第20節 歪人
「ヒカゲぇぇぇ!!!!! 」
足を再生させ、ヒカゲに飛びかかる。
間合いに入った頭蓋に拳を放つが……それは片腕で防がれていた。
「いきなり物騒だな 」
「っぐ!? 」
突如として視界がぶれ、後ろに吹き飛ばされた。
(……頭突かれた!? )
受け身もとれずに地面に転がる。
脳が揺れて最悪の気分でしかない。
……つうか、どうなってんだ?
「なんで人間に力負けするのか? って感じだな。まぁ種明かししてやるよ 」
心を読まれたのか、ヒカゲは独り言をはじめる。
「俺の魔術は『影現魔術』。細胞レベルまで想像したものを現実化させるって少し前に説明したよな? 」
「……だから弱いって言ってなかったか? 」
「あぁ、効率が悪すぎる。だが裏を返せば細胞レベルまで調整できるってことだ。まぁ例えるなら……人間の細胞を遺産に変質させたりな 」
わざわざ説明してくれてる間に、揺れる脳と破れた左の鼓膜を治す。
けれどそのせいで……耳障りな断末魔がよく聞こえる。
「で? なんでこんなことしてんだよ? 」
「理由? 好きだった人がゲシュペンストで、国家反逆罪として人間に殺された。だから人間を恨んだ……簡単だろ? 」
「……俺らに妙に優しかったのはそのせいか。けど、飛躍しすぎだろ。人間を恨んだから皆殺しはおかしいし、その復讐のためにゲシュペンストを利用してんじゃねぇよ!!! 」
「復讐なんてイかれてなんぼだろ。あと、喋りすぎだ 」
「あっ? なん……ごば」
喉から黒い血が込み上げた。
手足が痺れ、視界がチカチカと点滅し、脳が回らない。
「どぐ……が? 」
「あぁ、俺が作ったな。お前と戦うにはめんどくさすぎる 」
「ぐっ……ぞ 」
「今は大人しくしてろ、人間以外には興味ない 」
会場には不殺の魔術が張られている。
だから大丈夫だと思っていたが、その魔術者である司会者はもう……死んでいる。
ここで死んだ人間は本当に死ぬ。
それを分かっていて……ヒカゲは全て殺すつもりだ。
人間を……この会場にいる弱い奴らを。
んなの……理不尽すぎる。
「んっ? 」
『力』を解き、全身に苦痛を巡らせる。
溺れるほど痛くて、息ができないほど苦しい。
けど苦しめば苦しむほど、痛ければ痛いほど……気持ちがいい。
「ひひゃ!! 」
「っ!? 」
飛び込み、近くに見える顔面に拳をぶち込む。
頭を砕いた。
壁にぶち飛んだ。
にぶい快感が脳にぶつかる。
「死んだ? 殺した? 違う!! 死ぬな殺すな!! 逃げろやめろ!! 」
頭を掻きむしる。
痛みで快楽を押さえ込もうとしたいのに、その痛みが快楽に変わってどうしようもない。
体温があがる。
皮膚がこげる。
きもちぃ。
鼓動が高鳴る。
胸が痛い。
きもちぃ。
「ひひっ、ダメだダメだ止めらんねぇ!! 死ぬな生きてコロす!!!!! 」
「……ほんと、お前らは生き辛いよな 」
小さな声が聞こえた。
ヒカゲの頭が治った。
作り直したのかな??
「……すぐ楽にしてやる 」
「ヒヒっ、あばひゃ!!! 」
気持ちぃ気持ちぃ気持ちぃ。
飛び込む。
指が筋力で折れる。
その拳でヒカゲを……
「……? 」
気がつくと、右半身が壁に埋まっていた。
外に出ようとしても、ひしゃげた左腕に力が入らない。
(あるぇ? )
「……その状態でも生きてんのか 」
冷たい声とともに、右目にヒカゲが映る。
その背中からは螺旋状の尾が伸び、それはヒカゲを守るように蠢いている。
「なん……ぞれ? 」
「言ったろ? 人間の細胞を遺産に変質させれるって。だからその遺産を増幅させちまえば……こういう武器も作れる 」
「……ひひっ 」
遺産の力を持つ人間。
殺したい殺したい殺したい殺したい!
でも……体が動かない。
「竜とドラゴンの遺産でできた尾だ。原型をとどめてるだけでもいい方なんだよ 」
「まだ……あそび……足りな」
「……ゆっくり休んでろ 」
尾と目が合った。
尾と鼻先がキスをした。
…………意識が暗くなった。
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「……ふざけやがって 」
尾を振り、腐った黒い血をとばす。
ヤマトがいた場所には下半身しかなく、黒いシミだけが残っている。
……これなら死んだ風に見えるはずだ。
「そろそろうるせぇな 」
尾を操り、会場ごと遺産を吹き飛ばす。
会場の跡地に残ったのは……身を伏せて生き延びた人間と、中身の詰まった靴だけだ。
「よぉ人間ども、生き延びてくれて嬉しいぜ 」
「……お前は 」
立ち上がった人間たちの中に、見覚えのあるものがいた。
コトノとヒマリ。
あとハクネか。
「あなたは……なんのためにこんなことをしている? 」
「あーあー、そんなベタな質問いらねぇよハクネ。いや逆に……そんな質問しかできねぇのか。あぁ、全員バカの血を引いてるもんな、そりゃバカなのは仕方ねぇ 」
安い挑発をしていると、殺意とともに氷と炎が迫る。
(チョロ )
空気を裂く尾。
それで炎をかき消し、永遠の氷は上空へ弾く。
プライドだけは高い奴らのことだ。
きっと意気消沈する。
そう思っていたが、ハクネとヒマリの攻撃に感化された生き残りたちが俺に魔術を構えていた。
(やっべー……ここまで計算通りにいくと、笑っちまうな )
「ハハッ。いやぁバカしかいねぇで助かるわ 」
「はっ? 」
「んじゃま、そんなバカどもには……バカみたいな理論で相手しよう 」
魔術を使い、尾8本に……それら全てに1000を超える枯れ葉を宿す。
すると全員の動きが止まり、うねる尾に視線が集まった。
「見覚えがあんだろ? 翡翠色の枯れ葉……最速の遺産とよばれている世界樹の葉だ。これを最強とよばれる竜の筋力と一体化させりゃ……どうなると思う? 」
「……っ!!? 全員私の近くに!! 」
「答えは簡単 」
ハクネは自分以外を氷で守ろうとした。
けれど尾を振るった瞬間、軽い破裂音とともに命の痕跡は消えていた。
「全員死ぬだ……んでま、次はてめぇらな 」
空中に目を向け、尾で透明な監視魔具を壊す。
これでケルパー王国の監視者からすれば……俺がゲシュペンストを解放し、人間を皆殺しにしたように見えるはずだ。
「ふぅ……グッギ!? 」
一息ついた瞬間、脳が頭骨を食い破ろうとしているのを感じた。
用意していた注射針を首に打ち込み、なんとか脳の発作を抑えるが……このペースで行くとどうもマズイ。
「はぁ……はぁ…… 」
(まだ……死ぬ訳にはいかねぇんだよ )
「やぁヒカゲ、虐殺は楽しかったかい? 」
誰もいないはずの背後から、嫌な声が聞こえた。
ため息を混じりに振り返ると、やはりそこには……エリカがいた。
「……なんの用だ? 」
「いやね、君に忘れ物を届けにきたのさ 」
エリカは何かを俺の足元におとした。
それは……注射器を握っている俺の右腕だった。
「で? なんの用だよ。今からやること残ってんだが? 」
「……驚かないのかい? 私なりの殺害予告だったんだけどねぇ 」
「お前が俺を殺してもメリットはねぇ。むしろデメリットしかねぇだろ 」
「はぁ……覚悟を決めた人間ってのは面白くないねぇ。まだユウトやハルトの方が可愛げがあるよ 」
「で? なんの用かさっさと言え。お前の話は回りくどいんだよ 」
霞む目を作りかえ、もげた右腕をつけ直す。
するとエリカはやっと話を始めてくれた。
「ゲシュペンストの劣化が激しい理由はしってるよね? 他細胞との拒絶を異常代謝で誤魔化しているからって 」
「それが? 」
「それでも丈夫な遺産を元にしているからね、無理に酷使してもゲシュペンストなら5年は持つ。質のいいものなら最低でも10年は保てるだろうね? 」
「……だからなんだよ? 」
「だからさ、人間の体で遺産をつかってる君は……あと何年で死ぬんだい? 」
(お見通しって訳か…… )
エリカの前でとぼけるのは無駄か。
そう思いながらさっさと口を開く。
「常に出し続けなければ5年はもつ……はずだったんだかな。薬のペースを考えれば、あと3年ってとこか 」
エリカなら笑うだろう。
そう思っていたが……俺を見る顔はただ怒りに満ちていた。
それは殺意ではなく、やるせない気持ちを噛み殺すような……エリカに似合わない顔だった。
「……んだよ、いつも見たいに笑わないのか? 」
「……気分じゃないだけさ。あと、少し手伝ってあげるよ。君ひとりじゃ骨が折れるだろう? 」
「助かるが……なんでお前が手伝うんだよ。得なんてねぇぞ? 」
「この体が助けたいって言ってるんだ。まぁ幻聴だろうがね 」
「…………あぁ、そりゃ幻聴だ 」
震える足を作り直し、進むエリカについて行く。
後処理はユウトに任せてある。
なら後は……アルベとの交渉だ。
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(……どこだここ? )
しらない部屋で目が覚めた。
薬の匂い……治癒室?
柔らかい背中……ベットの上?
頭痛……痛み……ヒカゲ……
(俺……死んでなかったか? )
「よぉヤマト、目が覚めたか? 」
「おう……ってヒカゲぇ!!? 」
ベットの横にヒカゲがいる。
すぐさま体を起こしたが、あまりのことに逃げ腰になってしまう。
「まてまて、とりあえず話したいことがあるから聞けって 」
「その前に俺の質問に答えろ!! なんで俺は生きてる!? それとあれからどうなった!? 」
「あー……説明すること多すぎるからな、とりあえずこれだけは伝えておく 」
説明は聞きたいが、こいつの間合いに居たくない。
とりあえず窓辺に立ち、何が起こってもいいように身構える。
「まずだが……あの騒動ではゲシュペンストも人間も誰ひとりとして死んでいない 」
「…………は? 」
けれどその言葉には……警戒心なんてどうでも良くなるほどの謎が満ちていた。




