第16節 傀儡の自演
「おやおや、男しかいない部屋に連れ込んでどうするつもりかな?
「とぼけないでください、殺しますよ? 」
(はぁぁぁ、どうスっかなこの状況 )
一応止めたんだが、ユウトは俺の静止を振り払ってエリカを拉致ってきた。
しかも面倒なことに……観覧室の壁は拳で割られ、その壁にエリカが押し付けられている。
「とぼけるつもりはないよ? だって私はか弱い女だからねぇ 」
「あ? 」
「落ち着けユウト。こいつとは喋るだけ無駄だ 」
「おやおや? 秘密を暴露されたわりには冷静だねぇ、ヒカゲ 」
エリカは血紫色の瞳をこっちに向け、今度は俺を煽ってくる。
確かに……あれがバレれば反逆罪で即処刑だが、今の状況ならいくらでも誤魔化しは効く。
「あれで暴露とか笑わせんな。証拠も何もねぇし、今のままじゃゲシュペンストの誤作動で済ませられる 」
「耳の痛い話だねぇ。でもさ、君の身内はどうかな? 処刑はされなくても、君の情報を引き出そうと拷問くらいは受けると思うけど? 」
「『王下隷者』の奴らをか? 腰抜けとクズ共には荷が重すぎると思うぞ? 」
身内という言葉をだされ、一瞬心拍があがる。
だがここで動揺すれば、私は犯罪者ですと言っているようなものだ。
今は冷静に……エリカの向こう側にいる奴に挑発を返す。
「あぁそうだね。でも……ユウトはどうかな? 君はゲシュペンストなんだからさ、反逆者と思われるだけで危ないと思うよ? 」
「っ!! 」
「しかもねぇ、君の姉と妹はまだ国にいるだろう? いや……あれは大丈夫か。だってゲシュペンストでもないバケモノ」
トラウマに触れられたからか、ユウトはエリカを殺しに動く。
が、それは不都合だ。
すぐに魔具を装填し、ユウトの右拳に弾丸を放つ。
「っ!? ……なにするんですか? 」
「ん? そりゃあどっちも国にとって重要な遺産だ。そいつらが殺し合うのは不利益だろ? 」
「あ? 」
右拳に穴を開けたんだ。
ユウトから怒り狂った眼を向けられるのは当然と言っていい。
だがそのお陰で……ユウトとアイコンタクトがとれた。
(伝わってくれよ? )
しばらく互いを見つめ合うと、ユウトは奥歯を軋ませた。
一瞬焦ったが、ユウトは魔術で鏡をつくり、それを叩き割って転移してくれた。
……どうやら伝わったらしい。
ユウトには悪いが、これで証拠は掴まれない。
「で? さんざん煽ってたがお前はどうなんだよ? 会場の魔術で生きてるとはいえ、貴族たちにも危害をくわえたんだ。他人を気にする余裕はあるのか? 」
「いや無いねぇ。ここに居なきゃとっくに処理されてるさ 」
「んぅ? ……誰だお前ら? 」
不敵に笑うエリカと睨み合っている中、寝ぼけたような声が聞こえた。
なんか静かだなとは思ってたが、後ろのカーペットには眠たそうに目を擦るハルトがいた。
……マジで寝てたの? あの状況で?
「おはようハルト。私はエリカ、そっちはヒカゲだよ 」
「……そか。エリカに聞きたいことあった……聞いていいか? ……今忙しいか? 」
「全然構わないさ! 遠慮なく聞いてくれたまえ!! 」
めっちゃ眠たそうなハルトに対し、エリカは普段では想像もつかないほどの声を張っている。
……なんか面倒くさくなりそうだな。
(……帰りてぇ )
けれどこの2人を残すと、面倒事をおきるのは明らかだ。
ハルトのためにも、とりあえずは部屋の隅で2人を観察する。
「ゲシュペンストって……人の奴隷みたいなものだろ? だったら……それ相応の枷があるんじゃないか?」
(うわぁ…… )
「あぁ、勿論あるとも 」
無知に対してはなんとも思わないが、そんな事をゲシュペンスト本人に聞くハルトは正気とは思えない。
そんな思いとは裏腹に、エリカは嬉しそうに話を進めはじめる。
「私たちの頭には色んな魔具が埋め込まれててね、スイッチ1つで傀儡に成り代わる。言うなれば操られるってことさ。殺したくなくても操られれば殺してしまう。死にたくなくても、操られれば簡単に自害させられる。他にも私たちが見聞きしたものは全て国に流れていたりとか、色々さ 」
「……自由がないのか? 」
「人から見ればそうだろうね。でもゲシュペンストたちにとっては、それが当たり前だと調整されてる。だからいくら縛っても不満にはならないのさ 」
「ならよく分からない。なんでゲシュペンストを解放したら、人の世が終わるんだ? 」
狂人と狂人との会話は不快でしかなく、話を聞いてるだけで気が滅入る。
だが2人は俺を置いて、どんどん話を進めていく。
「うーん、そうだねぇ。君が思う解放って人の枷から解き放つって意味だろう? 」
「違うのか? 」
「違うよ。ヒカゲがやろうとしてるのは、ゲシュペンストを人の枠組みから解放するって意味さ。ほら、私たちは特別な遺産から素材だって言っただろう? 」
「あぁ 」
「それが人の枠として今の世に産まれ直したんだ。じゃあその生き物が、人の枠から外れればどうなると思う? 」
「……その遺産が生き返るってことか? 」
「その通り 」
「けど、それだけで人の世が終わるのか? 」
血のカーペットに目をやり、早く終わってくれと願う。
けれど2人の会話は止まらない。
「そっか、君は魔術の法則を知らないんだね 」
「しらん 」
「魔術っていうのは、人以外には効きにくいものでね。木とか獣とかになれば、魔術よりも魔具や刃を使った方が効率がいいんだ。そしてもう1つ……重大な問題がある 」
「それは? 」
「『天陸空下』の中にもゲシュペンストは沢山いる。だからもしヒカゲの計画が達成されれば……魔術が効かないバケモノたちが、人を殺す魔術で暴れ回るんだ。そうなれば止めようは無い、全ては終わりさ 」
証拠がない以上、言わせておけとしか思えない。
けれど……本当のことを言われ続ければ頭が痛い。
「……じゃあ結局なにがしたいんだ? 全員仲良く心中するつもりなのか? 」
「いや……ヒカゲにはもう1つ計画あるのさ 」
(はっ? )
エリカが言ってることは正しい。
もう1つ計画はあるし、むしろそれが本命と言っていい。
だが……なぜお前がそれを知ってる?
あれを知ってるのは……ユカリだけだ。
「……どういうことだ? 」
「おやおや〜? 君にしては脳みそが鈍ってるねぇ、じゃあ答え合わせといこう 」
俺の反応を楽しむようにエリカは笑った。
瞬間、血紫色の瞳が視界を覆い、いつの間にか……吐息すらも感じるほどに顔を近づけられていた。
「あんな装置、脳と神経ごと取り出したよ 」
「はっ? なら目と耳が見えて……そのための殺害か 」
「せいかーい。ちょっと神経を他人から拝借してね、脳はまぁ……色々と誤魔化した 」
狂気としか言いようのない解放。
それはおぞましくもあり、頬が吊り上がるほどの発見だ。
そんなこと誰も試したことはない。
記憶の持ち越しに難題はあるだろうが、それさえ解決すればゲシュペンストの解放をもっと簡単にできる。
「つかおめぇ、だったらあの暴露はなんだよ。傀儡にされて、俺たちを嵌めようとしてると思ってたんだが? 」
「あれは単に暴露したのさ。君もユウトも、私は嫌いだからね〜 」
「……だろうよ 」
今までの謎を全て解決し、納得という感覚が胸を軽くした。
するとエリカは俺から顔を離し、ハルトに手を振ってから部屋の出口へと向かう。
「そうそう 」
けれど扉に手をかけた瞬間、エリカの足が止まり、不敵な笑みがこちらに振り返った。
「私が殺した貴族はね、ユウトの心臓と君の脳を狙って部屋に色々仕掛けていたよ。まぁ、それを自室に仕掛け返してやったがね 」
謎が解決したと思ったら、また新たな謎が生まれた。
だってその行動は……どう考えても、俺たちを守ったようにしか思えない。
「お前は一体……何が目的だよ 」
「目的なんてないよ。どんな命も平等……どれもが虐げ、どれもが踏み消される。そんな心情に従って生きてるだけさ。でも知り合いにはすこ〜し甘くて、1人の男に……メロメロなだけさ 」




