SS5 (3) お台場
公園に着いた僕達の目のまえには東京湾とその奥にある都心の綺麗な夜景が広がっていた。
一番手前に見えるレインボーブリッジは、その名の通りレインボーに輝いている。
「綺麗……」
かざしたスマホから目を離して、肉眼でじっくりと眺めていた市川さんが呟いた。
「ね……なんか綺麗だし、ロマンチックだよね」
美結さんも夜景をうっとりと眺めている。
やっぱり、女子には巨大なロボットよりも綺麗な夜景の方が心を鷲掴みにするらしい。
「あそこに見えるビルとユニコーンの大きさを比較したら、どんな感じになるかしら?」
那須先輩だけは例外かもしれない。
「これはこれで、さっきとは違った綺麗さがあるよね」
「そうですね。さっきのは心躍る綺麗さでしたけど、こっちは心落ち着く綺麗さがありますよね」
「お、いいこと言うね、伊瀬君」
丈人先輩がそんな僕の感想を褒めてくれる。
「こう見ると、レインボーブリッジって存在感あるよな」
「うん。あれは封鎖できなくてもしょうがないよね」
「なんで、封鎖する必要がある?」
マノ君が怪訝な表情を見せる。
「あ、ううん! なんでもない、気にしないで!」
また、僕のドラマ好きが出てしまった。
「丈人先輩! アタシ達、向こうの方で写真撮ってきますね!」
美結さんが少し遠くの方を指さして丈人先輩に伝えてきた。
「オッケー。帰る時間もあるから、10分くらいで帰って来てね」
「わかりました! じゃあ、日菜っちも那須先輩も行きましょう!」
女性陣の三人は楽しそうに夜景を撮りに行った。
「さて、俺達はどうしようか?」
「写真はもう十分に撮っちゃいましたからね……」
「ま、ボーっと夜景でも眺めて、アイツら待ってましょうよ」
マノ君は適当な場所を見繕って、その場に腰を下ろす。
「それもそうだね」
マノ君の提案に乗るように丈人先輩と僕もマノ君を挟むように左右に腰を下ろした。
そうやって、しばらくボーっと夜景を眺めていたことで一つ気づいたことがあった。
さっきまでは、美結さん達女性陣がいたおかげで気づかなかったけど、美結さん達が抜けて僕達男性陣だけになった今はこの場所にいることが非常に気まずくなってしまった。
なぜなら――
「そういえば……ここって、デートスポットでもありましたね……」
周りがカップルだらけだからだ!
「夜景が綺麗に見えるところは必然的にデートスポットにもなりやすいからね……」
丈人先輩がどことなく座った目でぼやく。
『カチャッ』
ふと、僕の隣でそんな金属音が聞こえた気がした。
「マノ君、今何か聞こえなかった?」
「いや、俺は何も聞こえなかったぞ」
「なら、僕の勘違いかな?」
『カチャッ』
僕が言い終わった直後にまた、僕の隣の方から金属音が聞こえた。
「ほら! やっぱり、何か聞こえ――」
と、そこで僕はマノ君がスーツのジャケットの中に隠れている拳銃に手をかけていることに気づいた。
そして、それは丈人先輩も同じだった。
ちなみに六課は業務の特性上、特例として常に拳銃の携帯が認められている。
「マノ君も、丈人先輩も……何してるんですか?」
「何って?」
「別に、何も」
丈人先輩とマノ君は二人して白々しくとぼける。
「じゃあ、どうして二人とも拳銃に手を置いているんですか?」
僕の言葉を聞いて、二人はとぼけるのを諦めて開き直ったように座った目を僕に向ける。
「伊瀬、周りを見てみろ」
「周り? 夜景が綺麗だよ」
「他には?」
「……カップルがたくさんいるかな」
「だよな。これは治安上、あまりよろしくない。つまり、俺と丈人先輩は治安維持のために仕方なく殺ろうとしてるだけだ」
仕方なくやるの「やる」の部分が「殺る」に聞こえてしまったのは、なぜだろう。
「そうだよ、伊瀬君。これは仕方なく、だからね?」
「え? 治安維持のため……仕方なく……?」
僕はマノ君と丈人先輩から変な圧を受けて、少し頭が混乱し始めた。
「いや、え? でも、そんな『リア充爆発しろ』みたいな理論が通るわけ……」
僕の混乱を他所に、二人は立ち上がって一番近くにいたカップルに寄って行く。
それも、後ろ手で拳銃に指をかけながら。
「二人とも、駄目!」
と、僕が叫んだところで
「たっだいま~!」
「ごめんね、三人とも。お待たせ」
「あの写真を加工すれば、ビルとユニコーンの大きさを上手く比較できそうだな~」
写真を撮り終えた女性陣の三人が帰って来てくれた。
「どしたの? 伊瀬っち? そんな大きな声出して。何かあったの?」
「えっ、その……あっ、美結さんもマノ君と丈人先輩を一緒に止めないと!」
「ちょっと、伊瀬君。一旦、落ち着いて。二人を止めるって、どういうこと?」
「そうだぞ、伊瀬。少し落ち着け」
困惑顔の市川さんと肩に手を置いてきたマノ君が僕に落ち着くようにとなだめる。
「え? マノ君?」
近くにいたカップルに近づいていったはずのマノ君がいつの間にか、僕のすぐ近くにいた。
丈人先輩もマノ君の隣に立っている。
「あれ? どうして二人ともここに?」
「どうしても何も、俺達ずっとここにいただろ」
「え? でも、さっきまではあっちに……」
二人は既に拳銃からは手を離していた。
「ちょっと、マノ! アンタ、伊瀬っちに変なことしてないでしょうね?」
「んなこと、してねぇよ」
「丈人君もだよ!」
「俺だって何もしてないよ」
マノ君と丈人先輩がそれぞれ美結さんと那須先輩に詰められる。
「何もしてねぇよな、伊瀬?」
「何もなかったよね、伊瀬君?」
「あ、いや……えっと」
『……』
「な、何もなかったよ!」
一瞬だけ座った目で僕を見た二人の無言の圧力に負けて、僕は適当に誤魔化した。
たぶんだけど、二人のあの目は半分本気だったと思う。
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
次話の投稿は一週間前後を予定しております。
少しでも面白いと思った方、ブックマーク、ポイントをして頂ければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
活動報告も書いています。
よろしければそちらもご覧ください。




