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「よく私だって分かったね」
顔見上げる。
なんでもないかのように変わらない彼の姿。
口角の片方だけ上がり気だるげな表情。
目つきは悪いが私を見る瞳はやさしげ。
「びっくりはしたけどさ。まぁ冬乃だなって」
「あは。なにそれ」
さっきまでびくびくしていたのに思わず笑ってしまう。
この人は本当に。
「冬乃、スマホは?」
「ホテルの部屋の中だけど?」
質問の意図が読めず素直に答える。
私が二台持ちしているのは知っているはず、だけど彼が差しているのはプライベート用の携帯。
「GPS」
「あ」
「藤井さんの話でなにかやるんだろうなって知ってたけど、このホテルから反応消えたからさ」
「ごめん」
私の提案で互いに位置の分かるアプリを入れていた。
なにかあった時すぐ駆けつけれるように、あとは浮気防止。
嫉妬深いのだ。私は。
でも春人くんの性格上、分かった時点で動きそうなものだけど。
というか完全に失念していた。
「なんですぐ来なかったって?」
「え? いた。いたいって、痛いですー」
人指し指で何度もおでこを突かれる。
なんとか逃げることに成功し、おでこを擦る。
赤くなってそう。
「これでも結構怒ってるんだからな俺も」
「ご、ごめんなさい」
「なんでかわかる?」
色々心当たりがありすぎて困る。
「だから痛いってぇ……。うぇ」
涙ぐむ。
またこういうやり取りが自然に出来るとは思わなかった。
おでこの痛みより嬉しさで瞳が潤む。
「連絡をしなかったことでしょうか?」
薄目を開けて伺う。
おでこは両手でガード。
「あうっ! 今のは本当に痛い!」
脳天チョップ。
もちろん手加減はされているが、突かれるよりも数段痛かった。
思わずしゃがむ。
「説教はあとにしてとりあえず帰ろうか?」
「帰ってもいいの?」
無言になる。
春人くんは満面の笑み。でも目が笑ってない。
怖い! これガチめに怒ってるやつ!
首根っこを掴まれて中に浮く。
おぉすご。
この歳で猫の気分を味合う。
私身長の割には体重があるほうなんだけどな。
流石男の子。
先程まで鬱になっていた私だけど、妙にテンションがあがっている。
やっぱり彼と一緒にいるのが楽しい。
今まで会えなかったから余計に。
洋服が伸びそうだったけど、帰ったら捨てるつもりなので別によかったりする。
スカートはちょっとデザイン的に残したいかも。
でもまぁ新しく買えば良いかな。
両手で襟の部分を伸ばして安全を確保していたが、そろそろ力尽きそう。
「あ、自分で歩けるます」
ゆっくり降ろされて、荷物取ってくると言いホテルに戻る。
今日で終わらす予定で、明日には別のホテルに移動するつもりだった。
支払いは済ませており荷物を纏めるだけ。
部屋に戻る私の足取りは軽かった。




