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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
臥薪嘗胆編
17/73

第17節 哀れな傀儡



「…………んっ 」


 目が覚めた。

 気がつけば寮のベットの上、今日は試合2日目だ。


(いい……天気だな )


 寝ぼけた(まなこ)でも分かるほど、窓からは綺麗な朝日が差している。

 こんな心地がいい日は……二度寝でもしたい気分だ。


「おらぁ!!! ハルトはいるかぁぁ!!!? 」


 なんか来た。


「私は『サクラ・カブリ』!! 今日の試合でお前を倒す者!!! 」


「うるさい帰れ眠い 」


「無視するなぁァァ!!! 」


 寝起きの頭に響く声は不快でしかなく、シーツを被って耳を塞ぐ。

 けれど誰からシーツを剥ぎ取られ、うるさい声とともに赤髪のしらん女が近づいてくる。


「私はお前を倒す! 」


「それさっき聞いた 」


「ん〜? うるせぇと思ったら客人か? 」


 うるさい声で目が覚めたのか、変な臭いのやつが2段ベットの上から顔を覗かせた。

 白髪と眠そうな赤目……ヤマトか?

 

「客人じゃない! 宣戦布告!! 」


「あー、どうりで扉が蹴破られてる訳だ 」


「宣戦布告もいいけどノックしろ。危うく撃つ所だったぞ? 」


 今度は向かい側の2段ベットの上から、青白い髪をした男が顔を下ろしてきた。

 硝煙の臭いと抜かれた銃みたいな魔具……多分ヒカゲ?


「んぅ? なんでこんなにうるさ……サクラさん!!? 」


「あっ、ユウト〜 」


 臭いと消去法で人間を区別している中、今度は襟足だけを伸ばしたおん……男が起きた。

 すると女のサクラ色の目がゆるみ、さっきの大声が嘘のような甘い声を漏らした。

 

「いやあの……何しに来たんですか? ここ男子部屋ですよ? 」


「ハルトに宣戦布告しに来たの! 」


「つかよぉ、なんでそんな目の敵にしてんだ? ハルトなんかしたか? 」


「あー……サクラさんってアルベさんの大ファンなんです。それで多分、入学初日のことで 」


「そう! 私よりハルトのが注目されてたの!! だからお前を倒して私が……て寝るなァァァ!!! 」


 興味が無さすぎてもう一度寝ようとするが、またシーツを剥がされ大声をぶつけられる。

 敵意がないからどうでもいいが、ここまでうるさいと首を切りたい気分だ。


「つかサクラ。次の対戦相手、ハルトじゃねぇぞ? 」


「へ? 」


 ヒカゲの声が聞こえると、サクラは腑抜けた声を漏らして向かいのベットへ詰め寄った。

 そのせいで、ナイフをもった右手のやり場に困ってしまう。


「でも対戦相手はハルトって 」


「エリカのせいで対戦表が変わったんだよ。お前は同郷の『ワミヤ・セキリョウ』と。ヤマトは『ライガ・ヒカガミ』。んで俺は『フユタシ・リンナ』っつう人間と。ハルトの対戦相手は…………ユウトだ 」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あー美味かったァ!! 」


 100本目の串をゴミ箱に放り、口周りのタレを指で拭ってそれも舐め取る。


 あれからサクラが帰ると、各自準備に移った。

 ヒカゲとユウトは魔具の調整を。

 ハルトは目を離したらどこかに消えていた。


「ごっそうさん! 」


 1人寂しい朝食は済ませ、心臓と体に意識を向けてみる。


 体温は45くらい……

 活動に必要なエネルギーも足りている。

 ……これなら今日も問題なく殺し合えるな。


「ヤマト・フォルテンジエ……であってますか? 」


 気分よく試合場に向かおうとした瞬間、背後から自分の名を呼ばれた。


「誰だお前? 」


「これは失敬。私は『ライガ・ヒカガミ』、あなたの対戦相手です 」


 振り向いてみると、そこには品のある雰囲気をだす金髪の女が居た。

 丁寧に着込んだ白い服と、襟足だけを伸ばす髪型……それはユウトを酷く連想させた。


「お前、ケルパー王国の貴族か? 」


「えぇ、よくご存知で 」


「ルームメイトで似たような奴いるからなぁ 」


「ユウト……ですか 」


 ユウト。

 その名が出た瞬間、俺を見る紫色の目から光が消えた。

 ……なんかめんどくさい空気だな。


「んで、なんか用事か? 」


「あぁえっと……少し聞きたい事があるのです。昨日の……ユウト達がゲシュペンストの解放を狙っているという話について 」


(うぇぇ )


 案の定めんどくさい話題を出されたが、無視すると更にめんどくさくなりそうだ。

 大人しく話すしかない……か。


「何を聞きたいんだ? 俺も昨日が初耳だし、情報くれって言われても困るからな 」


「いえ、あなたが協力者でないことは知っています。仮にそんな計画をねっていたとして、ヒカゲが情報を漏らすヘマはしないはずですから 」


「じゃあ何を聞きたいんだ? 」


「あなたは……人とゲシュペンスト、どちらが滅ぶべきだと思っていますか? 」


 無視して逃げればよかった。

 そんな考えが頭をよぎるがもう遅いか。

 ……失格になったらガチでへこむなぁ。


「どうでもいい、そんな事 」


「どうでもいい? 私たちゲシュペンストは人間に利用されてるんですよ? それでもどうでもいいと? 」


「あぁ、心底どうでもいい。俺は殺しあって互いに笑い合えれば、ゲシュペンストだろうと人間だろうと関係ない 」


「っ……あなたは」


 話を終わらせるために後ろを振り向く。

 すると案の定、ライガはこちらに詰め寄ってきた。


 足音が間合いに入る。

 瞬間、振り向きざまにライガの左手を蹴り飛ばす。


「なっ」


 左手に握られた注射器が割れ、蹴りの衝撃でライガの体がブレる。

 その隙に首を掴んで壁に打ち付けると、ようやく散らばったガラスが地に落ちた。


「がっ!!? 」


「転移魔具の応用か? おおかた抜いた血がケルパー王国に転移する感じだろうな 」


「なに……を……わたし……は」


「5秒後にお前を殺す、嫌ならライガを戻せよクソ人間 」


「っ…… 」


 軽い脅しで馬鹿が逃げたのか、苦しそうに歪む目には光が戻る。

 だが油断はできず、ガラスが散らばっていない方へライガを投げ飛ばす。


「ゲホッ……っ 」


「気分はどうだ? ライガ 」


「あー……えっと……とりあえず私です。すみません、ご迷惑をおかけして 」


「なんでお前が謝んだよ、悪いの馬鹿な人間だろ? 」


 吐きそうな顔で謝られた。

 そんな姿に哀れみと怒りが生まれ、つい人間の悪口が漏れてしまった。


(やべっ )


 だが焦った時にはもう遅く、ライガの瞳には怒りの炎が宿る。


「そんなこと……言わないでください。彼女らは頑張っていますし、私は彼女らの消耗品ですから 」


「……なんでお前は、人間を庇うんだ? 」


「私は……人間を愛していますから 」


 喉から絞り出したような声。

 それには熱がこもり、今にも俺を殺そうとする程の圧があった。

 でもその目からは涙が流れている。

 心と言動に不具合でも起こしたかのような、意味もない涙が。


「……そりゃ悪かったな 」


「…………えっ? なんで謝ってるんです? 」


 調整されてる以上、何を言っても無駄だ。

 そう思いながら謝罪したが、ライガは急に……目が覚めたように驚いた顔をした。

 

(……記憶も調整したのか )


 人類全てが悪だとは思わないし、ゲシュペンストを守る調整ってのは沢山ある。

 でもこれは流石にな……胸糞が悪すぎる。


「どうかしましたか? なんだか……怒ってるように見えますが 」


「……いや滾ってんだよ。お前の筋力、触ってみた感じ俺にも劣らねぇからな。戦ったら楽しそうだ 」


 とりあえず袖でライガの涙を拭い、肩を掴んでさっさと体を起こしてやる。


 目はまだ赤いが、優しく微笑む顔はさっきより全然キレイだ。

 俺が男だったんなら……惚れでもしてんのかな。


「えっと……お気遣い感謝します、ヤマト。どうかお互いに後味の残らない戦いをしましょう 」


「おう 」


「では……次会うときは試合場で 」


 ライガは左胸に手を当て、敬意を示すように頭を下げる。

 そんな態度にむず痒くなっていると、ライガはさっさと廊下の向こうへ行ってしまった。


「…………さて 」


 1人になった廊下で声をもらし、飛び散ったガラス片を拾い集める。


 大きいもの、小さなもの、血を抜くための空洞の針。

 それらを右手に集め、ゴミ箱に入れようとした瞬間、脳裏にさっきの言葉が思い浮かんだ。


『人間を愛していますから 』


 湧き上がった怒りのせいで右手が誤作動を起こし、ガラス片を握り潰してしまった。

 皮膚にくい込んだガラスは血管を裂き、溢れる粘性の黒い血は手のひらを包み込んでゆく。


「……くせ 」


 腐った血をガラス片ともどもゴミ箱に落とし、体の機能で治癒を促す。

 外傷はすぐに塞がる。

 でも胸のイラつきは全く治らず、様々なことが脳裏に思い浮かぶ。


 ゲシュペンストの解放……人のエゴでできた調整……勇者の黒き血……大好きな親……俺の


「んなこと考えなくていいだろ。結局……全部終わるんだ 」


 血の着いた右手で頭をおさえ、独り言をもらして感情を整理する。

 響く無音……それに耳をすませていると、次第に心は落ち着いてきた。


「あーあー、皆様おまたせしました!! 今日も偽りの死合いを始めましょう!! 」


「……てやべ! もう試合始まるじゃねぇか!! 」


 微かに聞こえた司会の声は、試合の始まりの合図だ。

 面白い戦いを見逃しくない。

 その一心で地面を蹴り、全力で移動しながら魔法の水を頭に被る。


「うし!! 」


 くせぇ血は落ち、風で水が乾く感触は苛立ちを忘れさせてくれる。

 そんな心地よさに浸りながらも更に地面を踏み込み、試合場へ急ぐ。


 楽しい楽しい殺し合いが……今日も始まる。

 


 






 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 操られるの!?なんという胸糞な設定! 全員発言がやばいですがエリカさん特に酷い……。色々口から出てくるのも……発想が斜め上を行き過ぎていて驚きの連発です!!やばい! [気になる点] ゲシ…
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