第22節 お誘い
「どこ行くんだよ!? 」
治癒室から飛びだすヒカゲを追いかけ、廊下をはしる。
「ハルトを保護する! ゲームを利用してぇのに、速攻終わっちまったら意味がねぇ!! 」
「でもハルト普通に強いじゃねぇか! 急がなくても……んだあれ 」
窓の外にある妙な人だまり。
それが気になって足を止めると、嫌な考えをしてしまった。
それは足を止めたヒカゲも同じらしい。
「……いやいやそんな訳ねぇよな 」
「さすがにねぇよヤマト……無いよな? 」
「「ハハハッ 」」
2人で乾いた笑いをあげながら、とりあえず窓を開けて耳をすます。
『殺すべきか』 『何かの罠かも』 『なんでこいつが1000ポイント』
「ちょっと行ってくる!! 」
すぐさま窓から飛びだし、広場を駆けて人だまりを飛び越える。
着地した場所にはベンチがあり、そこには案の定……ハルトが心地よさそうに眠っていた。
(まぁ、お前ってそういう奴だよなぁ…… )
とりあえずハルトを回収しようとした瞬間、背後から数百キロはある巨岩の戦鎚が振り下ろれた。
「よっ 」
それを下から蹴り返し、戦鎚を向こうの建物に吹き飛ばす。
「殺りたいのか? 」
「っ……バケモノが 」
「あぁ、バケモノだ 」
尻もちをつく知らない男と。ついでに周りの人間を睨みつける。
すると嫌な顔をしながらも道を開けてくれた。
(あー……この目か )
恐怖、畏怖、不理解。
自分はバケモノなのに、バケモノを見るその目が気持ち悪くて仕方ない。
なのにどうしてか、ハルトの寝顔をみると気が抜けてしまう。
(お前は気楽だよな )
さっさと軽すぎるハルトを背負い、さっきの窓から廊下に入る。
そこには当然ヒカゲが居たが、その隣にはユウトもいた。
「あっ、ヤマトさ……なに背負ってるんですか? 」
「ハルト、外で普通に寝てた 」
「えぇ…… 」
「とりあえずユウト、ここじゃマズイから転移頼む 」
「はい 」
(ん? ヒカゲになにも聞かねぇのか? )
ユウトと一悶着あるだろうと思ってたのに、2人は平然と話してる。
そんな2人を不思議がっていると、ユウトは巨大な鏡が生みだし、それを蹴り割った。
(……何処だここ? )
一瞬で景色が変わった。
そこはリビングのような一室で、木材のテーブルやソファーなんかもある。
けれどわずかに土の臭いもするし、さっきよりも寒い。
……地下か?
「あ、ユウト〜……あーハルト!! 」
「サクラ様、今は落ち着いてください 」
しかも暴れるサクラと、それを抑えるライガもいる。
「えーっと? まず何から聞けばいいんだこれ。つうかお前ら……全員協力者か? 」
「いや、俺の協力者はユウトだけだ。サクラは利害の一致で一時的な協力関係、ライガはここに身を隠してもらってる 」
「あー……あ? 」
一瞬理解しかけたが、よく考えてみると色々とおかしい。
協力者ならユウトがいるのは納得できる。
けど遺産を暴走させられたライガもいる。
いや……ライガが人間に恨みがあるとしたら理解できるが、問題は人間のサクラだ。
なんで人間を滅ぼそうとしてるヒカゲに協力している?
「まぁそこはどうでもいい。今からこのゲームと俺の計画について話すから……とりあえずそいつ置いてくれ 」
「あっ、忘れてたわ 」
存在を忘れていたハルトをソファに寝せ、砂糖入れを口上で逆さにしてるヒカゲと顔を合わせる。
「うげ、見てるだけで喉渇くな 」
「俺にとって砂糖は薬なんだよ。んでまぁ話をしたいんだが……先に質問だ。お前は俺の計画ってなんだと思う? 」
「ん? そりゃ魔書をもらって強くなるためだろ? 」
「違う 」
単純な話だと思ってたが、どうも難しい話になりそうだ。
まぁ、そっちの方が楽しくて好きだがな。
「おれの目的は人間を根絶させることだが……正直、正面からは絶対に無理だ。ケルパー王国にはヘレダント卒業者がわんさかいるし、『天陸宇下』も大量にいる。ロジー王国は……言わなくても分かるな 」
「まぁな 」
ヒカゲが言いしぶったのもよく分かる。
だってロジー王国の王女は……『天陸宇下 第4位』だ。
魔術が散りばめられた千三百年前。
その頃の王政を力で終わらせ、自身を女王と名乗った古き反逆者。
ケルパー王国でさえ武力行使を諦めた王女に、ヒカゲが勝てるはずもない。
「だからゲームのルールを利用する 」
「あのルールに利用できるものあったか? 」
「いや細かなルールの方だ。『このゲームは異例の処置。ゆえに外との文通を完全に遮断する』ってもの。その目隠しがある隙に……卒業生を含む、全ての人間を細工する。それで国に帰った瞬間……まぁ、適当に暴れてもらう 」
(……うんわぁエグ )
思ったより計画がエグいし、何をするか言い渋ったのが逆に怖い。
でもまぁ、そのくらい非道なことをしないと人間を滅ぼすことはできないよな。
「俺はゲームが長引くように動く。狩った人間を細工しながらな。けど強いやつからは、特に『セシル・カイバ』からは……正直、俺の全力でも勝てるか怪しい 」
「……だから俺に、高ポイントのユウト達を守ってほしいのな 」
「あぁ、引き受けてくれるか? 」
「断る 」
「だろうと思った 」
ヒカゲは俺が断るのを分かってたような口だ。
なら……次にでる行動は想像がつく。
(強行手段だろ? ………………あれ? )
けれどいつまで経っても変化がない。
むしろヒカゲは困ったようにため息を吐いた。
「あー……なら当初の計画通りに動くか 」
「……強行手段は使わないのか? お前なら俺を従わせることできんだろ? 」
「それなら余裕だ。けどここで戦えば場所がわれるし、ユウトの魔術に頼る前に3人は殺せるだろ? 」
「買い被りすぎだ。せめて2人だよ 」
「「……ははっ 」」
睨み合いながら笑い合う。
そんな心地のいい時間を味わってると、ヒカゲはあからさまに作った笑みを浮かべた。
「ならこうしよう。お前が俺に頼んでくれれば、2度だけ協力してやる。そっちがどんだけポイントを持ってようがな 」
「そりゃいい案だが……見返りは? 」
「『この場所を口外するな』『ハルトを狙うな』この2つだけ守ればいい 」
「よっしゃ、その契約は受けてやるよ。けど……てめぇも俺の獲物だからな? 」
「あぁ、やる時は全力で相手してやるよ 」
拳を前に伸ばすと、その拳を小突き返された。
すると殺意とは違う、暖かなものを胸に感じた。
(やっぱり……人は温かいな )
「お二人共、紅茶をお入れしましたからどうですか? 」
「ありがとうライガ。ついでに花蜜と砂糖とシロップも入れてくれ 」
「はいはい。ヤマト様はどうします? 」
「ん? ならストレートを…………ちょっと待て 」
ふっつうに忘れていたが、ライガはゲシュペンストなはずだ。
なら……人の枷があるハズだ。
「え……おま……えっ、ダメじゃねぇかこれ!? あんま言いたくないけどゲシュペンストの前でそれ言ったらダメだろ!!!! 」
「気にすんな、人の枷はもう外してある 」
「……ん? 」
今なんつった?
人の枷は外してある?
……ゲシュペンストの全神経に埋め込まれたあれを?
「いや待て、えっ……ガチ? それ世界でも成功例がないはずだぞ? 」
「今日までなかったな 」
「…………あー。それが成功したから遺産を暴走させたのか。やっと納得がいった 」
「あぁ、暴走中に外せば死んだと思わせられるからな……やっと自由にしてやれたよ 」
ヒカゲは拳を握り、やり遂げたようにため息をもらした。
その隣で紅茶を注ぐライガも……荷が降りたように優しい笑みをしている。
……そうかぁ、救えたんだな。
「やぁ 」
「うぶっらしゃ!!? 」
安心している最中、突如として耳元で囁かれた。
右耳を抑えて背後をみると、そこにはエリカもいた。
「ふふっ、耳が弱いねぇ 」
「はぁ、はぁ……マジで心臓に悪いからやめてくれ。頼むから 」
「や、だ 」
背後に立つエリカから離れ、サクラの傍に避難する。
こいつはマジで嫌いだ。
喋るときはだいたい体触ってくるし、いつもイタズラしてくる。
けど一番怖いのは……背後に立たれても気配がないことだ。
武器でも持ってたらと思うと寒気がする。
「エリカか。どこ行ったかと思ってたぞ 」
「ふふっ、ちょっとした事だよ。あぁそれと、みんなにお願いがあるんだ 」
(こいつも協力関係なのか? )
そんな事を思ってると、エリカは笑みを浮かべた。
可愛らしいと思う反面、その裏には死を感じる。
「ハルトを私に頂戴? 断ったら全員殺すけど 」
「はっ? そんなワガママ」
「いいユウト、ハルトには悪いが行かせてやれ。抵抗すれば死ぬだけだ 」
「ふふっ、冷静だねぇ。それじゃ……君たちの計画が失敗することを願ってるよ 」
「余計なお世話だ 」
ヒカゲの睨みにエリカは笑みを濃くした。
すると寝ているハルトを背負って、どこかへ消えてしまった。
「……どゆこと? 」
「あー……まぁ……あれは気にするだけ無駄だ 」
「……ヒカゲってなんかエリカに甘くないか? 戦う気がないよな 」
「甘くは…………ないと思いたいがな。けど戦いたくない理由があんだよ 」
あんだけ強いヒカゲが嫌な顔をした。
それだけでエリカがどれだけ異質かを、なんとなく察せれる。
「戦うなよ? あいつケルパー王国の『天陸宇下』より強いからな 」
「……まじ? 」
「あぁ、だからお遊びでも戦うな 」
そう念入りに言われるが、正直戦ってみたい欲は抑えられない。
けどなぁ……今勝てるかも怪しいヒカゲよりも強いのがなぁ。
「あの……ヤマト様…… 」
「ん? どした? 」
どうするか悩んでると、ヒカゲの後ろからライガが顔を出してきた。
その顔は若干赤く、胸に置かれた手は震えている。
「あっ、あの……私とデートして頂けませんか? 」
「……はい? 」
「そりゃいいな。ユウト、とりあえず街に転移させてやれ 」
「はい! あっ、これ僕のお金ですライガさん 」
「あっ、ありがと…… 」
「待て待て、どういう事かせつめ」
「それじゃあ行ってらっしゃいませ! 」
ノリノリなユウトたちを止めようとしたが、ほぼ強制的に転移させられた。
(まぶっ…………都市か? )
そこは見覚えのない路地裏で、その向こう側からはたくさんの人間たちが見える。
(いや絶対デートじゃねぇだろ! どうせヒカゲがなんか仕込ん……で…… )
後ろにいるライガを問い詰めようとする。
けれど喉が詰まって声が出なかった。
その手は震えている。
その目は潤み、極めつけには顔は火照っているように赤い。
(照れてる? ………まじ? )
その表情は……ゲシュペンストには似合わない、どこまでも人間臭いものだった。




