第25節 同類
「うめぇぇぇ 」
テーブルに残ってた魚の串焼き。
それを骨ごと噛み砕きながら、朝日の差す3年の寮を適当にすすむ。
(さーてと……これからどうすっかなぁ )
ライガと別れて一夜明かしたあと、強い奴を探しに3年の寮に来てみたが……対して強いやつがいない。
さっき殺した食事中の人間も、ヒカゲやハルトよりも断然弱かった。
せっかく遠い場所に来たって言うのに、これじゃあ無駄足だ。
(はぁぁ、んならヒカゲでも探すか? )
「でっ! 」
「きゃっ!! 」
ため息を吐いていると、曲がり角で誰かとぶつかった。
尻もちをついた女は、全く見覚えのない初対面の相手だ。
短く切られた赤い髪。
それよりも濃い赤の瞳は、焦るように見開いている。
しかもその頬や服には、青い血が付いていた。
あんまり穏やかじゃなさそうだ。
「ヤマト……ホルテンジエ 」
「あぁ、そうだけどなんか用か!! 」
自分の名をしる少女。
色々と疑問だが、とりあえず少女の背後に迫るナイフを足ではじく。
「んっ? 」
突如として、複数人から完全に囲まれた。
そいつらは黒いローブを着ており、胸のシンボルには隠蔽魔具特有の青い光が見える。
潜んでた?
いや、いま集まった感じか。
「あー……とりあえずはじめまして。ヤマト・ホルテンジエ 」
その中で1番覇気があるであろう男は、素顔が見えない顔を下げる。
「はじめましてっつうならテメェから名乗れよ 」
「ははっ、人間がつけた名など名乗りませんよ。ですが自己紹介するならこう名乗りましょう……『犯穢の悪魔』。反人間軍に所属するゲシュペンストです 」
(反人間軍? )
別に驚きは無かった。
人の枷がない今、人間に虐げられてきたゲシュペンストが復讐を望み、団結するのは不思議なことじゃない。
けど気になるのは……全てがはやすぎることだ。
まだ、人の枷が外れて1日だぞ?
「……で? なんの用だよお前たちは 」
「要件は2つです。気がついているでしょうがその女は人間……ゆえに排除したい。そしてもう1つはあなたを我ら軍にご招待したい 」
「……そうか。けどそれを答える前によぉ、1つ質問がある 」
「なんでございますか? 」
「さっき串刺しにされたゲシュペンストの遺体があった……あれをやったのはテメェらだろ? 」
「それは心苦しいですね。けれど私たちには関係」
「何かを守ろうとした遺体、反人間軍。この2つさえあれば想像できることは絞られる。例えば……人を守ろうとしたゲシュペンストを殺害したとかな 」
あからさまに周りの空気が変わる。
どうやら図星だったようだ。
「反人間軍とか言うわりに、やってることは人間と変わらねぇな 」
「……ははっ、確かにそうですね。それで? その娘を渡してくれますか? 」
「断る 」
不意に男の足元から影が伸び、その中から血塗れた拷問器具たちが顔に飛んでくる。
だがすべて遅く、それらを適当に躱し、もっていた串を男の喉に突き刺す。
「ガッ!!? 」
「動いたら背骨を貫く。自由になった次の日で死にたくはねぇだろ? 」
「なぜ……人間を」
「お前に喋る選択肢はねぇよ。今すぐ死ぬか、失せろ 」
「っ!! 」
顔の見えない男を睨みつける。
するとその体は影の中に消え、それに続くように辺りのゲシュペンストたちも消えていった。
気配が消えた廊下。
その静けさの中、胸の内にある怒りを感じていると、赤髪の少女から声をかけられた。
「あの……とりあえずお礼を 」
「気にする事はねぇよ。欲求が満たされてなかったら、俺もお前を殺してた 」
「……それでも、あなたが居なければ殺されてました。ありがとうございます 」
「はぁぁぁ、とりあえず信用できる人間と一緒にいろ。また襲われるぞ 」
「えぇ……友人を弔ったらすぐに逃げます 」
少女は暗い顔のまま頭を下げ、俺が来た道を逆走していく。
青い血の付き方を見るに、さっきのゲシュペンストから庇われていたのはあの少女のようだ。
(さーてと……アイツはどこに居んだろうな )
血の付いた串を握り砕き、アイツを探すために廊下をすすむ。
ゲシュペンストのはやすぎる団結。
それは事前に枷が外れることを知ってなければまず不可能だ。
そこまで考えれば、裏にいる奴は一択に絞られる。
「んっ? 」
頭にひびく、空気を裂くような鋭い音。
瞬間、進むはずだった廊下は圧倒的な力によって叩き潰された。
それは青と赤が螺旋状に絡み合う、竜とドラゴンの尾。
瓦礫と共に舞う、人間たちの肉片。
そして……青白い髪に返り血をかける、よく知る男。
「んっ、ヤマトか 」
「丁度いい所に来たな、ヒカゲ 」
昨日ぶりにあった友人。
けど再会を喜ぶより、今は聞きたいことがたくさんある。
「どうだったよ、ライガとのデートは 」
「楽しかったさ。何もかもが新鮮で、2人で秘密の話もしたしな 」
「そうか……ならあいつも楽しかったろうな 」
「さっき反人間軍って奴らに会った 」
動揺を誘うために、唐突に話を切り出す。
けれどヒカゲには焦った様子は見られない。
「……今の反応でなんとなく分かった。お前……ゲシュペンストが団結できるように手を回したな? 」
「あぁ、人の枷が外れたことはすぐに広まる。そうなりゃ学園の人間共はゲシュペンストを処分するからな。だから自衛できるように色々としたが……で? それがどうした? 」
「そいつらはゲシュペンストを殺してた 」
「だろうな。ゲシュペンストといえど中身は人と大差ない。同族嫌悪するし、異分子は排除しようとするのは当然だ 」
どこまでも無関心に答えるヒカゲ。
そのせいか、胸の怒りが脳にまで達しかけている。
「不満か? 」
「……あぁ 」
「おおかた、切り捨てられる奴らと自分を重ねたんだろうが……悪い。俺にはどうすることもできない 」
「なんでだよ……お前の力ならほとんどの事はできるはずだ 」
ヒカゲから重い口調で謝られた。
でも意味が分かんねぇ。
なんでその力を上手く使わねぇんだよ。
それじゃあただ……諦めてるだけじゃねぇか。
「……結局あいつらは人間と変わらないんだよ。良い奴、悪い奴もいるし、狡猾な奴、同族を利用する奴もたくさんいる。それを一から管理するなら枷をはめるしかないし、それを裁こうものなら、結局は人間とやってることは変わらねぇ 」
「……… 」
「しかも俺は……先がないただの人間だ。やれる事はあっても時間がない。だったらもう……犠牲を大量に出そうが、やれる事をやるだけだ 」
正直、もう怒りは消えていた。
ヒカゲはただ、ゲシュペンストを自由にしたくて……ゲシュペンストという歪な存在を二度と生み出さないために戦っている。
だったらその罪を裁く必要も、ゲシュペンスト同士の犠牲の出し合いに口を挟む必要もない。
それは間違いなく正論だし、歪だが芯は通っている。
「はぁ 」
ため息を吐いてヒカゲを睨み、決意を燃やして拳を握りこむ。
「悪かったな。それをどうにかしろなんて言うのは……ただのワガママだった。でも納得はできねぇ 」
「……ゲームを止めるか? 」
「あぁ。切り捨てられる奴らを減らすためにな 」
「……人を自由に殺せなくなってもか? 」
「あぁ 」
「そうか…… 」
ヒカゲは静かに目を閉じた。
すると肌がピリつき、螺旋の尾がうなる。
「っ!!! 」
迫る尾を飛んで躱す。
だが飛ばされたと気付いた時にはもう遅かった。
逃げ場のない空中に四本の尾がせまり、重い四激が肉にめり込む。
「っが!!! 」
吹き飛ばされた。
廊下の壁をぶち破り、地面を転がる。
ギリギリでガードしたが、足はもう無く、腕はねじ折れている。
(やっぱり……あの尾はヤバいな )
寮だった場所はすでに瓦礫の山となっている。
けれど異様な尾がその瓦礫を消し飛ばすと、そこには心底暗い顔をしたヒカゲが立っていた。
「で? まだやるか? 」
「……トドメは刺さないんだな 」
「あぁ、お前もゲシュペンストだろ? だったら殺す必要はない 」
「ははっ、そうかよ 」
顔だけで笑ってみせるが、内臓は燃えているように熱い。
ヒカゲには俺が敵として見えてない。
だったら……あいつの頭に俺の意見なんて聞こえるはずがない。
どうせワガママを聞き入れ、それの度が過ぎたら力でねじ伏せる。
だいたいこんな感じだろうな。
「……? 無理すんな、再生しても全部引きちぎるぞ 」
再生させた手足で起き上がり、喉にたまった血を吐き捨てる。
「だろうな。けど……勝てねぇからで止まってたら、寿命がもったいねぇ 」
「……そうかよ 」
心底つまらなそうな声。
それと共に2本の尾がせまる。
だが今度は躱さず、ポケットの中にある魔具を地面に落とす。
(人みたいだからやりたくねぇけど……やるしかねぇよな!!! )
魔具から溢れた緑色の光。
その中に仕舞われた、どこにでもある剣を手にとる。
「ふぅぅ 」
一息で神経を研ぎ澄まし、迫る尾を全て斬り砕く。
「はっ? 」
一度の跳躍。
ヒカゲを間合いに捉え、後ろに逃げようとする胴を背骨ごと斬り落とす。
「っう!!? 」
そのまま宙に浮かぶ顔面を殴り潰し、砂煙の向こうへと体を吹き飛ばす。
「そりゃあな、犠牲をこの世から無くすなんて不可能だ。しかも自分の夢を追いかける過程での犠牲なんて……気にしてる余裕はねぇ。だったらここからは……自分で犠牲を選ぶ戦いだ!!!!! 」
ヒカゲに剣先を向け、自分の意思を全力で叫ぶ。
「『黒き血の失敗作』 ヤマト・ホルテンジエ!! てめぇの計画を斬り砕く!!! 」




