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失ったチカラ

 左手で掴んだ頭。

 スカルフェイスダークの頭部が最後に霧散し始めた。

 その時に、それは起きた。


「ダーリン危ないのじゃ!」


 イーズが叫び、瞬時に動いたのは見えた。

 が、遅かった。




「ほう、これがスカルフェイスか?」


 左手のスカルフェイスを覗き込むように男が立っていた。


「やはりな魔眼ではないのだな、つまらん」


 そう吐き捨てて踏み潰したのだ。

 そして間合いを詰めたイーズに対して……


「貰うぞ」


 そう呟くと額に現れた瞳を輝かせた。

 元々の金眼と色こそ似ているものの白目も黒目もない金一色の不気味な眼であった。


「ぬぁ、やられたのじゃ」


 イーズがうずくまった。

 何をされたのか分からなかった。

 だが誰なのかは知っている。

 そして俺の左手の先で、やってはいけない事をした事も分かっている。

 それが誰であっても許さない。



「何してんだぁあぁぁ、シュメー!」



 皇帝だ。

 カシューの兄が突如、上空から現れてスカルフェイスの頭部を踏み潰しイーズへ何かした。

 額に得体の知れない金一色の眼がある以外は確かに皇帝。

 あのカシューを探して訪れた皇都バビロニで毎夜、話し込んだカシューの兄である皇帝シュメーその人には違いなかったが……

 雰囲気が違っていた。

 カシューに似た美しい顔。

 カシューと同じプラチナの髪。

 カシューと同じ金眼。

 でも、あの日に親しみを込めて皇帝ではなく名前で呼んでくれと言ったシュメーではない冷酷な雰囲気を纏っていた。


「いかんアーモン! 皇帝は魔眼を奪う力を得ているんだ」


 イドリーが声を上げた時には遅かった。


「ふふ、貰うぞ! 我が友よ」


 そう言うと左手の甲を天へ向けた。

 その手の甲には青色の環を携えた瞳が現れていた。

 その瞬間、空へ皇帝シュメーの額に現れた瞳と同じものが無数に現れた。


「これは、まさか!」


「何で天眼が使えるんだぁね」


 皇帝シュメーの額の魔眼『奪眼』が輝いた。


 うがぁ!


(目が焼けるようだ)


「闇の爪ダークネスネイル!」


 まるで我を失ったかのようにヘーゼルが皇帝に向かって行った。

 その姿は、今の今まで泣いていたヘーゼルとは別人のように鬼気迫る形相だった。

 ヘーゼルの魔力と攻撃力なら皇帝など容易いはずが……


「炎眼」


 空に展開していた瞳の色が変化し炎でヘーゼルが包まれた。


「ヘーゼル!」


「どう言う事だ、何でシュメーが炎眼を使えるんだ?」


 イドリーが言った言葉。

 魔眼を奪うチカラ……

 炎眼……


「待て……お前、シュメー……その炎眼どこから奪って来た!」


「くくく、そう怒るな友よ、こんな便利な魔眼をパンなどに使ってるなんて無駄使いだとは思わんか?」


 全身に震えが来た。

 ヘーゼルの父親であったスカルフェイスダークの頭部を踏み潰しただけでも許せない行為。

 それなのにイーズの魔眼を奪い、マルテルの魔眼まで奪っただと?


「マルテルを、どうした!」


 ニタニタと笑みを浮かべる皇帝シュメーへと殴りかかった。


 トンッ!


 パン!


 ヴァワン!


「ここは、お任せください」


 突如降り立ったのは白眼の軍服アフロ。

 かつてホールマウンテンで戦った『テーベの鎖』の老人ティワナクだ。


「邪魔すんなぁ!」


 無理矢理に押し通ろうとするもティワナクの頭から離れた無数の蜂に阻害される。


 ヴゥゥゥン


「行け! アーモン」


 イドリーがティワナクと対峙した。

 短槍と魔法を駆使し無数の蜂を次々に落としていく。


「分かった」


 ティワナクを抜き去りシュメーへと迫る!

 そのはずが……

 次々と空から片翼の獣人2人によって運ばれた『テーベの鎖』と思われる者達が降り立ち行く手を塞がれた。


「陛下、無闇に新たなチカラを使われては困りまする」


 片眼鏡の男がシュメーへ進言した。


「ふふ、カルタゴすまんすまん」


 目の座ったような片眼鏡の男は両腕を後ろ手に組んだまま部下へと指示を出す。


「魔眼の宿主は殺してはならん。それ以外は葬れ」


「は!」


 次々に降り立つシュメーの部下と交戦が始まっていた。

 ティワナクと戦いながらイドリーが叫ぶ。


「アーモン、その男は鎖の代表カルタゴだ」


 その言葉を聞いたところで見覚えのある籠が片翼の獣人によって運び降ろされた。


「カシュー!」


「んぁ、アーモンなの」


 どう言う事だ?

 かつてバビロニで会っても思い出してもくれなかった俺の事をカシューが覚えていた。


「やれやれモヘンジョを殺られたのは想定外ですな」


「仕方ない、流石は魔眼修道院の衛僧長と言わねばなるまい」


「そのお陰で魔眼の宿主を殺せば奪った魔眼が消える事が分かったんですから、良いじゃありませんか?」


 紫色からピンクへグラデーションした髪が妖艶な雰囲気の女性が運ばれた椅子へと座ったばかりのシュメーへと歩きながら語る。


「そうだな、モヘンジョの隷属眼を奪眼で試しに奪ったのは正解だったのかもな」


 次々に降り立つ兵を凌ぐので精一杯の俺達を眺めながら優雅に会話するシュメー達に歯痒い思いをしながらも近づけない。

 ただの兵が、皆そこそこの手練なのだ。


(現状を突破しなければ)


「クコ! 俯眼を発動してくれ。ラッカも魔環を」


「……わかった」


「それが駄目なの」


「え?」


「発動しないの! それにアーモンの目も……」


 ラッカの言葉は衝撃だった。





「金環じゃなくなってるの」





 そんなバカな……


「金環を発動!」


 何も起こらない。


「金環を発動!」


 いつものゴールドリングが輝いた感覚がない。

 代わりにシュメーが天眼を発動した時に感じた目が焼けるような痛みが蘇って来た。


(金環を奪われた……)


 俺は、ここまで何度も助けられて来たチカラ、俺が俺で有る為の唯一のチカラを失った。

 生まれながらに俺を親から引き離した金環。

 それでも、その後に仲間達と出会わせ守ってくれた金環。


 その金環を失った。


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