第23節 同じ命 違う道
「ヤマト様! これはどうですか!? 」
立ち寄った服屋の中。
やること無くてボーッとしてると、ライガからまた声をかけられた。
「お……おう、イイトオモウゾ 」
「ありがとうございます! すみません! これもください!! 」
白いワンピースを店員に渡すライガ。
その姿は正直かわいいと思うが、さすがに40回も同じことを聞かれると適当になってしまう。
というか金使い荒過ぎるだろ……
「ヤマト様は気になる服とかありませんか? ずっと同じ服を着てますけど 」
「俺? あぁ、あんまり頓着ないからなぁ 」
「なら選びましょうよ! 私も手伝いますので!! 」
「いや俺は」
断ろうとしたが、すでに腕を捕まれてしまった。
どうやら拒否権はないらしい。
そうして連れ込まれた男性服のエリア。
本当に興味はないが、目を輝かせるライガのせいで選ばないといけない感じがする。
「これ……いいな 」
「ならこれもいいですよ! 」
とりあえず柔らかい生地の白シャツを選ぶと、ライガはすぐさま黒いジャケットを持ってきた。
「お、おう。ならそれ買う……いや金持って来てねぇよ俺? 」
「じゃあ私が買ってきますね! 」
「さすがにそれは……聞いてねぇよな 」
呼び止めようとした頃には、もうライガは会計場にいた。
後で金は返そう。
そう思いながら一息つこうとする。
が、ライガは速攻で帰ってきた。
「ヤマト様〜! 学園に運んでくれるみたいなので他のお店いきましょう!! 」
「えっ、まだ行くのか? 」
「はい! 次はアクセサリーと化粧品見にいって、あとは雑貨屋。そのあと食事にしましょう! 」
「お……おう 」
普通に帰りたい。
そんな言葉が頭をよぎったが、指先にはライガの手が絡み逃げられない。
「さぁ、行きましょう!! 」
連れられたアクセサリー店では、ライガは自分用の耳飾りを。
俺用にネックレスを買ってくれた。
化粧品店ではヘアミストとなんかよく分からんクリームを。
雑貨屋でライガは棚にあるもの全部買おうとしたが、それはさすがに止めた。
でもこの振り回される感覚は……新鮮で楽しかった。
「それじゃあヤマト様、食事にしましょうか 」
「おう! 」
雑貨屋を出たあと、ライガとともに街中を歩き回る。
見かけた肉屋で串焼きを100本頼み、2人で食べながら散歩を続けた。
「そういえばヤマト様ってよく食べてますよね 」
「どした急に? 」
「いえ、初めて会った時も串焼きを大量に食べてましたから……少し気になって 」
「あー……単純な話だ。体の構造上、代謝のスピードが凄いんだよ。だから喰わなきゃすぐ死ぬ 」
言うべきか少し迷ったが、ゲシュペンスト同士、別に隠す必要もないと全て話す。
けれどライガは……酷く青い顔をした。
「そう……ですか 」
(……こいつもか )
笑ってくれれば楽なんだが、そんな顔をされるとこっちまで気分が悪くなる。
いや……言ったのは俺か。
「……そう言えばよ、なんで俺を誘ったんだ? 」
空気を変えたくて適当に話題を出すと、なぜかライガは肩を跳ねさせ、胸を抱くように俯いた。
「やっぱり……気になりますよね 」
「まぁな。悪意や裏がないのは表情で分かるけどよ、急に誘われたらそりゃ気になる 」
「なら場所を買えませんか? 誰の目にも付かない……静かな場所に 」
それに頷くと、ライガは悲しそうに微笑み、どこかに歩き始めた。
街から出ても、建物がない野原を進んでも歩みは止まらない。
結局この都市を囲う壁に着くと、ようやくライガは止まってくれた。
「そろそろ聞いてもいいか? なんで俺を誘ったんだよ 」
「えーっと、引かないでくださいね? 」
「大丈夫だって 」
「正直に言うと……あなたと子を成したかったんです 」
(…………ん???? )
とりあえず半歩下がり、体を守るように腕を構える。
「引かないでくださいよ! 」
「限度があるわ!! 俺ら会って1日目だよな!? プロポーズならまだしも子供を成したいとか引くに決まってんだろ!!! 」
しかも怖いのが、ライガは本気で照れてる様子なことだ。
そこだけは人間みたいなのに、欲求だけは獣のように素直すぎる。
「それでえっと……ダメですか? 」
「いやダメっつうか……なんでそんな考えに行き着いたんだよ 」
「…………4年 」
「ん? 」
変な間が空いたかと思うと、ライガは風に溶けそうな声で呟いた。
俯いてるせいで表情は分からないが、震える手のせいでなんとなく理解できた。
「これ、なんの期間だと思います? 」
「寿命だろ? けどよ……その残された時間で人間らしいことを望むんだ? お前は人間に縛られ続けてたろ? 」
初対面の時、ライガは人間の傀儡でしかなかった。
けれど今はその枷は付いてない。
なのにその目は……どこまでも悲しそうに潤んでいる。
「私は……人を愛しています。調整されたからでも傀儡だからでもなく、作り物の本心で愛してるんです 」
「……… 」
「だから私は……ゲシュペンストとしてでは無く、人らしく生きたいんですよ 」
それは異質な生き方のはずだ。
ゲシュペンストとして生まれ、人として生きたいなんて願い……叶うはずもない。
けれどライガはそうできると盲信してるように見える。
そんなんじゃ……縛られてた時となにも変わってない。
「だからもう一度だけ……聞かせてください。私とともに子を成してくれませんか? 人のように愛し合い、人のように笑い、人のように何かを残し、人のように一緒に死んでくれませんか? 」
「んー……それに答える前にさ、少しやる事がある 」
「……? 」
「まぁ……じっとしてろ 」
「フグッ!? 」
背後にいた何かに拳を打ち込む。
それは鼻血を吹き出して倒れそうだったが、胸ぐらを掴んで無理やり支えてやる。
(んっ、こいつってあの時の )
急に現れた歪んだ顔。
こいつ……俺を戦鎚で殺そうとした奴だ。
「この」
男はナイフを取りだし、その刃先は俺の首を狙う。
けど
(おせぇ )
胸ぐらを引き寄せ、顔面を殴って首をへし折る。
そのまま空中を舞うナイフを摘み、ライガの隣にいる何かにそれを投げつける。
「っう!! 」
急に現れた女の頬には、ナイフが突き刺さっていた。
ナイフを抜こうとする隙に女の間合いに入り、首の肉を指先でえぐりとる。
「ゴボッ……〜〜〜〜!!! 」
地面に倒れた女は何かを叫んでいる。
けれど喉がないせいで何も喋れていない。
(んっ? )
悶え死ぬそれを見てると……自分が興奮している事に気がついた。
抱きしめたくなるような、その口を塞いで窒息させたいような。
母性じみた殺意が胸の奥から溢れ、開いた口から生暖かい息がもれる。
(この感覚…… )
「そこに居るのバレてんぞ 」
「っ!? 」
適当にカマかけると、風のゆらぎを感じた。
逃げる何かに一度の踏み込みで追いつき、その両足を蹴りでへし折る。
「っぐ!? 」
「あのなぁ、俺を殺したかったらもっと連れてこいよ 」
「……あぁ、次からはそうしてやる 」
青髪の男は余裕そうに笑い、倒れながらも俺を睨みつけている。
その余裕は多分……死なないとでも思ってるからだろう。
……いい事をオモイツイタ。
「なぁ……このゲームのルール説明は聞いてるよな? 」
「……? 」
「『ポイント入手は2度まで』……この言葉で勘違いしてるかもしれねぇけどよ、1回でも不殺の魔術を使ってるなんて言われたか? 」
「…………いや……そんな…… 」
確証はないが、ヒカゲの言い方や殺しの快感。
それらがこの考えに現実味を帯びさせている。
「もしかしたらよ……このゲーム、本当の殺し合いなのかもな 」
「デタラメだ!! 」
「あぁデタラメかもしれない。だからよぉ」
男の後頭部に足を乗せ、ゆっくりと体重をかける。
「やめオッ」
「確かめて来てくれ 」
頬の返り血を舐め、潰れた頭から足を引き抜く。
すると頭の中で光が弾け、ゾクゾクと……ポワポワする多幸感が全身を包んでくれる。
(……気持ちぃ )
「ヤマト様……殺す必要はあったのでしょうか? 」
快楽の余韻に浸ってると、後ろから声をかけられた。
振り向けば渋い顔をするライガと目が合う。
「あった。けどほら……アレだ……その理由を答える前に……手を握ってくれ 」
快楽で意識がぼやける中、血まみれの手をライガに伸ばす。
戸惑いながらもその手を握られた瞬間、体を抱き寄せ、全力で地面を踏み切る。
「えま!? 」
そのまま反り立つ壁を走り、ライガが抵抗するよりはやく登りきる。
着いた頂上からは夕焼けがよく見え、快楽の余韻を冷ますのにちょうどいい。
「オロシテ……オロシテクダサイ…… 」
「おっ悪ぃ 」
怖かったのか緊張してるのか、腕に伝わる鼓動は相当なものだ。
さっさと下ろしてやり、ライガが落ち着くまで夕日を眺める。
風が吹く心地良さ。
平原に沈みゆく夕日。
そんな風景をずっと見てたいのに、いつか終わると思えば虚しくなってしまう。
「そ、それでさっきの事ですが……本当に人が死ぬのなら、殺す必要はあったんですか? 」
「おう。俺の欲求ってな、『殺人』なんだよ。人目もないし簡単に殺せたからさ、欲求を満たすのに丁度良かったんだよ 」
「……殺すことに、抵抗はないんですか? 」
そんな人間らしいベタな質問をされ、場違いだが笑ってしまう。
「ははっ、あるに決まってるだろ。でも俺にとってな、殺しは食事と同じなんだ。やりたくなくてもやらなきゃ死ぬ 」
「っ…… 」
「あとさっきの返事だがな、断るよ。俺も寿命は5年しかないからな 」
「そう……ですか 」
胸を抑え、ライガはまた俯いてしまった。
……なんでこうも、他者をそんなに心配するんだろうな。
「だからさ、俺は自由に生きるって決めてんだ!! 殺りたいときに殺る! 笑いたいときに笑って、喰いたいときに喰う! そうやって自分を満たして、死ぬまで絶望しないようにしたいんだ!! 」
夕焼けに向けて全力で叫ぶ。
するとライガは……俺とは正反対に、自分に向けるような小さな声で囁いた。
「……真反対ですね。私たちの望む生き方 」
「あぁ、だからお前に話したんだ 」
「……? 」
首を傾げたライガの横顔を眩い夕焼けが照らす。
「結局な、どう足掻いても俺たちはバケモノだ。そんな奴らが人の真似をしたって……血を見たときの反応、欲求、人への感情とかで気がつくんだ。あぁ俺は……人間じゃないんだなって 」
「……… 」
「だからさ、その道はやめておいた方がいい。1000の苦悩を乗り越えても1つの希望しか……いや、その1つさえも無いかもしれない。そんな道を進むなら……1000の幸福に、1つの死の方が良いんじゃねぇかって思う 」
「……まるで経験したような物言いですね 」
「さぁな。それで、考えは変わったか? 」
聞かれたくないことを適当にはぐらかし、ライガに本題を突きつける。
当然……すぐに返事はこない。
風を堪能する。
この場から落ちてみたりと想像する。
そうやって暇をつぶしていると、ようやく……ライガは口を開いた。
「心配……ありがとうございます。でも私は……人のように生きたい。人に操られていた時のように……もう自分を裏切りたくはないんです 」
「……そっか。なら左手を出してくれ 」
「……さっきみたいなのはナシですよ? 」
「分かってるって 」
差し出された左手を下から支え、その薬指に歯を突き立てる。
「いっ……何するんですか? 」
「こんなバケモノが居たってのを……覚えてて欲しいんだ。あぁ、遺産使ってるからこの傷は二度と治らねぇからな! 」
「……はい。覚えておきますよ 」
殴られる覚悟はしてたが、ライガは血が垂れる手を大事そうに抱きしめた。
今はその同情が……何よりも嬉しい。
「じゃあなライガ、今日は楽しかったぜ 」
「…………これから何をするんですか? 」
「適当に人間を殺すさ。欲のままにな 」
「……はい、さようならヤマト様。どうか人のように……不自由な存在になりませんように 」
「あぁ、お前は俺みたいに自由になるなよ。人間みたいに……不自由の中で幸せになれ 」
もう言いたいことは無い。
そうライガも思ったのか、お互いに別々の方向へと足を進める。
足音が遠のく度、何かが決定的に違えた感覚が胸をえぐる。
けれどそんな想いは、夜の闇に呑まれてしまった。
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「ん…… 」
「やぁハルト、おはよう 」
目が覚めた。
そこは閉鎖された闇の中。
そこには1つのロウソクと……女の顔があった。
そいつからはエリカの臭いがするが……違う。
「エリカ……じゃない。だれ? 」
「まぁその辺はどうでもいい。それよりも……少しお話をしようじゃないか 」
女は人差し指を鼻に当てると、口が裂けるほど頬をあげた。
「君の過去のお話……バケモノの誕生秘話といこうじゃないか 」




