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マイグレーション 〜現実世界に入れ替わり現象を設定してみた〜  作者: 気の言
Phase2 警視庁公安部公安第六課突発性脳死現象対策室

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SS7 年齢制限

「そうですか、わかりました! ありがとうございます!」


 けたたましい電子音や金属質の玉がジャラジャラと出てくる音などで自分の声がかき消されないように俺は怒鳴るように店のスタッフに捜査協力の礼を述べた。

 いくら聞き込みだからとは言え、高校生である俺をパチンコ屋になんか普通行かせるか?

 丈人先輩が姫石さんのところでいつもの定期検査をやっているため、手が空いてなかったから仕方ないと言えば、仕方ないが……

 こういうところ、手塚課長はちょっとズレてんだよな。

 だが、伊瀬もまだ病み上がりだったし、女子共を行かせるわけにも行かない。

 そう考えると残った俺が適任ってわけか。

 正直、深見さんに頼めれば一番よかったんだが、あの人は手塚課長よりも断然忙しそうなため頼るわけにはいかない。

 那須先輩も、肝心な時に別件でいないし。


「にしても、手掛かりなしか……」


 ブラックスーツを着ているとはいえ、この見た目のせいでスタッフに怪しまれて誤魔化すのに苦労したというのに何一つ手掛かりを掴めないとは。

 完全に無駄足だったな。


『キュンキュインキュキュキュキュキュイーン!』


 どこかの台で大当たりでも出たのだろうか、なんとも景気の良い音が人の判断力を奪うかのように鳴り響いている。

 今日は休日のため、客の数も多い。

 これだけの人数が打ってれば、どこかの台で大当たりが出ても当然だろう。

 せっかくの休日をパチンコ屋で過ごすのもどうかと思うが、人の趣味にケチをつけるのはあまり褒められたものじゃない。

 さっさっと退散することにしよう。


 そう思ったのが、以前にお台場に行った時の丈人先輩との会話をふと思い出して、俺の足はピタリと止まった。

 そして、俺の視線の先にはお台場で見た巨大ロボットの立像と同じ見た目をしたロボットが施されたパチンコの台が数台置かれていた。

 席は空いている。


「……」


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


(※パチンコ店への18歳未満と高校生の入場は法律で禁止されています。彼は物語の設定上、18歳未満かつ高校生ですが、特殊な訓練を受けているなど論理破綻した理由で法律上の問題を回避しております。サイドストーリーのため、その辺のガバガバな設定にはご容赦下さい。)


『デレデデレデデレデデレデーー! デレデデレデデレデデレデーー!』


 パチンコの台全体が虹色に輝き、画面には3000というきらびやかな数字と例のロボットを施した人形の上半身が飛び出してきている。


「これは……当たった……のか?」


 耳をつんざく電子音に目がチカチカとするほどの光量の演出。

 パチンコ好きはこれで脳汁が出るらしい。

 俺にはその感覚はいまいちわからない。

 パチンコなんてもちろん初めてだったため周りの客の見よう見まねでやってみたわけだが、まさか当たるとは……

 これが俗に言う、ビギナーズラックなのだろう。

 とりあえず、一通りの演出が終わるまで待つとしよう。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 演出が終わるまでの間にパチンコに関しての基礎知識をスマホで調べた俺は、ネットで得た知識を基にして無事に景品交換まで行うことができた。


「使った金を差し引いても、一万勝ちするとはな……」


 ビギナーズラックという言葉が生まれることにも納得せざるを得ない。

 後は、この交換した金の景品を近くの換金所で換金すれば終了らしい。

 こう考えるとパチンコ屋というのは法律の穴を突いたよくできた仕組みだと感心してしまう。


『プルルルル、プルルルル』


 スタッフからお菓子や飲み物がいっぱいに入ったレジ袋を渡された時、ちょうどジャケットの内ポケットに入れていたケータイが鳴った。

 聞き込みが終わってから、かれこれ二時間弱経過しているからな。

 時間が掛かり過ぎていることを不審に思って誰かが電話してきたといったところか。

 足を出口に向けながら電話に出る。


『はい、もしもし?』


『もしもし!? ちょっと、アンタ今何してんのよ!」


 電話に出るやいなやマシンガンのように六課にいる如月の声が耳に届く。


『何って、聞き込みだ』


『聞き込み……んなに時間……わけないでしょ!』


『え? 悪い、周りがうるさすぎて聞こえない。ちょっと、待ってくれ。外に出る』


 俺は足早に出口に向かって、自動ドアが開くのを一瞬待ってから店から一歩外に出る。


『もういいぞ』


『聞き込みだけでこんなに時間が掛かるわけないでしょ!』


『ちょっと、店のスタッフと意気投合して話し込んじまってな』


『よくそんな見え透いた嘘つけるわね……どうせサボってたんでしょ。サボってないで早く帰って来なさい。今、どこにいるの? まだ、周りの音がうるさいんだけど?』


『あん? 外だよ、外。繁華街で人が多くてうるさいだけだ』


『それにしてはなんか機械音が多いような……ねぇ、アンタ今日どこに聞き込みに行ったの?』


 クソ、こういう時だけ妙に勘がいい。

 パチンコ屋に行っていたなんて如月に知られたら確実に面倒なことになる。


『あ~それは……まぁ、いろいろだ』


『は? いろいろって何よ? どこに行ったかぐらい、はっきり言いなさいよ』


『いや、だから……』


『あ、やっぱ大丈夫。日菜っちに聞くから答えなくていいよ。ねぇ、日菜っち! アイツ、今日どこに聞き込みに行ったか知ってる? ……え!? パチンコ!? アンタ、パチンコに行ってたの!?』


 電話越しに市川から情報を得た如月があり得ないと怒鳴ってくる。

 というか、なんで市川は俺がパチンコ屋に聞き込みに行っていることを知ってんだよ。


『勘違いするなよ。あくまで聞き込みに行っただけだ』


『へぇ~~そうなの。聞き込みに行っただけで二時間近くも掛かったんだぁ~? ふぅ~ん、それで聞き込みの成果はどうだったの?』


 ヤバいな。

 これは完全に疑われている。


『……残念ながら、手掛かりはなしだ』


『成果もないのに二時間も聞き込みしたんだ?』


『何か疑っているようだが、俺は高校生だぞ。高校生がパチンコなんか法律上打てるわけないだろ。そんなことしたら店にすぐ見つかって追い出されるだけだ』


『え!? アンタ、本当にパチンコ打ってたの!?』


『待て! 俺は今、打っていないと言ったはずだ!』


『誰もアンタがパチンコを打ったかどうかなんて聞いてないのに、自分から打ってないって言ってる時点で自白してるようなものじゃない!』


『あ……』


 如月の奴、本当にこういう時だけやけに鋭い。


『それに、警察官として聞き込みに行ってるんだから店側がアンタが本当は高校生だなんて知らないじゃない! 法律違反よ! 逮捕よ! 逮捕!』


『俺が一般人ならな。だが、俺は六課の捜査員だ。そのため、特例でパチンコを打つことを許されている』


『そんな特例、あるわけないでしょ! あっ! 手塚課長! マノがパチンコやってました! 逮捕でいいですよね!?』


『おい、やめろ! お前が好きなお菓子とか景品で貰ったから、それあげるから手塚課長には言うな!』


 電話のため向こうの状況は正確にはわからないが、ちょうどタイミング悪く手塚課長が六課に入って来たのだろう。

 俺の交渉も虚しく、如月がすかさず手塚課長に俺がパチンコを打ったことを報告しやがった。

 さすがに、これが手塚課長にバレるのはマズい。


『あ、もしもしマノ君? 聞き込みどうだった?』


 如月が電話を代わったのか、声の主が手塚課長になっていた。


『……これといった成果はありませんでした』


『そっか。まぁ、成果がないこともまた成果だから、気にせず他のアプローチから手掛かりを見つけて行こう』


『はい、わかりました』


『それで、パチンコを打ったんだって? マノ君?』


『……はい。すいません、打ちました』


 終わったな。

 逮捕なんかされないだろうが、罰金や減給ぐらいの罰則はされるだろう。


『どうだった?』


『……? どうだったとは?』


『もちろん、勝ったか負けたかだよ』


『へ?』


 てっきり、手塚課長から手厳しく咎められると思っていたのに全くの予想外の質問が飛んできた。


『……か、勝ちました。一万ぐらい』


『お~~! それはすごいね! 景品とかもいっぱい貰ったんじゃない?』


『え、えぇ。手塚課長の好きな煎餅とかもありますよ』


『お、それは羨ましいな』


『六課に戻ったら、手塚課長にあげますよ』


『いいのかい?』


『あ、はい。俺、普段からあまりお菓子とか食わないので』


『そうなのかい? なら、有難く頂こうかな』


 手塚課長の嬉しそうな声が電話から俺の耳元に届く。

 あれ?

 これ、怒られない感じ?


『ちょっ、手塚課長! マノが高校生なのにパチンコしたんですよ! なんで怒んないんですか!?』


 近くで俺達の会話を聞いていたのか、電話の少し離れたところから如月の声が聞こえる。


『うん? マノ君も高校生なんだから、パチンコぐらい行ったっておかしなことじゃないと思うけどな。私もマノ君と同じぐらいの時によく部活の先輩に連れられて行ったものだよ』


『え? パチンコって昔は年齢制限がなかったんですか?』


『かなり前はなかったらしいけど、私が生まれた頃にはもう年齢制限はあったんじゃないかな』


『え? え? え?』


 電話の向こうで昔の規制の緩さのジェネレーションギャップに如月が困惑の声を上げている。


『昔はよくても今はそういうのはダメなんですよ、手塚課長』


『そうなのかい? 市川君?』


 どうやら市川も近くで俺達の会話を聞いていたようだ。


『そうです。ダメなものはダメです。マノ君も聞いてる?』


『聞いてるよ。以後、気を付ける』


『気を付けるんじゃなくてやらないの』


『……わかってるよ』


 市川がきっちり退路を潰してくる。


『まぁ、そういうわけみたいだからマノ君。今後は高校を卒業するまでパチンコはやらないようにね。今回は目をつぶるからさ』


『わかりました。ありがとうございます』


『うん、じゃあ、早く帰っておいで』


『はい、すぐ戻ります』


 俺はそう言って電話を切った。

 とにかく、今回はお咎めなしということで済んだようだ。

 お酒とタバコは二十歳からとよく言うが、そこにギャンブルも加えるべきだな。


「あ、パチンコは一応ギャンブルじゃないか……」


 換金した金を財布に入れた時、俺はふとそんなことを漏らした。

 世の中綺麗ごとだけでは回らないらしい。

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

次話の投稿は一週間前後を予定しております。


少しでも面白いと思った方、ブックマーク、ポイントをして頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。


活動報告も書いています。

よろしければそちらもご覧ください。

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