第18節 醜さ
勇者は殺せと命じられました。
覇王はお腹がすいていました。
そんな些細な理由で……彼らは殺し合いました。
走るだけで一国が滅び、四肢と剣がぶつかり合うだけでたくさんの命が終わりました。
雑草をかるように。
虫をふむように。
悲しむ間も、悲鳴をあげる間もなく、人が腐るほど死にました。
そして10度の夜が訪れると、2人は疲れて眠りにつきました。
ただその夜は……2人にとって大事なものでした。
その日はとても寒いものでした。
寒さで目を覚ました覇王は、近くにある壊れない命に抱きついたのです。
すると2人は……静かに涙を流しました。
生きるために命を奪う覇王。
彼女は壊れない温もりを手に入れました。
利用されなければ価値のない勇者。
彼はただの愛を手に入れました。
朝には程遠い夜の端。
2人は心を手に入れたのです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……んっ? 」
「あっ、おはようございますハルトさん 」
「……だれ? 」
「えっと、ユウトです 」
読んでいた本を閉じ、寝ていたハルトさんに頭をさげる。
固いベンチから起きたハルトさんは眠たそうに目をこすると、紫色の綺麗な瞳を向けてきた。
「なんか……ようじか? 」
「えぇ、少しお願いがあって待たせて頂きました 」
「おねがい? 」
「はい。今の試合が終わったら僕とハルトさんの戦いなんですけど、その試合……棄権して貰えませんか? 」
頭をさげて頼んでみるけど、不思議そうな目をしてあくびを漏らした。
「なんで? 」
「えっと…… 」
そう聞かれるのは当然なはずなのに、言い訳をなにも考えていなかった。
……どうしようほんと。
「えっとぉ……えと……あっ、人を殺すのがそんなに楽しくなかったからです 」
ふと漏れてしまった本音。
でも言ってしまった言葉はもうごまかせない。
「楽しくないのか? 」
「……はい。人間なんか死んじまえって思ってるのに、殺しても楽しくないですし……逆に気分が悪いんですよね 」
「……? 調整されてるからじゃないのか? 」
(ほんとこの人……遠慮ないなぁ )
普通なら聞きづらい事をグイグイ聞いてくるハルトさん。
そんな姿に内心でため息を吐きながらも、とりあえずさっきの答えを聞いてみる。
「それはいいとして……棄権、してくれます? 」
「断る、3位に入れたら金もらえるから 」
「お金? 誰から貰うんです? 」
「ヤマト 」
「あ〜 」
一瞬、大会の景品が追加されたかと思った。
けどヤマトさんの名を聞くと二つの意味で納得してしまった。
確かにヤマトさん……戦わないと死んじゃうもんね。
「じゃあこうしましょう。僕がお金あげますので、棄権してください 」
「やだ、お前と戦ってみたくなった 」
「……へ? ハルトさんも戦い好きなんですか? 」
「別に。でも戦い慣れはしたい、殺し合いになった時のために 」
(……どんな生活、送ってきたんだろ? )
殺し合いに備えたいなんていう人、今まで見たことはない。
でもまぁ……本人がそういうなら無理強いはできなぁ。
「分かりました。なら、なるべく楽に殺しますね 」
「そういえば聞きたいことあった 」
さっさと作戦の準備に移ろうとした中、ハルトさんから袖を引っ張られた。
「はい? 」
「サクラとワミヤとライガってさ、お前とおなじ貴族か? 」
「えっと……そうですね 」
「腕。頭。足。背。なんで貴族全員に……体の名称が入ってるんだ? 」
「っ……よく気付きますね、ほんと 」
気付いて欲しくないことを的確に言い当てられた。
けれどハルトさんが、ここで話を止めてくれないのは知っている。
だったらもう……ぜんぶ話した方が質問を避けられるはずだ。
「……貴族という言葉は、覇王復活のために必要なもの達を示す言葉です。まぁ単純にいえば生贄たちですね 」
「……? 最近よく聞くけど、覇王ってなんだ? 」
「あー……じゃあこの本よんでください、僕が説明するよりわかりやすいですから 」
本当に時間が足りないから、なんども買える本をハルトさんに渡す。
「じゃあ、失礼しますね!! 」
「まだ聞きたいことが」
後ろからの声に聞こえないふりをして、大急ぎで廊下を走る。
サクラさんの試合が終わる前に……はやくヒカゲさんと合流しないと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(また……ねむくなってきた )
眠い目をこする。
でも目が覚めない。
誰かの体を探す。
目が覚めない。
霧が頭をおおう。
めがさめない。
さむい。
めがさめない。
「ほん……よむか 」
まとまらない頭をふるう。
覇王についてしりたい。
もらったほんをひらく。
ねむい。
〜〜〜
目がさめた勇者は1人、ドラゴンを殺して肉をもってきました。
けれど目がさめた覇王は口をとがらせました。
「私たべれない 」
覇王はだれかの死を糧に生きていました。
肉ではありません。
生きてるものが死んだという事実だけが、覇王のたべものでした。
それが彼女が人をころし、人のぬくもりに触れられない理由でした。
「じゃあ……狩るか? 」
勇者は提案します。
覇王はそれにうなずくと、彼らは命を狩るたびをつづけました。
最初に龍をぜつめつさせました。
覇王は喜びました。
次に世界樹をねだやしにしました。
覇王は喜びました。
次に海をおわらせました。
勇者は泣きだしてしまいました。
「どうしたの? 」
肩をさすられる勇者は……彼女にだきつきました。
ただなにも言わず、ただ泣きつづけました。
勇者はうれしかったのです。
産まれたときは誰かのぬくもりがあったのに、剣をもってからのぬくもりは返り血だけでした。
だからただ……じぶんをバケモノとよばず、傍にいてくれる彼女が暖かったのです。
その涙のぬくもりは覇王にもつたわり、2人は泣きつづけました。
泣きやみました。
滅ぼしました。
2人で泣きました。
2人でなぐさめました。
滅ぼしました。
寂しい夜は2人でだきあいました。
寒い日も2人でだきあいました。
滅ぼしました。
泣きました。
2人でだきあいました。
勇者と覇王が産まれて21度目の春。
彼は温もりの中でしあわせでした。
彼女は満腹の中でしあわせでした。
けれど人は……幸せではありませんでした。
海がなくなり困りました。
朝がなくなり困りました。
龍がなくなり困りました。
人の思い通りにならない勇者は……不快でした。
人のためにならない勇者は……必要ありませんでした。
けれど困りました。
人は勇者を倒せません。
覇王もいます。
倒せません、殺せません。
その不満は、人々を1つにしました。
人々は滅んだ死骸をつかい、命をつくりました。
それはか弱く、勇者にはほどとおく、神秘にまみれていました。
それを彼らは愛しました。
あたたかい食事をとらせました。
目をくりぬき、殺し合わせました。
つくりもの同士で愛しあわせました。
壊しました。
つくりもの同士で子を産ませました。
壊しました。
たくさん失敗しました。
たくさん命がなくなりました。
けれど困ることはありません。
だって死骸はたくさんあります。
だってつくりものが壊れても誰も気にしません。
たくさんの骸の果て。
それは産まれました。
それは人を殺しました。
それは命を終わらせました。
それは平和を終わらせました。
それは……覇王を殺しました。
勇者は剣をもちました。
勇者は走りました。
勇者は……それに剣をふるいました。
天はわれました。
大陸はくずれました。
宇宙には怒号がひびきました。
地下には血がたまりました。
勇者は助けてとのばされる手を落としました。
子供のような目をつぶしました。
それの血を飲みほしました。
それの姿がなくなるまで殺しつづけました。
勇者のおかげで……それは死にました。
ボロボロな勇者は……人に殺されました。
厄災とも言えるその日は、とても平和な日になったのです。
だって2人の死体が……人の手にわたったからです。
実験しました、実験しました、実験しました、実験しました。
たくさん死にました、たくさん泣きました、たくさんの悲鳴があがりました。
けれどつくりものは犠牲になっても構いません。
実験がつづくある日、1人のあくにんがあらわれました。
彼女は勇者のタマシイをたくさんの人に与えました。
すると人には、勇者とおなじ赤色のヒビがはしりました。
実験がつづくある日、1人のぜんにんがあらわれました。
彼は覇王のにくを一部の人に与えました。
すると人は、覇王とおなじ力をつかえるようになりました。
人は勇者のかごを魔法とよびました。
人は覇王ののろいを魔術とよびました。
よろこびました、よろこびました、よろこびました。
けれど……覇王のにくがもう無くなりました。
困った彼らはかんがえました。
また覇王にあらわれてほしいと。
だから覇王のぼうれいをつくりました。
それはゲシュペンストとよばれました。
たくさん失敗しましょう。
たくさんつくって殺しましょう。
その断末魔がいつか……覇王の断末魔となるように。
つくりものを壊してねがいましょう。




