Tire97 いびき
「俺が知りたかったことはもうわかったので、あとは丈人先輩達が使って下さい」
俺はパソコンの画面から離れて、後ろから覗き込んでいた丈人先輩と場所を代わった。
「もういいの? それなら、遠慮なく使わせてもらおうかな」
今度は丈人先輩を中心に他の奴らが後ろから覗き込む形になる。
一方で、伊瀬だけはパソコンから離れた俺の方へと向かってきた。
「ねぇ、マノ君。僕も丈人先輩達の方を見ててもいいかな?」
伊瀬がそんなことを奥歯に物が挟まったような具合で聞いてくる。
そういや、伊瀬には俺のサポートをしてくれって頼んだっけか。
三木についての捜査は丈人先輩達に頼んだわけだが、伊瀬はそっちの捜査についても気になっているようだ。
しかし、俺のサポートを頼まれた手前言い出しづらかったのだろう。
「いいぞ。こっちは当てが外れたからな。今は、これといってやることもない。伊瀬は丈人先輩達の方を手伝ってやれ」
「わかった。ありがとう」
はにかむような笑顔を見せて、伊瀬は丈人先輩達の方へ踵を返す。
この会話のどこに礼を言う要素があったのかとツッコミたくはなったが、伊瀬らしいと言えば伊瀬らしい。
丈人先輩達と合流した伊瀬を見届けて、俺は自分のデスクへと戻る。
戻る途中、ソファでうつ伏せになって埋もれている那須先輩が目に入った。
那須先輩は微動だにせず、まるで死んでいるかのようだった。
「……」
本当に死んでないよな?
そう思ってしまうぐらいに那須先輩はピクリとも動かなかない。
まぁ、さすがに死んではいないだろう。
最悪、死んでいても問題はないが……万が一のために生存確認はしておくか。
「那須せんぱ――」
生存確認をするため、手を近づけようとした直後――
「フガッ!!」
「ッ!」
ブタの鳴き声のような音ともに那須先輩の体が一度大きく跳ねた。
それと同時に俺の伸ばしかけた手も驚いたことで胸元まで一気に縮む。
声には出さなかったが、マジで驚いた。
道端でひっくり返って死んでいると思っていた蝉がいきなり「ジジッ」と動いた時と同じような感覚だ。
並のお化け屋敷より、こっちの方がよっぽど驚かさせられる。
ってか、今の音はなんだよ。
変人の那須先輩と言えども、華の女子高生であることに変わりはない。
しかし、今の音はそんな華の女子高生から発せられる音では到底なかった。
「何? 今の音?」
「外かな?」
「あ〜たぶん今のは波瑠見ちゃんだね。波瑠見ちゃん、爆睡するとたまにあんな感じのいびきかくんだよ。ちょっと面白いよね」
少し離れたとこでも那須先輩が発した音は聞こえたらしく、伊瀬達も驚いていた。
丈人先輩だけは以前に何度か聞いたことがあったようで、すぐに音の発生源が那須先輩であることを見抜いていた。
それよりも、ちょっと面白いとかいう問題ではなく、女子としてあの音はマズいだろう。
「那須先輩は自分のいびきのこと知ってるんですか?」
「うん? 知らないよ。だって、教えてないからね。そっちの方が面白いでしょ?」
「それは教えてあげた方が……」
声だけでも伊瀬が苦笑いをしている姿が目に浮かぶ。
そろそろ伊瀬も丈人先輩のドS性に気づき始めているはずだ。
かわいそうな那須先輩は放っておいて、俺は自分のデスクに戻った。
俺のパソコンの画面は長時間操作をしていなかったことでスリープモードに移行していた。
適当にエンターキーを叩くと、すぐに画面が明るくなる。
自動で顔認証が起動して、俺の顔を認証してパソコンのロックが解除される。
開かれた画面には、さっきまで画像検索をかけて調べていた三木の映った映像がいくつか表示されている。
とりあえず、今日のところは使う必要はないので俺はタブを閉じていく。
複数あったタブを閉じていくと伊瀬が適当に選んだ事件直前のスクランブル交差点の様子を映した映像が出てくる。
そのタグも閉じようとカーソルを右上に持っていく。
いざ、マウスの上に置かれた人差し指で左クリックをしようとしたとこでなぜか手が止まった。
「……なんだ? これは?」
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