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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
臥薪嘗胆編
18/73

第18節 醜さ



 勇者は殺せと命じられました。

 覇王はお腹がすいていました。

 そんな些細な理由で……彼らは殺し合いました。


 走るだけで一国が滅び、四肢と剣がぶつかり合うだけでたくさんの命が終わりました。


 雑草をかるように。

 虫をふむように。

 悲しむ間も、悲鳴をあげる間もなく、人が腐るほど死にました。


 そして10度の夜が訪れると、2人は疲れて眠りにつきました。

 ただその夜は……2人にとって大事なものでした。


 その日はとても寒いものでした。

 寒さで目を覚ました覇王は、近くにある壊れない命に抱きついたのです。

 すると2人は……静かに涙を流しました。


 生きるために命を奪う覇王。

 彼女は壊れない温もりを手に入れました。


 利用されなければ価値のない勇者。

 彼はただの愛を手に入れました。


 朝には程遠い夜の端。

 2人は心を手に入れたのです。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……んっ? 」


「あっ、おはようございますハルトさん 」


「……だれ? 」


「えっと、ユウトです 」


 読んでいた本を閉じ、寝ていたハルトさんに頭をさげる。

 固いベンチから起きたハルトさんは眠たそうに目をこすると、紫色の綺麗な瞳を向けてきた。


「なんか……ようじか? 」


「えぇ、少しお願いがあって待たせて頂きました 」


「おねがい? 」


「はい。今の試合が終わったら僕とハルトさんの戦いなんですけど、その試合……棄権して貰えませんか? 」


 頭をさげて頼んでみるけど、不思議そうな目をしてあくびを漏らした。


「なんで? 」


「えっと…… 」


 そう聞かれるのは当然なはずなのに、言い訳をなにも考えていなかった。

 ……どうしようほんと。


「えっとぉ……えと……あっ、人を殺すのがそんなに楽しくなかったからです 」


 ふと漏れてしまった本音。

 でも言ってしまった言葉はもうごまかせない。


「楽しくないのか? 」


「……はい。人間なんか死んじまえって思ってるのに、殺しても楽しくないですし……逆に気分が悪いんですよね 」


「……? 調整されてるからじゃないのか? 」


(ほんとこの人……遠慮ないなぁ )


 普通なら聞きづらい事をグイグイ聞いてくるハルトさん。

 そんな姿に内心でため息を吐きながらも、とりあえずさっきの答えを聞いてみる。


「それはいいとして……棄権、してくれます? 」


「断る、3位に入れたら金もらえるから 」


「お金? 誰から貰うんです? 」


「ヤマト 」


「あ〜 」


 一瞬、大会の景品が追加されたかと思った。

 けどヤマトさんの名を聞くと二つの意味で納得してしまった。

 確かにヤマトさん……戦わないと死んじゃうもんね。


「じゃあこうしましょう。僕がお金あげますので、棄権してください 」


「やだ、お前と戦ってみたくなった 」


「……へ? ハルトさんも戦い好きなんですか? 」


「別に。でも戦い慣れはしたい、殺し合いになった時のために 」


(……どんな生活、送ってきたんだろ? )


 殺し合いに備えたいなんていう人、今まで見たことはない。

 でもまぁ……本人がそういうなら無理強いはできなぁ。


「分かりました。なら、なるべく楽に殺しますね 」


「そういえば聞きたいことあった 」


 さっさと()()の準備に移ろうとした中、ハルトさんから袖を引っ張られた。


「はい? 」


「サクラとワミヤとライガってさ、お前とおなじ貴族か? 」


「えっと……そうですね 」


(カイナ)(カブリ)(ヒカガミ)(セキリョウ)。なんで貴族全員に……体の名称が入ってるんだ? 」


「っ……よく気付きますね、ほんと 」

 

 気付いて欲しくないことを的確に言い当てられた。

 けれどハルトさんが、ここで話を止めてくれないのは知っている。

 だったらもう……ぜんぶ話した方が質問を避けられるはずだ。


「……貴族という言葉は、覇王復活のために必要なもの達を示す言葉です。まぁ単純にいえば生贄たちですね 」


「……? 最近よく聞くけど、覇王ってなんだ? 」


「あー……じゃあこの本よんでください、僕が説明するよりわかりやすいですから 」


 本当に時間が足りないから、なんども買える本をハルトさんに渡す。


「じゃあ、失礼しますね!! 」


「まだ聞きたいことが」


 後ろからの声に聞こえないふりをして、大急ぎで廊下を走る。

 サクラさんの試合が終わる前に……はやくヒカゲさんと合流しないと。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(また……ねむくなってきた )


 眠い目をこする。

 でも目が覚めない。


 誰かの体を探す。

 目が覚めない。

 霧が頭をおおう。

 めがさめない。


 さむい。

 めがさめない。


「ほん……よむか 」


 まとまらない頭をふるう。

 覇王についてしりたい。

 もらったほんをひらく。

 ねむい。



          〜〜〜


        

 目がさめた勇者は1人、ドラゴンを殺して肉をもってきました。

 けれど目がさめた覇王は口をとがらせました。


「私たべれない 」


 覇王はだれかの死を糧に生きていました。

 肉ではありません。

 生きてるものが死んだという事実だけが、覇王のたべものでした。

 それが彼女が人をころし、人のぬくもりに触れられない理由でした。


「じゃあ……狩るか? 」


 勇者は提案します。

 覇王はそれにうなずくと、彼らは命を狩るたびをつづけました。


 最初に龍をぜつめつさせました。

 覇王は喜びました。


 次に世界樹をねだやしにしました。

 覇王は喜びました。


 次に海をおわらせました。

 勇者は泣きだしてしまいました。


「どうしたの? 」


 肩をさすられる勇者は……彼女にだきつきました。

 ただなにも言わず、ただ泣きつづけました。


 勇者はうれしかったのです。

 産まれたときは誰かのぬくもりがあったのに、剣をもってからのぬくもりは返り血だけでした。

 

 だからただ……じぶんをバケモノとよばず、傍にいてくれる彼女が暖かったのです。


 その涙のぬくもりは覇王にもつたわり、2人は泣きつづけました。


 泣きやみました。

 滅ぼしました。

 2人で泣きました。

 2人でなぐさめました。

 滅ぼしました。

 寂しい夜は2人でだきあいました。

 寒い日も2人でだきあいました。

 滅ぼしました。

 泣きました。

 2人でだきあいました。



 勇者と覇王が産まれて21度目の春。

 彼は温もりの中でしあわせでした。

 彼女は満腹の中でしあわせでした。

 けれど人は……幸せではありませんでした。


 海がなくなり困りました。

 朝がなくなり困りました。

 龍がなくなり困りました。

 人の思い通りにならない勇者は……不快でした。

 人のためにならない勇者は……必要ありませんでした。


 けれど困りました。

 人は勇者を倒せません。

 覇王もいます。

 倒せません、殺せません。

 その不満は、人々を1つにしました。


 人々は滅んだ死骸をつかい、命をつくりました。

 それはか弱く、勇者にはほどとおく、神秘にまみれていました。


 それを彼らは愛しました。

 あたたかい食事をとらせました。

 目をくりぬき、殺し合わせました。


 つくりもの同士で愛しあわせました。

 壊しました。

 つくりもの同士で子を産ませました。

 壊しました。


 たくさん失敗しました。

 たくさん命がなくなりました。

 けれど困ることはありません。

 だって死骸はたくさんあります。

 だってつくりものが壊れても誰も気にしません。


 たくさんの骸の果て。

 それは産まれました。


 それは人を殺しました。

 それは命を終わらせました。

 それは平和を終わらせました。

 それは……覇王を殺しました。


 勇者は剣をもちました。

 勇者は走りました。

 勇者は……それに剣をふるいました。


 天はわれました。

 大陸はくずれました。

 宇宙には怒号がひびきました。

 地下には血がたまりました。


 勇者は助けてとのばされる手を落としました。

 子供のような目をつぶしました。

 それの血を飲みほしました。

 それの姿がなくなるまで殺しつづけました。


 勇者のおかげで……それは死にました。

 ボロボロな勇者は……人に殺されました。


 厄災とも言えるその日は、とても平和な日になったのです。

 だって2人の死体が……人の手にわたったからです。


 実験しました、実験しました、実験しました、実験しました。

 たくさん死にました、たくさん泣きました、たくさんの悲鳴があがりました。

 けれどつくりものは犠牲になっても構いません。


 実験がつづくある日、1人のあくにんがあらわれました。

 彼女は勇者のタマシイをたくさんの人に与えました。

 すると人には、勇者とおなじ赤色のヒビがはしりました。


 実験がつづくある日、1人のぜんにんがあらわれました。

 彼は覇王のにくを一部の人に与えました。

 すると人は、覇王とおなじ力をつかえるようになりました。


 人は勇者のかごを魔法とよびました。

 人は覇王ののろいを魔術とよびました。

 よろこびました、よろこびました、よろこびました。

 けれど……覇王のにくがもう無くなりました。


 困った彼らはかんがえました。

 また覇王にあらわれてほしいと。

 だから覇王のぼうれいをつくりました。

 それはゲシュペンストとよばれました。


 たくさん失敗しましょう。

 たくさんつくって殺しましょう。

 その断末魔がいつか……覇王の断末魔となるように。

 つくりものを壊してねがいましょう。

 

 

 

 



 

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりエマさんの設定の作りこみすごいわ。。 本当の神話やおとぎ話みたいな。 覇王のつくりものだから亡霊なんですね。 あー。かっこいい。
[一言]  不気味な内容の本ですね……。ただ、この記述が今後のお話で絶対に必要になってくる、ということだけはわかります。  ヒトに利用された、ヒトを殺すことでしか勝てを得られない存在がそれ故に結びつき…
2021/12/11 20:33 退会済み
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