表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憧れの彼女  作者: 「」
46/53

「久しぶりの我が家だぁー」



リビングに荷物を置いてソファーにうつ伏せになる。

我が家と言えば何年も住んでいたアパートよりも彼と同棲しているこの家になっている。



「パンツ見えてるぞ」



キッチンでコーヒーを入れながら春人くんが苦笑い。



「お見苦しいものを」



ホテルで下着も含めて着替えたので汚くはないと思う。

ちゃんとソファに座り直して辺りを見回す。

荒らされた部屋だったけど流石に時間も経てば元通り。

嫌な記憶ではあるけど、良い記憶のほうが多いので不快感はない。

こつっと音をたてテーブルの上にコーヒーを差し出される。



「最近コーヒーしか入れてなくて紅茶がなかったわ。すまん」

「コーヒーも好きだから全然」



どちらかと言えば紅茶派なだけで深いこだわりは持ち合わせていない。

カフェで働いているおかげか、彼が淹れるのであればどちらもすごく美味しい。

隣で春人くんが深く座る。

少しだけ緊張。

これから話し合いが始まるのだと思う。

視線だけで彼を見上げると手を顎に当てなにかを考えているようだった。



「俺は実家に連れ戻されてしまったけど、智明たちに相談はできなかったのか?」

「未遂で終わったあとは春人くんも知ってると思うけど、香ちゃんの家でお世話になったんだ。でも、私のせいで香ちゃんになにかあったら春人くんにも宮下君にも顔合わせられないから」

「だから一人で?」

「うん。でも、最初は穏便にことを済ませるつもりだったの」

「その頃には俺もう自由だった筈だけど」

「香ちゃんから通じて知ってはいたんだけど大学で春人くんがされていることを聞くとこれ以上迷惑掛けたくなかったし」



ずいっとお尻を彼の傍に寄り、頭を彼の肩に乗せる。

私から流れる亜麻色が彼に掛かった。

春人くんは一房手に取るとぐるぐる回して遊び始める。

結構髪で遊ばれてるな私。

お客さんに触られるのセットしている髪型が崩れるのでやめて欲しいけどそうも言ってられない。



「連絡切ったのは?」

「甘えちゃいそうなのと怒られそうなので」

「今も怒ってるけど」

「ごめんっ」



怒るのも当然だと思う。

私も春人くんが一人でこんな事をしていると知ったら、泣きながら激怒して自分を責める。

あの時の私は本当にどうかしてたと思う。

自分が自分じゃないみたいな。



「この髪は?」

「私じゃないわたしとして、春人くんたちに見てほしくなかったから」



逮捕された男の気を引くためでもあったけど、こちらの方がメインの理由。

冷静なった今ならわかる。

春人くんに見れるのを一番恐れていたのだと。



「過ぎたことだけど、迷惑かけろ、相談しろ、もっと頼れ。それとも年下だから頼りない?」

「ううん。頼りすぎて辛いなって思ってる」

「俺も冬乃を一人にして背負わせるのは辛いよ」

「うん、ごめん。浅はかだってわかってる」

「恋人なんだ。俺も迷惑掛けるし掛けられたほうが嬉しい」

「甘えてもいいの?」

「もちろん」



春人くんは笑って頷く。

肩から離れて向き合うように彼の膝に座り、広くて固い胸の中に収まる。

心臓の音が聞こえる。

ほっとする。



「もうしないよ」

「ああ」

「次こんなこと起きたら春人くんには絶対相談する」

「次がないほうがいいけどな」

「それもそうだね」



二人して苦笑いを浮かべるが、私は気になったことを尋ねる。

私だけ話すのはフェアじゃない。

彼が私のことを気にするように、私だって彼のことが気になるのだ。



「春人くんはどうしてたの? これまでの間」

「そうだな」



前置きをしつつ、春人君は語り始めた。

実家で軟禁されたこと、自分の父親と私のことについて話したこと。

大学で起きたこと。

今日の一部始終。


見られてたんだ。

恥ずかしいという感情はなく、単純に心苦しさが先行した。

裏切ったわけではないけど、罪悪感。

いつか話したことがあるけど、私は春人くんに仕事のことを話さないようにしていた。

話せばきっと彼のことだ。

耳を傾けて真剣に聞いてくれるだろうけど、きっと悲しい想いをさせてしまう。



「……春人くん」



言葉で想いを伝えるのは簡単だ。

でも今は言葉ではなく、別の方法で好意を示したかった。

呼ばれて真っ直ぐ私を見つめる彼の瞳。

返事をしようと口を開こうとしているところを、私の唇が閉じる。

気持ちがふわふわする。

他の誰とだってこんな気持ちにはならない。

彼だからこそ。

たまらなく愛しい。

舌を絡めたい。

手を繋ぎたい。

身体を重ねたい。

しばらく会えなかったことから、私はいつも以上にえっちな気分。



「手繋いでほしい」



一度口を離し、懇願する。

彼は頷き、手をやさしく握ってくれた。

今度はもっと大人なキスをしようと口を開きながら顔を近づける。



「え?」



けれど、彼はびくっと震えたかと思うと目を開いたまま私から離れていく。



「すまん、話しに夢中になってトイレ我慢してた」

「もうっ。ムード台無しだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ