84.現王の魔法王討伐
少しばかり、時を遡る。
リンドの父であり現在の純人王国国王であるギルト・アルバートが魔法王を討ったのは、凡そ二十年前のこと。
当時十八歳だった彼は前王だった父からの支援を断り、たった一人の魔法人を連れて魔法王都まで行き着いたのだ。
昼間だったが、曇天のために辺りは薄暗かった。空気もひんやりとしていて、微かに雨の匂いがした。
「―――漸く、大詰めか」
純白の皮鎧と剣を身に着け黒髪を振り乱して旧街道を黙々と歩く彼の耳に、唯一の連れ人の声が届く。
「これでお前との旅も、終われるな」
「それは最後まで役を果たしてから言え」
と返しながら、ギルトは視線を後背へちろと向ける。
するとその視線の先で、二歳年上の茶髪の男が「分かってる」と応えた。
亜麻の素材そのままの色の外套を纏い赤い装飾の剣を携えたその男の名は、グレイ・クリストン。純人王国唯一の魔法人の一族であるクリストン家の当主の長男だ。
魔法に関する才能も悪くないが、それ以上に物事を素早く適切に処理できる才覚のある男だ。そして何より、筋の通らないことを安易に受け入れず権力に対しても靡かない男だ。
―――と言うのが、ギルトの彼に対する評価だった。そしてその評価故に、ギルトは彼を連れて行くと決めた。重きを置くことは違うものの、ギルトもまた「筋が通っていること」を大事にしていたからだ。
ギルトは「慣習」と言うものを好まない。先人たちが続けてきたことを何も考えずに是とし、ただ倣うばかりの人間が嫌いだった。
アルバート家は歴史が長いだけに、そうした「遺物」があちこちに残っていた。
「出立の儀」にしてもそうだ。あんな儀式のために重役を集めるなど、時間の無駄だ。そのため彼が旅立つ際には、可能な限り簡素にするように父に直訴した。兄のレイドからはそのことで色々文句を付けられたが。二歳年上の彼は長男として伝統と格式を教え込まれていたようなので、ギルトの振る舞いが許せなかったのだろう。
しかしギルトは、ただ繰り返すことを良しとしない。無駄なことはしない。
故に今もこうして、たった二人で旅をしているのだ。足手纏いを引き連れるつもりは無かった。
それに、これからやろうとしていることをあまり多くの人間に知られるのも都合が悪い。
「ところで、どうやって入るつもりだ?」
グレイに問われ、ギルトは前を向いてすぐ答えた。
「上だ」
「……また、俺が忙しいんだな」
答えると彼からは、溜息交じりの声が聞こえてくる。
「まあ、犠牲が少なくて済むと言う意味では俺も賛成だが……」
「それは俺が早く目的地に着くことより優先されることでは無い」
と釘を刺すと、しかしグレイも言い返してきた。
「なら、最小の犠牲で一番早く着けるようにしてやる」
その言葉に、ギルトはくっと思わず笑う。
こう言える男だから、旅の連れに選んだのだ。
「やって見せろ」
言って、ギルトは走り出す。
するとその後を追従するグレイの足音も聞こえてくる。
前方に魔法王都の門が迫ると、その傍の石壁から一斉に矢が放たれる。
だが、それと同時に背後からも声が上がる。
「突風!」
その詠唱で、ギルトとグレイとを風の渦が囲った。
大風に煽られ、ギルトたちを目掛けて飛んできた矢は全て逸れていく。
「行くぞ」
「ああ」
グレイの声に返事すると、二人を囲っていた空気の流れは彼らの足元の方へ集まってくる。それと同時にギルトたちが跳ぶと、風が彼らを下から強く吹き上げた。
高く。
高く。
大きな魔法王都の門を見下ろせる位置まで、二人は跳び上がる。
それから徐々に落下し始めた頃になって、綴りを終えたグレイがまた魔法を唱えた。
「突風」
その風に身体を支えられながら、二人は無事に門の上へと着地した。
そしてギルトたちは、そのまま石壁の上を伝って街の奥へと進んで行く。
その先にまた門が見えるが、その傍の壁からの攻撃はグレイが許さない。
「氷結!」
彼が先んじて綴り、詠唱する。
敵に先手を取られないため……と言うことは勿論だが、グレイはギルトを動かさないためにも素早く行動する。
ギルトが動けば、一切の躊躇も容赦も無く敵を殺す。
これまでの旅路で、グレイはそのことを思い知ったらしかった。
故に行く先に待つ障害は、グレイが全て片付けてくれた。
敵兵の攻撃可能な範囲に入る前に、より遠方から正確に狙える彼が氷の魔法で相手の行動を封じる。
攻撃されても、風の渦を巻き起こして全て逸らす。風はそのまま相手を吹き飛ばす反撃にも使い、グレイの魔法人としての弱点である詠唱の合間を埋めた。
そうしてグレイの活躍によって二人は、王城を取り囲む壁の上までやってきた。
「落石」
グレイの詠唱で、大岩が城に打ち当たる。当然建物自体はそれくらいで崩壊しないが、その上部に付いた小さな鎧戸を破壊するには十分だ。その一撃で圧し折れて、下へ落ちた。
「……流石に、彼処を二人正確に潜らす自信は無い」
次の魔法を綴りながら、グレイはそう言う。
「だが時間も惜しい。二人纏めて飛ばすから、引き上げてくれ」
「引き上げられるようならな」
そう返事するとグレイは物言いたげにこちらを見たが、何も言わずにすぐ行動を起こした。
「突風」
グレイの声で吹いた風は、二人を高い石壁からさらに高い王城の窓まで一気に飛ばす。
そしてグレイの狙い通り、ギルトは正確に窓の枠を潜った。
続いて落ちてきたグレイは目標よりやや下方に向かったが、ギルトが窓から手を伸ばすとその腕を掴むことができた。
しかし窓枠に片手を引っ掛けたグレイのもう一方の腕を引き上げようとしたところで、その部屋の戸がどんと蹴破られる。
それでギルトは、早々にその手を離した。
「おいっ―――!」
「お前は下から来て、帰り道を作っておけ」
体勢を崩して転落するグレイに一方的にそう告げて、ギルトは内へと向き直った。
「アルバートが仲間と離れたぞ! 好機だ!」
「好機?」
部屋に入ってきた紅い皮鎧を纏った兵たちの声に、ギルトは静かに返す。
そして凍て付くような冷たい視線を彼らに向けながら、右手で退魔剣を抜いた。
「違うな。お前たちは、命が助かる可能性を失ったんだ」
「はあ? 何を言って―――」
その兵士の声は、最後まで続かなかった。
素早く踏み込んだギルトが振り薙いだ風のような速さの刃の先が、兵士の着ていた皮鎧と顎との僅かな間を抜けて喉を掻っ切ったのだ。
「―――ッ!」
兵士が首から血を噴きながら、声にならない悲鳴を上げる。
それを皮切りにして、他の兵たちがわっと襲い掛かってきた。数は見える限りで十数人。部屋の外にはもっと多くが控えているだろう。
だが、ギルトは全く怯まなかった。
自らも真っ直ぐに兵たちの方へ向かって駆け、正面にいた一人の脇腹付近に刃を突き立てる。さらに振り返り様に、もう一人の腿を斬り付ける。
それらは全て、鎧の僅かな継ぎ目への正確な攻撃だった。並みの戦士にできる芸当では無い。
そのギルトの戦いぶりに、兵たちは動揺する。そうなってしまえば、あとは一方的な「狩り」だ。
剣で斬るにも槍で突くにも彼らの狙いは定まらず、そんな状態では数がいるだけ却って互いに手を出せなくなる。
その混乱の中を駆けながら、ギルトは正確無比な剣捌きで容赦無く彼らを切り捨てていく。
すると間も無く、兵たちは部屋の外へ撤退し始めた。
だがギルトもそれを追って、部屋を出る。
廊下へ出るとその奥から魔法を唱える声も聞こえるが、退魔の力を持つギルトには通じない。全ては幻のように消失する。
兵たちはギルトによって数を削られながらずるずると廊下を後退し、階下へ下りて、また後退する。
そうしてその廊下の最奥の大きな扉の前まで退いたところで、ぎいと音立ててその扉が開かれた。
「退け。この中で戦え」
やや嗄れた低い声が部屋から聞こえ、それに従って兵士たちは中へ傾れ込んだ。
ギルトも彼らを追ってそこへ入ると、こちらに背を向けた王座が目に入った。どうやらここは、アルバートの王城で言う所の謁見の間らしい。
「全く……。そちらから迎えることになるとはな」
呆れ交じりの声がして、そちらを見やれば武器を構える兵たちの後方―――広間の下手側に、上等な深紅のローブとマントを纏い王冠を戴いた老齢の男がいた。
その姿から察するに、本来数段高い位置にある王座側に立ってアルバートを見下ろす人間……即ち、魔法王なのだろう。
「あまり良い兵が揃えられていないようだな」
ギルトが声を向けると、彼は長い白髭に触れながらふっと息を漏らす。
「力ある者もいるが、彼らは下で君を迎える予定だったからな。―――まあ、これはこれで良い」
「確かに。魔法王国として、失うのはお前の首一つで済むな」
そう返すギルトに対して魔法王はまた静かに笑い、そして兵たちに指示した。
「半数は外から詠唱。残りは武器を取って直接仕掛けろ。……お前たちの忠義を示してくれ」
「はっ!」
魔法王からの直々の命令で気合いが入ったのか、将又逃げ場を失って覚悟を決めたのか、兵たちは声を上げてギルトを囲うように広がる。残っている兵の総数は三十と言ったところか。
ギルトは自分を取り囲もうとする彼らに対して、特に気にすることも無く広間の中央へ下りて行く。
そして、戦いは再び始まった。
剣や槍を握った兵士が束になって襲い掛かってくる。だがその一つ一つをギルトは難無く右に左に躱す。そして即座に確実に相手の身を突き、裂いた。
「燃焼!」
「氷結!」
と外からは詠唱する声も聞こえるが、無論ギルトには通じない。
その左手に力を込めれば、周囲に現れる炎や氷は忽ち消えてしまう。
しかも、接近戦を仕掛けてきている者たちの動きも恐怖によって鈍る。
戦場は、たった一人の青年に支配されていた。
「散れ! 散って戦え!」
とそこへ魔法王の指示が飛ぶ。
「詠唱も継続しろ!」
「―――無駄なことを」
呟きながら、ギルトはまた一人の兵の首に刃を突き立てた。
血が噴き上がり、彼の白い鎧を赤く染める。
実際、魔法王の指示で戦況が変わることは無かった。兵たちの剣も魔法も、ギルトには届かなかった。
彼らがギルトから奪えたのは若干の時間くらいだ。しかしその間に増援の兵が来ることも魔法王が逃げ果せることも無かったので、その時間に大して意味は無かった。
「次は、お前だ」
部屋の中央で最後の一人を斬り捨てて剣を払うと、ギルトはその視線を魔法王の方へ向ける。
広い謁見の間には、彼方此方に兵の躯が転がっていた。床も、壁も、天井さえも赤に染まっている。無論、ギルトの身も。
王は、いつの間にやら王座の後ろに立っていた。
そして身体を支えるように、座の榻背に手を掛けていた。
「……いや、参った。やはりアルバートには、退魔の力以外にも特別な武の才が備わっているようだな」
「アルバートが特別なのでは無い」
と王の言葉にギルトは、静かな口調で返す。
「その中の『特別』だけがここへ来ているから、そう見えるだけだ。俺の兄はそうで無いから、俺が王位継承権を得てもここへは来ない。弟は、分からないが」
「なるほど。つまり、君が特別なのだな」
言って、魔法王は肩を竦めた。
「『特別』の君に、正攻法で立ち向かっても勝てぬな。―――だが、命を賭した者たちに報いねばならん。無駄死にでは無かったと、言ってやらねばな」
その言葉に若干の違和感を覚えて、ギルトは「何が言いたい」と問おうとした。
だがその前に、魔法王は口を開いた。
「突風」
それが詠唱であると理解した瞬間に、ギルトは退魔の力を使った。
だが、風は起こった。力の範囲外である広間の壁際の方で。
その一瞬の大風自体がギルトに及ぼす危険は無い。
しかし激しい風は、兵の躯やその手から離れた武具をギルトに向かって吹き飛ばしていた。
それらに対して、退魔の力は無力だった。
全方位から無作為に飛んでくる死体と、その間を抜けて或いはそれを貫通して降ってくる武器。
降り注ぐ脅威を前にしてギルトは、一気に集中を高めるようにその目を見開いた。
そして。
「……ふむ。我が兵たちの忠義を、称えねばな」
王座を盾に身を守っていた魔法王が、そこから出てきて言う。
部屋の中央には、折り重なった死体とそこに幾本も突き立つ刃があった。
しかし突如として、その山は高さを増してばたばたと屍と刃とを周囲に散らした。
それで魔法王は、驚きに目を見開く。
「まさか、まだ―――」
「今ので俺を仕留めるなら、武具だけを飛ばす工夫をすべきだったな」
王が言う前に、ギルトが声を上げた。そして躯の山から跳び出す。
傷は負ったものの、その中に致命的なものは一切無い。
正面への攻撃は全て右手に握った剣で捌き、背面は左肩に背負った死体で防いでいた。
王座の方へ向かって跳び出したギルトはあっという間に魔法王の眼前まで駆け、退きながら剣を抜こうとした王のその右手を斬り落とした。
「うわぁァッ……!」
悲鳴を上げる王をギルトは蹴倒して、俯せの状態で床に押し付ける。
それから王の背のマントを裂いて彼の右手首に巻き付け、出血量を抑えた。
「ぐうゥッ……!」
「訊きたいことがある」
とギルトは、魔法王を床に押し付けたまま問う。
「魔法原書はどこだ」
「何故、それをお前に、言わねば―――!」
「俺はこの戦いが漫然と続けられることが気に食わないんだ」
彼はそう答え、さらに言葉を継いだ。
「アルバート王家の安定に、魔法王国の脅威は必要だ。だが、純人王国と対等である必要は無い。削げる力は削いでしまった方が良い」
「そんなことを口にする人間に、私が教えるわけが―――」
「原書が手に入らないなら、ソートリッジを減らすと言う手もある」
ギルトが冷酷に言い放つと、魔法王は自身を落ち着かせるように瞑目する。
だがその彼に、ギルトはさらに言う。
「この螺旋の街……、随分と地下に余裕がありそうだな。弱者を匿っておけるくらいの空間がありそうだ。―――いるのはお前の妻か? 子か? それとも、孫か?」
「待てっ! そのような非道は、アルバートの歴史にも汚点を残すことになるぞ!」
「構わない。アルバート王家の歴史そのものが続くのであれば、それは俺にとっての功績だ」
冷淡に述べるギルトを前に、魔法王はぐっと歯噛みする。
それから、諦めたように息を吐き出した。
「……離せ。原書の在り処へ行く」
それを聞いてギルトが退くと、王は苦しげに立ち上がる。そして王座に向かって奥の扉―――ギルトが先に入ってきた扉の方へと歩み出す。
ギルトがそれを追おうとした、―――その時だった。
突然、広間の下手の方の扉がばんと開かれる。
見れば、紅い鎧と兜を身に着けた兵が一人立っていた。
「来たか……!」
と魔法王が呟き、
「遅かったな」
とギルトも、口にした。
その彼の方へ、兵が近づいてくる。
「ギルト……、もう少し何とかならなかったのか」
と兵士は声を向けてきた。この広間の惨状のことを言っているのだろう。
その言葉を耳にして、魔法王の表情は期待から落胆に変わった。
「帰り道は開けたのか」
相手の問いは無視してギルトが問うと、兵は首を横に振る。そして、彼は兜を脱いだ。
当然そこにあるのは、グレイの顔だ。
「開けるならこんな格好で潜入なんてしない。こっちは今増援の兵が来られないように塞いであるんだ。帰り道には使えない。『蓋』が壊される前に、早く窓から出るぞ」
「ああ。探し物を手に入れたらな」
「探し物……?」
眉根を寄せるグレイを余所に、ギルトは魔法王の紅いローブの襟刳りを掴んだ。そして王を半ば引き摺るようにして先を急ぐ。
「早くしろ。原書を得られなければ、俺の手段が変わるだけだぞ」
「ぐうッ……」
魔法王は呻きながらも、その足を速めた。
その後ろから、グレイが問うてくる。
「原書を手に入れるだと? どういうことだ。聞いてないぞ」
「話していないからな」
と返したギルトは「話は後だ」と言って足早に歩を進めた。
ギルトたちを先導する魔法王は、廊下の奥―――謁見の間とは反対の端にある部屋に入った。
そこは書庫のようで、四方に書が詰まった高い棚があった。書庫自体はアルバートの王城にもあるので珍しくないが、収められているそれらの中身は恐らく純人王国のものと全く異なるのだろう。
王は部屋の奥の方にある棚から、一冊の書を抜き出す。しかしそれはその場に放って、懐から左手で鍵を取り出すと本を抜いたそこから棚の奥に突っ込んだ。
どうやらそこに、鍵付きの隠し棚か何かがあるらしい。
魔法王は棚の奥に左手を突っ込んだまま、暫くごそごそやっていた。
だがやがて、そこから手を引き抜く。ことん、と何かが落ちる音をギルトの耳は捉えた。
「コレだ」
と言って王が差し出してきたものは、確かに原書のようだった。ギルトもクリストンの原書を見たことがあるので、外観は同じと分かる。
受け取って、ギルトは念のためグレイに中身を確認させる。
彼は書の頁をぱらぱらと素早く繰って目を通すと、
「間違い無い」
と言ってギルトに返す。
それを受け取って、ギルトは「そうか」と口にした。
それから、―――その原書を床に放った。
「っ!? 何を……」
と魔法王が困惑する声を漏らすが、そんな彼をギルトは突き飛ばす。
そして、今し方開かれた棚の奥に手を突っ込む。
「おいっ、そこにはもう何も―――」
「クリストンの原書には、あったんだ」
と王に言葉を返しながら、ギルトはすぐに手を引き抜く。
その手には、紅い石が握られている。
「外して原書を寄越したと言うことは、この石の方が重要なのだろう」
「金になるものだから、外しただけだ! それ以上の意味は―――」
言いかける魔法王の脚に、ギルトの剣が突き立てられた。
「ああッ……!」
「ギルト!」
とグレイが割って入ろうとするが、ギルトは動かない。
「最終的には殺すんだ。問題無いだろう」
「あるに決まってるだろ!」
「お前は、クリストンだな……?」
魔法王が苦痛に顔を歪めながら、グレイに呼び掛ける。
「頼む……。私を早く龍神様の元に―――ああッ!」
「俺の質問に答えろ」
ギルトは刃を捩じ込むように動かしながら冷淡に言う。ごりごりと王の脚の骨が音を立てた。
だが次の瞬間、ギルトの頬に強い衝撃が起こった。
蹌踉ける間に、彼を殴ったグレイが魔法王の元へ駆け寄る。そして腰に差した剣を抜くと、
「失礼」
と短く言って、王の首を刎ねた。
勢いよく血が噴き上がる。
「グレイ、勝手なことを―――」
「行くぞ」
とグレイはギルトの声を遮って、血の雨が降る中で魔法王の首をギルトに突き出した。
「お前の暴虐に付き合うのは、もう沢山だ……!」
「……まあいい」
死んでしまったものは、もうどうしようも無い。
ギルトは出血した口元をぐいと拭うと、紅い石と王の首と序でにその頭に戴かれていた王冠を持って部屋を出た。
そうして、彼の魔法王討伐の戦いは終わった。




