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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
臥薪嘗胆編
14/73

第14節 踊れや踊れ



「それでは皆様! 続いての死合いへと行きましょう!! 」


 胸にまで響く声。

 それは心臓を熱くさせ、背筋を登る闘争心のせいで頬が緩む。


「それは1500年前に散り広がった遺産。誰もがそれを求め、誰もが夢見の果てに諦めたもの。だが! だが!! ここにて1つ! 最も完成に近い、失敗作が姿を現します!! それでは行きましょう! 『黒き血の失敗作(ロクト・ゴーレム)』……ヤマト・ホルテンジエ選手です!!! 」


「しゃあああ!!! 」


 自分の名前を呼ばれた。


 地面を思いっきり蹴りあげ、入場口から試合場まで跳躍。

 そのまま声を荒らげ、会場中に雄叫びを響かせる。


「それでは続いての選手です!! 」


(あれ? )


 だいぶ派手な登場をしたつもりだが、解説や司会の方からは一切反応がない。

 むしろ観客席からは、殺意がこもった目を浴びせられている。


 ……もっと反応してくれても良いと思うんだけどなぁ。


「優しき風は何者も傷付けず、誰がためにと癒しを運ぶ。 だがそれは血に埋もれたいつかの歴史!!! ここにて吹くは赤き風! それは何ものも殺し、今日も腐臭を運ぶでしょう!!『淀み風』……コトノ・オセロー!!! 」


 響く声に釣られ、反対側の入り口から1人の男が入ってきた。

 

 灰色の髪、程々に低い背。

 これと言って特徴のない奴だが、その手に握られている武器は酷く興味をそそる。


 武器の形状としてはただの細剣(レイピア)でしかないが、異常なのはその長さだ。

 それは男の背の3倍はある。


(振れんのかなぁ!? それでどんな戦い方するんだ!? 楽しみだなぁ!! )


「はっ、死合う場で笑うか 」


 期待が顔に出ていたのか、吐き捨てるように言葉を浴びせられた。


 確かに、殺し合う場で笑うのは頭のおかしなやつだ。

 でも人間の常識を押し付けられても困る。


「悪いな。でもほら、楽しみだろ? この学園じゃ殺死合う機会なんて少ねぇし 」


「楽しみ……か、理解できないな。偽物とはいえ死ねば死ぬんだ、そんな状況で楽しめる方がどうかしてる 」


「……まぁ、あんたみたいな人間サンにゃ分かりゃしねぇよ 」


 初対面なのに色々と否定され、ちょっとした皮肉が口から漏れてしまう。

 するとコトノは目を逸らしてため息を吐き、静かに距離を取った。


「それでは……試合開始です!! 」


「……げっ!! 」


 試合開始前に距離を取られた。

 そう気が付いた瞬間、コトノの周りから風が吹き、瞬きする間に両腕の皮膚が切り刻まれる。


(いきなりかよ!!)


 すぐさま横へ飛び、攻撃が及ばない場所に逃げるが、風から逃れることはできない。


 また風が吹く。

 見えない攻撃から頬の皮や服越しに腹筋が裂かれ、

何が起こっているかも分からない。

 だが……


(距離を取ったってことはよォ、近距離戦は苦手なんだろ!? )


 両手を前に構え、地面を蹴る。

 吹き荒れる風は全身の皮膚を刻むが、どれも致命傷にならず、そのままコトノの間合いに入り込む。


「っ? 」


 だがその時、強い風が吹いた。

 瞬間、全身の肉が刈り取られた。


「いっ」


 痛みで思考が止まった隙に、コトノは鞘を投げ捨て剣を抜いた。

 するとノーモーションで突きが放たれ、目で追えない剣先は左脇腹を貫いた。


(……なんだ )


 内蔵が破裂し、黒い血が口から溢れる。

 致命傷を与えたからか、コトノは赤いヒビを右眼に走らせ、目に見えぬ速度で剣を振るう。


 それが命を確実に奪う、詰めの一撃だと肌が理解した。

 だが……


(つまんねぇな )


 剣を振るだけとかつまんねぇ。

 そんなことを考えながら見えぬ刃を掴み、コトノの腹に剣速を超える蹴りを打ち込む。


「ぉっ!!? 」


 臓物が飛び散らないように加減したが、みぞおちに一撃くらったんだ。

 人間なら痛覚切っててもしばらくは動けない。


「まぁ楽しかったぜ 」


 トドメを刺す前に笑顔を浮かべ、血まみれの裏拳を垂れ下がったこめかみに打ち込む。


 子小気味よい感触が脳に響くと、コトノの小さな体は観覧席に頭から突っ込み、宙を舞う剣は死合い場に突き刺さった。


「試合終了!! 勝者……ヤマト・ホルテンジエ選手です!!! 」


 自身の修復機能で致命傷を治し、右腕を空にあげガッツポーズを決める。


 歓声はない。

 でも罵倒が飛んでこないだけマシだ。

 そしてなにより……


(やっぱ、殺しは楽しいな!! )


 この高揚感が、たまらなく好きだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……よし 」


 濡らした茶髪を後ろにまとめ、それを手首に巻いた紐で結びつける。

 少し頭皮が引っ張られる感じもするが、戦う分にはこのくらいが丁度いい。


「それでは次の試合に参りましょう!! 」


 入場の掛け声がかかる。

 そう予感し、髪の水気を絞って出口へと足を運ぶ。


「それは誰もが知る朝の花。 闇を呪うために炎を飲み、今日も()を照らす巫女の末裔。その輝きは夜を呪うか? はたまた人を呪うか? それを知るのは彼女のみ!! それでは呪われし巫女をご覧に入れましょう!! 『終わりの天与(ディヴァインフィーネ)』 ヒマリ・ムスク選手です!! 」


「ど、どーも〜 」


 あれだけ気合いを入れたのに、いざ会場に出てみると弱腰になってしまう。


 人の目。

 煩い司会者。

 盛りにもった私の説明。

 そのどれもが疲労やストレスとなって、肩を重くする。


(……帰って横になりたいなぁ )


「それでは続いての選手です!! 」


 さっそく弱音を漏れてしまう。

 でも司会はどんどん試合を進行させると、ずっと無関心だった観客の目は反対側の入口へと集まった。


「彼女は何か? 彼は何か? 全ては不明、不理解、『情報なし(ノーデータ)』。彼女は何を持って人を見つめるか? 彼は何を思い人を殺すのか? それすら分からぬ皆様には今宵……死のヴェールが降ろされるでしょう! 『存在無し(ノーシグナル)』!! ユウト・カイナ選手です!!! 」


 私の入場とは裏腹に、観客の目はユウトに釘付けだ。


 ……それもそうか。

 ずっと存在が隠されてきた『覇王の心臓』が、生きて公の場にいるんだから。


(そりゃあみんな、殺してでも奪いたいよね…… )

 

「あっ、お久しぶりですヒマリさん。4年前の社交場以来ですね 」


「あっ……うん、久しぶり 」


 いきなり声をかけられた事にも驚いたけど、1番驚いたのは4年前の出会いを覚えられている事だ。

 ユウトなら2年前に、記憶機能を入れ替えられたはずなんだけど……


「どうかしました? あなたもクズ共と同じものが欲しいんですか? 」


「んっ!? い……いや違うよ? ただ覚えられていた事に驚いて……ね? 」


 嫉妬するほどに綺麗な顔から、相当キツい悪態をつかれた。

 でも誤解を招かないように慌てて否定すると、ユウトは奥歯まで見える不気味な笑みを浮かべた。


「安心しました。もし心臓を狙ってるなら、全力で殺そうと思ってたので 」


(えーっと……どんな言葉を返せばいいんだろ? )


 さっきから発言の節々に殺意を感じ、正直……反応に困ってしまう。


「えー、談笑も程々に。ここは死合う場ですよ〜 」


「あっ、そうでしたね。それじゃあヒマリさん、お互い死力を尽くしましょう 」


「う、うん 」


 司会者から注意を受け、会話が終わった。

 それに何処かホッとしながら距離を取り、お互いが向かい合った状態で開始の合図を待つ。


「それでは試合……開始です!! 」


 合図がなった。


(永枷(えいか) 白楔(しろくさび) )


 白き炎で槍を創り、戦闘時の血液を全身に回す。

 すると腕からは白い鱗が逆立ち、体内を巡る血流は青き炎となって火の粉をこぼす。


「行くよ 」


「はい、いつでも 」


 地面を軽く踏み切る。

 だが脆い地面は簡単に砕け、遠かったユウトの顔が目の前に見えた。


 時が止まったように笑い続ける顔。

 そこに槍先を打ち込もうとした瞬間、景色が揺れ、いつの間にか青い空が見えた。


(……何が起こって )


 いつからか倒れていた体を起こす。

 すると鼻からは白い血が漏れ狂い、風を感じる顔は歪に歪んでいた。


「所詮、人間って感じですね 」


 血が垂れる耳に声が響く。

 目に映るユウトは髪を白い血で染めており、魔術で生み出された鏡越しに私を見ている。


「自分たちが上位にいると思い込み、今なおその空想の上で踊っている。だからお前らみたいなクズは……ここで死ね 」


 死ねという単語と共に、鏡は拳によって叩き割られた。

 するとユウトの手には……()()が握られていた。


 それは大剣だった。

 それは弓であり、重厚な槍。

 肉を乱雑に解体するノコギリであり、生者を死者へと変える美しき大鎌でもあった。


「なに……それ? 」


 あまりの奇妙さに声がもれた。


 数多もの武器をまとめたそれは鉄塊と呼べず、武器というには無理がある。

 そんな頭のおかしな道具が今、振り下ろされようとしている。


「……っう!!! 」


 明確すぎる死を感じ、すぐさま宙へと逃げる。

 瞬間、爆音が響いた。

 

 死合い場は砕けに砕け、もはや石屑しか残っていない。

 けれどまだ、(ユウト)はこちらを見ている。


(永伽(えいか)…… )


 地面に着地すれば場外。

 けれどのこった足場の広さでは、あの一撃は避けられようもない。

 なら……ここで終わらせる。


「火塗り 」


 体から抜け出たどろりとした白き炎。

 それがポタリと地面に落ちると、土が沸騰を始めた。


 これを喰らえばどんなものでも焼け死ぬ。

 それを今、地面へぶちまけようとした瞬間、ユウトは腕力で……自分の道具を破壊した。


 混乱が脳を覆う中、分解された鎌の刃が……こちらを見ている事に気づく。

 だが遅かった。


「あっ 」


 腑抜けた声を漏らした頃にはもう……鎌の刃先は眉間に到達していた。

 頭がビチャリ……砕け散った。


「試合終了! 勝者……ユウト・カイナ選手です!! 」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「甘いもの食いてぇ 」


 脳が鈍る。

 動かそうと思えば動かせるが、どうも錆び付いた感じが拭えない。

 ……それもこれもユウトのせいだ。


(あいつ……せっかく作った武器壊しやがって )


 ちゃんと分解機構つくってるのに力任せに砕くわ、貴重な獣の腕骨の鎌は投げ飛ばして無くすわ……はぁぁ、今までの分も合わせて請求でもしてやろうか。


(まぁ、人の常識を求めても仕方ねぇか )


 自問自答を終わらせ、そろそろ試合がはじまる会場に足を運ぶ。

 暗い廊下からでたそこは、目がくらむほどに眩しい。

 ……この光加減なら、細工も上手くいくだろう。


「ちょっとぉ!? ヒカゲ選手の入場はあとですよ!? 」


「うるせぇ。お前の煽り文句、不快なんだよ 」


「え〜……番が狂いましたので先にご紹介!! 無能な者たちはうわっとぉ!!? 」


「不快だつってんだろ 」


 腰にぶら下げた魔具を掴み、司会者に『創弾(そうだん)』をぶっぱなす。

 その弾は司会者の手元にある魔具へとぶつかり、会場からはうるさい高音が響く。

 ……手筈通りだな。


「え〜……本人からの強い要望により、紹介はスキップさせていただきます。それでは気を取り直しまして……続いての選手に参りましょう!! 」

 

 響く声は観客を沸かせたいようだが、その観客はといえばシラケた表情をしている。


  まぁ、それも当然か。

 ヘレダントに入学するのは、基本的にゲシュペンストだ。

 学習能力が高い奴らからすれば、もう聞き飽きた頃合だろう。


「彼は平凡なる人間である。生まれも平凡。学歴も平凡。コネだけでしがみつく姿はあまりにもみっともなく、英雄とは言い難き者。だが彼は歩みを止めず! 自身の無垢が黒く染まろうとも! いつしか天陸に傷をつける英雄となるでしょう!! 『困難を愛する者(マザール・エメ)』!! シロ・アイビー!!! 」


 ほぼ罵倒で彩られた煽りと共に、小柄な男が入場口から姿を現した。

 死合い場にやってくる姿はあまりにもぎこち無く、観客の目線だけで押し潰れそうなほど弱く見える。


「よよよ、よろしくお願いします 」


「あーよろしく 」


 エメラルド色をした髪の合間から、夜空のように暗い目を向けられた。

 その2つの特徴は、脳内でとある答えを導き出した。


(……クソ共が )


 こいつは『ロジー王国』のサブプランだ。

 なのにクソ共は、それをメインプラン実行中に使いやがった。


(っ……一度創れたからもう捨て駒ってか? ふざけやがって )


「えと……えっと、自分は何かしましたでしょうか? いやしてますね! 自分ロジー王国出身ですから!! 今ヒカゲさんの国と戦争真っ只中ですもんね!! 」


「いや……そこは別に気にしてねぇから安心しろ 」


 キンキンとした声で叫ぶシロを宥め、今はこの怒りに蓋をする。

 とりあえず……あとはタイミングだ。


「まぁ、お互い納得のいく試合にしようぜ 」


「……!はい!! 」

 

 それっぽい言葉を出し、とっとと距離を離してシロと向かい合う。

 いつ開始宣言が起こっても違和感がないように。


「それでは試合……開始です!! 」


 時間通り合図がなる。

 するとシロの髪には赤いヒビが走り、腰に携帯した短剣を抜いた。


 瞬間、獣のような速度で距離を詰められる。


 迫る短剣。

 それを躱すことは容易いが、あえて体を動かさず右腕で刃を受ける。


「いっ゛ 」


 肉が裂け、痛みとアドレナリンが脳を巡る。

 だがこれで……


「そこまで!! 反則行為により、シロ選手は失格と見なします! よって勝者……ヒカゲ・ルミル選手です!!! 」


 俺の勝ちだ。


「……はい? …………いやいや!! 僕何もしてませんよ!!? 」


「え〜? だってシロ選手、試合宣言される前に攻撃したじゃないですか 」


「えぇ!!? だってちゃんと合図なりましたよね!? なのになん…… 」


 シロは納得いかなそうに叫ぶが、司会者が指さすマイクを見ると言葉を詰まらせた。


 まぁそりゃ当然か。

 ()()()録音魔具が、マイクに付けられているんだからな。


「えっ、もしかして試合場に先に出たのって…… 」


「あぁ、細工するため 」


 舌を軽く出して小馬鹿にすると、シロは真顔のまま息を吸い、そのまま口を大きく開いた。


「ズルじゃないですか!! というか司会者さんもなんで何も言わないんですか!? 」


「いや〜、私はあくまで司会者なので。 選手に細工を伝える義務はありません。それはそうとヒカゲ選手、約束通りの『楽音(がくおん)魔具』はお忘れなく 」


「あぁ分かってる 」


「買収!! それ犯罪!! やっぱりズルじゃないですか!!! 」


「司会者を買収したら失格なんてルールねぇよ 」


 涙目になりがらも必死に抗議するシロ。

 だがそれを軽くあしらい、『(イスクス)』で傷を塞いで死合い場から下りる。


「この……卑怯者ぉぉぉ!!!!! 」


「はいはい 」


 背後から思いっきりの罵倒を受けたが、適当に言葉を返えしてスルー。

 そのまま薄暗い廊下へ移動する。


(とりあえず甘いものだなぁ )


 脳が甘いものを欲している。

 その欲望に身を任せて食堂に向かう途中、とある言葉が頭の中で響いた。


『卑怯者』


 頭痛が走り、この脳は覚えのない記憶を鮮明に呼び起こす。


 無理やり薬を打たれる少年の最期。

 クソッタレな誇りとやらで自殺する女の最期。

 残りの生を諦め、自らをクズ共に託した……尊敬する天才の終わり。

 それらの記憶全てが、俺に卑怯者という言葉を浴びせてくる。


 ……当然か。

 人に幸福あれと望んだ奴らの脳を持っているのに、俺は……人の世を終わらせるつもりでいるのだから。


(まぁ、老害たちの考えなんざしるか )


『でも……殺せるの?』


 悪態を吐き捨てて記憶に蓋をする寸前、そんな声が脳内に聞こえた。

 だが……その答えはもう決まってる。


(ゲシュペンストたちの解放……それの邪魔になる者なら、いくらでも殺してやるさ )


 いつしかの思い出に蓋を被せる。

 すると頭痛は収まり、罵詈雑言も……あの懐かしい声も聞こえなくなった。



 

 





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― 新着の感想 ―
[良い点] 口上やネーミングが毎回かっこよくてほれぼれしています! そしてそれ以上に一人一人にはっきり個性が彩られていてやられ役なのももったいない!!そのやられ方も毎回しっかり描写されていてやばいです…
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