8.最悪な結末
こどもは見ちゃだめ。
「やめとこっか」
食事のころには、そのひとの機嫌はなおっていたように、わたしにはおもえた。
おきまりどおり、いつもの施設にあいている部屋をとり。
こちらはいつから習慣になったのか。ふたりでお風呂にはいり、泡まみれの指でたがいを洗いあって。
そのさきは朝まで服をまとうことはない。
くちづけから、抱擁。
そしてそのさきへ。
だが、今夜はいつもとはちがった。
そのひとは、とちゅうでその指と唇をとめて。
淫らな行為の中断を提案したのだ。
え? なんで?
いいじゃん。つづけようよ?
わたしの哀願に、それ以上そのひとは自分の提案をとおそうとはせず。その夜の行為は最後まで交わされた。
でも、おかしい。
おわったあとの虚脱感と倦怠感のまま、抱きあっているのはいつものことなのに。
そのひとのようすがどこかちがう。
名前もきちんと知らないけど、そのくらいはわかる。
これでも、ふたけたほどの夜をこうしてすごしたのだ。
——ひょっとして、あのときのこたえのこと?
わたしのことばに、そのひとはなんてかえしたんだっけ?
あなたは、ほかのだれかのものなんでしょ?
恋人づらなんて、されたくないとおもったんだもん。
わきまえてる。だから、嫉妬深いはずのわたしが平静でいられたんだ。
それに、あなたはわたしをぐしゃぐしゃにするためのひと。
わたしが、想いを寄せるひとができても。そのひとにたいして、わたしがみじめな想いをしなくてもいいように。
それなのに、わたしがあなたにみじみな想いをいだいて、どうするの?
それは、わたしがあなたにもとめてるものじゃない。
わたしをぐしゃぐしゃにしてくれるあなたに、わたしがみじめな想いをいだくのなら。
さらに、その想いをまぎらわすための、もっとぐしゃぐしゃにしてくれるあいてをさがさなきゃならなくなる。
そんなのいらないよ。
わたしは、あなたにぐしゃぐしゃにしてほしいの。
あれ? なにそれ?
当時のわたしは、その論理破綻に気づいていなかった。
そのひとにたいして、わたしがすでにいだいてしまっていたみじめな想いにも。
ぐしゃぐしゃにしてほしいといいながら。それ以上に、そのひとに満たしてほしいと願うようになっていた自分にも。
責めた。
ののしった。
おなじくらい責められたし。ののしられた。
はじめて逢ったときから、そういうつもりだったくせにって。
それでかまわないから、これまでつづけてきたんだろうって。
わたしには、理解できなかった。
そのひとのいいぶんが、じゃあない。
だったらなぜ、つきあっているわけではないというわたしの
ことばに。あなたは、何故、それほど気分を害したのか?
——ごめん、ゆるして。
——もう、眠ろう。
それ以上の口論を拒んだわたしに、そのひとも反論をすることはなく。
いつものとおり、わたしたちは抱きあって朝まで眠った。
いつものとおり、のはずなのに。
そのひとの色素のうすい肌が。その夜だけは、いつものやわらかいぬくもりをもたない、まるで蝋のように、わたしにはおもえた。
そしてその夜が。
そのひとがわたしをぐしゃぐしゃにしてくれる、さいごの夜になったんだ。
ひとつのあやまちで、ぜんぶだいなし。
私はよくやります(涙)




