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呪われた公爵令嬢は初恋の王子様に真逆のことしか言えない  作者: 柑橘眼鏡


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第3話 王子様からの想定外のご指名

 学園生活初日。シャルロットは平然とした顔でいながら、大変困っていた。


「それじゃあ、今年の第一クラスの代表はセヴリード君とシャルロット君の二人としますから、そのつもりで」


 第一クラスの主担当である教師のブルバーンが淡々と告げる。教室に拍手の音が響き渡った。


 どうしてこうなってしまったのか。シャルロットは振り返る。

 入学式まではよかった。自分が所属する第一クラスの教室に入るところもよかった。長机と長椅子が複数並ぶ中、中間の位置を確保できたのもよかった。前寄りの席に座るセヴリードと物理的な距離を取れたのもよかった。


 おかしくなったのはその後だ。


 王立学園は生徒同士で盛んに交流を行い、同じ階級だけでなく、違う階級の生徒とも仲を深めることを目的として作られた学園だ。そのため、一年を通して様々な催しや企画が用意されている。

 その中でも初夏に行われるお茶会と冬に行われる舞踏会は、二大行事と呼ばれ、生徒主体で毎年実施されている。その取りまとめをするために、各クラス男女それぞれ1名を代表として用意することになっているのだが――――。


 今年の第一クラスには王太子と公爵令嬢が在籍しているので、周りはこの二人で決まりだと勝手に認識しており、教師のブルバーンも勝手にそうだと決め込んでいた。そして、開始して一分も経たずに決定事項になってしまったのだ。


 先日、シャルロットは両親にセヴリードから距離を取ると言った。にも関わらず、初日から一番近い存在になってしまうのは、大問題だ。


 温かな空気に満ち溢れている中、シャルロットは覚悟を決め、立ち上がる。


「申し訳ございませんが、辞退させていただきます」


 皆の想定を覆すシャルロットの発言は、当然、空気を凍らせた。


「シャルロット君、君が適任だとここにいる君以外の人間がそう思っているんだが……」


 片手で頭を掻きながら、ブルバーンが恐る恐る尋ねる。


「私には荷が重いです。もっと相応しいお方がいます」


「ふむ、公爵令嬢の君より相応しい生徒か。誰を推薦するんだい?」


 困惑した顔でブルバーンは視線を送ってくる。30歳という年齢にも関わらず第一クラスの主担当に抜擢されたブルバーンは国内外でも有名な秀でた学者だ。専門は歴史だが、魔法や植物にも詳しい。そんな優秀な彼にとっても適任者はシャルロットだと考えているようで、彼女の発言を全く理解出来ずにいた。


 シャルロットは静かにその視線を受け止める。


 万が一自分が代表に選ばれそうになった際、シャルロットは断れるように事前に適任者を数人考えていた。

 今のところ一番の候補者は教壇の一番近くで座っている侯爵家の令嬢、ラヴァティだ。文官をまとめる内務大臣を多く輩出している名家で、王立図書館にある書物の半分以上はこの侯爵家の寄贈。

 好奇心旺盛かつ勉強熱心で知識も相当あるラヴァティはセヴリードの支えとして申し分ない。

 本人も滅多にない王太子との交流を前向きに捉えるはすだ。


 事前にラヴァティに根回しをしておくべきだったと後悔しながらも、覚悟を決め、シャルロットは口を開く。


「それはラ――――」


「シャル、僕とじゃ嫌?」


 思いもよらぬ闖入により、シャルロットの作戦は中止させられる。

 セヴリードはシャルロットと同じように立ち上がると、真っ直ぐな視線を彼女に注いだ。

 入学式で姿を見たとはいえ、会話するのは例の茶会ぶり。気まずさと同時にやっぱり素敵だなと思う気持ちが入り交じる。

 シャルロットの心はごちゃごちゃしていたが、貴族の令嬢として身につけた平常心を発揮し、落ち着いて返す。


「嫌というお話ではなく、私には向いておりません。殿下のお側にいてはご迷惑がかかります」


 声は落ち着いていたが、その実、シャルロットは必死だった。隣に立って一年を過ごすだなんて、考えるだけで胸が詰まりそうだ。失言は避けられないし、加えてセヴリードへの想いは増すに違いない。


「シャル、誰に迷惑がかかると考えているのか、よければ教えてくれない?」


 優しく諭すように問いかけられる。答えないわけにはいかないので、素直に返していく。


「それは……。もちろん、殿下に、です」


「そっか、それならよかった。僕はシャルが横にいて迷惑だと思うことはないよ」


 新緑の瞳が安堵と共に輝く。


「理由がそれだけなら、僕はシャルと一緒に代表を務めたいな。もちろん、難しいなら無理にとは言わないけど」


 セヴリードの発言に、シャルロットは思わず胸がときめいてしまう。真っ直ぐに自分が良いと言ってくれるだなんて、そんなの嬉しいに決まっている。

 しかし、素直に嬉しさを表現することが叶わず、方法も忘れてしまったシャルロットは可愛げの無いことを口走ってしまう。


「……私がいいだなんて、殿下は物好きでいらっしゃる」


「物好きでも何でもいいよ。僕はシャルが良いんだから。それで、どうかな」


 ここまで言われて断ることができるだろうか。先生や他の生徒たちの視線もシャルロットに圧をかけてくる。

 それにやっぱり、側にいて良いのなら、側にいたい。例え、第三者から見て迷惑な発言、行動を連発することになったとしても。


「……お受けします」


 さっそく約束を破ってしまった自分に対する嫌悪感。セヴリードへの迷惑を考えず自分の喜びを優先した情けなさ。そして、この一年側にいられる不安と喜び。様々な感情が複雑に絡み合う。


「ありがとう、シャル」


 そんなごちゃごちゃしているシャルロットにセヴリードが柔らかく微笑む。その微笑み一つだけで、心が嬉しいという感情だけになるのだから、仕様もない。


 まとまった場に安心したブルバーンが二人を教壇に来るよう手招きする。セヴリードの横に並ぶと、否が応でも彼の身長の高さを意識してしまう。すらりとした背に、一見細く見える身体は、よく見ると大変鍛えられている。


「そういうわけで、セヴリード君とシャルロット君に決まりました。皆、二人に協力してくださいね」


 ブルバーンの発言を受け、生徒たちはもう一度温かな拍手を送る。


「シャル、よろしくね」


 耳元でシャルロットだけに聞こえるようセヴリードが囁く。好きな人を十年避けていたシャルロットにその囁きは破壊力抜群だった。

 何か口にしても変なことしか言えそうにない。どうしようもないシャルロットは頬を染めながら視線を反らした。

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