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私が二人で泊まる部屋に戻ると真っ暗だった。
どこかに出掛けたのかな? そう思いながら電気をつけると春人くんはベッドで眠っていた。
布団をかぶっていないところからするとつかれて寝落ちしたのだろう。
最近は一緒のベッドで眠るのが当たり前になっていたが、春人くんが寝ている姿を見るとはとても新鮮。
私より遅く眠って起きるのが早い。
朝食の準備や夕飯の片付けなど。それに加えて大学のレポート。
甘えすぎなのかな……?
顔色を何一つとも変えずに彼は私に尽くしてくれている。
アガペー。
私は神様を信じていないし嫌いだけど、春人くんが神様なら無償の愛をくれる。それなら嫌いな神も好きになるかもしれない。
そんなことを思っては春人くんに失礼かもしれない。
神格化してしまうのは良くない。
愛をくれるのは当然だと思ってしまっては痛いしっぺ返しがくる。
普通の男の子なのだ。
疲れて擦れきれて私の元を去っていくかもしれない。
彼の眠るベッドに近づき、アンクルストラップのついたサンダルを雑に脱いで横に座る。
赤茶色の髪をそっと撫でて私の太ももに乗せてみた。
散々にお客のリクエストに答えてやってきた膝枕だけど、重いとは思わなかった。
それどころか春人くんの髪は染めたことのない綺麗な細い髪で、女性の髪を撫でているようだった。
あ、でも白髪発見。
彼の知らない部分を発見し、くすくすと笑いながら指先でその白髪を巻いたりして遊ぶ。
一通り髪で遊んだあとは唇をつついたり頬を撫でたりとしていたが。
これは早速シャッターチャンスなのではなかろうかと。
傍に置いていたポーチからスマホ取り出して一枚撮ってみる。
普段は大人っぽくて目つきの悪い人相だけど、眠っているときの表情はどこか幼い。
彼がそうしたように私も待ち受けに春人くんの写真を貼り付けた。
なんというか頬がふやける。
きっと今の私は締まりのない顔をしているだろう。
それぐらい幸せなのだ。
えへ、こっそりキスしてやろう。
幼稚な悪戯。
そっと唇だけをくっつける子供だましなキス。
濃厚だからいいというわけでもない。
口を通して想いを届けるのが大事だ。
風俗嬢の私のキスというものは接客の技術。
お金になるからする。
それ以上でもそれ以下でもない。
だからこのキスは本物だ。
彼が起きているならこれ以上のことをしたいと。私の気持ちだけではなくて、彼から気持ちもぶつけてもらいたい。けれど、それはもう少し遅くなってから。
口を離しそっと大事に頭を撫でると、彼の目蓋がゆっくりと開いていく。
「んっ……。冬乃?」
「ごめん、起こしちゃったかな」
膝枕をしていることに気付き、驚いて顔を上げる春人くんだったが私の胸にぶつかり膝に戻ってきた。
「私はまだこうしててもいいよ」
「いや、うん。俺も気持ちいいけど恥ずかしい」
確かに彼の顔は赤くなっている。
いつもこれ以上のことをしているのにピュアなままだなーって笑う。
彼のいいところだと思う。
薄汚れた客と接している私も同じムジナ。結局も彼らに染まってしまって、それ以上に汚れている。
それでも春人くんの反応は私の中で眠ってしまった初心な心を思い起こしてくれるカンフル剤。
私の膝から心地よい重さが離れて軽くなってしまった。
「あ、……残念」




