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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
臥薪嘗胆編
23/73

第23節 同じ命 違う道



「ヤマト様! これはどうですか!? 」


 立ち寄った服屋の中。

 やること無くてボーッとしてると、ライガからまた声をかけられた。


「お……おう、イイトオモウゾ 」


「ありがとうございます! すみません! これもください!! 」


 白いワンピースを店員に渡すライガ。

 その姿は正直かわいいと思うが、さすがに40回も同じことを聞かれると適当になってしまう。

 というか金使い荒過ぎるだろ……


「ヤマト様は気になる服とかありませんか? ずっと同じ服を着てますけど 」


「俺? あぁ、あんまり頓着ないからなぁ 」


「なら選びましょうよ! 私も手伝いますので!! 」


「いや俺は」


 断ろうとしたが、すでに腕を捕まれてしまった。

 どうやら拒否権はないらしい。


 そうして連れ込まれた男性服のエリア。

 本当に興味はないが、目を輝かせるライガのせいで選ばないといけない感じがする。


「これ……いいな 」


「ならこれもいいですよ! 」


 とりあえず柔らかい生地の白シャツを選ぶと、ライガはすぐさま黒いジャケットを持ってきた。


「お、おう。ならそれ買う……いや金持って来てねぇよ俺? 」


「じゃあ私が買ってきますね! 」


「さすがにそれは……聞いてねぇよな 」


 呼び止めようとした頃には、もうライガは会計場にいた。


 後で金は返そう。

 そう思いながら一息つこうとする。

 が、ライガは速攻で帰ってきた。


「ヤマト様〜! 学園に運んでくれるみたいなので他のお店いきましょう!! 」


「えっ、まだ行くのか? 」


「はい! 次はアクセサリーと化粧品見にいって、あとは雑貨屋。そのあと食事にしましょう! 」


「お……おう 」


 普通に帰りたい。

 そんな言葉が頭をよぎったが、指先にはライガの手が絡み逃げられない。


「さぁ、行きましょう!! 」



 連れられたアクセサリー店では、ライガは自分用の耳飾りを。

 俺用にネックレスを買ってくれた。


 化粧品店ではヘアミストとなんかよく分からんクリームを。

 雑貨屋でライガは棚にあるもの全部買おうとしたが、それはさすがに止めた。

 でもこの振り回される感覚は……新鮮で楽しかった。


「それじゃあヤマト様、食事にしましょうか 」


「おう! 」


 雑貨屋を出たあと、ライガとともに街中を歩き回る。

 見かけた肉屋で串焼きを100本頼み、2人で食べながら散歩を続けた。


「そういえばヤマト様ってよく食べてますよね 」


「どした急に? 」


「いえ、初めて会った時も串焼きを大量に食べてましたから……少し気になって 」


「あー……単純な話だ。体の構造上、代謝のスピードが凄いんだよ。だから喰わなきゃすぐ死ぬ 」


 言うべきか少し迷ったが、ゲシュペンスト同士、別に隠す必要もないと全て話す。

 けれどライガは……酷く青い顔をした。


「そう……ですか 」


(……こいつもか )


 笑ってくれれば楽なんだが、そんな顔をされるとこっちまで気分が悪くなる。

 いや……言ったのは俺か。


「……そう言えばよ、なんで俺を誘ったんだ? 」


 空気を変えたくて適当に話題を出すと、なぜかライガは肩を跳ねさせ、胸を抱くように俯いた。


「やっぱり……気になりますよね 」


「まぁな。悪意や裏がないのは表情で分かるけどよ、急に誘われたらそりゃ気になる 」


「なら場所を買えませんか? 誰の目にも付かない……静かな場所に 」


 それに頷くと、ライガは悲しそうに微笑み、どこかに歩き始めた。


 街から出ても、建物がない野原を進んでも歩みは止まらない。

 結局この都市を囲う壁に着くと、ようやくライガは止まってくれた。


「そろそろ聞いてもいいか? なんで俺を誘ったんだよ 」


「えーっと、引かないでくださいね? 」


「大丈夫だって 」


「正直に言うと……あなたと子を成したかったんです 」


(…………ん???? )


 とりあえず半歩下がり、体を守るように腕を構える。


「引かないでくださいよ! 」


「限度があるわ!! 俺ら会って1日目だよな!? プロポーズならまだしも子供を成したいとか引くに決まってんだろ!!! 」


 しかも怖いのが、ライガは本気で照れてる様子なことだ。

 そこだけは人間みたいなのに、欲求だけは獣のように素直すぎる。


「それでえっと……ダメですか? 」


「いやダメっつうか……なんでそんな考えに行き着いたんだよ 」


「…………4年 」


「ん? 」


 変な間が空いたかと思うと、ライガは風に溶けそうな声で呟いた。

 俯いてるせいで表情は分からないが、震える手のせいでなんとなく理解できた。


「これ、なんの期間だと思います? 」


「寿命だろ? けどよ……その残された時間で人間らしいことを望むんだ? お前は人間に縛られ続けてたろ? 」


 初対面の時、ライガは人間の傀儡でしかなかった。

 けれど今はその枷は付いてない。


 なのにその目は……どこまでも悲しそうに潤んでいる。


「私は……人を愛しています。調整されたからでも傀儡だからでもなく、作り物の本心で愛してるんです 」


「……… 」


「だから私は……ゲシュペンストとしてでは無く、人らしく生きたいんですよ 」


 それは異質な生き方のはずだ。

 ゲシュペンストとして生まれ、人として生きたいなんて願い……叶うはずもない。

 けれどライガはそうできると盲信してるように見える。


 そんなんじゃ……縛られてた時となにも変わってない。


「だからもう一度だけ……聞かせてください。私とともに子を成してくれませんか? 人のように愛し合い、人のように笑い、人のように何かを残し、人のように一緒に死んでくれませんか? 」


「んー……それに答える前にさ、少しやる事がある 」


「……? 」


「まぁ……じっとしてろ 」


「フグッ!? 」


 背後にいた何かに拳を打ち込む。

 それは鼻血を吹き出して倒れそうだったが、胸ぐらを掴んで無理やり支えてやる。


(んっ、こいつってあの時の )


 急に現れた歪んだ顔。

 こいつ……俺を戦鎚で殺そうとした奴だ。


「この」


 男はナイフを取りだし、その刃先は俺の首を狙う。

 けど


(おせぇ )


 胸ぐらを引き寄せ、顔面を殴って首をへし折る。

 そのまま空中を舞うナイフを摘み、ライガの隣にいる何かにそれを投げつける。


「っう!! 」


 急に現れた女の頬には、ナイフが突き刺さっていた。

 ナイフを抜こうとする隙に女の間合いに入り、首の肉を指先でえぐりとる。


「ゴボッ……〜〜〜〜!!! 」


 地面に倒れた女は何かを叫んでいる。

 けれど喉がないせいで何も喋れていない。


(んっ? )


 悶え死ぬそれを見てると……自分が興奮している事に気がついた。

 抱きしめたくなるような、その口を塞いで窒息させたいような。

 母性じみた殺意が胸の奥から溢れ、開いた口から生暖かい息がもれる。


(この感覚…… )


「そこに居るのバレてんぞ 」


「っ!? 」


 適当にカマかけると、風のゆらぎを感じた。

 逃げる何かに一度の踏み込みで追いつき、その両足を蹴りでへし折る。


「っぐ!? 」


「あのなぁ、俺を殺したかったらもっと連れてこいよ 」


「……あぁ、次からはそうしてやる 」


 青髪の男は余裕そうに笑い、倒れながらも俺を睨みつけている。

 その余裕は多分……死なないとでも思ってるからだろう。

 ……いい事をオモイツイタ。


「なぁ……このゲームのルール説明は聞いてるよな? 」


「……? 」


「『ポイント入手は2度まで』……この言葉で勘違いしてるかもしれねぇけどよ、1回でも不殺の魔術を使ってるなんて言われたか? 」


「…………いや……そんな…… 」


 確証はないが、ヒカゲの言い方や殺しの快感。

 それらがこの考えに現実味を帯びさせている。


「もしかしたらよ……このゲーム、本当の殺し合いなのかもな 」


「デタラメだ!! 」


「あぁデタラメかもしれない。だからよぉ」


 男の後頭部に足を乗せ、ゆっくりと体重をかける。


「やめオッ」


「確かめて来てくれ 」


 頬の返り血を舐め、潰れた頭から足を引き抜く。

 すると頭の中で光が弾け、ゾクゾクと……ポワポワする多幸感が全身を包んでくれる。


(……気持ちぃ )


「ヤマト様……殺す必要はあったのでしょうか? 」


 快楽の余韻に浸ってると、後ろから声をかけられた。

 振り向けば渋い顔をするライガと目が合う。


「あった。けどほら……アレだ……その理由を答える前に……手を握ってくれ 」


 快楽で意識がぼやける中、血まみれの手をライガに伸ばす。

 戸惑いながらもその手を握られた瞬間、体を抱き寄せ、全力で地面を踏み切る。


「えま!? 」


 そのまま反り立つ壁を走り、ライガが抵抗するよりはやく登りきる。

 着いた頂上からは夕焼けがよく見え、快楽の余韻を冷ますのにちょうどいい。

 

「オロシテ……オロシテクダサイ…… 」


「おっ悪ぃ 」


 怖かったのか緊張してるのか、腕に伝わる鼓動は相当なものだ。

 さっさと下ろしてやり、ライガが落ち着くまで夕日を眺める。


 風が吹く心地良さ。

 平原に沈みゆく夕日。

 そんな風景をずっと見てたいのに、いつか終わると思えば虚しくなってしまう。


「そ、それでさっきの事ですが……本当に人が死ぬのなら、殺す必要はあったんですか? 」


「おう。俺の欲求ってな、『殺人』なんだよ。人目もないし簡単に殺せたからさ、欲求を満たすのに丁度良かったんだよ 」


「……殺すことに、抵抗はないんですか? 」


 そんな人間らしいベタな質問をされ、場違いだが笑ってしまう。


「ははっ、あるに決まってるだろ。でも俺にとってな、殺しは食事と同じなんだ。やりたくなくてもやらなきゃ死ぬ 」


「っ…… 」


「あとさっきの返事だがな、断るよ。俺も寿命は5年しかないからな 」


「そう……ですか 」


 胸を抑え、ライガはまた俯いてしまった。

 ……なんでこうも、他者をそんなに心配するんだろうな。


「だからさ、俺は自由に生きるって決めてんだ!! 殺りたいときに殺る! 笑いたいときに笑って、喰いたいときに喰う! そうやって自分を満たして、死ぬまで絶望しないようにしたいんだ!! 」


 夕焼けに向けて全力で叫ぶ。

 するとライガは……俺とは正反対に、自分に向けるような小さな声で囁いた。


「……真反対ですね。私たちの望む生き方 」


「あぁ、だからお前に話したんだ 」


「……? 」


 首を傾げたライガの横顔を眩い夕焼けが照らす。


「結局な、どう足掻いても俺たちはバケモノだ。そんな奴らが人の真似をしたって……血を見たときの反応、欲求、人への感情とかで気がつくんだ。あぁ俺は……人間じゃないんだなって 」


「……… 」


「だからさ、その道はやめておいた方がいい。1000の苦悩を乗り越えても1つの希望しか……いや、その1つさえも無いかもしれない。そんな道を進むなら……1000の幸福に、1つの死の方が良いんじゃねぇかって思う 」


「……まるで経験したような物言いですね 」


「さぁな。それで、考えは変わったか? 」


 聞かれたくないことを適当にはぐらかし、ライガに本題を突きつける。

 当然……すぐに返事はこない。



 風を堪能する。

 この場から落ちてみたりと想像する。

 そうやって暇をつぶしていると、ようやく……ライガは口を開いた。


「心配……ありがとうございます。でも私は……人のように生きたい。人に操られていた時のように……もう自分を裏切りたくはないんです 」


「……そっか。なら左手を出してくれ 」


「……さっきみたいなのはナシですよ? 」


「分かってるって 」

 

 差し出された左手を下から支え、その薬指に歯を突き立てる。


「いっ……何するんですか? 」


「こんなバケモノが居たってのを……覚えてて欲しいんだ。あぁ、遺産使ってるからこの傷は二度と治らねぇからな! 」


「……はい。覚えておきますよ 」


 殴られる覚悟はしてたが、ライガは血が垂れる手を大事そうに抱きしめた。

 今はその同情が……何よりも嬉しい。


「じゃあなライガ、今日は楽しかったぜ 」


「…………これから何をするんですか? 」


「適当に人間を殺すさ。欲のままにな 」


「……はい、さようならヤマト様。どうか人のように……不自由な存在になりませんように 」


「あぁ、お前は俺みたいに自由になるなよ。人間みたいに……不自由の中で幸せになれ 」


 もう言いたいことは無い。

 そうライガも思ったのか、お互いに別々の方向へと足を進める。


 足音が遠のく度、何かが決定的に(たが)えた感覚が胸をえぐる。

 けれどそんな想いは、夜の闇に呑まれてしまった。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ん…… 」


「やぁハルト、おはよう 」


 目が覚めた。

 そこは閉鎖された闇の中。

 そこには1つのロウソクと……女の顔があった。


 そいつからはエリカの臭いがするが……違う。


「エリカ……じゃない。だれ? 」


「まぁその辺はどうでもいい。それよりも……少しお話をしようじゃないか 」


 女は人差し指を鼻に当てると、口が裂けるほど頬をあげた。


「君の過去のお話……バケモノの誕生秘話といこうじゃないか 」


 


 








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― 新着の感想 ―
[良い点] ライガちゃんムーブは期待通りで笑いましたが、短命ですものね。目いっぱい楽しみたくもなるものです。そしてやはりヤマトは気持ちのいいやつでした。
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