五手印(ごしゅいん)
自称発明家の初名さんの家にパトロンであり、自称友人の撰惣名さんが。
「初名くん、これを複写してくれ」
「撰さん、これはなんでしょう。
パピルス巻に5種類の大小の手形……?」
「まったく、初名くんは本当に世間のことは何も知らんのじゃな。
これは五手印と言って、日ノ本津々浦々の神が御座す場所に詣でるとその祭神の手形を押してくださるんじゃよ。
ワシなどは普段忙しゅうて人より時間がかかり1年以上かかったわい」
「なるほど。しかし、何故既にお持ちのなのに複写などが必要なのですか」
「さるお方にお渡しするのじゃ」
「複写ということは偽物ですよね」
「初名くん、君のような小物は知らんじゃろうが世間にはそう簡単に出かけられぬほどの高貴なお方もおるんじゃ」
「でも、偽物ですよね」
「黙らっしゃい!!さっさと複写を作るんじゃ」
ぷりぷり怒りながら撰さんは、初名さんの家から帰って行きました。
仕方なく複写を作る初名さん。
「ふむ、初名くん。出来たようじゃな。わざわざ取りに来てやったわい」
「複写というか贋作です」
「なんでも良い。ほーっほっほっほ」
ご機嫌に帰っていく撰さんを見送る初名さん。僕は発明家なんだけどなぁと呟きました。
「初名くん、五手印だが大変喜んで頂いたぞ。君も感謝するが良い。して、同様をまた3部複写せよ」
「と、仰いますと?」
「はよ、作れ」
そう言い残し撰さんは出ていきました。
「はぁ」とため息を付き仕方なく言われた通り作る初名さん。
「取り来てやったぞ。次は100部作れ」
「そんな、簡単に仰いますが大変なんですよ」
「断って良いのか?君はワシが居らんと生きて行けまい」
「……承知しました」
「一気に100部納品せよとわ言わん。少しづつワシが取りに来るからの」
始めは10部づつ取りに来ていた撰さんですが、残りの半分ほどはなかなか取りに来てくれません。
しびれを切らした初名さんは、とうとう自ら残りの偽五手印を撰さんに届けに行くことにしたのです。
「初名くん、まだ不要じゃから取りに行っておらんのじゃ。そんな事も分からずとは、気が利かんのう」
「早く100部分の代金をください」
「なんと生意気な」
「代金頂戴しました。それでは僕は1年ほど旅に出ます」
そう言い残し、初名さんは五手印を集める楽しさのために出かけていきました。
気が向いたらま読んで頂けたら嬉しく思います。




