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チュウカナ大陸史書 偽典 菜緒虎伝  作者: 那田野狐
港湾都市ジャンの章
32/81

人材確保・・・多分

「ここまで来れば大丈夫だろう」

人目を避けるため閑散とした街の北側…俗に言うスラム街方向にある人の気配のない廃墟へと逃げてきた菜緒虎はイヌガミを見る。


「どこの誰だか知らないが感謝、す」

いきなり走ったため、派手に舌を出して…この辺は犬らしい…息を吐いていたイヌガミの顔がみるみるうちに歪んでいく。


「どこの誰だかとか、悲しいことを言うのだな」

菜緒虎は、腰のポーチから鮮やかな赤い液体を満たした小瓶を取り出しながら、スケルトンソルジャーに抱えられてぐったりとしている牛銅の元に行く。

瓶の蓋を開け、牛銅の腹部にある傷口に景気よく振りまくと、白い煙が湧きあがり傷口が少しずつ塞がっていくのが見える。


つぎにポーチから鮮やかな青い液体を満たした小瓶を取り出して蓋を開けると、菜緒虎は口に含み、おもむろに口移しで牛銅の喉へと流し込む。

牛銅は、2、3度大きく身体を震わせるが、やがて規則正しくその大きな胸を動かし始める。

見る限り、どうやら牛銅は、窮地を脱したのだということが伺うことが出来る。


「なにをした?」

イヌガミは怪訝そうな顔で菜緒虎を見る。


「ギリギリ死んでいなかったからね。最上位回復薬の瓶モストヒールポーションで傷を塞いで、上位精神回復薬の瓶ハイマジックポーションで捕捉。効果通りでしょ」

投与したものの正体を明かしながら菜緒虎の顔がもの凄く悪い顔になる。


この世界。死ねば蘇生の薬瓶リザレクションポーションや教会での蘇生術に頼って、死から生還する方法があるのだが、白金貨3枚(青銅貨3000万枚)程度の金が必要なうえに、蘇生の成功率も博打の要素が強い。


冒険者など、瀕死の重傷を負う可能性の高い人間は、非常時に備えて強力な回復薬を用意するが、当然のことながら効能が高い回復薬は非常にお高い。

現状で、最上位回復薬の瓶モストヒールポーションという魔法すら越える最高級の回復薬(カバーポーション)だと、下手すれば蘇生の薬瓶リザレクションポーションの倍する値段になる事も珍しくない代物だ。


「契約の破棄を試みての契約違反の犯罪奴隷と、最上位回復薬の瓶モストヒールポーションの代金を払う経済奴隷。どっちがいい?」

腰のポーチから3枚の羊皮紙を取り出して菜緒虎は酷薄に笑う。

この辺はアルテミスにしっかり仕込まれていた。


「ま、待ってくれ。最上位回復薬の瓶モストヒールポーション蘇生の薬瓶リザレクションポーションと交換ではダメなのか?」

イヌガミは慌てて腰のポーチに手を回し蜂蜜色の液体を満たした小瓶を取り出す。

回復の薬瓶(カバーポーション)は、その性質上、暗闇でも服用できるように密閉するための蓋の形がそれぞれ異なり、また見て解るよう液体の色が決まっているで、持ち出したモノが蘇生の薬瓶リザレクションポーションだというのは想像できる。


蘇生の薬瓶リザレクションポーション最上位回復薬の瓶モストヒールポーション上位精神回復薬の瓶ハイマジックポーション2本を等価交換とか、ねぇ?」

菜緒虎は冷ややかな目でイヌガミを見る。


「な、俺の蘇生のアテって聞いて喰いついたじゃねぇか」

掴みかかろうとするイヌガミを、菜緒虎は僅かに引いて躱す。

二度、三度と間合い追つめて菜緒虎を掴もうとするが、すべて寸前のところで菜緒虎は僅かに引いて躱す。


「なろぅ」

業を煮やしイヌガミは、半歩ほど深く踏み込むが、その半歩は菜緒虎が待っていた間合いだった。

イヌガミの伸びてきた腕を菜緒虎は上半身は引いて躱し、逆に右足はイヌガミの足の間に滑り込んで跳ね上がる。

がすっという鈍い音が響き菜緒虎の足はイヌガミの股間を蹴りあげていた。

二歩、三歩、四歩。イヌガミは股間を抑えながらよろよろと彷徨い五歩目で力尽きて床に倒れ込んだ。


「ソルジャーこの二人を縛っておけ」

菜緒虎はステータス画面を開いて天城にメッセージを送る。


『天城そちらはどう?』

『はい。建物からひとり出てきた虎人(ワータイガー)が、建物に火を付けて港方向に逃走しました。いかがしましょう』

『相手は海からこの街を出るつもりだね。合流しましょう』

『了』

メッセージを切り、次に菜緒虎はアルテミスに牛銅とイヌガミを確保したことと、今後の指示を乞うメッセージを送る。

『検討する。六人の奴隷はソロモンに送れ。菜緒虎は結論が出るまでジャンで待機』

『了』

菜緒虎はアルテミスにそう返事を返すと、縛り上げた二人を叩き起こす事とにした。


ありがとうございました。

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