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不浄のアルバ  作者: 北郷 信羅
第5章 幾つもの正義が魔法王都に集いて
81/106

81.偽英雄と伏兵

 ソートリッジは特別な力を有した魔法人の一族だと、以前にアリアから聞いた。

 魔法を使うために綴りを要せず、ただ唱えるだけで発動できる。よって戦闘における魔法の欠点である「綴りの間」が生じない。

 彼女らが長く魔法王の座に着いていられた理由の一つは、その力にあるのだろう。


 綴る必要が無いと、不意を打つこともできる。

 現にリンドも、動かないミネアの最初の詠唱に気付けなかった。

 突如として燃え上がった炎を目にして、その力の危険性を改めて認識した。


 だが、二度目は無い。

 次いで放たれた氷の魔法に対してリンドは退魔の力を展開し、ミネアとラークもその領域に収める。

 後背のニーナとフレアには届いていないはずだし、彼女らも彼女らで対応しているはずだ。

 二人とリンドとが共に戦うのは、今日が初めてでは無いのだから。


「そう言えば、お前は綴りが要らなかったな」


 リンドは、苦しげに胸に手を当てているミネアを見下ろして言う。


「だが、アルバート(おれ)にとっては大した違いじゃない」

「……そうか、コレなのだな」


 とミネアが、忌々(いまいま)しげに言葉を吐いた。

 その傍にはラークが付いて、彼女を気遣う。


「私から祖父(じい)様を(とう)様を奪ったのは、この力なのだな……!」


 ミネアの鋭い視線が、リンドを射貫く。

 しかし直後に、彼女は笑んだ。


「父様、ミネアは父様たちの(かたき)を今討ちます……!」


 そう言って、その右手を掲げる。


魔法(それ)はもう―――」


 と返そうとした所で、リンドは異変に気付いた。


 突然、風が吹き抜けたかのように周りを囲う赤い垂れ幕が一斉にはためく。

 無論、窓が無いこの空間にそんな強い風など吹くはずも無い。

 幕を揺らしたのは風で無く、人だった。


 幕を勢いよく()けて、(あか)い外套を纏った兵たちが姿を現す。

 四方から出てきてリンドたちを囲むその数は、少なくとも三十。

 その彼らは外套の下から魔法を綴り終えた右手……で無く弓を差し出して引き絞る。


 退魔の力を満遍(まんべん)なく広げても、彼らの矢を離すだけの行動を止めることはできない。

 リンドは瞬時に考え、結論を出す。彼に為す術は無いのだ。―――彼には。

 故にリンドは、ただ自分にできる「その先」を見据えた。


氷結(イーシェ)っ!」


 後方から聞こえる叫び。

 その声で、広間の壁を一瞬で氷が覆った。


 フレアは―――否、恐らくニーナはこの伏兵に(いち)早く気付いたのだろう。そしてそのことを知らされたフレアが、魔法を準備していたのだ。

 退魔の力の影響がどこまで及んでいるのか、その範囲をフレアは知覚しているようだった。彼女の氷の魔法は、リンドの力の領域を確実に避けて展開されていた。

 その魔法によって、兵士たちは身体を拘束される。


「くそっ……!」


 と口にして、ラークが飛び出す。

 だが、それはリンドが既に睨んでいた未来だ。

 故に彼は先んじて相手に向かって踏み込んでおり、想定通りに全力で剣を振り薙ぐ。

 熟達した剣士と見られるラークでも、そのリンドの先手を上手く受け流すことはできなかった。


 ラークは強い衝撃を真正面から剣で受ける形になり、()ね飛ぶ。

 体勢は崩すこと無く綺麗に着地するが、リンドからすれば目的は十分果たされている。

 ラークとミネアとの間には、距離が空いていた。


「ぐッ―――!」


 とミネアが焦りの表情を浮かべて腰の短剣を抜き、ラークがそこへ戻ろうと駆ける。

 対してリンドは、迷うこと無くラークにぶつかっていく。

 それで役割は、言わなくても決まる。


 リンドがラークと剣を打ち合わせた瞬間に、その背後を白い閃光が走る。

 それはミネアが振るう短剣を簡単に撥ね上げて、彼女を押し倒した。


 その小さな左手が、ミネアの右手首を掴む。細い右腕は彼女の左腕を押さえ付けて、白い右手が彼女の口に突っ込まれた。

 そうなってしまえばもう、ミネアが自身の力でその拘束を解くことはできない。


「あー、噛んじゃダメ。ダメですよー。そんなことすると、―――舌引っこ抜いちゃいますよ?」


 ニーナが不敵に笑むと、ミネアの目が恐怖に見開かれた。


「ニーナ、急ぐなよ。死んだら原書の在りかが分からない」


 リンドも敢えて不安を掻き立てるように言うと、ラークが「貴様ァッ!」と青筋を立てて向かってくる。

 だがそうして冷静さを欠いてくれたお陰で、その剣の使い手にも隙が見えた。


 リンドは真正面から振り下ろされた剣を受け流すと、素早く剣を返してラークへ斬り返す。

 ラークは咄嗟に左腕で胴を庇い、そこへ刃―――が無い側の剣身を受ける。


 その打撃の衝撃による所もあるだろうが、さらに剣に乗せられたより強い退魔の力を受けたことでラークの表情が歪む。

 彼は体勢を崩し、剣を受けたその衝撃のままに石の床に転がった。


 一先ずは片が付いて、リンドはふうと息を吐き出す。

 それから、この場にいる全ての魔法王国の人間に向けて言った。


「力の差を知れ。お前たちでは、俺たちに勝てない。観念して剣を収めろ」


 氷の魔法で拘束した兵たちを背にフレアはふんと息を吐き、床に押さえ付けたミネアを見下ろしてニーナは不敵に笑み、地に伏したラークを前にリンドは淡々と告げる。

 リンド・アルバートと仲間たちは、その実力を魔法王の城ではっきりと示した。


 ―――しかし。

 ミネアは、それでも抗う。

 (もが)き、その口を大きく開いて曖昧な音を吐く。


「ひゅう、い、を!」

「静かにして下さいよ。ホントに舌―――」

「ひゅういを! ひえへッ……!」


 ニーナに押さえ付けられながら吐いた、決して大きくない少女の声。

 だがそれに、周囲の兵たちが反応する。


「忠義を……」

「忠義を示せ……!」


 その声は、ざわざわと徐々に広がっていく。


「忠義を!」

「我らの忠義を示せっ!」

「何よ、これ……」


 その異様な雰囲気に、フレアが気味悪そうに声を漏らす。


「―――忠義を」


 兵たちの声に、やがてリンドの前に伏していた男も反応した。


「王妃様……。私は、私は貴女(あなた)との約束を忘れておりません……!」

「王妃? 前王のか」


 リンドが問うても、彼は答えない。

 ただ(うずくま)り、呻くように低い声を漏らす。


「あの日私は、ミネア様を守るとお誓い致しました。……だから、」


 と言って、彼はリンドを見上げた。

 その目は見開かれていて、背筋が凍るような不気味さをリンドは感じた。


「忠義を示す。我らのソートリッジ王家への、忠義を―――!」


 ダートが右手を差し向けてくる。

 いつの間にかその手は、剣を放していた。


燃焼(フィーレ)


 彼の詠唱とほぼ同時にリンドは退魔の力を展開し、自分とその後ろにいるニーナやフレアを炎の魔法から守った。―――つもりだった。


 しかし魔法は、全く別の方へ向けて放たれていた。

 壁の傍だ。そこに掛かった垂れ幕を伝って炎が燃え広がり、身体を氷に包まれた兵士たちを焼く。


「正気っ!?」

「フレア構えろ!」


 動揺するフレアにリンドは声を飛ばす。そして炎だけを消し去ろうと退魔の力を広げ―――ようとしたが、そこへ再び剣を握ったラークが斬りかかってきた。

 すぐに対応するが、彼の剣を受けながら周囲へ向かって退魔の力を操ることはできない。そんな余裕を相手は与えてくれない。


 リンドがラークと打ち合っている間に氷は解けていき、凍傷と火傷とを負いながらも動けるようになった兵の一部が矢を放つ。

 狙いは、ミネアを取り押さえているニーナだ。


 軽くない傷を負いながら彼らが放つ矢は、狙いが定まっていない。故に多くが的を外れて、ニーナを挟んだ反対側に立つ別の兵の腕や脚に突き刺さる。

 下手をすればミネアにも当たりかねない。しかしミネアはそれを止めず、兵たちも射を躊躇(ためら)わない。


 そうして間も無く、矢の一本がニーナを捉えた。


「ぐっ、う……!」


 背側の左肩に矢を受けて、ニーナが呻く。

 だが、その場から動くことはしない。


「この程度で……、私は倒れねェですよッ!」


 ニーナは叫ぶ。

 そこへまた、さらに一本の矢が飛んできて彼女の右腰に突き刺さる。

 彼女の表情が痛苦に歪んだ。


氷結(イーシェ)ッ!」


 とフレアが叫び、再び兵たちを氷に閉じ込めていく。しかしばらばらに動き出した彼らを一度に拘束することは難しく、一部を捕らえてもすぐに別の方から「燃焼(フィーレ)!」と兵が声を上げて氷をまた解かしてしまう。


 それでもフレアは負けじとまた綴り、その右手を兵士に差し向ける。―――が、その(てのひら)を飛んできた矢の先端が貫いた。


「いッ……!」


 声を漏らし、フレアがその強い痛みに膝を突く。

 そこへ兵士が襲い掛かって来るが、その兵も飛び交う矢の一本を身に受けてその場に崩れる。


 広間は、地獄と化していた。


 (やじり)が貫通した右手をだらりと下ろして歯を食い縛るフレアを見て、左肩と右腰に矢を受けながら叫ぶニーナを見て、―――リンドはぎりと歯噛みした。


 何故、こうなるのか。

 アルバートは、どうしても血に(まみ)れねばならないのか。

 魔法王国とは、殺し殺されを繰り返さねばならないのか。

 ―――そんなことは、許さない。


 リンドは身体を広間の中央へ向け、駆け出す。

 それを阻止しようと右方向からラークが剣を薙いで来たが、退()かずに受けずに身を避けながら強引に突破する。刃先が右脇腹を裂いて痛みが走るが、足は止めない。


 そうして部屋の中央付近まで行くと、リンドは剣を両手で握って大きく振り回した。

 ひゅっと、彼が振るう剣が風を切る音が鳴る。


 その刃先は誰にも届かない。だがその延長線は、ニーナとフレアを避けて広間を一周した。

 そしてその直後、リンドの振るった剣の延長線上にいた多くの兵がどさどさと倒れた。


 だが、まだ立っている者もいる。

 リンドはもう一度退魔の力を乗せた剣を振ろうとするが、そこへラークが突っ込んで来る。

 彼もまた、その攻撃を避けていたのだ。


「死ねアルバートォッ!」

「俺をあいつらと一緒にするなっ……!」


 剣をぶつけ合わせ、リンドもラークも互いに撥ね飛ぶ。

 それからもう一度駆け出し―――。


「そこまでですっ!」


 不意に、声がした。

 耳を(つんざ)くような、高く大きくよく通る声。


 それを聞いて思わず、リンドとラークとはぴたと動きを止める。

 周りも同じだった。皆が動きを止めて、声のした方を見やっている。


 声の主は、奥の階段を上がった所にある扉の前にいた。

 いつの間にか開かれていたその扉の前で背筋を伸ばして立っていたのは、長い黒髪の若い女だった。朱色の簡素で丈が長い一繋ぎの衣を身に纏っており、頭と耳には銀の装飾具を着けている。

 凛と(たたず)むその雰囲気も含めて、王妃を思わせる姿の人物だった。


「リンド・アルバート様。剣をお収め下さい」


 と彼女は先よりも抑えた声で、しかしはっきりとした口調で言う。

 だがリンドにしてみれば、行き成り言われてそれに従えるはずが無い。


「誰だ」

「申し遅れました。サラ・イージスと申します」

「イージス?」


 とその単語に反応を返すと、彼女はそれについて補足する。


「魔法王マーシャル・イージスの義理の姉です」


 それに「そうか」と返してから、リンドは次に先の問いについて問うた。


「この状況で剣を収めて、俺たちにどんな益がある」

「どの程度あなた様にとって利があるのかは、後の交渉次第です」

 

 とサラは答える。

 そしてさらに続けた。


「―――しかし、剣を収めないことによる害は明確にございます」


 彼女の視線はリンドから外れ、その後方へ向く。

 その視線を追うと、そこにはフレアにナイフを突き付けるロゼの姿があった。


「やっぱりこうなったじゃない……」


 とフレアが右手の傷の痛みに耐えるように表情を歪ませながら漏らす。

 そして、その目をぎろりとロゼに向けた。


「そんなナイフで、私は止められないわよ……!」

「どうか、お()め下さい」


 とロゼが静かに言葉を返す。


「あなた方に、手荒な真似はしたくありませんので」

「言ってくれるわね。でも(おど)されたって私は―――」

「フレア、いい。動くな」


 それを制して、リンドは再びサラの方を向いた。

 そして暫し、睨むように彼女の目を見る。


 彼女は、目を逸らさなかった。

 その黒い瞳も()んでいて、揺るがない。


 それでリンドは、ふーっと息を長く吐き出す。

 そしてその左手に握っていた剣を、鞘に収めた。


「リンドさん!」

「リンド!」


 と仲間たちから声が上がるが、彼はそれに(かぶり)を振って応える。


「……止めてくれるって言うなら、俺も望む所だ。俺は、殺し合いをしに来たわけでは無いからな」

「ミネア様も、解放して頂けますか」


 サラの声を受けて、リンドは視線をニーナに向けた。


「ニーナ、離してやれ」

「でもリンドさん!」

「頼む」


 傷付きながらもミネアを取り押さえていた彼女にとって、気分の良い話ではあるまい。それでもリンドは、彼女の方を真っ直ぐ向きその目を見て頼んだ。

 それでニーナは、渋々とミネアから離れてリンドの元へ戻ってきた。


 ようやく解放されたミネアはかっかと笑って、階上の扉の前に立つサラに視線を向けた。


「よくやったぞサラ・イージス! 反王制を(うた)うだけの使えない女かと思っていたが……、褒めて遣わすぞ!」

「これで大分、形勢は有利になったな」


 とラークも、サラに声を向ける。


「これまで魔法王国(おれたち)が苦しめられてきた分、リンド・アルバートには報いを受けて―――」

「いいえ、ラーク」


 と、それをサラが遮った。


「あなたも剣を収めるの」

「……何?」


 ラークが眉根を寄せる。

 だがそれを気にする様子も見せず、サラは次いで視線をミネアに向けた。


「ミネア様も。兵をお退()き下さい」

「貴様―――、どういうつもりだっ!?」


 ミネアが怒りを露わにして叫ぶが、サラは動じない。

 ただ静かに、告げる。


「戦いを終わらせるつもり、です。さあ、お早く兵を―――」

「退くわけが無かろう! 今こそアルバートに―――!」

「退かなければ、力を(もっ)て鎮圧致します」


 言って、サラは後方―――広間の外へちらと目を向ける。

 するとそちらから、ざっざと朱色の鎧を身に着けた兵士たちが姿を現した。


 驚くミネアとラークを前に、サラは淡々と告げる。


「こちらに百、おります。それから階下にも百。ミネア様の優秀な兵であっても、三十ほどの数でしかも手負いの状態でこれらを殲滅するのは難しいかと存じます」

「二百、だと?」


 とそれにラークが反応する。

 そして、激昂(げきこう)した。


「サラ! アルバートを討つため前王軍と共闘している最中に、兵を温存していたのか!? その勝手の所為(せい)で、アルバートはここまで―――!」

「ラーク、違うの。『温存』では無いの」


 対するサラは、冷静に応える。


「私の考えに賛同して下さった議会派の兵士の方々には、リンド様をここまでお通しするために協力して頂いたの」

「何……!?」

「貴様らは……、アルバートに寝返って我らの邪魔をしていたと言うのかッ!?」


 ミネアが叫ぶ。

 一方でリンドは「そういうことか」と納得していた。兵の動きが鈍かったのは、彼女の兵が他の兵の足を引っ張っていたためだったのだ。

 思い返してみれば、王城(ここ)に来るまでに目にした兵は皆紅い鎧を纏った前王軍の兵だった。


 しかし「寝返った」と言うミネアの言葉に、サラは首を横に振った。


「リンド様がお話の通じる方で無ければ、彼らも防戦に加わっていました。ですが、そうで無かった。―――そうですね、ロゼ」


 サラが声を向けると、ロゼはフレアに向けていたナイフを収めて「はい」と答えた。

 どうやらロゼの本当の(あるじ)は、サラだったらしい。その様子を見るに、城を追い出された……と言う話も嘘なのだろう。


 ロゼは、はきはきとした口調で述べる。


「サラ様のご指示通りこの方に接触し、監視致しました。その結果として、お話が通じる相手であると判断致しました」

「侍女風情(ふぜい)が、勝手に判断するで無い!」


 とミネアが噛み付くが、それをサラが「違います」と制する。


「私が出向けないので、信頼できる彼女に判断させたのです。彼女にはリンド様を見極めてもらい、不適当と判断した時点で合図を出して兵たちと共に討つように命じておりました」


 それを聞きながら、リンドはロゼに目を向ける。

 始めは何も知らないような素振りで非協力的だった彼女が徐々に協力的に変わっていったことも、そういう裏があったと言うなら頷ける。


「討つとなれば真っ先に命を賭して戦い、討たないでも判断の責任を問われる重役です。それでも、ロゼは担ってくれました。―――ですから、彼女を非難することは私が許しません」

「私はミネア・ソートリッジだぞ! イージスなどに許す許さないを決められる(いわ)れは―――!」

「ミネア様がここへいらっしゃってからずっと、私は申しているはずです。あなた様を王とは認めていない、と」

「この無礼者ッ! 今すぐ焼き殺してやっても良いのだぞッ!」


 言い合う二人を前に、ラークが「ミネア様お待ち下さい! サラも()めろ!」と止めに入る。

 彼がこの戦いの前線に出られなかった「事情」とやらは、こういうことだったのだろう。


 ラークが制しても、二人の言い合いは止まらなかった。

 サラは声を荒げること無く、しかし主張する。


「私を焼きたければ、どうぞお焼き下さい。ですが私を殺しても、同じ意志を持つ皆が必ず事を成し遂げます。それが議会派なのです。ミネア様お一人が全てを握っている前王派とは、違います」

「ッ……! このッ―――!」


 と唸るような声を吐いてから、ミネアは「燃焼(フィーレ)ッ!」と詠唱した。

 その声で起こった炎はサラに向かって燃え上がり、―――しかし彼女に届く前に消え去った。


「……これが、『退魔の力』なのですね」


 とサラが苦しげな表情でこちらを見た。

 そして礼を言う。


「ありがとう、ございます……」


 それに(かぶり)を振って応えながら、リンドは退魔の力を解いた。


「そんなことより、あんたの言う『交渉』を始めよう」

■登場人物(キャラクターデザイン:たたた たた様)


【サラ・イージス】

挿絵(By みてみん)

魔法王マーシャルの側近の一人であり彼の義理の姉。年の頃は二十前後。王城側の統率者ラークが前王軍の受け入れを決めた後も、マーシャルの王座を守るために前王軍の代表たるミネアと対峙していた。また密かに侍女ロゼをリンドたちの元へ送り込んで、最終的に彼らを王城まで導いた。

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