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領主になったので女を殴って何が悪いってやつには出て行ってもらいます~転生魔法改革最強女子~

作者: 富士とまと

「こりゃ、想像以上にひどいなぁ」

 最寄りの街から歩いて2日の距離に唐突に現れる魔物の森。

 その森を魔物と戦いながら進むこと3日。

 住民800人ほど。魔物の侵入を防ぐための木でできた心もとない柵に囲まれた街を目の前に、頭を押さえる。

「街って、おいおい……確かに、人口だけ見れば500人いれば街って呼んでもいいかもしれないけど……何時代の家だよっ!」

 どう見ても、竪穴式住居が、並んでいる。

 丸太をぶっ挿して横木を蔦でくくっただけの原始的な柵もそうだけど、家も……。吹けば飛びそうな掘っ立て小屋どころか、まさかの竪穴式住居。

 これが、街?人口が多い村でしょう。

「いや、分かっている、分かっていた……」

 嫌がらせで領主にされたときから、とっくに分かっていたさ。


「はぁ?魔法省の長官を目指すだと?」

 伯爵家の三女に生まれた私には前世日本人の記憶があった。

 そのため政略結婚する気はなく、働いて生きていこうと早くから思っていた。

 そんな時出会ったのが魔法だ。楽しすぎてのめりこむまで時間はかからなかった。

 気が付けば、国のエリートとされる魔法省に就職。女性では2人目らしい。

「何をバカなことを言ってるんだ」

 就職して3年。いい加減、男尊女卑の酷い職場に嫌気がさしてきた。

 セクハラパワハラ当たり前。それどころか女性の手柄は上司のもの。

 だって、女は男の所有物だから。

 部下の女は上司のもの。部下の女の功績は上司のもの。

 私が活躍すればするほど上司が出世していい気になる。

 ふざけんなっ!と思ったので、めちゃくちゃ”活躍してやった。”

 私の魔力は人並外れて高い。そりゃ前世記憶でいわゆる、赤ちゃんのころから魔力を使い切って回復させるをやってきたから当たり前だ。

 そして、私にしか使えない魔法もたくさんある。

 魔法を習う前から独学で試行錯誤していたし、前世でたくさんいろんな種類の魔法が出てくる物語に触れていたから発想力だけは誰にも負けない。あ、全部前世の誰かの発想だけど。

 手柄を上司にとられるのも馬鹿馬鹿しいと力をセーブしていたけれど、ぶつりと切れたある日からとにかくガツガツ働いて活躍した。

 北に魔物が出たといわれれば駆けつけ、南でドラゴンが暴れていると言われれば飛んで行き、王都で謎の病が広がったと聞けば幻の薬草を採取し、西でスタンピードが起きたとなれば先陣を切って飛び出した。

「先輩私がやりますよ~」

「私に任せてください~」

「他に仕事はないですか~」

 と、魔法省の仕事の大半を自ら買って出た。

「あはは、やっとわかったか。女は男のために働いていればいいんだ!」

 と、言ったのは上司だ。

「かわいげのない女はそうして媚を売るのに必死だな~」

 と馬鹿にしたのは同期の男。

「結婚相手がいないなら、夜の相手くらいしてやるぞ?仕事で疲れてるのを癒してやろう」

 って本当に気持ち悪いことを言い出したのは誰だったか。

 次第に、私に仕事を押し付ければいいという空気が出来上がり、ぶっちゃけ他の人なら10日はかかるであろう仕事も私の手にかかれば2時間くらいで終わるので、寝る間は惜しまずしっかり寝て仕事をした。

 で、今である。

「はい。魔法省の長官を目指して、まずは昇格試験を受けます。印鑑ください」

 にこりと笑って上司に試験申し込み書類を出す。上司の推薦がいるのよ。

「はっ、女が昇格試験を受けるだと?おとなしく俺の下で働いていりゃいんだ。俺が出世して長官になれば、お前を副長官にしてやってもいい」

 あー、もう腹が立つ。でも、大丈夫。そのために活躍してきたのだ。

「そうでうか、印鑑いただけないんですか……」

 肩を落として、泣いたふりをする。

「すいません、ショックのあまり仕事が手につきません。ああ、もちろん、それだから女は使えないと思われますよね?ええ、そうです。使えない女なので、いなくても問題ありませんよね。ショックなので早退してもいいですよね」

 と、返事も待たずに家に帰った。

 次の日は休んだ。ショックなのでと理由を添えて。

 その次の日も仕事を休んだ。まだショックなのでと理由を添えて。

 その次の日は、怒った上司が家にやってきた。

「お前がいつまでも休んでいるせいで、どうなってると思ってるんだ!」

 どうなってるんでしょうね?

「使えない女が一人休んだくらいでどうにもなりませんよね?」

 と返してやる。

 どうなってるか、想像つきますよ?魔法省の仕事の8割は私一人でやってましたからね。仕事が回ってないんでしょうね?私に仕事を押し付けて楽をしていた人たちの不満もたまっているんでしょうね?

 上司も、さらに上からおしかりを受けているんでしょうね?

「ああ、そうだ。お前ひとり休んだからといってどうと言うことはない。だが、もう3日だ。これ以上休めばお前はクビだ。病気や怪我なら仕方がないが、ショックを受けたというくだらない理由で休みなど許されるわけはない!」

 くだらない理由ね。

「申し訳ないので、仕事辞めますぅ。どうせ使えない女ですしぃ、昇格試験を受けさせてもらえないっていうくだらない理由で休むような人間必要ないですよねぇ」

 と、用意していた辞表を上司に差し出す。試験昇格試験申込書を重ねるのも忘れずに。

 はんっ。

 私がいなければ回らない職場にしたのはこのためよ。

 素直に昇格なんてさせてもらえるなんてこれっぽっちも思ってない。実力行使よ。

 上司は”素直に”試験申し込み書に印鑑を押し、辞表を破り捨てた。

 この調子で、昇格試験で不当に不合格にする輩も脅していきましょう!

 うまくいくはず。――と、思ってたんだよね。

「試験に落ちたら恥ずかしくてこの国にはいられません。隣国へまいります」

 と、敵に回るぞいいのか?と遠回しに脅しをかければ昇格試験で不当に評価されることはないと思っていた。

 が、失敗した。

 試験の前日、魔法省長官に呼ばれ、そのまま陛下との謁見の間へ連れていかれた。

 陛下や宰相の他、そこには私の両親に兄姉が勢ぞろいしていた。

「長年の功績をたたえ、そなたに”魔法爵”の地位を与える」

 は?

 魔法爵とは、騎士爵の魔法が得意な人用の爵位だ。

「私、女ですけど?」

 この国は女性は爵位を継げないことになっていたはずだよね?

「女でありながら、ドラゴン討伐までなしえたその功績をたたえると陛下は言っておられるんだ!」

 私の隣にいる魔法省長官がいら立ったように耳打ちする。

 はぁん?ドラゴン討伐なんて2年も前の話だし。

「あれは、私ではなく上司が活躍したんですよ~ねぇ、長官、そうでしたよねぇ~?私、何の功績もありませんよ?フェンリルを退けたのも私じゃなくて上司ですしぃ~」

 長官がくっと奥歯を噛む。こいつも上司が私の実績を横取りしていたのを当然知っている。

「自分の実績だと嘘の報告をしたとして処分した」

 は?それは嬉しくはあるけど、何で、今更?

「魔法爵はドラゴン討伐に対する褒章だ。そして、フェンリルを退けたことに対する褒美として……」

 嫌な予感がする。

 国を出るという脅しが、陛下の耳にも届いて囲い込むために爵位を与えたとしか思えないけど……。さらに囲い込むには政略結婚か?冗談でしょ。

「領地を与える」

「は?領地?」

「領主として領地に赴き領民たちのために働くがよい。また、魔法省分室の設置を許可する。分室”長官”へ任命する」

 両親や兄姉が、おめでとうすごいわねと褒めてくれた。

 やられた!

 逃げ場がない!

 女に爵位を与えるという前例のないことまでして、魔法省長官にしたくなかったのか!

 初の女の爵位持ち、初の領主……もし、ここで投げ出してしまえば「やっぱり女はだめだな」の前例を作ってしまう。

 家族をわざわざ呼んだのは、もし私が隣国へ行くと言うなら家族がどうなっても知らないぞという脅しだろう。

 そして、一番腹が立つのは……。

 魔法省分室の設置だぁ?分室長官だぁ?

 どうせ部下はいない長だろう。

 単に魔法省にも籍を置かせて、こき使おうって言う算段に違いない。

「与える領地は、西の森一帯だ。広さだけで言えば、この国で6番目の広い領地となる」

 に、西の森一帯だぁ?

「まぁ、この国で6番目に広い領地だなんて!」

 母上、広さに騙されてはダメです。

「恐れながら陛下。西の森というのは、魔獣の森のことでしょうか?」

 隣国と接している広大な森。

「森だけではない。街が一つと村が2つある。領民は全部で1000人ほどだ」

 知ってますよ。

 魔獣の森は隣国と接している。お互いに自国の領地だと主張していたが、「国民が住んでいる」ことを理由に我が国の領土だと主張する為に作った街があるのを。

 魔物の危険にさらされ、畑もろくに作れないような場所に無理やり作った飛び地の街。

 厄介者を追いやるために作ったと言われる2つの村。

 相続争いから遠ざけたい妾の子やら、どこか問題がある貴族の子やら、ご落胤やらも追いやられていると噂もある。

「陛下……一つ領主を拝命するにあたって、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「裁量権を最大でいただきたく存じます」

 陛下の代わりに宰相が口を開いた。

「なんだと?」

 そりゃそうだろう。領主と言えども勝手にできないことが結構ある。陛下にお伺いを立てなければいけないことは多い。

「8回です」

 宰相の目を見る。

「何が8回だ?」

「この1年で、魔物の森から出てきた魔物の討伐に駆り出された回数です」

「それがどうした」

「魔物の討伐はほとんどは地元の冒険者や兵が行いますが、手に負えない場合は領主から王都へ連絡が入り、魔法省所属の私が討伐へと派遣されておりました。魔法省分室所属でその場にいる私が魔物を討伐するのに、いちいち王都へお伺いをするのは被害を無駄に拡大するだけだと」

 宰相がうむと頷き、陛下へと耳打ちしている。

「よし分かった。魔法省分室の活動の裁量はすべて渡そう。必要な時に領内であれば自由に魔法省職員として動いて構わぬ」

 よし。

「領主としての裁量権についても、例えば隣国との間への防御壁建築、王都へと確認を獲れば1か月は往復でかかりましょう」

 うん?と陛下が首を傾げた。

「1か月など早い方だろう。防護壁など何年もかけて準備をして建てるものだろう?」

「分かりました。隣国が攻めてきましたら、王都へ確認したのち対応させていただきとうございます。そのため対応が遅れたと責任を負わせないと約束してください。なんせ魔物の住む森を抜けて王都へと連絡をしなければなりません。王都を抜けても、道中隣国の刺客に死者が殺されてしまうこともあるでしょう。私が直接王都へ向かうことができればよいのですが、魔獣から街を護る必要もありおいそれと離れられない場合もあるかと……」

「対応が……遅れたと、責任は追及しないと約束しよう」

「ありがとうございます」

 ぱちんと手を鳴らして、家族を取り囲む壁を作る。

「このように、100名200名ほどの敵の軍勢を取り囲んで行動を抑える防御壁建築の際も、確認しますね。その間に敵軍がどう動くか分かりませんが」

 陛下が家族を取り囲んだ壁を見ている。

 指を鳴らして壁を消した。

「おい」

 宰相に陛下が声をかけた。

 宰相が頷くと、また何か陛下に耳打ちしている。

「領内であれば、裁量権はすべて与えよう。他国や他領地への侵略行為、脱税、奴隷売買など法律に反しなければ自由にすればよい」

 ははーん。ほぼ自治権だわ。ありがたい。

 ちゃんと書類にしたためてもらい、領地へ移動した。


 で、今に至る。

 街がこの状態なら、100人ほどの村2つはどうなってるんだろうねぇ?

 後で見に行くとして。まずはこの村だ。

 この村の男尊女卑はそれ以上なんだろうなというのが、広間に集まった住民を見てすぐにわかった。

「この土地の領主となったエリザだ。地位としては魔法爵。この地にできる魔法省分室の長官でもある」

 ざわりと不快そうに顔をゆがめる男が半分か。

「はぁ?女が領主だぁ?そんな話聞いたことがねぇなぁ!」

「女に長が務まるわけねー」

「ああ、もしかして、村長の女になりにきたんか?」

 口々に出る言葉は予想通り。

「言っておくけれど、地位は名乗った。爵位持ち、この意味が分かる?貴族ってことだ。お前たち平民が貴族である私に歯向かえばどうなるか分かるか?」

 これで引いてくれればいいけどねぇ。

「あははは。馬鹿はどっちだ。何が貴族だ。この村で貴族だからどうだって言うんだ?」

「そうそう、護衛の一人も連れずにそんな口きいて、無事にいられるとでも思っているのか?」

「さっさと逃げ帰るか、俺らにかわいがられるか、選ばせてやるよ」

 男が一人私の手を取った。

 髭ぼうぼうで身なりの汚い男だ。とはいえ、この村の大半の男は同じようなものだ。髭をそるほどの生活の余裕がないのか、髭が男らしさだと思っているのかどちらだろう。

「や、やめろ……」

 少しだけ身なりの整った少年が声を上げた。15歳前後か?

「なんだジーク、正義の味方きどりか?」

「殴られたくないなら引っ込んでな!」

「おい、小屋に連れてくぞ、領主とやらにこの村のルールを教え込んでやる!」

「ぎゃははは、そりゃいい」

 はぁーと大きなため息が出る。

「ま、待て」

 ジーク少年が声を張り上げた。

「ここは魔獣の森の入り口から3日の場所にあるのを忘れたのか?」

「忘れるわけねーだろ!」

 ジークがにらむ男に睨み返した。

「護衛がいないなんてあり得ると思うか?」

 男どもが急に私の手を放して周りをきょろきょろとしはじめた。

「隠れて俺らの様子を見張ってるってことか?」

「もしかして貴族を傷つけたと首を斬ろうとしてる罠なのか、卑怯だぞっ!」

 ジーク少年は少しは頭が回るようだけど、それでもやっぱりまだまだだね。

 私が、一人で、この森を抜けてきたとは想像もできないらしい。

 女にそんなことができるはずがないと思っているのか。

 ま、いいや。一番初めにやりたいことがこれではっきりした。男尊女卑の解消だ。

「【土:土台となれ】」

 魔法の呪文を唱えると、私の足元がもりもりと盛り上がった。1mほど。これで、広間に集まった人間の顏が見やすくなった。

 初めて魔法を見る人間がほとんどなのか驚きの声を上げる。

「ここに集まっていない人は何人いる?」

 聞いても誰も答えない。

「町長?村長?この集落の長は誰?」

 と尋ねれば、私の腕を獲った汚い男がいししと進み出た。

「俺だ!」

「なんでお前が」

 男がふんぞり返る。

「一番強いからだ」

 猿か!

「ここには全員集まっているの?長なら分かるでしょう?」

 ボス猿が周りを見回し、偉そうに一人の女性に声をかけた。

「おい、全員いるのか?さっさと確かめろ!この愚図がっ」

 ののしるだけではなく髪の毛を引っ張るという暴力に出た。

 くそ猿め!

 そうして、連れてこられた自力では動けない人間は5人だった。

 殴られて骨でも折れたのか。ひどい暴力を受けたように見える。あとでポーションを渡そう。

「さ、ではちょっと足元注意してもらえる?」

 そういって、私のいる場所からまっすぐに線を引くように少し土を盛り上げた。

「女を殴って何が悪いと思う人はこっち側に。女性を殴るべきではないと思っている人はこっち側に移動して」

 ボス猿が吠えた。

「はっ。何言ってんだ。殴られるくらいどってことないだろ?俺たち男は外で魔獣と戦い命をかけてるんだ」

「そうだ。守ってやってるんだ。食べ物もとってきてやってる。少し殴られたからってなんだって言うんだ!」

「っていうか、俺らだって意味もなく殴るわけじゃねぇ。愚図だから躾けてやってんだ!」

「ああ、生意気な女とか、何様のつもりだって」

 分からなくはないんだよ。魔獣の脅威に常にさらされているこの村で、力がすべてっていう考えになるのはね。

 だけど、暴力を許容するのは話が別。

 偉い、立派という賞賛とか、人よりも少しいいものが食べられて、いい生活ができるというのは力が強い人の特権としてあってもいい。

 村長になることだって、構わない。だけど、それは他者を支配し奴隷にするためではない。責任をもって守るためだ。それができないなら猿以下だぞ。猿のボスは群れの秩序を保ち外猿から群れを守ってるんだぞ?

「じゃあ、次に女性で、殴られても仕方がないと思っている人はこっち。殴られたくない、どうして殴られないといけないのと思っている人はこっちに移動してください。あ、子供はこっちにとりあえずいてね~」

 女性の中にはずっと憤りを感じていたも者もいるけれど、仕方がないと思っている者が想像よりも多いのに驚いた。 

 だいたいちょうど半々くらいに分かれた。

 本当はすぐにでも女性を男から隔離したいけれど、DVを受けている女性がなかなか離婚できないのと同じで、無理に引き離すようなことをしても結局戻ってしまっては意味がない。洗脳を解かないと。

 できるだけ早く救うから。

 最終的には女を殴って何が悪いって男だけで集まって生活すればいい。

「はい、では、向こう側は、女を殴って何が悪いという男と、殴られても仕方がないという女の集まりになりました。今まで通り生活してください。村長は引き続きあなたにお任せしますね!領主に従いたくないんですよね?」

 ボス猿が分かればいいんだみたいな顏しやがった。

「で、こちらの、女性を殴るなんておかしい、殴られたくないという人と、罪もない子供はこっち側で新しい生活をはじめます」

 ボス猿が吠えた。

「あはは、泣きついてきてもしらねーぞ!そっちの男ども、弱虫ばっかりじゃねーか!」

「魔物に襲われて泣きべそかけばいいさ!」

 1秒たりとも姿を見たくないし、声も聴きたくない。

「【土:防御壁形成】」

 あっという間に線を引いた場所に5mはある壁が立ち上がり二組を分断した。

そしてて手前半分の土地を、同じように壁でくくった。殴る男たちの侵入を防ぐためだ。

「では次に、【鑑定】」

 貴族であれば魔法の才能があるかどうかを確かめる機会もある。

 才能がある者は魔法の使い方を学ぶこともできる。

 だが、庶民にはその機会はない。魔法は貴族の特権としておきたいからだ。

 魔法が使えるのは貴族だけだと思い込ませたいからだ。

 だが、実際、貴族も庶民も魔法の才能がある者の割合はそう変わらない。10人に2人くらいいる。

 これは前世知識で使えるといいなと思って開発した魔法の一つ【鑑定】で鑑定をしまくって分かったことだ。

 そして、魔法は……。

 肉体的な力は関係ない。むしろ集中力や精神力や知性に関係する。男女の性別は関係なく強くなれる方法だ。

 15歳くらいの子に声をかける。

「あなた、名前は?」

「領主様、ルールーだよ」

「領主じゃなくて、エリザでいいわ」

「はい、エリザ様」

「ルールー、あなた、他の人とちょっと違うなぁと思うことってない?」

 少女の見た目は、いたって普通。

 この村……もう町でも街でもなく、人口が多いだけの村でいいだろう。店の一つもなく、竪穴式住居が並んでいるだけなんだから。

 村の娘は、どの子も栄養が足りていないのか細い。ガリガリではないから、飢えるほど食料に困っているわけではなさそうだけど、贅沢できるほど食べられていないのだろう。日に焼けた肌に、傷んだ髪。

 ルールーは赤毛でそばかすが浮かんだ明るい表情の子だ。

 殴られた痣はなくてきれいな肌をしている。周りの人に恵まれたのかな?

「あたし、すごく頑丈なんです!だから殴られても平気なので、魔物も怖くありませんっ!」

「え?頑丈?」

 はいとルールーは頷いた。

 鑑定で見える数字、HP……体力は都会の子よりは多少ある程度だけれど、MPがやけに高い。

 もう少し詳細に鑑定をかけると、「身体強化魔法」と見えた。

 なるほど。無意識に身体強化を使っていたっていうことね。

 きっと小さいころから殴られ続け、知らない間に身についたのね。

 で、魔力切れを何度も起こし、魔力が増えたと。

 何とも皮肉な理由だ。

 周りの人に恵まれたどころか、これだけMPが増えているのだから物心がつく前から暴力にさらされて人一倍大変な目にあってきたのだろう。

 もう一人、気になった少女に声をかけた。

「あなたの名前は?」

「ラ、ララ、ララです」

 ラララララ?

 私と同じ、18,9歳くらいのの少女だ。この子もやたらと魔力が多い。

「ラララララは何か」

「エリザ様、ララだよ」

 ルールーがそっと教えてくれる。

「ララは、他の子と違うところはある?」

「は、はい、私」

 ぎゅっとボロボロのスカートを握り締めながらララが答えた。

 何かにおびえたように小さな声だ。

 薄い茶色の髪は短く、散切りになっている。誰かに切られたのか自分で切ったのか。

 殴られた痣は見当たらないけれど、古傷の跡がいくつか腕に残っている。

「怪我が早く治ります。あ、あの、転んですりむいても、次の日には治るし、その、ぶつけた跡も……」

 詳細鑑定かけると「治癒魔法」って見えた。

 なるほど。この子も幼いころから虐待され、痛みから早く解放されたくて無意識で治癒魔法が身に付いた口かな。何度も魔力が切れるまで繰り返し治癒魔法使い続けてMPが増えたのか。

 まったくっ。ろくでもない話だ。

 で、魔法の才能……魔力持ちは、なんとこちら側だけで40人もいた。

 残念ながら、いくら魔力があるといっても、ごく少しで、今後魔力が増える可能性もなさそうな人は除外すると、28人だ。

 まだ魔力は少ないけれど、年齢的にこれからどんどん増えそうな子供が16人。

 ルールーやララほどではないけれど、魔力がそれなりに多いのが10人。それから、ルールーとララ。この二人は魔法省の上司なんかよりよっぽど魔力が多い。

 私の半分ほどだが、それでもこの国でトップ10に入るくらいの多さだと思う。

「あなたたち28人は魔法の才能があります。魔法を使えるようになりたい者には教えましょう」

 28人を集めて声をかける。他の者は私たちのやり取りを聞いているだけだが、才能があると言われたものも、聞いて入りだけのものも驚きの声を上げた。

「魔法が使えるようになるんですか?」

「エリザ様がみたいに壁が出せるんですか?」

「おい、魔法って貴族にしか使えねぇんじゃなかったのか?」

 うんうん。驚くよね。

「貴族が魔法を使えるのは、魔法の才能があるか判定してもらい、家庭教師に使い方を習うからです。庶民でも、お金を出して才能の有無を確認し、お金を出して使い方を習えば使えるようになります」

 このことは庶民には教えないという暗黙のルールが貴族の間にはあった。

 法律ではない。だって、法律の書は誰でも閲覧できる。書いちゃったら読んだ庶民にバレちゃうもんね?

 暗黙のルールでも、貴族のおきてを破れば貴族社会では生きていけないどころか、闇に葬られる可能性もあるから、反する者などいない……はず、だった……。

「貴族社会から隔離したこんな場所にいて、抑止力があるわけないじゃん。私は法律に反することはするなって言われてるだけだし?内緒になんてしないよ?」

「エルザ様、何か言った?」

 頑丈だと言ったルールーが首を傾げた。

 明るい性格のようで、物おじせずに思ったことを口にするようだ。

「魔法を使えるようになりたい者には教えます。手を挙げてください」

 まだ言葉の意味がよくわかっていないだろう幼児を除いて全員が手を挙げた。

「では、魔法の訓練は、毎日、夕飯の後に行うことにします。昼間はみなと同じように働いてもらいますよ?」

 はいっと、ルールーが大きな声で返事をすると、つられて他の人も返事をした。

 鍛えればルールーとララはトップ3に入る実力がつくのでは?もちろんトップ1は私。

 やだー、最強魔女軍団できちゃうじゃん。

 魔女軍団なんてなんか悪者みたいだね。

 魔法騎士……いや、騎士とは違うか、魔法戦隊……もっと違うな。魔法少女……年齢制限ありそう、魔法師団、あ、そうそう、魔法師団だ。作ろう。村に。

 

 その後、最強魔法師団は魔獣の森を魔法で開墾し、あっという間に国一番の都市を作り上げることになる。

 男尊女卑のない領地として噂が広がり、人口も爆増。隣国との貿易も順調で、発展した領地を女から取り上げようとする国と対立したため、近々国から独立する予定だ。

 最強魔法師団にかなう組織が国にはないのだから、独立を阻止するすべはない。ただ、交渉の余地は残されている。

「女性を殴ったり不当に差別する人間を排除するなら、独立は思いとどまるけど?」



★★★評価していただけると嬉しゅうございます。


アルファポリス版から改稿。短編化しました。(カクヨムコン短編応募作品として)




*念のため*

力のある者が優遇というのは、この魔物を命がけで戦っている人に対してです。

現代日本の話ではないです。

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― 新着の感想 ―
魔力が無茶苦茶ある女の子が子供の頃から暴力にさらされていたから、ってのが辛い…!! でもそんな子たちをバリバリ教育して能力を開花させて森を魔法で開墾して防壁も生育も促したらそりゃあねぇ…。 きっと機に…
男性に魔法使える人はいなかったのかな? 声をあげた少年とかこっちに来てそうですが。
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