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7.最悪なこたえ

 質問のこたえは慎重に。

「そのひとと、つきあってるの?」


 疑問というか、推測というか。

 異性どうしが指を絡めて歩いているのだ。

 そんなふうにみられるのはとうぜんだし、わたしも悪い気はしなかった。


 悪い気はしなかった?


 なにをいってるんだろう。ほほをゆるめて。


 でも、わたしがばかなのは、そのひととそういう関係にみられたことを喜んだからじゃない。


 その知人の疑問だか推測だかが、質問というかたちでくちにされたとき。

 それが、最悪な質問であることを理解していないうえに。避けなければならない、最悪なこたえがどんなものか知らず。そして、どんな結末をもたらすことになるのか、想像さえしなかったことだ。



 ——ちがうよ。そういうわけじゃない。


 ほら、ばかだ。

 わたしは反射的にそうこたえてしまった。


 だって、しょうがないじゃない。

 そのひとは自分がだれかのものであることを、幾度となく、くちにしていたんだもん。

 それって、わたしのものじゃないってことでしょ?

 そんなふうにおもわないでくれって、そういうことなんでしょ?

 くちにだして、たしかめたことはないけど。そういうことのはず。

 べつにわたしも、あなたに恋人としての役割を望んでいたわけじゃないし。

 逢う日はかならず肌をあわせていたんだから。くちの悪いひとは、それ目的の関係だなんていうだろうね。面とむかってそういわれたら。そうかもねって、わたしもうなずいたことだろう。


 でも、わたしが即答で知人からの質問を否定したのは、そんなこんなからの意地悪ですらなく。

 そのひとが、わたしに恋人づらされたくないだろうからという理由だった。

 あなたは、ほかのだれかのものなんでしょ?

 わかってるよ。いっしょにいるときだけ、ちょっと借りておけるんならそれでいいんだもん。

 だから安心して。

 そんなふうにおもっていたわたしは、知人にじゃあねと告げると。そのひとと、また指を絡めたまま歩きだそうとした。


 歩きだそうとしたのだ。


 その指をゆるめたのは、そのひとだった。


 なに? どうしたの?

 わたしのとまどいも気にしないように、そのひとは指をほどくと、すたすたと早足でいこうとする。

 わたしのことを、おいてきぼりにしようというまでのはやさではないが。となりを歩かせないための、スピードなのはあきらかだった。


 ねえ、まってよ。なにかいってよ。

 とまどいをこえて、うろたえてしまったわたしにそのひとはむきあうと。

 くちをひらきかけて——おもいなおしたように、そのくちをつぐんだ。

「行こ。おなかすいちゃった」

 指をからめなおして、またとなりを歩かせてくれる。


 よかった。


 わたしはほっとした。

 そのひとが、なにを怒っているのかどころか。

 そもそも怒っているのかさえも、わたしにはわからなかった。


 だから、このあともふたりで食事をして。

 いつもどおり、シーツを(よご)(みだ)らな行為で肌をあわせ。

 くっついて眠るだけの、ぐしゃぐしゃな関係を楽しむのだとおもっていた。



 きっとそれが、わたしの望みだし。

 きっとそれが、そのひとの望みだって。



 うたがいもなく、そうおもってたんだ。

 いや、せめてはぐらかしておけば!

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― 新着の感想 ―
[良い点] その質問と答え! 既にバクバクしてますが、 まだドロドロになるのでしょうか。 [一言] 更新楽しみです。
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