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我ながら長風呂をしてしまった。
父親が温泉好きなのが遺伝したのだろうか。
「ただいまー」
電気はついているようだが、冬乃の返事がなかった。
戻ってくるのが遅かったからそのまま寝てしまったのも無理からぬことだと思ったが。
ベッドの上で天井を見上げながら考え事をしているようだ。
「冬乃?」
「ひゃっ!? ……びっくりした。おかえり春人くん」
彼女に覆いかぶさるようにして顔を合わせてみたが驚いただけでお叱りを受けることはなかった。
「考え事?」
「うん、ちょっとね……」
「俺でいいなら話聞くけど」
「う~ん」
少し考える素振りを見せながら、冬乃の手は俺を抱きしめるような形で首にまわした。
「同棲する前にも似たような話をしたけど、春人くんは私のことどう思ってる? 風俗で働く私」
「今、冬乃の考えてることはわからないけどさ」
と前置きし、慎重に言葉を紡ぐ。
「冬乃こと大好きだし、大好きだからこそ仕事とはいえ他の男とえっちなことしてるのは少し辛いって考えることもあるよ。でも頑張ってるじゃん冬乃」
「うん」
静かに頷き、俺の次の言葉を待つ。
「早く足を洗ってほしいのは確かだけど、親の借金を払う必要は子供ないじゃん? 法律的にもさ。それでも身体を売ってでも働く冬乃はすごいと思ってるし尊敬してる、応援もしてるよ」
「そっか」
「俺じゃ支えになってないかもしれないけど……」
「そんなことは絶対にない」
冬乃の言葉は強く、食い気味に否定した。
俺の首に回していた手が肩に移る。
「聞いちゃったんだよね、この傷の話」
智明たちからだろう。
彼らしか知らない話だ。
「みんな強い絆で結ばれてるって気がして羨ましいかな」
「そうか?」
「そうだよ。春人くんはどう思ってるか知らないけど、宮下君たちは春人くんのこと大事に思ってるのは確かだったよ」
右肩を包み込むような優しさ撫でる彼女。
「いいなぁー。私もその輪に入りたいっなーって思っちゃった」
「入ってるよ」
「私彼らに秘密にしてることあるし……話したら嫌われちゃうかもって」
「あいつらは気にしないと思うけど」
「そうだね……。でもやっぱり不安だよ? 風俗で働くってことはやっぱり偏見とか風当たり強いもん」
「友達同士だからって秘密の一つや二つあるもんだよ。俺だって秘密にしてることある」
「例えば?」
「……冬乃のお尻叩くのがちょっと好き」
意地悪く俺は笑うが、彼女は呆れたように微笑み返してくれた。
「ふふっ、夜の春人くんSっ気強いもんね」
「まぁ冗談はさておき。冬乃も心苦しいのかもしれないけど、話せるその時がくれば話せばいいんじゃないかな? 話したいなら話す、話したくないなら話さないでいい」
「……うん」
一拍間を置いて、俺は少し真剣な表情と声色で言う。
「俺の親友達を舐めるな。そんなことで冬乃を嫌いになるようなやつらじゃない」




