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マイグレーション 〜現実世界に入れ替わり現象を設定してみた〜  作者: 気の言
Phase2 警視庁公安部公安第六課突発性脳死現象対策室

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SS4 (1) 肝試し

「ねぇ、皆! 肝試しに行かない?」


 捜査会議が一通り終わって、六課でまったりとした時間を過ごしていた僕達に突拍子もない誘い文句を言い出してきたのは浮足立った那須先輩だった。

 そんな誘いに僕と丈人先輩、美結さん、市川さんは何事かと驚く。

 手塚課長と深見さんはあいにくと不在だった。


「行かない」


 詳細も聞かずにマノ君は那須先輩に見向きもしないで、間髪入れずに断る。


「そんな即答で断らないでよ~マノ君~」


 マノ君にピシャリと断られたが、那須先輩はめげない。


「マノ君も行こうよ。絶対楽しいよ! それとも……もしかして怖いの?」


 那須先輩の挑発レベルが完凸した技が繰り出される。

 マノ君には効果抜群のようで、眉がピクりと動いた。

 これは相当イラっときたらしい。

 あと、「マノ君()」って何だろう。

 まだ、誰も行くとは言ってないはずなんだけどなぁ……


「あ? 怖いわけないだろ」


「なら、来てくれるよね? 肝試し。怖くないんだったら全然余裕だもんね?」


「……那須先輩に上手く乗せられたようで非常に(しゃく)ですが、いいですよ」


 マノ君がやけに素直に応じた。

 あまりに素直過ぎて、何か裏があるんじゃないかと勘ぐってしまうほどだ。

 それでもマノ君の了承を聞いて、那須先輩は自分の思惑通りに事が進んでご満悦そうな満面の笑みを浮かべる。


「じゃあ、皆で肝試しに行こう!」


 某ゲーム会社の某ゲームキャラクターの某マ〇オみたいに片手を空に突き出しながらジャンプした那須先輩は嬉しそうに叫ぶ。


「はい、ちょっとストップ。波瑠見ちゃん」


 一人ではるか銀河目掛けて突っ走り出した那須先輩を丈人先輩が力尽くで止める。


「え、何?」


 自分がなぜ止められたのか全く分かっていない那須先輩はきょとんとする。


「『何?』じゃないよ。俺達はまだ誰も行くとは言ってないよ」


 丈人先輩がマノ君を除く、僕達全員を指し示す。


「それに、いつ、どこに、肝試しに行くのか俺達は何も聞いてないよね。説明も無しにいきなり肝試しに行こうって言われても誰も来てくれないよ」


 丈人先輩が至極当然のことを那須先輩に諭すように言って聞かせる。


「でも、マノ君は行くって言ってくれたよ?」


 どう考えても反論の余地はないはずなのに、那須先輩は反論をしてくるから強い。


「それはマノ君に(はな)から行く気がないからだよ」


「えっ!? そうなのマノ君!?」


 ギャグ漫画張りに驚いた那須先輩をマノ君はそっぽを向いて無視した。


「ひどいよ~マノ君~」


 那須先輩が固体から液体になったように泣き崩れる。

 よっぽど肝試しに行きたいみたいだ。


「那須先輩、肝試しってどこに行くんですか?」


 あまりにも那須先輩の姿が哀れに写ったのか、市川さんが助け船を出す。


「えっとね、うちの学校」


 出された助け船にすぐさま飛び乗るように那須先輩が答える。


「学校? 肝試しなのに昼間に行くんですか?」


 美結さんが首をひねる。

 僕も同じ気持ちだ。

 昼間の肝試しなんてムードの欠片もない。

 人の気配もなく日の当たりずらい不気味な神社や山奥などならともかく、昼間の学校なんて人がたくさんいて試す肝なんてどこにもない。


「何言ってるの美結ちゃん? 肝試しなんだから夜に決まってるじゃない」


「『何言ってるの?』は波瑠見ちゃんでしょ。夜の学校になんて入れるわけないでしょ」


 丈人先輩がため息混じりに言う。


「あ、それなら大丈夫。ちゃんと、許可は取ってあるんだから!」


 自慢げに那須先輩は腕を組む。

 こういうところは実に用意周到だ。


「許可って誰に?」


「手塚課長」


 手塚課長が夜の学校への入校を許可した驚きよりも納得してしまう気持ちの方が強かった。

 手塚課長なら何となく許可をする姿のイメージが容易に想像できてしまうからだ。

 他の皆も「あぁ~~」という反応をしている。

 それでも、どうして肝試しという理由なんかで許可が下りたのかはわからない。


「あの人、本当に課長なのか? こんなの職権乱用だろ」


 マノ君のぼやきが聞こえてきた。

 うちの学校は訳あって政府が学校を直接管理している。

 その訳というのが僕達で、手塚課長は学校に対して僕達の都合のいいように働きかけることができる力を持っている。

 だから、夜の学校に入る許可も取り付けられるわけだ。


「でも、夜の学校ってちょっと興味あるかも」


「でしょでしょ!」


 興味を示した美結さんに那須先輩が一緒に行こうと猛烈なアタックを仕掛ける。


「あれ? そういえば、うちの学校って七不思議とかってありましたっけ?」


 市川さんが考え込むように顎に人差し指を当てる。

 七不思議――特に、学校の七不思議とは、トイレの花子さん、動く人体模型、13階段、音楽室のピアノ、肖像画の目、4時44分の大鏡、夜の学校の異界などといった子供達の間で語り継がれている学校にまつわる怪談や伝説のことだ。

 地域や学校の特色などによって多少の違いがあるらしく、同じ七不思議と言っても学校が違えばその内容も微妙に違うことが多いようだ。

 それにしても、僕もうちの学校の七不思議の噂は聞いたことがない。

 転校して来てまだ日も浅い僕が言うのも丘と違いかもしれないが、市川さんが言うのなら間違いないのだろう。


「う~ん、ないね」


 少しは思案する様子を見せたものの、那須先輩はあっさりと答える。


「ないのかよ!」


 マノ君が思わず鋭いツッコミを入れる。


「だって、聞いたことなくない? それに私、高校だけじゃなくて小学校も中学校も七不思議とか聞いたことないんだよね。逆に、皆はある?」


 那須先輩に聞かれて皆は過去の記憶を振り返る。

 そう言われてみると、確かに僕も小、中、高と学校の七不思議の噂なんてものは一度も聞いたことがなかった。

 そして、それは皆も同じようで聞いたことがないと首を横に振る。

 そもそも七不思議が流行したのは昭和か、せいぜい平成の初め頃なイメージがある。

 かなりインパクトの強い伝承が残っているような学校ならまだしも、何の伝承も残っていない多くの学校では今日日、七不思議なんて言葉は聞かなくなっている。


「ってか、七不思議もない学校に行って肝試しするとか意味あんのか?」


 マノ君の指摘に僕達も共感せずにはいられない。

 今度は、うんうんと首を縦に振る。


「う~ん……トイレの花子さんとかなら、いそうじゃない? 定番だし」


「……適当過ぎるだろ」


 口をあんぐりと開けて呆れ果てるマノ君に僕達は同情するしかなかった。


「え? いないかな?」


 その反応を自分の提案に対する否定だと思ったのか、那須先輩が少し自信を無くして聞いてくる。


「あ、いや、そうじゃなくて……いるとは……思いますよ?」


 僕は那須先輩に歯切れの悪い言い方しかできなかった。

 正直、いるとも、いないとも言い切れない。

 存在自体があやふやなのが七不思議だ。

 その一つであるトイレの花子さんというのは、七不思議の定番中の定番であることは確かだ。

 学校の校舎三階のトイレで、三番目の扉を三回ノックしてから「花子さん、遊びましょ」と言うと個室からかすかな声で「いいよ」と返事が返ってくる。

 そしてその扉を開けると、赤い吊りスカートを履いたおかっぱ頭の女の子がいて、トイレに引きずりこまれるといった内容の噂が「トイレの花子さん」として世間に広く知られている。


「じゃあ、トイレの花子さんを探しに肝試しに行くことにしよう!」


 おー!っと片手を空に突き出すポーズを那須先輩がとる。

 本当にこの先輩は、安直というか何というか……


「それはいいけど、いつ行くの?」


 丈人先輩が冷静に話を先に進める。


「もちろん、今日だよ! 今日の夜11時くらいに学校の正門前に集合ね!」


 何がどうすればもちろんということになるのかはわからないが、肝試しは今日やるみたいだ。


「今日かぁ……ごめん、波瑠見ちゃん。俺、ちょっと急ぎのレポート課題があるから肝試しには行けないかな」


 丈人先輩は大学生のため、高校生の僕達とは生活リズムが違うところがある。

 那須先輩も、さすがにそこは無理強いすることはできずに渋々と了解していた。


「他の皆は、大丈夫?」


 那須先輩の確認にすぐに頷いたのは美結さんだった。

 夜の学校に興味があるということで即決した様子だった。


「日菜っちは、どうする?」


「……美結が行くなら、せっかくだし私も行こうかな」


 美結さんに釣られる形で市川さんも肝試しの参加を表明する。


「それなら、僕も……行きます」


 二人が行くならと、僕も参加を決意する。


「マノ君は?」


 できればマノ君にも参加して欲しいと思い、僕は声を掛ける。

 女子三人に男子一人というのは、さすがに肩身が狭い。


「悪いな、俺も急ぎの数学の課題が出ていて今日は無理だ」


 僕の願いは届かず、マノ君に断られた。


「アンタんとこの数学の先生は課題なんか出さないでしょ! 嘘付いてないで、一緒に来なさいよ!」


 美結さんに嘘を看破されて、マノ君はもの凄く嫌そうな顔をする。

 余程、肝試しに行くのが面倒くさかったらしい。


「何でお前がそれを知っているんだよ! クラス違うだろ!?」


 ちなみに僕もマノ君と違うクラスだ。

 うちの学校では、数学の授業は学習のレベルに合わせた少人数制となっている。


「ッ! 別にそれはどうでもいいでしょ! とにかく一緒に来なさい!」


 若干、顔を赤くする美結さんだったが、マノ君に肝試しに来るように圧力をかける姿勢は変わらなかった。

 そして、とうとうマノ君は圧力に屈して肝試しに来ることになった。

 僕としては、肩身の狭い思いをしなくて済みそうで助かった。


「よしっ! 今日は皆で肝試しだ~!」


 こうして、レポート課題で来れない丈人先輩を抜かした僕達五人は今日の夜、再び集まって肝試しをすることになった。

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

次話の投稿は明日を予定しております。


少しでも面白いと思った方、ブックマーク、ポイントをして頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。


活動報告も書いています。

よろしければそちらもご覧ください。

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