9.もっとぐしゃぐしゃになりたい
きれいなわかれかた。できないなぁ。
——じゃあ、またね。
わかれのことばもいつもとおなじ。
でも、きっと。いつもとはちがうわかれなのだろう。
そして、いつものようにメイルを一通いれておく。
——きょうもありがとう。
——また逢おうね。
——大好きだよ。
そこにひとことくわえるのを、わたしは忘れなかった。
——ごめんね。
だけど、ゆるしてねとは送らなかった。
……むだなことだとわかっていたから。
それまでも逢うための約束以外、日常的にメイルのやりとりをしなかったわたしたちに。
いつもの間隔である二、三週間はわりとすぐに経った。
そろそろかな。
わたしはそのひとにメイルをだす。
——元気? そろそろ逢わない?
返信がくることはなかった。
わかってるってば。
あのときのわかれが、これきりのわかれだったんだ。
これはその確認のための儀式みたいなもの。
わかってるから、そのひとにすがることはせず。
アドレス帳からそのひとを消すと。
わたしはやっぱり。
なんともいえない、みじめなきもちになった。
好きだったわけじゃない。
あきらめだってついている。
だけど悔しい。
とことんみじめだ。
そのひとにぐしゃぐしゃにしてもらって、楽なきもちを手にいれていたはずなのに。
わたしはまた、こんなに悔しくてみじめになってしまった。
さがなきゃ。
わたしを、ぐしゃぐしゃにしてくれて。
なおかつ、わたしを悔しくもみじめにもしないあいてを。
もっとぐしゃぐしゃになりたい。
もっとぐしゃぐしゃなわたしなら。だれにたいしても、悔しくてみじめな想いをすることもないはずだよ。
わたしをもっとぐしゃぐしゃにしてくれるものなんて、きっといくらでもころがっているはず。ちゃんとさがせば、またみつかるよね。
あとはそれにみをまかせればいいんだ。
わざわざわかれるほど、つきあいのある人間もいませんが(苦笑)




