第191話
「お前たち、ずいぶん賑やかだな。俺も混ぜてくれよ」
僕がスベったみたいないたたまれない空気感に心を痛めていると、背後から歩み寄ってきた相棒たる玲音が自然と会話の輪に加わった。
ついでに、「先輩たちが早く来いってさ」と伝言をもらう。どうやら、他のメンバーはもうピッチで軽くボールを蹴っているらしい。
「お、玲音じゃん。久しぶり。調子はどうだ?」
「おっす、蓮。俺は絶好調だ。つか、そっちの爽やかイケメンは兎和の友だよな? 関東大会でも軽く顔を合わせたの覚えてるか? こうなったら、もう俺とも友だちだな。よろしく、山田ペドロ玲音だ。玲音と呼んでくれ」
「うん、よろしく。俺は鷲尾伸弥。知ってると思うけど、星越のサッカー部だよ」
しかも玲音は流れるように友人認定を出し、鷲尾くんともにこやかに握手を交わす……あまりのコミュ力の高さに目眩がしてくるぜ。この理論でいけば、人類皆友人だ。最強にピースフル。
僕もこんなノリで交友関係を広げていきたい。機会があったらマネしてみよう。
「それで、兎和よ。何の話で盛り上がってたんだ?」
「あ、うん。来週の準決勝の観戦についてなんだけど……」
応援に関して蒸し返されるとまた空気が悪くなりそうなので、なるべく曖昧な表現を用いて玲音の質問に答える。すると相槌混じりに、「そりゃいいな!」と明るい声が返ってきた。
僕としても気持ちは同じように前向きで、予定が合うなら見たい、といった感じだ。
夏のインターハイ・東京予選の準決勝、東帝VS星越――この対決は、事実上の決勝戦のような趣がある。両校ともサッカー名門の優勝候補なうえ、勝ち抜けが2枠のこのトーナメントにおいて次がもっとも重要な試合となるからだ。
どちらも全力で勝ちにくるため、白熱した展開が繰り広げられるのは確実。高校サッカー全体で考えてもトップレベルの好ゲームが予想され、まさに大注目の一戦だ。
「永瀬コーチに申請すれば許可をもらえるだろう。せっかくだから、俺も観戦するかな。蓮と鷲尾の勝負は激アツだ。俺はチームじゃなくて、2人を応援するとしよう」
同日には僕たち栄成サッカー部も準決勝が控えている。こっちは第二試合で、予定ではバス移動。しかし事前に申請しておけば、理由によっては個人行動が許可される。第一試合のキックオフは昼からだし、コンディション的にも支障はない。
というか、玲音の回答が理想的すぎて震えてきた……そうか。こういう場合は個人を応援すればいいのね。だったら、ヨシ。僕もちゃんと宣言しておこう。
「うんうん、そうだね。僕もチームじゃなく、2人を全力で応援するよ!」
「いや、お前は俺の応援をしろよ。去年の文化祭での借りを返せ」
「いやいや、兎和くんは俺の味方でしょ。神園さんとの縁も含めたら、完全に星越陣営だね」
蓮くんの言う通り、去年の文化祭のフットサル対決では大変お世話になりました。鷲尾くんとも、美月を介して縁を感じるし……ぐむむ。なんて難しい選択だ。
それにしても、なぜ玲音みたいに上手くいかないのか……あ、そうだ。こんなときは、妹直伝の『なんとかの窓』で誤魔化すのはどうだろう。例の意外な一面を褒める的なやつ。
この2人はお互いかなりの負けず嫌いっぽくて、意外と似た者同士なところがある。にもかかわらず、ちょうどそのことに気づいてないみたい。指摘したら、案外すんなり仲良しになったりして。
そうと決まれば、と僕は思い切って話に割り込む。
「あ、あの、ちょっと蓮くんと鷲尾くんに聞いてもらいたいんだけど。実は2人って、似たりよったりっていうか……」
『はあ?』
ちょ、待って……まだ言い切ってもないのに、食い気味にジト目を向けてくる蓮くんと鷲尾くん。リアクションのタイミングもお揃いで、やはり息ぴったり。
僕の伝え方にも多少の問題はあったものの、2人ともせっかちがすぎる。続いて「争いは同じレベルの者同士でしか起きないんだよ」とネットで見たアドバイスを送るも、また空気を読めない残念な子扱いされた。解せぬ。
「まあまあ、落ち着け2人とも。これは兎和なりの気遣いなんだ。ていうか、いい加減時間やばいぞ。そろそろ行かないと、先輩たちにガチでキレられる」
最終的に玲音がまとめて、再びいい感じの雰囲気が漂う中でこの場はお開きとなった。
こうもコミュ力に差があると、同じ言語を使っているのか疑わしくなってくる……これほどまでに極まったトークスキル、どうやったら修得できるのか。
今晩あたり交換日記に書いて、美月に相談してみよう。
僕は頭の中のメモを整理しながら、施設の扉を通過しようとした――そのとき、背後から蓮くんと鷲尾くんの声が順番に飛んでくる。
「兎和、玲音! せっかくだから、俺は試合見て帰ることにする。しょっぱいプレーすんなよ!」
「俺も観戦席で応援してる。2人とも頑張って!」
足は止めず、振り返りもしない。
代わりに僕と玲音は、隣り合わせのままサムズアップを掲げて応える。
これはいよいよ負けられない。しっかり準備して、できる限り良いパフォーマンスを披露しなければ。サボらず手を抜かず、全力で相手にぶつかろう。
施設の外に出ると、ぬるい風が肌を撫でた。
ふと顔を上げれば、生憎の曇り空が視界に映る。雨が降らないといいけれど、なんて考えながら僕は玲音とともに小走りでピッチへ向かった。
***
兎和たちを見送り、俺――黒瀬蓮は、ピッチ脇の観戦席へ移動した。
腰掛けたベンチの位置は、ちょうど中央あたり。左右に栄成の応援団と、対戦相手である私立の強豪校の応援団が陣取っている。
両陣営とも、すでにやる気満々。先ほどから、うるさいほどチャントと太鼓の音が響き渡っている。補助球技場の観戦席が狭めなこともあり、熱気がモロに伝わってくる。
「この試合、楽しみだな。うちの部のメンバーは栄成が不利なんて言ってたけど、どうなるか。兎和くんたちには絶対に勝ってほしいよね」
東帝のメンバーは皆もう帰ったので、俺一人で観戦するつもりだった……のだが、なぜか星越の鷲尾がついてきて横に座り、普通に話しかけてきやがる。
まあ、こいつ自体に恨みはないから黙認してやろう。わりと寂しかったし。
「そういえば黒瀬くんってさ、他に栄成の知り合いとかいるの? さっき文化祭がどうとか言ってたけど」
「……まあ、色々といるが。アレだ、スッゲー美少女とかも知り合いだぜ。兎和と仲良くてよく試合の応援にも来ているらしいから、今日もいるかもしれん」
栄成には、ずば抜けた美少女がいる。去年の文化祭に顔を出したとき、実際に見てマジで仰天した。同年代が好むようなファッション誌のモデルなんて、彼女とは比較にすらならない。うちの学校の友だちにも知っているやつがいて、SNSフォローしたとか騒いでいた。
そのことを思い出し、鷲尾に盛った言葉を返す。
しかもあの子、兎和とかなり仲がいいんだよな……なんか腹が立ってきた。相手の高校を応援したろうかな。
「もしかして、神園さんのことかな。背が高めで、髪の長い子でしょ? あと瞳が青くて、兎和くんとも仲が良い」
「あー、そうそう。あの子、めっちゃくちゃカワイイよな。お前も知り合いだったのか」
「うん。俺は、中等部まで同じ学校に通ってたんだ。ちょっと前にも会ったしね」
聞けば、2人とも高校は外部進学を選んだらしい。
鷲尾はサッカーのために星越へ。あの子は、なぜか栄成へ……東帝という選択肢はなかったのだろうか。あんな超絶美少女と一緒に青春できたら最高すぎるだろ。
何か奇跡が起きて、あの子が冬の選手権の応援マネージャーに選ばれたりしねーかな。そしたらワンチャンあるかも――なんて俺が楽しい妄想をしていたら、ホイッスルの甲高い音が鳴って会場が一際騒がしくなった。
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