魔環
そこはピスタと潜った世界に似ていた。
植物も水すらもない岩だけの世界。
やはり、どこかの惑星か何かの様な静かな景色だった。
「コマちゃん……何でだよ?」
俺の言葉を理解しているのか? どうかは不明だが声を掛けた後に、ゆっくりと地面へ俺を降ろしてくれた。
そして後ろからシーちゃんが近付いて来た。
「ちょっと、シーちゃん? 降ろしてよ」
ラッカだった。
ゆっくりとラッカを降ろすシーちゃん。
「アーモン……魔湖の中よね?」
「そうみたいだな、何でだろ……」
突然コマちゃんとシーちゃんが魔湖へ俺とラッカを連れて来たのは何故なんだろう。
それに戦闘将の石笛を使わずに魔湖へ潜る事が出来るなんて意味不明な事が一度に起きてしまい言葉が出ない。
「それにしても何もないわね……ちょっと待って!」
「どうした?」
「何、何、何これ?」
ラッカの山吹色の瞳が輝いていた。
魔力視……俺も金環を発動し魔力視のチカラを自分自身へ波及させた。
「なっ!」
そこは大都会だった。
岩だけしかないように見えていた景色の中にカラフルな蛍光色の光の線で構成された
建造物が立ち並んでいた。
そして……
「あれって人かな?」
「そう見えるけど魔力だけの人?」
「と言うか家とかも魔力的なモノで出来てるわね」
「こんな事って今迄あった?」
「えーっとね、実は似てる事ならあるの」
ラッカが似てると言ったのは黒湯気のコマちゃんとシーちゃんだった。
言われて初めて気が付いたが確かにコマちゃんもシーちゃんも同じ様に魔力的なチカラのみで存在している。
少し高い場所から見下ろしていた俺達だったが、その魔力だけ人間の近くへ行ってみる事にした。
「動きはさ普通の人間だな」
「そうなんだけど少し薄くない? 色って言うか魔力?」
「あぁ、確かにな」
その時だった。
交差点に向こうから歩いて来る魔力人間の一人が、俺達に気が付いた様子を見せた。
そして……
「狼狽えてるな」
「ど、どうして騒ぎになるのよ?」
魔力だけでなく実体のある俺達が見えるのか? 周りの魔力人間は次々に逃げ惑い、もはやパニック状態となった。
そして、それは現れた。
青く、碧い閃光。
目の前には青と碧の混ざり合った人が立っていた。
「ほう、これは面白い」
「閃馬? 馬王?」
それは人型ながら魔力的には馬王のソレと同等の存在だった。
「なるほど、そなたらは、そこから迷い込んだのだな」
「魔湖へ入ったんです。あなたは誰ですか?」
よく冷静に話せるなとラッカには感心する。
「くくくっ、そなたらが馬王と呼ぶモノと同じであり別でもある。ただココは特別な間だ、ここの事を話す前に、お前達を少し見せてもらおう」
そう言うと人型の馬王は俺達の周りを一周した。
「くくくっ、面白い。少年、お前の中には、もう一人いるな? いや記憶が紛れ込んだのだろう。珍しい事例だ。娘も面白い。理を見かねん程の過程と精度やも知れん」
「記憶って、どう言う事ですか?」
「気付いておろうが、それはお前ではない。その者の記憶が、お前達が魔湖と呼ぶモノに、たまたま触れて保存されたのだろう」
『日隠とわ』は俺じゃない? 記憶が、たまたま俺の中に入っただけ? その記憶を魔湖が保存した? 解らない事だらけだか、そんな俺に構わず人型馬王は話を続ける。
「その魔湖と呼ぶモノは全ての世界に形を変えて存在している。ここでは私がそうだ」
そして、この世界は……
ここは始であり終である。
ここは全であり個である。
ここは青であり碧である。
まるで禅問答のような理解不明な答えに俺は何も言えれずにいたがラッカには何か響くものが、あったようで……
「えっ?」
答えを1つ聞く度に魔力視に見える情報が増えていった。
そして俺には許容出来ない情報量となり金環を閉じざるを得なかった。
「おい! ラッカ、大丈夫か?」
「うん……」
瞳孔の開いたような瞳をしたラッカを揺する俺を人型の馬王は止めた。
「驚くべき事だが、その娘は大丈夫だ。今、その娘は理の1つを解きつつある」
そして人型馬王は驚くべき事を、もう一つ口にした。
「そなたにも見えているのであろう? 別の理の1つが」
「何の事だ!」
「くくくっ、無意識か? 益々おもしろい」
そこまで言うと人型馬王は今いる、この魔力だけの世界について説明を始めた。
「ここはな多くのやり方を経て辿り着く理想世界の1つ……」
実体だけの世界、実体と魔力を併せ持つ世界、魔力だけの世界、魔力を認識せぬ世界、魔力を認識しても使えぬ世界、魔力のみを使う世界、いくつもの世界を生命は繰り返し栄えては滅びを繰り返しては辿り着く理想的な状態。
それが、この魔力だけの世界なのだと。
そして、この世界の人々が個として持つエネルギーを俺達は遥かに凌ぐエネルギーを持っていた為に人々が逃げ惑ったのだと。
さらに俺達が魔力や魔素と呼ぶものは一部であり、もっと多くの同様なチカラ、いやエネルギーがあるのだと。
そして……
「分かったわ……あえて魔力と呼ぶけれど、全てが見えたみたい」
「ラッカ?」
しばらく黙り静止していたラッカが、まるで何か悟ったかのように前を向いた。
見えた。
そう言ったラッカの瞳を見た俺は驚愕するしかなかった。
「ラッカ……目が」
「目?」
「あぁ、俺と同じ環眼になってる」
山吹色の魔眼。
ラッカの魔力視は山吹色の環眼へと変貌を遂げていた。
「くくくっ、魔環と名付けよう」
その言葉を最後に俺達は、またしても……
魔湖から帰還した。




