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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
臥薪嘗胆編
26/73

第26節 殺し語り



 全ての二つ名には意味がある。

 だから最初から……こいつの二つ名には違和感があった。


 ロクト……血。

 ゴーレム……失敗作。


 漠然としすぎて最初はよく分からなかったが、今となればもう分かる。

 お前は……


()()の失敗作か 」


「やっぱお前なら気がつくよな、ヒカゲ 」


 作り替えた足で踏ん張り、歪んだ視界でヤマトを睨む。


「つっても、本物の勇者みたく初見じゃ全てを見切れない。最低でも一度は攻撃を受ける必要があるがな 」


「……そんな暴露して大丈夫か? 」


「あん時の仕返しだ 」


 イタズラでもするように舌を出すヤマト。

 それに呆れた笑みを返し、下半身を創り出した青い樹木で覆う。

 するとヤマトも体に赤いヒビを走らせた。


 正直……ヤマトは敵として思ってなかった。

 いつでも殺せ、いつでも無力化できるとすら考えていた。

 けど今のこいつは……俺の邪魔になる敵だ。


「殺しはしねぇ……ただ、手足はもぐぜ? 」


「ははっ、別に構わねぇよ。そんな余裕があるならな!! 」


 ヤマトの前進に合わせてこちらも距離を詰め、互いの顔面を殴り合う。


 ヤマトの言葉に嘘がないのなら、勝ち筋は二つに絞られた。

 剣の振れない近距離。

 その距離で初見かつ再起不能の一撃を叩き込むか、行動不能レベルの毒を蓄積させるかだ。


「っう!? 」


 拳から毒を感染させる。


 怯んだヤマトの背後から青枝を。

 正面からは毒で犯した拳を。

 頭上からは螺旋の尾を放つ。

 

「ハッ 」


 逃げ場のない攻撃なはずだ。

 なのにヤマトは軽く笑い、剣の刃を立てた。


「っ!! 」


 たった一太刀で両足と背後の枝は斬られ、降りそそぐ尾は見ずに躱された。


(まず)


 すぐさま足を魔術で作りなおす。

 けれどその足を更に斬り落とされ、落ちる体に刃先がせまる。

 だが……近付きすぎだ。


(遺骨華(いこつばな) )


「っ!! 」


 空中に生み出した、腕骨で型取られた華。

 そこから伸びた百の手がヤマトの腕を掴み、抱擁するように動きを封じようとする。

 だがヤマトは剣を自分の口元に投げ、噛み締めた剣で自らの腕を切り落とす。


「ハハッ、危ねぇな 」


「そりゃこっちのセリフだ 」


 距離が離れた隙に両足を作り替える。

 するとヤマトは両腕を再生させた。


 正直……いくら遺産の力でドーピングしようが、近接戦闘はヤマトの方が強い。

 しかも螺旋の尾は完全に見切られた。


 あの機動力を中距離で拘束するのは厳しい。

 しかも近接戦闘は向こうのが格上。

 だが敢えて螺旋の尾と遺骨華を両腕に巻き付け、それに翡翠色の枯葉を芽吹かせる。


「んだそれ? 」


「龍とドラゴンの尾に、遺骨華と世界樹の葉を纏わせた。最強と最硬と最速、ガキみてぇな理論だが……どの一撃よりも強いぜ? 」


「ハッ! やっぱり本気じゃなかったか!! 」


 ヤマトは楽しそうに頬をつりあげ、剣を構える。

 それに合わせて両腕を構え、静かに息を整える。



 殺すことが目的なら、確実に勝てるだろう。

 だが絶対に殺しはしない。


 ゲシュペンストがいくら悪意ある存在だろうが、いくら人間にとって有害であろうが、それを産んだのは俺たちだ。

 だったら……命をすり減らしてでも、その悪意に付き合うのが俺たち人間(クソやろう)の責務だ。


「行くぜ? 」


「あぁ、来い 」


 ヤマトの手招きに合わせ、両足に世界樹の葉を芽吹かせる。


 最速となった足を加速。

 反応されるより速く、ヤマトの顔面を蹴りつける。


「っ〜〜!!! 」


 首が折れ吹きとぶ体。

 さらに足を加速させその体に追いつく。

 だがヤマトは瞬時に体勢を立て直すと、俺の腹に剣を突き刺した。


(お前なら……そこから反撃してくるよな? )


「!? 」


 けれどそれは予測していた。


 体内に蠢く小さな螺旋の尾。

 それを刃に絡め、ヤマトから剣を奪い取る。


 いくら見切れたとしても、武器がなければ躱すしかない。

 だがこれは……全ての遺産を凌駕する最速の一撃。


「ふぅ 」


 息を吐き、左拳を前に出す。

 ただそれだけで空気が巻き上がり、ヤマトの右半身は消し飛んだ。


「なっ!? 」

 

 だがヤマトは止まらず、狂気じみた笑みのまま突っ込んでくる。

 けれどまだ……俺の方がはやい。


「アハっ!! 」


 拳を前に出すと同時に、ヤマトは消し飛んだ右半身からあばら骨をえぐり出した。


 意味不明な行動に混乱する。

 けれど唐突に……ある考えが思い浮かんだ。


 もしあれが……剣の代わりならどうなる?


「っう!!? 」


 巻き起こる風を腕ごと斬られ、そのまま四肢を。

 欠損部位を作り替えるよりはやく、馬乗りの状態で眉間に骨を突き立てられた。


「フゥ……フゥ……動くな。お前が何をするよりもはやく、こっちは命を奪える 」


「…………で? いつになったら殺すんだ? 」


 頭を掻き回された程度では死なないが、どうしてヤマトが俺を殺さないのか……それが気になってしまう。


「交渉だ。お前を今殺さない代わりに、ゲームを止める手伝いをしろ 」


「なんでだよ。止めたいなら殺し続ければ良いじゃねぇか、協力をあおぐ必要は無いだろ 」


「それじゃあダメだ。あの反人間軍とかいうヤツら、あいつらの動きが異様なのは気がついてるだろ? マジで勘だが、ただゲームを終わらせるだけじゃ不味いことになりそうだ 」


「それを止めるために協力しろってか? ハッ、俺に犠牲を気にかけてる時間は」


「ならなんで俺を殺さない。お前の言うことはいちいち矛盾してんだよ 」


 自分の中にある矛盾点を的確に突かれ、気まずさのせいで目線をずらしてしまう。

 するとヤマトは半身を再生させ、俺から骨を引き抜いた。


「ゲシュペンストを守るための行動がゲシュペンストを苦しめてる。そこら辺のジレンマに色々悩んで動けねぇんだろ? だから協力しろ。お前は人間を好いているゲシュペンストを保護しろ。俺はゲシュペンストを守ってくれる人間を探す 」


「……仮にゲシュペンストを守ってくれる人間がいれば、反人間軍と敵対してくれるって訳か 」


「あぁ、そうなりゃアイツらの動きも抑制できるし、ゲシュペンストの犠牲を減らせる。ゲームを止めるのは明確な対立を作ってからだ 」


 ヤマトの考えは名案だった。

 全くの絵空事だが、それが実現すればゲシュペンスト達を縛ることなく同族殺しの被害者を減らせる。

 だが……俺がそれに協力する意味はない。


「で? 俺がそれにゲームを止めてまで協力すると思うか? 」


「いやする。どうせ他にも計画があんだろうし、反人間軍をお前も止めたいはずだ 」


「でもこの役は俺じゃなくてもいい……むしろゲシュペンストにさせた方が良いだろ 」


「いーやお前じゃないとダメだ。ゲシュペンストを保護してれば必ず反人間軍、最悪ゲシュペンストを処分しようとする人間の両方に襲われる。だから力を持ったお前じゃないとこの役は務まらないし、何よりお前は……絶対にゲシュペンストを見捨てない 」


「……… 」


「お前が断っても俺だけでやる。けどお前が手伝わなきゃ救えるやつも救えなくなる。ならもう……やるしかねぇよな? 」


 正直この話は、提案してるように見えて最初から一択しかない。


 ゲシュペンストを好きな人間に、『お前が協力してくれないと救える奴が減る』なんて言われたら……もう断ることは出来ない。


「はぁぁぁぁ、分かったよ。交渉を呑んでやる 」


「おっしゃ! そう来なくっちゃな!! 」


 ヤマトが言うように別プランはあるが、このゲームを利用できないのはかなりの痛手だ。

 だがゲシュペンストを救えるなら…………それでいい。


「あっ、てかよ。ユウトも協力者になってくれねぇかな? あいつの転移があれば色々と楽になるんだが 」


「確かにそうだが……悪い、今のあいつは自由にさせてやってくれ。このゲームは一部のゲシュペンストを救うタッ!!…………あ? 」


「やーっと……隙を見せてくれましたね 」


 痛みと共に思考が止まる。


 溢れ出す血と胸から突き出た刃先。

 後ろから刺されていると理解した頃には、心臓をナイフが抉りとった。


「グゾ……()()()()()


 背後に立つ、黒いローブをかぶる者。

 そいつを拘束しようと頭を回す。

 だがそんな暇はなく、影から産まれた無数の拷問器具から全身を貫かれた。


「『破影魔術(はえいまじゅつ)千切(ちぎ)り裂き 」


 瞬間、拷問器具たちはいっせいに蠢き、体が内側から弾け飛んだ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] お前ら少しは落ち着けよ!! と突っ込みたくなるほど肉体欠損させすぎの皆さん。 自傷行為も躊躇いゼロw あっさり同意したり根はいいひとっぽいのにね!
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