第28節 分かれ道
「いや……別に協力してやんよ? 俺たちの目的もゲーム止めることだし 」
「そうなの? じゃあみんなでぶち殺しまくろ〜 」
「まてまて、最終目標が同じなだけだからな。まだ行動は控えてくれ 」
「うん、分かった〜 」
突如現れたハルトを二人で抑制し、ゆっくりとヤマトに肩を寄せる。
「「じゃあちょっと待っててくれ 」」
すぐさまハルトに背を向け、ヤマトと肩を組んで声をしぼる。
「どーいう事だよ!? 」
「俺だって知りてぇよ!!! なんで女の格好してんだ!? なんでゲームを終わらせてぇんだ!? 結局なんで俺たちを助けたんだ!? なんも分かんねぇよ! あいつ怖ぇ!! 」
意味がわからないことだらけで、まったく理解が追いつかない。
だが俺よりもヤマトの方が焦っているおかげか、逆にこっちは冷静になってしまった。
ひとまず咳払いをし、ヤマトと一緒に自称ハルトと目を合わせる。
「終わった〜? 」
「あぁ一応……でだ。お前どうしたよ? エリカに誘拐されてから何があった? 」
「エリカと話して〜、結婚して〜、ドレス着よ〜ってしたけど〜、止められて〜、ワンピース着た〜。カワイイ〜? 」
(あれこれ……洗脳されてね? )
話が通じてないハルトを見てると、そんな考えが思い浮かんだ。
けどなぁ……いくらエリカの魔術で色々できたとしても、欲求的にハルトを洗脳するかどうかはかなり怪しい。
「あー……カワイイと思うぞ 」
「えへへ〜ありがと〜 」
元々小柄で女性よりの顔だったからか、ハルトがワンピースを着ていても全く違和感はない。
だが見慣れない光景すぎて頬が引きつってしまう。
(マジでどういう事だよ…… )
必死に頭を回してると、突如ヤマトから肩を叩かれた。
「とりあえずヒカゲ……計画通りにな! じゃ!!! 」
この空気に耐えきれなくなったのか、ヤマトは逃げるように走り去っていった。
……押し付けやがったなアイツ。
(はぁぁぁ……まぁ仕方ねぇな )
色々と納得いかないが、もとより二手に別れる前提の作戦だった。
なら文句を言っても仕方がない。
「ねぇねぇ、これから何するの〜? 」
「……とりあえずコイツらを焼いてやりたい。死体が残ってたら国に送り返されるだろうからな 」
「送り返されたらマズイ? 」
「……あぁ。ゲシュペンストの死体はだいたいが再利用される。それでまた人の枷を嵌められたら……こいつらが報われなさすぎるだろ 」
「なら私が焼くよ。それなら灰も残さない方が良いもんね! 」
確かに遺灰からもゲシュペンストは創れてしまう。
よく分からないこいつに頼むのはあれだが……ハルトの言う通り、燃やすならそのくらいしてもらった方がいい。
「じゃあたの……ちょっと待て? 」
鉄をこするような聞き慣れない音。
それはゲシュペンストたちの死体から聞こえ、その体は透明な光に包まれている。
(転送魔具の光……か? )
そんな考えが思い浮かぶ頃には、辺りの死体はいっせいに転送された。
どこに転送されたのか……誰が転送したのか。
謎は残るが、今は襲われなかったことに安堵してしまう。
さっきの連戦のせいで体が餓死しかけ、遺産を創り出せるほどの集中力はもうない。
「ふぅぅぅ……とりあえずハルト、なんで女装なんかしてんだよ 」
「ずっと男のフリしてただけだから〜、これがほんとの姿だよ 」
「……そういやお前、人国出身だったな。たしかにあそこなら男のフリをしてた方がいい 」
地面に落ちている自分の服を拾い、小袋に詰めた砂糖菓子をかじる。
エネルギーはこれでなんとかなる。
あとは脳の疲労が収まるまでゆっくりしていればいい。
「ところでさ〜、人間を好いてるゲシュペンストなんてどうやって探すの? 」
「……なんでお前が知ってんだよ 」
「私ね〜ヤマトをつけてたの。そしたら変な尻尾に吹き飛ばされてさ〜、ずっと瓦礫の下で話を聞いてたんだよ 」
「……そりや悪かったな 」
なぜ絶妙なタイミングで現れたのか、なぜあの会話を知ってたのか。
その一言で色々と納得できたが、逆に気がかりなこともできた。
「なぁ……お前はどう思った? 」
「何が〜? 」
「犠牲を出さないために人間とゲシュペンストを対立させたとしても、その確執がまた別の犠牲を増やすかもしれねぇ。要するに俺たちがやってる事は戦争の下準備なんだよ 」
「だから〜? 」
「仮に戦争が起こった場合、人間とゲシュペンスト。お前はどちらにつく? 」
そう……結局の問題はそこだ。
こいつの魔術は危険すぎる。
入学当初。
ユウトとの戦い。
さっきの襲撃。
こいつは三度魔術を使ったが、その全ては異質なものだった。
しかも広範囲かつ、異様すぎて回避方法もわからない。
仮に戦争になれば……こいつが一人居るだけで戦況が大きく変わってしまう。
「……なるほど〜、エリカが言ってたのはそれだったんだ。もちろん人間側につくよー 」
(はぁぁ……なら気絶させておくか )
「でもさ……どうして人間とゲシュペンストが戦争しなきゃいけないの? 」
ひとまずハルトの首を掴むが、その言葉に思考が止まる。
あぁそっか……人国にはゲシュペンストが居ねぇもんな。
「欲求で人を殺す生きものを野ざらしには出来ねぇんだろうよ。だから管理できないゲシュペンストは人間にとって邪魔でしかない 」
「ねぇ、人も人を殺すよね? どうしてゲシュペンストばかり責められるの? 」
「……積み重ねられた歴史だ。ゲシュペンストは奴隷で当たり前、人に逆らうことはおかしい。その固定概念がそうさせてんだよ 」
「ふーん……どうしてみんなおかしいって思わないんだろ? 」
「……全くだ 」
正直……ハルトのような考えを持つ人間は珍しい。
こういう奴が上に立てば、固定概念は変わるかもしれない。
そんな理想を思い浮かべながらも、回復した脳で遺産を作ろうとした瞬間、急にハルトから手を掴まれた。
「ねぇ……ヒカゲたちの計画を手伝わせて 」
「……なんでだよ。お前に手伝うメリットはねぇだろ? 」
「たしかに無いけど、ゲシュペンストのことをもっと知りたいの 」
「……知ってどうする? 」
「なにが人のためになるか、見極めたい 」
ハルトから淀んだ目をまっすぐ向けられる。
それにただ……驚いてしまった。
こいつの事はよく知らないが、ぼんやりとしたハルトの口からそんな言葉が出るなんて想像もつかなかった。
だがこれは……ある意味では嬉しい誤算だ。
ハルトに偏った知識を教え、ゲシュペンストを保護してもらえるようにする。
ゲシュペンストを殺戮しようものなら、すぐに気絶させて戦場から遠ざける。
そのどっちをするにしても、ハルトがそばにいる事は好都合だ。
「……分かった。ならさっさと始めんぞ 」
「うん 」
ヤマトの提案は飲んだが、時間がないことには変わりない。
だったらもう……利用できるものはなんでも使わせてもらう。
「それで結局さ〜、どう探すの? 」
「正直いい案はない。いま考えてるとこだ 」
「なら私も考えるね〜……あっ! 人間半殺しにしてさ、それを助けに来たゲシュペンストを拉致するのは? 」
「あー……ありっちゃありだが、範囲が限定的すぎるな。もっとこう、大量のゲシュペンストを集められて一気に選別できる感じじゃねぇと…………あっ 」
「ん〜? 私の顔になんか付いてる? 」
「いやお前、協力してくれんだよな? 」
「うん 」
「なら半殺しにさせてくれ。あとで治してやるし、力を使ってくれりゃ痛覚も切れる 」
「いいよ〜 」
断られるかと思ったが、ハルトはすぐに頷いた。
するとなぜか服を脱ぎはじめた。
「……なにしてんだ? 」
「服が破れるのは嫌だから 」
「はぁぁ、そう…………どうしたその体? 」
よそを向こうとしたが、その体から目を離せなくなった。
その胸にはアバラが浮き、腰はくびれてるどころか肉がえぐれているように痩せている。
なのに肌は艷めくように白く、ハルトの体は異様としかいえないものだ。
「寄生魔術ってやつらしいよ? そのせいでご飯食べれないし、死ねないの 」
(寄生魔術? んな魔術聞いたことねぇぞ? )
王国でも学園でも聞いたこともない謎の魔術。
気にはなるが、女を裸のままにさせて置きたくはない。
「お前も大変だな…… 」
「そうなの? 」
「あぁ……まぁとりあえず、めぇ閉じてろ 」
「優しくしてね? 」
「分かってる 」
ハルトの片腕に赤いヒビが走る。
それを確認し、創り出した螺旋の尾でハルトの横腹をえぐり飛ばす。
「さて……始めるか 」
死にかけのハルトを尾の中に収納し、あの場所に急ぐ。
個人戦があり、巨大なコロシアムがあった場所……中央闘技場へ。




