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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
臥薪嘗胆編
15/73

第15節 白痴の胎児



「ふふふんふ〜ん 」


 試合場へ向かう途中、柄にもなく鼻歌を口ずさんでしまう。

 正常に動く心臓は心地よく、欲求不満が治まった体は人間そのもの。

 本当に……あの子を半殺しにして良かった。


「よぉエリカ 」


 正常という心地よさに浸っている中、背後から声が聞こえた。

 その声の主はリューク。

 リューク・リンネのもの。


(ふふっ、楽しくなりそうだ )


 笑みを浮かべ、ゆっくり振り返る。

 背後に立つリュークは歯を見せて笑っていたが、その青い瞳は見開かれ、殺意を隠す気などさらさらない。


「おやおや、はじめましてリューク・リンネさん。偉大なるあなたにあえて光栄ですよ〜 」


「んな事はどうでもいい。お前……ハルトに何をした? 」


「……おやぁ? 見てなかったのかい? とりあえず半殺しに」


 まだ煽ってる途中にも関わらず、お腹には蹴りが打ち込まれた。

 背骨が砕ける……すると1秒も経たず壁に打ち付けられ、せっかく動いていた心肺が停止した。


「あのさぁ、沸点が低過ぎやしないかい? まだ煽ってる途中だよ? それに私がしたことは、君たちがやってるのと同じことだよ? 彼から殺されることはあっても、君たちから殺される道理はないはずなんだけどねぇ? 」


 めり込んだ壁から抜け出すと気づく。

 体の色んなものが消えていることに……


 そのせいでとても不快だ。

 不快すぎて楽しくなってきちゃう。


「黙れ…… 」


「それで守っているつもりなのかい? 君がやってるのはただの自作自演さ。自分で苦しめて自分で助ける、そんなはた迷惑なことに彼を巻き込んでいるんだよ? 」


「黙れよ 」


「いーや黙らないよ、リューク・リンネ。いや……君はこっちの名の方がいいのかな? ねぇ、は」


 まーた喋ってる途中なのに拳が眉間へ到達し、そのまま頭を潰された。

 そのせいで体の機能が停止する。

 でも……頬はつり上がってしまう。


「怒るのは当然だけど不用心じゃないかい? 私に……こんなに近付くなんてさ 」


 神経の通わぬ両手でリュークの腕を掴む。

 もう縁は結んだ、このままこっちに


「お前は……その手でハルトに触ったんだな 」


 怒りに呑まれていたと思っていたのに、リュークは理性的な声を漏らした。

 すると私の両手は崩壊をはじめ、瞬時に両肩までもが白い砂と変わり果てる。

 ……このままだと消えちゃうねぇ。


(じゃあ、道連れと行こうか )


 死ぬならリュークも殺そう。

 そんなことを考えた瞬間、ゼンマイの音が聞こえた。

 

「んっ? 」


 潰れた視界は開け、止まっていた心肺は活動を始める。

 壊れた壁も無ければリュークの姿もない。

 まるでさっきのことが……無かったかのような状況だ。


「……はぁ、邪魔しないでくれないかい? せっかくリュークを殺そうとしたのにさ 」


 こんなことできるのはあのクソ女だけしかいない。

 そう思うと不快感がこめかみを疼かせ、柄にもなく悪態を吐き捨ててしまう。


「……リュークが死ぬと……困るの 」


 ふと現れた雌の声とともに、明るい廊下を影が呑んだ。

 光が消えた視界、その中で1つ……人型の闇が現れる。


 その姿は気持ち悪く頭の中の気持ち悪さがきわだって、みていると喉に込み上げる気持ち悪さが気持ち悪い。


「……魔術を使うのやめてくれないかな? 脳が不具合を起こして不愉快だ 」


「ごめん……言いたいことが終わったら……帰るから…… 」


「じゃあさっさと済ませてくれたまえ。君のせいでいい気分が台無しだよ 」


 脳の機能を止めて不具合を緩和し、動かない眼球で闇を見上げる。

 すると何かを準備するように闇は揺らぎ、今にも消えそうな声が闇に響いた。


「あの子を……ハルトを……殺さないで 」


「……それはどっちの意味でかな? 目的のために死なせたくないのかい? それとも…………はぁ、分かりきったことか。分かったよ、君には恩があるからね 」


 不快でしかないけど、こいつの考えはよく知っている。

 だってこいつは……ただ守りたくて、ハルトをこの学園に招いたんだから。


「ありがとう……ごめん……そろそろ……見つかる 」


「だろうね、それじゃあ消え失せてくれたまえ。私は君が嫌いだからさ 」


「じゃあ……またね……エリカ 」


「あぁ、またね()()()。次会うときは君が死んでいることを祈っておくよ 」


 話が終わるギリギリで悪態を吐き捨てると、闇は影に呑まれ、影は廊下の奥へ消えていった。

 1人になった廊下……そこで脳の活動を再開させると、ため息が漏れてしまう。


「はぁ、ほんと嫌になるよ。過保護な親たちを相手するのは 」


 血の出ない両肩を治し、さっさと試合場へ向かっている途中、ふと……喉から硬い固形物が込み上げた。


「ぅぇ…………あぁそうだったね、色々と消えてるんだった 」


 口から出たそれは、関節が4つある灰色の指。

 それは私の薬指と小指だ。

 多分……リュークから繋がりを消されたせいで、体外に漏れてしまったんだろう。


「何処かでぉっ……ぅぇ、補給しないとね 」


 今度は渦を巻く長い爪が溢れた。

 ……こんなもの、よく喉から出たねぇ。


「ふふっ、楽しいねぇ 」


 独り談笑を終わらせ、足を上げる。

 そして気持ちが悪い自分の指を……踏み潰す。

 丹念に丹念に、原型など残らないようにね。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ほんとすみません、ヒカゲさん……テンション上がっちゃって 」


「いやもういいって。堅苦しいの嫌いなんだって 」


 武器を壊したことを怒りすぎたのか、ユウトは何度も頭を下げてくる。

 1度や2度ならまだしも、人目気にせず謝られ続ければこっちが気まずい。


「でも修理に加えて新しい機構もつくってくれましたよね。ほんと感謝してもしきれませんよ 」


「よし、次お礼してみろ。今度は自爆機構つけてやっから 」


「す、すみません。あっ!! 」


「自爆機構、持ち手の押しやすい所につけとくな 」


「待ってください!待ってください!! 今のナシです!! 」


「冗談だ 」


 適当な談笑を交えながら廊下を進み、さっさと寮と同じ番号の扉を探す。

 だが思ったよりもわかりやすい所にあり、探すまでもなく俺たち専用の観覧室を見つけた。


「ユウト、ここらしいぞ 」


「あっ、結構近場ですね。あとで飲食物もってきます 」


「まぁヤマトとハルトが来てからだなぁ。あいつらの好みわかんねぇし……いやハルトいるわ 」


 扉を開けると、そこにはハルトがいた。

 だがこちらを見ず、神妙な顔つきで紅茶を入れ続けている。


「おいハルト? なにして……何したんだおめぇ? 」


 部屋の中にはカーペットが敷かれていたが、その殆どを赤い血が染めている。

 それは明らかに致死量……人が死んだとしか考えられない。

 けれどハルトは紅茶を入れ続け、平然と血のカーペットの上にいる。

 

「答えろ、撃つぞ? 」


「んっ? どちら様ですか? 」


 腰の魔具に弾を込めると、ハルトは金色の瞳を向けてきた。

 瞬間、違和感が頭をよぎる。


(こいつ……誰だ? )


 胸に手を当ててかしこまる様子は女性のものであり、口調も2週間前のハルトとは全く違う。

 というかそもそも……瞳の色や声すら別物だ。


「ヒカゲさん? どうしたんですか? 」


「下がってろユウト。こいつ……なんかおか」


「誰だお前ら? 」


 得体のしれなさに警戒心が高まった次の瞬間……ハルトの声が聞こえた。

 すると紅茶を入れる奴の瞳は紫色に変わり、その目はダルそうにこちらを見ている。


「てめぇこそ誰だよ 」


「……? ハルトだが? 」


 首を傾げる姿はハルトそのものだが、どうもさっきのせいで警戒心がぬぐえない。

 けれどユウトはなんの警戒もなく、血のカーペットの上へと足を運んだ。


「あっ、僕はユウトです。それでこっちはヒカゲさんです 」


「……お前らか。紅茶てきとうに入れたから飲んでくれ 」


「お気遣いありがとうございます 」


「いや待て待て待て、とりあえずハルト。この血はなんだ? 」


 謎が多すぎて混乱するが、ひとまずは一番気になる血について話を聞いてみる。


「この血? あぁ、エリカから腹裂かれた。なんか血と臓物をくれって言われたから 」


「…………はぁぁぁ、なるほどな 」


 エリカという名がでた瞬間、妙に納得してしまった。

 あいつもそろそろ欲求がキツくなる頃だろうし、なぜか気に入ってるハルトにそうせがむのは無理もない。


(……ん? )


「いや待て、抵抗しなかったのか? 」


「あぁ、手伝わせた詫びで裂かせたからな 」


(……なんかもう、気にしたら身が持たねぇな )


「そういえばハルトさん、2週間前は殺そうとしてすみませんでした。あの時はすこし……抑えが効かなかったので 」


 ルームメイトに普通の奴がいねぇ。

 そんな現実に苦笑している中、いきなりユウトは狂人的な話を始めた。


「……別にいい。けど次殺そうとしたらこっちが殺す 」


「はい、大丈夫ですよ 」


「…… 」


 もう何も聞かなかったことにしよう。

 そう思いながら紅茶に砂糖を山ほどいれ、ジャリジャリする液体を口に流しこむ。


(ん……そういや )


 糖分で脳の錆を落としている中、ふと……ハルトについて気になることを思い出した。


「ユウトから聞いたんだけどよぉ、お前って逆推薦で入学したんだよな? 」


「あぁ 」


「でもお前の魔術、見た感じはデメリットのある固定砲台みたいなものだろ? そんなんで逆推薦されたのか? 」


 入学初日のテストを思い出しながら聞いてみるが、ハルトはパッとしないように首を傾げた。


「しらん。ここに来れば金が貰えるって言われただけだ 」


(なんか……妙だな )


 ヘレダントが逆推薦したことなど、歴史上一度もない。

 けれど逆推薦されたハルトの魔術はこれといった特異性はなく、威力が強いだけのよくあるものだ。


 なんというか……ハルトをこの学園に招き入れたかったような思惑を感じてしまう。


「……本当に心当たりはないのか? 自分の魔術が他人とは違って感じるとか 」


「……魔術を使っても性格が変わらないんだなってのは感じた。俺が魔術使うと、性格と目の色が変わる 」


(確かに異様なデメリットだが……そんなんで逆推薦されるか普通? )


「じゃあさっき、魔術を使ったんですか? 」


 ハルトの腹を探っている中、横からユウトが話に割り込んできた。

 言われてみれば確かに……さっきの様子をみれば魔術を使ったことになる。


「あぁ、傷治すのに使った 」

 

「……ん? ハルトさんの魔術って、詠唱して攻撃する魔術ですよね? それで治したんですか? 」


「俺もそうだと思ってたがなんか治せた。これっておかしいのか? 」


「いや、おかしくはないな。自身の細胞の数を測れないみたいに、魔術の全容は本人ですら知りえないことがある 」


「つまり……元からできたのか? 」


「多分な 」


 一瞬……その全容に目をつけられたかと思ったが、過去の記憶がそれを否定した。


 ヘレダントを卒業した知人たちは、魔術だけでいえばハルトより強いし、利便性に()けている。

 だからこそ、強いだけでは逆推薦されないはずだ。


 強さ以外の特異性……それがあるはずだ。

 だが情報が空白だらけで答えはでないし、そもそも分かったところでな感じはある。


(考えるだけ無駄か…… )


「それではお待たせしました! 次の試合に参りましょう!! 」


「あっ、始まるみたいですよ 」


「おう 」


 司会のうるさい声が聞こえると、2人はすぐに腰を下ろした。

 血が染みたカーペットの上に。


(……まぁ、おかしいのはいつもの事か )


 そう思いながら魔術でタオルを作り、その上に腰を下ろして試合場を覗く。

 ガラス越しの眺めは意外によく、視力が悪くない限りは試合場の全容を見渡せる。

 ……なんか金持ちにでもなった気分だ。


「それは1500年前、覇王によって散りばめられた『継承』の呪い。それは記憶を継ぎ、意思を継ぎ、呪いを継ぎ、怨みを継ぎ、何代にも渡る継承の果てに現れた変異の厄災! 『未知なる継承者(アンノウン)』……わちょ!? 」


「あーあー、聞こえてるかな? 」


 うるせぇ司会者の声に苛立っている中、突如ノイズが走り、別の声が会場に響く。

 その耳に残る声には聞き覚えがある。


「私はエリカ、『エリカ・ミオソチス』。ケルパー王国で創られたゲシュペンストだ 」


(あいつなにしてんだ? )


 いつからか会場にいるエリカ。

 その手には『拡音魔具』が握られており、司会者はそれを取り戻そうと必死になっている。


「エリカ選手! ここは死合う場ですよ!? 次の選手も待ってますしはやいとこ…… 」


 いつものおふざけかと軽い気持ちでいると、突如として会場の空からものが落ちてきた。

 見覚えのある、高低差の激しい白い筒。

 遠目ではハッキリ確認できないが、恐らくは……背骨だ。


「選手たちなら適当に殺しておいたよ。だから今日の試合は終わりさ 」


 エリカは笑い混じりに殺した語り、背骨を踏み割りながら話を続ける。

 その姿は同じ生命とは思えず、異様そのものだ。


(なにしてんだあいつ!? おふざけにしては度がすぎるだろ!! )


「さて、注目も集まったことだし本題に入ろう。私の魔術は諜報や隠密に向いててね、ちょっと前にマークしていた人物からとんでもない情報を聞いてしまったんだ。彼らがやろうとしてるのは『ゲシュペンストの解放』……つまり、人の世を終わらせようとしてるのさ 」


(…………あいつ!!? )


「その名は『ヒカゲ・ルミル』『ユウト・カイナ』。彼らは人の手によって産まれたのに人を滅ぼそうとする、とんだ恩知らずさ 」




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