第27節 乱入者
「てめぇぇ!!! 」
突如、ヒカゲの影から現れたゲシュペンスト。
そいつに骨を投げつけるが、骨が刺さった場所には影しかなく、今度は瓦礫の影にそいつは現れた。
「危ないですねぇ、ヤマト・ホルテンジエ。わたし達は同族なんですし、仲良くしましょうよ 」
「ざけんじゃねぇよ。戦いに水を差して、闇討でヒカゲを殺しやがってよぉ!!! 」
「仲良くする気はないですか。ならまぁ」
瞬間、俺を囲うように、瓦礫の影からゲシュペンストたちが現れた。
「死んでください 」
「やってみやがれよ!!! 」
全方位から炎や氷やらを構えられる。
それが放たれるよりはやく地面を蹴り、近場の2人を両手でねじ切る。
「あっ? 」
両腕に快感がはしる。
血がついた肌は青紫色に変色しており、指先は指と認識できないほどに腫れ上がっている。
(毒か!! )
「っ!? 」
背後から迫りくる鎖と氷剣。
大きく横に飛んで躱すが、鎖は意志を持っているように俺の方へと向かってくる。
(追尾かよめんどくせぇ!!! )
足を止め、振り向きながら鎖を蹴り壊す。
だがその破片たちからは影が産まれ、そこから現れた無数の拷問器具が足を貫いた。
しかも指先同様、足先も青紫色に腫れあがる。
(なんっ……こっちも毒かよ!? )
「魔術無き時代、人類は強大なる龍を狩っていました。毒を盛り、機動力を奪い、抵抗できないほどまでに弱らせ、その体を解体する 」
(クソ!! )
四方八方、なぜか空中に浮かんでいる奴らからも魔術を構えられる。
無理やり一点突破しようとするが、足が腫れているせいで踏ん張りが効かない。
「人間は愚かです。けれどその悪意を学ぶ価値はある 」
放たれた黒い氷。
青い炎。
白い影に赤い稲妻。
「まず」
無理に逃げようとしたが足が動かず、目の前までに死が迫る。
けれど瞬間、地面から生えた螺旋の尾がすべての魔術をかき消し、あたりのゲシュペンストを吹き飛ばす。
「なっ!? 」
「俺を殺したかったらよぉ、肉片1つ残すんじゃねぇ!!! 」
(ヒカゲ!? )
螺旋の尾から這い出してきたヒカゲ。
その体はすべて再生しているように見えるが、背の肉は赤黒く変色し、渦のようにうねっている。
あれは爆発的に治癒力を高めた時に起こるものだ。
細胞が異常活性し、再生と壊死が同時に起こっている。
あんなのもう……命が長くねぇ。
「動けるかヤマト!? 動けるなら全力でここから離れろ!! 」
「はぁ!? んな事したらテメェ1人になんだろ!! つうかなんでお前がゲシュペンストから狙われてんだ! 命の恩人なはずだろ!? 」
「よく考えてみろ!! 俺は人間を滅ぼす事が目的だ! それはゲシュペンスト達すらも滅ぼすことと同意義なんだよ!! 」
(っう……なるほどな )
ゲシュペンスト同士では子供はできない。
ならゲシュペンストが数を増やすのには製作者がいる。
それが人間。
その人間をヒカゲは滅ぼそうとしている。
ならゲシュペンストたちがヒカゲを狙うのにも納得できる。
「じゃあこいつらの目的はなんだよ!? 人間を滅すことが目的なら、手の込んだ自殺じゃねぇか!! 」
「んなの決まってる。人間とゲシュペンスト、その立ち位置を入れ替えることだろうよ!! 」
(っ…… )
「これは人間の問題だ! お前が巻き込まれることはないからさっさと行け!!! 」
正直、こいつらの気持ちは痛いほど理解できる。
人間に虐げられたんだ、アイツらから始めてきたんだ。
なら報復しても文句は言われないし、人間を憎んでも仕方がない。
だが……
「ならぜってぇ逃げねぇ! お前が嫌がっても勝手に守ってやるからな!! 俺は……人間が大好きだからなぁ!!!!! 」
俺は人間を憎んでねぇ。
こいつらを否定するのにはそれで十分だ。
「そうかよ……なら俺を5秒守れ。その後は任せろ 」
「あぁ!! 」
ヤケクソに返事を返すが、正直いまの状況はだいぶキツい。
尾のおかげで数人のゲシュペンストは気絶しているが、未だ包囲されている状態。
しかも毒が巡り、焼き付くような快感のせいで脳が溶けてしまいそうだ。
けど……ゼッタイマモル。
「死に損ないの人間が……それを守るゲシュペンストが!! お前らみたいなクズ共は、さっさと死ね!! 」
子供のような男の声とともに、またも全方位から、俺たちに向かって魔術が構えられる。
けれどヒカゲは冷静に……どこまでも落ち着いた様子で手元に銃を生み出し、その銃口を口の中に押し入れた。
「頼むぞ? 」
「あぁ、まかせ」
「ここは陽夜の国。白昼にして紅月が登り、常夜にて烈日は燃える 」
(なんっ……詠唱!? )
何処からか聞き覚えのある声が聞こえた。
辺りを見回すが、ヒカゲやゲシュペンスト達ですら困惑している様子だ。
「影の中に光あり、光の中に絶望あり。とむらいの中に希望は実り、希望の中にて死は巣食う 」
眠ってしまいそうに優しい声。
けれど空気は、肺が凍りつきそうなほど冷たい。
「っ!! 」
混乱の最中、異様に伸びた影から無数の針が生まれた。
一瞬遅れながらも落ちてる剣を噛み、顎と首の力で魔術をかき消そうと動く。
「ゆえに心は乾き、体は潤い、この国では何者も満たされない 」
けれど剣と魔術がかち合う寸前、一瞬だけ……辺りを闇が呑んだ。
けれど瞬きをすれば闇は消え、たださっきの景色が広が……
(なんっ……は? )
意味不明な光景が広がっていた。
そのせいで、口の剣を落としてしまう。
あたりのゲシュペンストたちは頭を打ち付けるように絶命しており、その肘の折れた両腕たちは……全て一方の方向へと伸ばされていた。
なのに俺たちだけは無傷……いや、腕と足の腫れが消えている。
ヒカゲの背からは、あの痣すらも消えている。
「んっ? ヤマトとヒカゲ〜? 久しぶり〜 」
死体たちが手を伸ばす先から……声がした。
「誰だ? 」
「…………ハルト? 」
ヒカゲは分からない様子だったが、立ち姿と細い体つきでギリギリ気付けた。
けれどその姿や雰囲気はあのハルトとは全く違う。
白い髪はまた黒に戻っており、それは肩を覆うまでに伸びている。
髪とは対照的に肌は白く、着ているワンピースでさえも白いせいで、黒い髪が異様に目立っている。
しかも極めつけは瞳の色だ。
綺麗だった紫色の瞳はよどみ、見るだけで……見られるだけで不快にすら感じる。
「というかお前、俺たちが分かるのか? 」
「もちろん分かるよ〜。ヤマトって綺麗な赤い目をしてるよね〜、ヒカゲはオッドアイなんだね〜綺麗だね〜 」
(やっぱ誰だこいつ!!? )
皮すらハルトか怪しいのに、中身はもうあのハルトじゃない。
なんか言葉はフワフワしてるし、つねに心地よさそうに笑っている。
「それで……なんの用があって俺たちを助けた? 助けてもらったことには感謝してる。けどその理由に心当たりが何もない 」
「助けてないよ〜用事があって〜? 邪魔だから〜……殺した 」
ハルトは急に真顔になり、よどんだ目を見開いた。
異様な目から視界を外してしまうが、ヒカゲはどこまでも冷静にハルトに言葉を返す。
「用事? 」
「うん。今からね〜ゲームを終わらせるためにね〜、適当に殺していく。だからね〜、みんな殺すのを手伝って? 断ったら2人とも殺すね? 」
手を合わせ、名案のように語るハルト。
けれどその可愛らしい笑みは気色悪く、薄く開いた目はどこまでも淀みきっていた。
補足
ゲシュペンスト同士では子供を作れない
そう語られていますが、正確に言えば子供のような何かは作れます
ただし同素材でなくては妊娠すらできず、製作者がそういう機能を付けていなければ子は腹の中で死にます
仮に奇跡的な出産を果たしたとしても、クローン同士で子供を作ったようなものなので、子の寿命は圧倒的に短いです




