第3話 友達の姫は漢らしい
この世界はなにかおかしい。
魔物がいるとか、魔窟があるとか。
それに伴って、姫と呼ばれる女子に対してすべてが都合よく手厚い。
どういうことだろうか。
図書館やインターネットを使って歴史を遡ってみると、織田信長登場以降から、どうにもおかしくなっている。
江戸時代に至っては、徳川家が姫集団に良いようにされている。意味がよくわからなかった。大奥ではなく、姫剣士列伝みたいな感じだ。
だが、それには理由があったらしい。
それをはっきりと知ることになったのは、小学校1年時のある授業のときのことだ。
――
せいかつの時間だった。
とある姫子が、先生に指名されてこう答えた。
「影野黒子さん。元号、とはなにか知っていますか? 今は何という元号ですか?」
「はい。えっと、令和……じゃなくて、いまは桜景です」
隣の席の姫だった。
黒髪の長い、色白の物静かそうな女の子だ。
男子が5人。
女子が28人の教室内で、聞き慣れた言葉が突然出てきたときには、一瞬、理解ができなかった。だが、はっきりと言っていた。
……令和?
懐かしい響きだ。
反応したのは俺だけ。
そしてピンときた。
影野黒子と呼ばれた姫子を、俺はじっと見つめる。
彼女は俺の視線に気が付くと、どこか居心地が悪そうに椅子に座りなおした。
*
放課後になった。
俺は昇降口で一人で靴をはいている影野さんに話しかけた。
「なあ、影野さん」
「え、あ、はい、なんですか」
一年生とは思えない落ち着いた話しぶりだ。
俺は確信した。ゆえに質問を口にした。
「新選組の局長って土方だよね?」
「え? 新選組?」
「そう。局長。一番偉い人」
「たぶん、近藤じゃないかな……」
「そっか」
「う、うん」
不安の色の宿る目を見つめて俺は言う。
「この世界に新選組はいないらしい」
「……あっ」
驚きが答えだった。
*
俺たちは学校から出て、帰り道の途中にある小さな公園のブランコに座った。
他人に話を聞かれることを避けるためだ。
どんな話なんてことは、お互いに確認するまでもなかった。
影野さんは伏し目がちに言う。
「山田くんも転生した人なんだね……」
「ああ、そうみたいだ」
「じゃあ、トラックにひかれて?」
「……なぜわかる?」
「だって、そういうものでしょ」
「そういうものなのか……」
転生にはルールがあるようだ。
俺は無知すぎる。
「いつ目覚めたの? ぼくは、先週なんだ。だからまだ混乱してて」
「俺は1才だ」
「そうなんだ――って、1才!? 1才から、こんな世界で漢として生活してるの!?」
「……? そうだが、なにか問題があるのか?」
「いや、ないけど、このゲームの世界って、漢の立場がやたらと弱いというか、まあ、設定上は仕方がないんだけど、それでもちょっと無茶苦茶なところあるじゃない? ぼくは姫だったからよかった……わけじゃないけど、でも漢はつらいよ」
「影野さん」
「なんかくすぐったいね……名前も鳴れてない」
「なら呼び捨てにするか?」
「うん。呼び捨てでいいよ。ぼくもそうする」
「わかった。じゃあ黒子」
「下の名前なんだ……」
「一つ確認させてくれ。黒子は今『ゲームの世界』っていったのか? この世界はゲームの世界なのか?」
「うん、そうだと思う。ここってシリーズ化されてる人気ゲーム『プリンス・リベリオン』の世界なんだよ」
「きいたことがない」
「まあ、大衆的なゲームしかしない人は知らないと思う。住み分けがあるし」
「そもそもゲームをしなかった」
「ならなおさら知るわけがないよ。時系列的には一番人気が出た3作目かな……。オンラインではないんだけど、自分が育てた姫でランク戦ができたり、純粋にダンジョン攻略の深度を競い合う各種対人戦もあつくて――」
「――そうだったのか!」
すべての謎がとけたときの気持ちよさが去来した。
びくっとした黒子の手を握り、俺はぶんぶんと振った。
「ありがとう! ようやくこの世界の違和感がとけたよ!」
「そ、そう? ならよかった……」
「これからも色々と教えてくれないか? 俺はそのゲームのことをまったく知らないんだ。基礎知識もないから、困っている」
「そ、それはそうだとおもう。とんでもないもの、この世界のルールは――あの、手、手」
「ああ、すまない。姫の手を一方的に握るなんて、この世界の漢的にはご法度だったか」
「そうなんだよ……姫のほうが権力強いから。でも、いいよ……ぼく、前の世界では男だったから、全然気にならないし。むしろどうやって姫として暮らしていこうかな……魔窟にも行かないといけないのかなあ……」
「なに? 男?」
「うん……だから、ほんと、びっくりしちゃって。でも頑張らないとね。せっかくの第二の人生なんだし。高校生で終わったなんて残念だったし」
「ああ、頑張ろう。ちなみに俺は35歳サラリーマンだった」
「す、すみません、ため口で……すごい大人ですね……」
「やめてくれ。俺たちはもう友達じゃないか」
「そ、そう? 友達……友達……へへ……友達かぁ」
「……? どうかしたのか」
「い、いや。じゃあ、この世界のレクチャー、今からする?」
「ああ! 頼む!」
こうして俺はこの世界での初めての同士を得た。
まさか高校生まで続く縁になるとは思わなかったが、ありがたいことだ。
では、この世界のルールとやらの説明を受けよう――。




