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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
臥薪嘗胆編
19/73

第19節 意味なき死闘



「試合終了!! 勝者……サクラ・カブリ選手です!!! 」


 大きな司会者の声が響きおわると、返り血まみれのサクラさんが廊下に入ってきた。


「あっ、ユウト〜 」


「お疲れ様です、サクラさん 」


 用意していたタオルを渡すと、サクラさんは獣みたいに顔をプルプルと揺らし、タオルに顔をこすり始めた。

 ……可愛らしいなぁ。


「そういえばユウト、あいつはなんて? 」


「えっと、断られましたね。ぼく交渉下手なので…… 」


「ちょっと遅れるだけだから、別にいいと思うよ。そのおかげで髪洗える時間ができたし!! 」


「……慰めてくれてありがとうございます。でも遅刻はしないでくださいね 」


「うん! あっ、それとさ……次の試合、頑張ってね!! 」


 すれ違いざまに、子供のような明るい声で応援された。

 ただそれだけなのに、この心臓は喜んでいる。


(よっし、頑張って殺すぞー!! )


「それでは次の試合に参りましょう!! 」


 司会者の声にあわせ、暗い廊下から死合い場に向かう。


「それは異色を放つもの同士! この死闘に意味はなく、ゆえに彼らは笑い合うでしょう! 『存在証明無し(ノーシグナル)』 ユウト・カイナ選手と〜……『全てに成る者(ワイルドカード)』 ハルト・ディアナ選手です!! 」


「よろしくお願いします、ハルトさ……大丈夫ですか? 」


「ん〜? だいじょうぶ……らいほうふ 」


 死合い場でハルトさんと出会ったけど、その足はフラフラだし呂律が回ってない。

 そんな姿に心配していると、ハルトさんはナイフホルダーから本をとりだした。


「あぁ、ほん……返す 」


(……えっ今!? )


「あっ、ありがとうございます 」


 とりあえず本を受け取ったけど、これをどうすればいいか困ってしまう。

 地面に置くのは嫌だし、懐に入れても歪むか返り血で汚れそうだし……


「ユウト選手〜? よければ私が預かりましょうか? 借りパク常習犯ですけど 」


「えぇ…… 」


「まぁ冗談ですので、預かりますよっと。それとハルト選手〜、起きてくださ〜い 」


「んっ……おきてる……おきてる 」


 眠たそうに目をこするハルトさんを見てると、なんというかこう……イメージがくずれてしまう。

 

 最初は無口で不気味な感じだったのに、広場であった時は無知な子供……今は母親を探す幼児に見えてしまう。

 まるで……顔を合わせる度に人が変わってるみたいな感じだ。


「そういえばユウト、お前って人が嫌いなんだろ? 」


「……まぁ、そうですね 」


「じゃあなんで、試合に勝ちたがるんだ? 実績しかもらえないはずだろ? 」


「ちょっとした用事があるんですよ……それと気になったんですけど、ハルトさんってなんでお金が欲しいんですか? 」


 今さら気になったことを聞いてみると、ハルトさんにしては珍しく、困った顔をした。


「友人? 知り合い? ……知り合い、知り合いに金を送りたい 」


「……? どうしてです? 」


「そいつの足を落とした。そいつを長いこと監禁した。だから金がいる 」


(????? )


 やけに知り合いを強調するなと思ってたら、今度はとんでもない発言をされた。

 足を落としたなら罪悪感で説明できるけど、監禁したから金を送りたいってほんと意味が分からない……


「雑談もその辺に。そろそろ始めますよー 」


「あっ、すみません 」


「んっ 」


「両者離れまして〜。では試合……開始です!! 」


 頭を切りかえていると、合図がなった。

 すぐさま空中に鏡を作り、前進しながらそれを叩き割る。


(死ね )


 手元に転移した巨大な複合武器。

 その丸みの帯びたノコギリの部分を、全力で振り下ろす。


「えっ? 」


 なのにハルトさんは避けることなく、その刃を口で受けた。


 頬は裂け、歯は砕けている。

 けれど致命傷は避けられ、その両手はナイフを抜いた。


「っう!? 」


 一瞬の困惑。

 その隙に接近され、黒いナイフは僕の右腕と腹を裂いた。


「いっ」


 長い武器を振るえない近距離。

 すぐさま武器を捨て、残った手でハルトさんの右腕を握りつぶす。

 けれどハルトさんは自分の肩をナイフで切り落とし、一瞬で首を裂いてきた。

 でも致命傷じゃない。


「っ!? 」


 足をあげ、柔らかいお腹に蹴りを打ち込む。

 何かを潰す感覚が伝わると、ハルトさんは紙切れのように吹き飛んだ。


「ゴボッ……ガッ」


 さらに生みだした鏡を割り、血を吐く人間(ハルトさん)の傍に転移する。


 髪を掴み、顔面に膝を。

 その頭をにぎり砕いて叩きつけ、胸を踏みこわす。


「お……ゴッ 」


(……やっぱり、殺しても楽しくないな )


 壊れた胸から足を抜き、ため息を吐いてみる。

 でも胸のモヤつきはとまらない。


「はぁ 」


 靴底の血を地面にこすりつけ、さっさと帰ろうとした。

 瞬間、変な悪寒がした。


(あれ……試合が終わら)


「産声をあげない手の内の赤子よ 」


(っ!! 詠唱!? )


 咄嗟に背後を振り返る。

 けれどその隙をつかれ、両足を2本のナイフで固定された。


「瞳をひらかず、母の手を握り返さない赤子よ 」


「この」


 ハルトさんは目や耳からも血を垂らし、胸はいまだに陥没してる。

 なのにナイフは止まらず、腹を3度刺された。


「泣いて、息をして、生きて……お願い 」


「ふっ!! 」


 力任せに体をひきはがし、指先で地面をえぐり飛ばす。

 石くれはハルトさんの腹と両足を消し飛ばした。

 でも命には届かず、詠唱は止まらない。


「願いの声が途切れた日、産声が響いた。影の影、母の骸の下で 」


(死っ……ね!!! )


 地面ごと足を引き抜き、手元に複合武器を転移させる。

 今度こそ……息の根すら残さないように。


「骸の抱擁(ほうよう)、それは今も続き。骸の羽音、それは優しき『子死唄(こじにうた)』 」


 言葉が途切れたと同時に、振るったはずの武器が壊れた。

 いや……呑まれた。

 ハルトさんを蝕むような……影によって。


「っう!!? 」


 得体のしれない恐怖。

 すぐさま飛び退くが、武器ごと腕を呑まれた。


 音もなく、痛みもない。

 ただ無温の死だけが……腕をもっていった。


(なんですかこれ!? 魔術にしても得体がしれな…………赤ちゃんの声? )


 遠くの方で、産声が聞こえた。


「ゴポっ……? 」


 咳き込んだと思ったら吐血した。

 涙がでたと思ったらそれは血だった。

 眠くなったと思ったら……地面に倒れた。


(待ってこれ不味いマズイまず)


 足音が近づいてくる。

 赤ちゃんの声も近づいてくる。

 体が動かない、目が閉じれない、逃げられない。


「あっ 」


 影から抱きしめられた。

 呼吸がとまった。

 心臓もとまった。

 意識が……ほどけた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「試合終了! 勝者……ハルト・ディアナ選手です!! 」


「……ハハッ、んだあれ 」


 観覧室から見える、ユウトに抱きつく影。

 その得体のしれない何かを見ていると、変な汗がとまらない。


 本能があれに……近づくなと命令している。


「おいヤマト、窓汚れるぞ 」


「うぉ!? 悪い悪い 」


 冷たいガラスから額を離し、ソファーに座るヒカゲに謝る。

 けど胸の高鳴りが抑えられず、荒い息が止まらない。


「というかハルトの魔術すげぇな!? 入学初日で見たのとは全然違ったぞ!? 」


「確かにな。広範囲だから単騎だと使えないと思ってたが、あんなこともできんのか……ありゃ詠唱が終わったら確実に負けるな 」


「だよなだよな!! しかもあいつ、近接戦闘もめちゃくちゃつえーしよぉ! また戦うの死ぬほど楽しみだ!!! 」


「それはいいけどよ、時間大丈夫か? 」


「……やべっ!! 」


 ヒカゲが指さした時計。

 その時刻は、試合が始まる30秒前を示していた。

 

「んじゃヒカゲ!! 俺も頑張るからお前も頑張れよ!! 」


「おう……まぁ、楽しんでこい 」


 純粋に応援したつもりだが、どうしてかヒカゲは暗い顔をした。

 でもよく分かんねぇし、時間も押している。

 

「おう!!! 」


 大声で誤魔化し、観覧室から飛びだす。

 その勢いのまま走っていると、変な違和感を感じた。


(人がいねぇ? )


 誰ともすれ違わない。

 偶然だろうと思っていたが、薄暗い廊下についても人の気配がない。

 いや……ベンチに誰かが座っている。


「リューク……か? 」


 目を凝らしてみると、そこには寝息をたてるリュークがいた。


(んっ!!? )


 珍しいなとは思ったが、それよりも驚いたのはその腕に抱かれているものだ。

 リュークにガッチリと抱きしめられているのは……ハルトだ。


(ん〜どういう状況??? )


 色々と謎だしツッコミたいが、そんな時間はない。

 とりあえず会場に移動すると、急に司会者の大声が聞こえてきた。


「あーヤマト選手!! 呼んでも来ないから棄権かと思いましたよ!? 」


「えっ? あっ……すまん 」


 聞き逃したのか、司会者から名を呼ばれていたらしい。

 ……いや、こんな大声聞き逃すわけないよな。


「それでは気を取り直しましてー! 次の選手に参りましょう!! 」


 変な違和感に戸惑うが、試合はどんどん進んでいく。

 

(……雷? )


 悩んでいる中、遠くの方で雷の音が聞こえた。

 でも空は晴れているし、落雷特有の焦げ臭いもしていない。


「それは空より落ちてきた1つの奇跡。破壊とともに文明の炎を灯し、命の根絶とともに大地を肥やす慈壊(じかい)の雷!! 許しを乞おうと無駄なこと。彼女は気まぐれに世界を壊すのだから……『原初の雷(トニトルス・オリジン)』 ライガ・ヒカガミ選手です!! 」


 司会の前フリとともに、金髪の女が会場へと入ってくる。

 瞬間、辺りには雷が落ち、たじろぐ程の殺意が広がった。


「先程ぶりですね、ヤマト 」


「……お前、やっぱめちゃくちゃ強いだろ? 」


「いえいえ、魔術に恵まれてるだけですよ 」


「はは 」


 ライガは左胸に手を当て、謙虚そうに微笑む。

 けどこっちとしては、この圧に苦笑いしかできない。


「それでは試合……開始です!! 」


 向かい合った状態で死合いが始まった。

 瞬間、紫電が視界を覆う。


「っう!? 」


 首を傾けてギリギリ致命傷は避けたが……頬は焼けた。


 痛くてたまらない。

 肉が焼ける臭いがする。

 ……楽しいなぁ!!


「殺す!! 」


 焼けた頬をつり上げ、両腕に赤いヒビを走らせる。

 1度の跳躍で距離を詰め、腹に向けて蹴りを打ち込む。

 が、ライガは足1本で蹴りを受け止めていた。


(すっげ! )


 回転しながらの蹴りで顔面を狙う。

 だがライガの体から雷が弾け、全身の筋肉がそり返る。


「っうう!!! 」


 感電のせいで動きが鈍り、とっさに下がろうとする。

 だが逃げられず、ライガの鈍い蹴りがみぞおちに突き刺さった。


「っぶ!? 」


 それだけでは終わらず、足先から放たれた紫電が腹を貫通。

 その衝撃のまま吹き飛ばされるが、とっさに力を入れて踏みとどまる。

 瞬間、本能が死を叫んだ。


「っう!? 」


 瞬きほどの閃光。

 全力で横に逃げると、空からは雷が落ちてきた。


 ギリギリ躱せた。

 だが炭化した地面は……そこに居れば死んでいたと物語っている。

 ……ははっ、こえ。


「すげぇなそれ、範囲どうなってんだよ 」


「空があればどこにでも落とせますよ。落とす数には制限がありますがね 」


「にしてもだろ…… 」


「それで……勝てる見込みはありますか? 無いなら降参をオススメしますけど 」


 魔術の格差にため息を吐いていると、ライガはまたも左胸に手を当て、優しげにそう提案してくる。

 だが……


「はっきり言ってねぇ! 近接は電撃くらうし! 遠距離はできねぇ!! でも……ここでやめたら殺し合いじゃねぇだろ? 」


 腹の穴を再生させ、口からこぼれる黒い血を拭う。

 するとライガは口を指先で隠し、不敵な笑みを浮かべた。


「ふふ、あなたならそう言うと思いましたよ。なら、死ぬまで踊りましょう? 」


「あぁ、エスコートしてやるよ 」


「よっ、楽しそうだな 」


「「……はっ? 」」


 あまりの困惑に、腑抜けた声がもれた。

 なんで試合中なのに……ヒカゲが死合い場の上にいる?


「ヒカゲ様? 何をして」


「おいヒカゲ!? なんでここに」


 試合中なのも忘れ、2人で声をかける。

 けれどヒカゲは何も喋らず、その周りに5本の黒槍が現れる。


(……? )


 むせるような火薬の臭い。

 その香りが辺りに立ち込めた瞬間、右腕と両足の感覚が消えた。


「っうう!!? 」


 地面に転がる自分の手足。

 宙を舞う、ライガの両腕。

 そして……血上で笑うヒカゲ。

 目は開いているはずなのに……何が起こってるのか何もわからない。


「あー、あー。よし聞こえてんな 」


 そんな困惑に追い討ちをかけるように、ヒカゲの手には拡音魔具が握られていた。

 司会者の……腕ごと。

 しかもその司会者は……心臓を貫かれて倒れている。


「ケルパー王国の民ならしってるだろうが……まぁバカが多いからな。一応、自己紹介。俺はヒカゲ・ルミル。『王下隷者(おうかれいしゃ)』の研究員で、今から人類の敵になるものだ 」


(……なにいって)


「けどまぁ、一応学者だからな。理論だけでなく、今から行動で証明しようと思う。まぁバカにも分かりやすくいうと、この会場にいる人間を皆殺しにするってことだ 」


 脳内が不具合を起こしたのか、頭が真っ白だ。

 会場もまた、無言に包まれている。

 けれどヒカゲが指を鳴らした瞬間、背後から爆音が響いた。


(っ!? 今度はなん)


 振り返ると……そこには巨大な花があった。

 白い白い……人の腕骨で型取られた異形の花。

 その中央からは黒い花粉が広がり、人を白い樹木へと変えていく。


(遺産……なんで!? )


 更に爆音が響く。

 崩れた会場の下からは……泥でできた無数の胎児が現れた。

 その反対側には……人の目が埋め込まれた、8本の龍の尾が現れた。


「ごぼっ 」


 微かに聞こえた、溺れるような声。

 その場所には……口が白枝で塞がれたライガがいた。


「ライ」


 手を伸ばす。

 だが間に合わない。


 瞬く間に白枝はライガの体を呑むと、その枝は樹木となり空へと根付いた。

 広がる枝には綺麗な金色の花と……人の首吊り死体がぶら下がり、空を覆うような雷の雨が降り注ぐ。


(ゲシュペンストの……解放? )


「あ」 「ぶっ!? 」「たすけ」「なんで!!?」「ぎゃ!?」「足……が」「魔術が効かなっ」「腕、どこ、助け」「見えないの!! 誰か!? 」


「さーてと、卑しい同族(にんげん)ども。ちょっと俺の自殺に付き合えや 」


 人が死にゆく中で、ヒカゲはゆっくりと口角をあげた。

 

 




 

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― 新着の感想 ―
[良い点] それぞれチート級の能力だけど子死唄ヤバすぎる。 おぞましい!ダークな発想力が無茶苦茶すげぇです!
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