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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
臥薪嘗胆編
13/73

第13節 こっちにおいで



「よぉハルト! ナイスファイト!! 」


 落ちた右腕を治癒室で治してもらい、人混みを適当にブラブラしていると、背後から声をかけられた。

 振り向いてみるが、匂いが混雑するせいでそれが誰か分からない。


「誰だ? 」


「あっ悪ぃ。ヤマトだやま」


 とりあえず治った右足を顔面にぶち当て、人の波にその体を吹き飛ばす。

 強化も何もしていない蹴りだ、ダメージは無いだろうが幾分か気分は晴れた。


「……いや、殴られる覚悟はしてたぞ? お前ぶん投げたし。でも蹴るとは思わんかったわ 」


「そか 」


 鬱憤晴らしが終わり、ここに用はなくなった。

 そう思っていたのだが、不意にヤマトに聞きたいことができた。


「そういえば、個人戦ってなんのために戦うんだ? 模擬戦にしては殺伐とし過ぎだし、あんなのはただの見世物だろ? 」


「よっと。とりあえず静かな場所に行くぞ、説明はそこでしてやる 」


 ふと気が付けば、顔も分からぬ人間たちの目だけが俺たちを見ていた。

 背筋を舐められるような……首筋を内側からなぞられるような……とにかく気持ち悪い感触だ。


「分かった 」


 逃げるようにヤマトへついて行く。

 人混みを抜けてしばらく歩くと、埃が香る一本道に出た。

 そこには俺たち以外の足跡や足音もない。


「よし、ここいらで良いだろうな。んで、なんのために個人戦するかだっけ? 」


「あぁ 」


「答えは単純だ、実績を貰えるだけ 」


「……それだけ? 」


「それだけ。でもその実績ってのが重要だ 」


 ヤマトは廊下の壁に寄りかかると、淡々と話を進めてくれる。


「魔法使いになってもな、正式に属せる場所は4つしかない。1つは『国家自衛団』。名前の通り、国を守ったり戦争に駆り出される奴ら。2つ目は『獣狩り』。獣を駆逐する事が目的な奴ら。3つ目は『次元研究科』。こいつらはまぁ……色々研究してる奴らと思ってくれ。4つ目は『王下隷者(おうかれいしゃ)』。王族直通の魔法使いって事だが、俺らにはあんまり関係ない 」


「それで? さっきの話と関係あんのか? 」


「まぁ聞けって 」


 色々と言われたが、それがさっきの話とどう繋がるのか分からない。

 そんな疑問を問いかけると、ヤマトから素っ気なく黙らせられた。


「『ヘレダント』に来る奴らって、国からの推薦とかが殆どなんだよ。だから大体は『国家自衛団』に属する事になるんだが、そこって結構実力主義でな。弱いやつは肉壁、強いやつは後方で茶会なんてザラだ 」


「つまり……将来のためにヘレダントで実績を作りたいってことか? 」


「あぁ、だいたいそゆこと 」


「分かった、なら次の試合負けるわ 」


「…………なんて? 」


 ……?

 何か変なことを言ったのだろうか?

 正気かお前?といいたげな顔をされている。


「いや……なんで? なんで負けんの? お前強いじゃん 」


「そんな場所に属す気はないし、実績とか興味ねぇ 」


「えぇえ!! 負けるなよぉぉぉ!! また戦おうぜぇぇ 」


 本心を伝えただけなのだが、ヤマトはガキのようにゴネ始めた。

 その赤い目は潤んでおり、頬は微かに赤くなっている。

 ……ガチで泣いてんのか?


「この前はそっちが勝っただろ? それで良いだろ 」


「良くねぇよ! そのナイフ持ってたら勝てるか危ういからな!! だから面白そうなのによぉぉ!! なんで負けるんだよぉぉ!! 」


「うるせぇから蹴っていいか? 」


「よし分かった! お前が今欲しいもんはなんだ!? 」


 よし分かったと言われ蹴ろうとしたが、急に欲しいものはと聞かれた。

 欲しいもの……欲しいものか……


(かね)


「よし! じゃあ、お前が優勝したら金やるよ!! なんなら2位でも3位でも大丈夫だ!! 」


「……? なんでそこまですんだよ? 」


「だってよぉ、相手を殺すまで殺し合えるんだぜ!? そりゃ強いやつと殺り合いたいだろ!! 」


「そか 」


「んじゃ俺、試合だから! 次も絶対勝てよ!! 」


 煩わしい声に適当な返事を返していると、いつの間にか会話は終わっていた。

 意識を現実に戻していた頃には、ヤマトは廊下の遥か遠くにおり、もう聞きたいことも聞けないようだ。


(……まぁいい、とりあえず勝つか )


 やる気など無かったが、金を貰えるなら話は別だ。

 誰とも話したくないが、まずは情報収集を…………そういえばさっきまで、


(誰と話していた? )


「やぁ 」


 急に頭にノイズが走り、記憶が飛んだ。

 瞬間、背後からぬるりと抱きしめられた。


「誰だ? 」


「君はさ〜、なかなか驚いてくれないね 」


 後ろを振り返ると、そこには病的に痩せた女がいた。

 この体格は確か……


「エリカか? 」


「ふふん、そうだよぉ〜。よく覚えていたね!! 」


 エリカは心底嬉しそうに声を張るが、正直興味はないし煩いとしか思えない。

 いや……1つ気になることがあった。


「……お前の魔術って、瞬間移動できるんだろ? 制限とかないのか? 」


「おやぁ? 私はそんな大層な魔術持ってないけどねぇ 」


「とぼけんな。じゃあなんで埃に足跡がついていない? 」


 エリカが現れた背後には未だ埃が溜まっており、ヤマトが通った道は俺が見ていた。

 そんな状況で背後に回り込むなど、瞬間移動くらいでしか不可能だ。


「ははっ、冗談さ。でも君の言う通り、条件がある。その場所の匂いを覚えたり、そこと連想できるようなものを舐めなきゃいけない。ユウトのと違って、私は繋がりで移動するからね〜 」


「……んじゃあの時」


 そう言われ、とある光景がフラッシュバックした。

 ……廊下で呼び止められた時のことだ。


「あぁ、君の匂いを嗅いだのはそのためさ。ついでに2週間前、広場で君の頬を舐めただろう? あれも条件を満たすためさ 」


「なるほどな 」


「いやちょっと!? ここは気持ち悪そうな顔をするところだよ! なんでそんなすまし顔なのさ!! 」


「興味ねぇから。それよりお前に頼みがある 」


「頼み? あぁ良いとも、なんでも言ってくれたまえ!! 」


「今から対戦する奴らの顔と名前を言ってくれ。俺だけだと誰が誰だか分からなくなる 」


 誰でもできる頼みのはずなのだが、何故かエリカは心底嫌そうな顔をした。

 それは嫌悪と言うよりは、心外な感じに近い。


「嫌か? 」


「嫌じゃないさ! でもなーーんで誰でもできそうな事をお願いするのかなぁ! 君はホント女心が分からないね!! 」

 

「そか、じゃあ別の奴に頼む 」


「ちーがーうー! 嫌じゃないのさ! 複雑なのさ!! 」


(……何言ってんだこいつ? )


 ギャーギャー(わめ)かれても、理解できないものは理解できない。

 そんな状況に首を傾げていると、エリカはため息を漏らし、やせ細った手を差し出してきた。


「それじゃあ、ナイフを1本貸してくれたまえ 」


「……? ほら 」


「ありがとう。そういえばこれって何が材料なんだい? 足やら首やら簡単に切ってたけど 」


「獣の爪 」


「ふーん 」


 ナイフを指先で回し、香料を選別するように刃を嗅ぐエリカ。


 その行動にどんな意味があるのか?

 そう疑問に思っている最中、いつのまにか自分の手が前に出ており、その上にはエリカの手が乗せられていた。


 嫌な予感が背筋を駆け上がった瞬間、刃は振り下ろされ、エリカと俺の手がナイフ越しに繋がった。


 脳に痛みが駆け上がる。

 だが痛いだけだ、気にする必要は無い。


「……で? なんの意味があんだ? 」


「社会勉強というかね? 君に世界を見せてあげよう……と…………君さ、何も見えないのかい? 」


「……? あぁ 」


「…………はぁぁぁ。()()()も行き過ぎると、もはや束縛だね。いや、君に自由なんて……元々ないか 」


 エリカは長い独り言の末に刃を引き抜くと、穴が空いた手でナイフを差し出してきた。


「ありがとう。思うような結果じゃなかったけど、サポートはしてあげよう。ほら、君はお金が欲しいんだろう? 」


 なぜ金の事を知っているのかと疑問に思ったが、そこはどうでもいい。

 確か……何かをしてもらったら、ありがとうと言うんだっけ?


「……ありがとう 」


「……はぁ。それじゃあ観覧席に行こうか、もうすぐ試合が始まるからね 」


 慣れない礼を言い終えると、エリカはナイフを差し出してきた。

 それに付いた血を服の裏地で落としていると、不意に手を繋がれ、引っ張られるように廊下を歩む。


 穴の空いた手を重ね、互いの鮮血を地面にこぼしながら。




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[良い点] えっ ちょっ……エリカさんこわ!!
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