足元は縦に揺れる。
「ふっ!! 」
一撃を躱したツムギから、腕と体をつなぐ背骨を切り落とされた。
けれど断面から産み出された龍とドラゴンの顎がツムギを捉え、その口からあふれた炎をゼロ距離であびせる。
「ぬるいのぉ 」
だが髪の毛を焦がした程度ですまされ、顎を腕力で引きちぎられた。
着地したツムギ。
その手に握られた剣から数個の刃が砕け散り、刃先がこちらに向いた。
瞬間、肥大化した全ての肉に悪寒がはしる。
「『ギャぐら*?!!ガ盾』!!!! 」
肥大した肉を集め、ごみ溜めのような盾を生みだす。
「ユキザクラ 」
けれど花の名とともに白い花弁が舞いあがる。
その花弁に触れた盾は粉雪のように崩れ、防ぐ手立てを失った。
(なっ)
「『代償魔術』 」
「っぁぉあああ!!!! 」
「堕頭 」
重要臓器を集め、残るすべての肉を防御にまわす。
だが一振。
それだけで肉は消し飛び、重要臓器のほとんども消し飛んだ。
(死……終わ……まだ…………まだだ!!!! )
残る脳みそをフル活動させ、新たな遺産を創りだす。
「うぁあぉ!!!!! 」
「花語……スノードロップ 」
だが空から現れた白い花が覆いかぶさり、白い目隠しの中で全身をなにかに蹂躙されつづける。
「っ! ォガジュ!?!!? 」
(どんな魔術……だよ )
白い花がきえる頃には、胴から下はミンチとなっていた。
「ぐぅっ……ツ…… 」
血泡を吐きながら、臓器をつくりかえる。
だが脳の疲労のせいで……上半身の形を保つだけで精一杯だ。
(治れ! 直れ!! なおれ!!! )
石クズがはいった口を噛みしめる。
焼ききれるような苦痛の中、無理やり血を創りだす。
歯がくだけた。
それでも延命をつづける。
…………誰かが前に座りこんだ。
ツムギか。
(ころ……して……やる )
「殺す前に聞きたい……お主はなぜゲシュペンストから枷をはずした? 」
「……あ? 」
「あれはゲシュペンストを自己矛盾から守るためのものじゃ。それを人間に悪用されているにしても、救いたいのであれば安楽死させるべきじゃろ? それくらい枷を外せるお前なら可能なはずじゃ 」
「……… 」
「なぜそう無駄なことをする? 善悪を抜きにしろ、欲求と人の意思が混合する以上、あやつらは幸せになぞ生きれん。それを生み出しつづける人間を憎んだとしても、枷をはずせば自己矛盾を起こして死ぬゲシュペンストが増えるだけじゃろうに 」
「……ハッ、ババァの話はなげぇな 」
「あっ? 」
無理やり頬をつり上げ、震える右手で中指をたてる。
眼はもうほとんど見えないが、それでもツムギを睨みつける。
「幸せになれるなれないじゃねぇんだよ。この世に産まれたのなら、誰だって幸せを願っていいはずだろうが!!! それを人が奪い!! 理想すら見せずに使い潰す!! アイツらだって……あの人だって……夢を見てよかったはずだ。幸せになれなくても……自己矛盾の果てに自殺したとしても!!!! きっと今よりは……幸せに死ねるはずだ 」
「……その欲求のせいで、人間が殺されてもか? 」
「あぁ 」
「そのエゴのせいで……大切な者を失う人間がおってもか!! 」
「あたりまえだ!! あの人は人間じゃないんだ!! だったら……人間の善悪であの人を測んじゃねぇ!!!! 」
「……もうよい、黙れ 」
怒りに満ちた声とともに刃が振り下ろされた。
瞬間、ツムギの頬をなにかがぶん殴った。
「っう……誰じゃお前は? 」
「さっきからずっと居たけど……もしかして死体だと思われてた? 」
「誰じゃと聞いておる!!! 」
ぼやける視界に見える黒い髪。
ところどころに血を吸い、赤く染まるワンピース。
なんでお前が……
「えっと、自己紹介するときは二つ名も言わなきゃダメなんだよね? なら……コホン。『すべてに成るもの』 ハルト・ディアナ。いまからヒカゲを助けるね 」
失明しかける寸前に見えた後ろ姿。
それはまるで……古い記憶の中にいる、あの人のようだった。




