3
ストーカー男に襲われてから一人でマンションに戻ることも出来ず、荷物を持って香ちゃんの家に少しの間お世話になることになった。
警察に連絡するのがてっとり早いのだけど私はそれに待ったを掛けた。
事情を察してくれたのか落ち着くまで家に居てくれていいと言ってもらったけど、私がいることでこの家にあの男が何をするのかわからない。
すぐにでも出ていきたいところだけど、今のうちにやれることをやっておかないといけなかった。
幸い春人くんは実家にいるから危険性はないと判断するが、帰った時にあの家の惨状と私がいないことで、彼のことだすぐに動き出すはず。
一言だけメッセージを追加でいれおいた。
『今は香ちゃんのお世話になってるから大丈夫だよ。この家特定されるわけにはいかないからしばらくはホテルとかに泊まる』
もう1件連絡する必要があって、しばらくの間お店を休むことにした。
「冬乃さん、ちょっといい?」
「どうしたの?」
「智明に市ノ瀬君から連絡があって……」
春人くんと彼の父親が私のことで喧嘩になったと、黙っておくことも出来たのだろうけど香ちゃんは秘密にせずに教えてくれた。
あの男が私のことを春人くんのお父さんに告げたらしいことを言っていたのを思い出す。
腹立たしい。
別に私だけを付け狙うのであればまだ我慢できる。けど、関係ない春人くんたちまで迷惑を掛けているのが一番むかつく。
彼の父親は厳格な人らしい。
だから私という道から外れてしまった人間が我慢ならず、私と彼を引き離すことを考えたのだろう。
あることないこと吹き込んでくれたおかげで、こうなってしまった。
あの厭らしい顔をした男。
高橋遊という名の奴を思い浮かべてモヤつく。
春人くんは携帯を取り上げられて、自宅の電話でしか外部と連絡取れない状態にあるらしい。
通りで既読の文字すら出ないわけだ。
さて、どうしよう。
香ちゃんの家から出ていくのは決定事項だ。
実家に戻る選択肢もない。
当面はビジネスホテルとネットカフェかな。
贅沢をしなければお財布の中身だけで1,2ヶ月は暮らせる。
「香ちゃんお願いがあるんだけど」
「なにかしら?」
「大学にいる間だけでもいいから、あの男の行動みてて欲しいんだ」
「ええ、それぐらいなら」
「ありがとう」
「他になにかあるかしら?」
「あとは春人くんが戻ってきても秘密にしてほしいかな。あんまり心配ばかり掛けたくないから。なにかあれば香ちゃんを通して伝えてくれる?」
「ええ」
※
ビジネスホテルで暮らし始めて一週間が経過した。
彼がいない生活は虚無だ。
それでも今回ばかりは彼に迷惑を掛けるわけにはいかないと思う。
メッセージは未読のまま。まだ実家に軟禁されてるような状況なのだろう。
またしばらくして、宮下君から春人くんが親を説得したという話を聞いた。
彼の父親から私との交際を認められたらしい。
ただし完全にというわけではなく、私という人間を見極めてから。
それだけで私の萎れていく心が奮い起こすことが出来る。
なら、頑張るしかない。
香ちゃんから情報を頼りに男は夕方まで大学にいるようで、私は午前中は風俗の仕事に戻った。
職場に寮の話を聞いてみたが今は空きがなくしばらくはやっぱりビジネスホテルで暮らしかな。
気をつけていたのだが、仕事帰りに食事をするためお店によることがあった。
その時にあの男と遭遇してしまった。
また私の腕を無理やり掴む。
ただ前回と違うのはここは繁華街。
まわりに大勢人がいる。
でも念の為にスマホと同じ大きさである、催涙スプレーとスタンガンが一緒になった防犯グッズも持ってきていた。
恐怖はある。
「冬乃」
「なんですか。今度こそ大声あげますよ」
「なんだよつれないじゃないか」
「私があなたと親しくする理由がありませんから。あといい加減名前で呼ぶのやめて」
「そういえばあの間男」
「間男?」
「あの気に食わねぇ1年だよ」
1年って言葉でようやく誰のことかわかった。
だが、彼のことを言うのであればなにかあったのだろうかと不安になる。
「それが?」
「アイツ散々な言われようだぜ? 大学で女癖の悪いやつだとか、人の女を寝取ったとか、まぁ大学で浮いてるな。冬乃に手出したこと後悔してるかもな」
「……」
「まぁそれだけ、あんな奴に本気にならないで僕とよりを戻そうぜ。朝から晩までハメまくって忘れさせてやるよ」
最低だこの男。
だけどいつも私の弱点を正確に攻めてくる。
奮起していた芯が少し曲がる。
「なんだその顔、さっきまでの強気は虚勢かよ。チワワみたいに震えちゃって」
「……うるさい」
「まぁいいや、僕好みにしてやるから待ってな。今日はやることがあるから失礼するよ」
男が振り向き様、私の胸の谷間に紙切れような物を挟む。
「いつでもハメてほしかったら連絡しなそれ僕の連絡先」




