第21節 不理解の同類
「いや……普通に死んでたろ。潰されて死ぬの見たぞ? 」
ヒカゲに詰め寄るが、当の本人は疲れた様子でベットに寝そべった。
「忘れたのか? あの会場には不殺の魔術が張られてたろ 」
「いやその司会者をお前が殺したじゃねぇか! だから死人が出てないのはおか」
「司会者の死が偽装だった。そう言ったら納得が行くだろ? 」
ヒカゲから当たり前のように語られるが、急にそんなこと言われても納得いく訳がない。
「……どうやってだよ? 」
「事前に打ち合わせてたんだよ。そいで『力』で内蔵の位置を動かしてもらって、俺が貫くと同時に血をつくる。あとは心臓を止めてもらえば死んだふうに見えるだろ? 」
確かにそれなら納得いく。
納得はいくが、『どうしてそんな事をしたのか?』という疑問が残る。
「……んじゃあれはなんなんだよ。宣戦布告して人間とゲシュペンストを殺した挙句、実は意味が無いことでしたってか? 」
「意味はある 」
でまかせだ。
そう思いたかったが、力強い即答のせいで頭ごなしに否定できなくなった。
「まぁ回りくどいのは嫌いだからな、さっさと結論を言おう。会場にいた全員、ケルパー王国の貴族以外は死ぬ予定だった。複数の遺産による暴走事故でな 」
「……は? 」
「実行者は両国の『王下隷者』数人。目的はロジー王国の有力者を殺害することで、俺はその現場監督みたいな立ち位置だった。けどま、俺が裏切って人類に宣戦布告したからな。どっちの国も戦争してる暇じゃなくなったろうよ 」
一気に色々と話され、すこし混乱してしまう。
けど混乱した頭でも分かることはある。
「まてまて! そりゃ戦争してるから、なんかしてくるとは思ってた!! 思ってたけど計画がめちゃくちゃ過ぎだろ!? んなことしたら無関係の奴らまで死」
「ロジー王国の関係者だけ死んだら言い訳できねぇだろ? だから適当に殺すんだよ 」
「いや…… んなこと」
「するんだよ、あの国はな 」
何度か現実逃避しようとしたが、嘘のない声が嫌でも現実を見せてくる。
けどその声は逆に……ヒカゲの目的を示していた。
「ならお前は……救いたかったのか? 俺たちを 」
「あぁ、お前たちは救いたかった。人間はどうでも良かったがな 」
ヒカゲの話を噛み砕いて、ようやく核心が見えてきた。
でも分からないことが多すぎる。
なんであんな虐殺をする必要があった?
ゲシュペンストを救いたいなら、どうして遺産を暴走させた?
なんでわざわざ人類の敵に……故郷を追われるようなことをした?
「……正直、話がデカすぎて分からないことだらけだ。けど、これだけはハッキリさせたい。お前は……何を目的に動いている? 」
「……ていうと? 」
「とぼけんな。救うだけなら宣戦布告する必要はないし、そもそも虐殺する必要性が見えてこねぇ。だから俺たちを救ったのは何かの一環に過ぎねぇんだろ? 」
「……… 」
「もう一度聞く、お前の本当の目的はなんだ? 」
「そりゃふく」
「復讐とかいうなよ? んなら司会者を裏切ったあと皆殺しすりゃ良かったからな 」
ヒカゲの頭を押さえ、その黒い目を覗き込む。
些細な嘘すらも……見逃さないように。
しばらく無言が続いたが、ヒカゲは観念したように口を開いた。
「俺の目的はゲシュペンストの製造を止めること……いやはっきり言おう。俺は人間を根絶するために動いている 」
「……なぜだ? 」
「ゲシュペンストは……先がない存在だ。どう生きたって、どんな意志を持ったって、結局は不自由に死ぬ。それが分かってるのに、奴らはゲシュペンストの製造を止めはしない 」
「……… 」
「便利すぎるんだよ。簡単に創れ、簡単に支配できる。再生機能をつければ食糧難なんて起こらないし、質が悪くても生物爆弾にすることくらいは可能だ。けどお前らには感情がある。それを縛りつけ、それをなかった事にするなんて……ふざけてるだろ 」
「確かにふざけてる。でも」
更に顔を近付け、ヒカゲの首を指先で締める。
苛立ちひとつで……息の根を止めれるように。
「てめぇも人間だろうが。お前だってゲシュペンストの恩恵を受けてるのによぉ、自分だけは正義の味方きどりか? 」
「……ハッ、んなことどうでもいいんだよ 」
けれど吐き捨てるように笑われると、ヒカゲの指先が俺の首を締めてきた。
震える指先。
どうしてかあの時ほどの力はない。
「結局、正義を語る奴らもいなくなるんだ。だったらやるやらないの選択だけしかない。んなら俺は……進み続けるだけだ。人間を根絶させるために 」
「……自分もか? 」
「当たり前だ 」
自分から聞いたはずなのに、その話は終始バカげてるとしか思えない。
別の種族のために同族を皆殺し?
んなの狂ってる。
狂ってるからこそ……逆に安心できた。
「そうか、ならま……頑張れよ 」
「……狂ってるとは思わないのか? 」
「んー……正直思ってる。思ってるけど俺だって自分のために殺してるならな、否定なんて出来ねぇよ 」
「……お互い狂ってるな 」
「あぁ、お仲間だ 」
絞めあう指を解き、お互い吐き捨てるように笑いあう。
狂ってるのは自分だけじゃない。
そう思いながら……
「あーでも1つ、聞きたいことと言うか……知りたいことがある 」
「なんだ? 」
「好きだった人がゲシュペンストの話、あれのほとんどはホントだろ? でも少し、嘘が混じってた 」
「……… 」
「だから聞きたい。その本当の話を……お前が狂った動機を 」
また無言が続く。
けれどヒカゲはため息を吐くと、ベットに顔を埋めて話してくれた。
「……好きだった人がゲシュペンストなのも、国家反逆罪になったのも本当だ。でもあの人は……人間に殺されてない、自殺だった 」
「……理由は? 」
「あの人の欲求は、人間の脳を喰らうことだった。でもあの人は……人間が好きだったんだよ。欲を押さえつけて押さえつけて、それが人間に不協力として国家反逆罪になっても耐え続けた。結果……自殺した 」
「なるほどな 」
……ヒカゲのいう『あの人』のことは何も知らない。
けど妙に納得がいった。
先のないゲシュペンストを思う気持ちも。
憎悪が狂気となったヒカゲの感情も。
でもなんつうか……
「聞いたの俺だけどよ、めっちゃ普通に答えるよな。辛い過去のはずだろ? 」
「あー……元々話すつもりだったからな 」
「ん? なんで? 」
「お前に協力して欲しいことがあるからだ 」
(……なるほど、そういう事か )
指と首の骨を鳴らし、赤いヒビを両腕に走らせる。
「つまりなんだ? 俺を利用して人間殺したいのか? 」
「いや違うが 」
「……へ? 」
すこしガッカリだ。
そう思いながら殺る気をだすが、ヒカゲからは面倒くさそうにため息を吐かれた。
「今から大規模なゲームがある。そのゲームでユウトとサクラ。あとライガを守ってほしい 」
「ゲーム? 」
「あぁ、アルベに持ちかけたもんだ。俺はそれを利用して同族どもを殺す 」
『みんな聞こえるかな~? 学長のアルベ・ヴァニタスだよー! いま学園中の全員に話しかけてまーす 』
突如として聞こえた幼い声。
全力で耳横を攻撃するが、そこには何もない。
「なん」
「丁度いい、とりあえず聞いてみろ 」
頭の中で直接話されてるような感覚。
それが気持ち悪くてたまらない。
『今からね、ヘレダント中を巻き込むゲームを始めまーす。その名も『血の戦争』! 殺し合いのイベントだよ 』
(殺し合い!? )
けれど気持ち悪さなんてどうでも良くなった。
ヘレダント中を巻き込む殺し合いなんて……楽しいに決まってる。
『それでルールなんだけどね〜、簡単にいえば討伐戦だよ。全員0ポイントから始まって、殺した者に応じてポイントが貰える。それで累計1000ポイントを越えた1人には……ヘレダントの魔書をぜーんぶあげちゃいます 』
(はっ? )
魔書を全部もらえる?
魔法を習得できる、あの魔書を?
……めちゃくちゃ過ぎないかこれ?
『魔書を貰えるのは1年に1度だけ。だからヘレダントにいたら最高5回しか貰えないものを全部だよ。これなら卒業生のみんなもやる気だせるでしょ? それじゃあ細かな説明にいどーう! 』
ハイテンションなアルベに振り回される気分だが、とりあえず話は聞き逃さないように集中する。
『まずひとーつ、討伐者1人からもらえるポイントは2度まで。だから1ポイントのザコを1000回殺しても意味ないよー。
それで2つ目、複数の協力関係で1人を殺した場合。この場合は協力者全員にそのままのポイントが行く。だからザコ救済処置だね 』
(んー? ちょっと待て? )
500ポイントの人を100人で殺せば、全員が500ポイント貰えるってことだよな。
でもそれだと……高ポイント者が不公平すぎないか?
『それで3つ目、複数人が同タイミングで1000ポイントに到達した場合について。この場合は到達者全員で殺しあってもらうよ 』
あー……なるほどな。
つまり弱い奴が強い奴に協力し続けても、最終的に潰し合わないといけないのか。
しかも1人しか選ばれないから、協力するにしても仲間のポイントに気を配らないといけない。
思ったより頭使うな……
『他にも細かなルールがあるけど、だいたいはこんな感じかな。それじゃあみんな、左手の小指にご注目〜 』
「んっ? 」
言われるがまま左手を見ると、いつの間にか小指に銀色の指輪がはめられていた。
それには無数の小さな花と、ノコギリみたいなギザギザな歯が掘られてる。
『それはプレイヤーの指輪だよ。左横のボタンから自分の討伐ポイントとか見れちゃうけど、それは個人で見てねぇ〜……さて、それじゃあ最後のお話。ゲームスタート前に、討伐ポイントが100を超える人を紹介していくよ 』
センスのない指輪に目を奪われていたが、急いで話に意識をもどす。
ルールは分からないことだらけだが、これは聞いておかないと最初の動き方が分からなくなる。
『まず卒業生から……
【代償者】 ツムギ・コナエル、120ポイント。
【花紬】シグレ・アオギ、110ポイント 』
知らない名ばかりだが、訓練を受けた卒業生から2人しか名前を呼ばれなかった。
……だったらこれ、だいたいの人は低ポイントになるのか?
じゃないとすぐゲームが終わっちまうし。
『3年生
【 空荒らし】セシル・カイバ、200ポイント。
そして入学生
【歪人】 ヒカゲ・ルミル、150ポイント。
【存在証明なし】 ユウト・カイナ、100ポイント。
【黒き血の失敗作】 ヤマト・フォルテンジエ、120ポイント 』
(えっ俺も!? )
なんか知ってる名前が出てきたなぁと思ってたら、急に自分の名を呼ばれた。
でもこれ……逆に考えたら強い奴が戦いにきてくれるってことだよな。
(……楽しみだなぁ!! )
『そして私の可愛い【全てに成る者】 ……ハルト・ディアナ、1000ポイント 』
「「はっ? 」」
1000ポイント?
いやめちゃくちゃすぎだろ。
そんなのハルトが殺されたら……ゲームがおわるじゃねぇか。
『それじゃあみんな……ゲームスタート 』
困惑をよそに、ゲームが始まった。
ただ静かに、そして大量の謎を積もらせながら。




