魏府王国の方向からきた、一癖ありそうな冒険者たち
アルテミスの予想は当たった。
魔の荒野を越えて現れたのは六人の…実にもふりがいのあるパーティーだった。
「天城」
菜緒虎は畑の隅で大きなまさかりカボチャに背中を預けて微睡んでいる女性に声をかける。
透き通った白い髪のショートボブ。前髪で顔の右半分は隠れ気味でハの字の眉毛が困った感を漂わせている和装の美女である。
そして目を凝らせば彼女の身体がぼやけて見えるのが解る。そう彼女はゴーストだ。
ついでに言うと鉱山都市ソロモンで菜緒虎を助けた元ミストでもある。
菜緒虎の大隊長への就任ということで名付けが許されたのである。
「菜緒虎さま。なんでしょうか」
天城は、こくんと首を傾げる。
「アルテミスさまに伝令。冒険者らしき6人。装備から重戦士×1・戦士×2・回復士×1・荷物持ち×2すべて獣人」
「了」
菜緒虎の言葉に天城はアルテミスに思念を飛ばす。
「獣人の内容を告げよと」
「牝牛人、狼人男、猫人男、猫人女、犬人男は2」
アルテミスの言葉をそのまま喋る天城。その問いに菜緒虎は即座に答えを返す。
「荷物持ち2ということはおそらく食料の入手交渉。任せるとのことです」
「了」
菜緒虎は木陰に立てかけていたロングソードを手にとると、侵入者のいる方向へと歩き出す。
「あー侵入者に告げる。ここはマッサチン国のソウキ辺境騎士伯の領地である。速やかに立ち去れ」
菜緒虎は、冒険者が十分見える場所から大声でいきなりの退去命令を叫ぶ。
「わたしはー冒険者ギルドの魏府王国支部に所属するー赤い鈴のリーダー牛銅というものだ。商売の話がしたい」
鍛えられた身体をビキニアーマーに包んだ2メートル近い長身。紅いショートカットの髪に小さな角。
体格とのギャップが激しいとろんとした紅いタレ目の柔和な顔の牝牛人の牛銀香美が、ばるんと凶悪なまでの胸を揺らして叫ぶ。
「事前交渉の要を認める。話し合いの参加者は二人まで」
菜緒虎の言葉に、牛銀は周囲のメンバーと話し合いをする。荷物持ちは輪の外だ。
やがて、牛銀と戦士の男狼人が回復士らしき三毛の女猫人に武器を渡すと菜緒虎の方にやってくる。
「武器はこちらの判断で解除した。こちらは」
「冒険者ギルドの魏府王国支部に所属する狼人のイヌガミだ」
狼人が小さく頭を下げる。
エルフ相手なら素手でも何とかなりそうなふたりだと、菜緒虎は心の中で苦笑する。
「さて、商売の話ということですが、多分ご期待に応えられません」
「な」
菜緒虎の言葉に何か言いかけた牛銀をイヌガミが抑える。
すっと菜緒虎は目を細める。
「食料を買いに来られたのでしょ?」
牛銀はこくこくと頭を縦に振る。
「飛蝗は、この地にもたくさん飛来しました。そして、魔の荒野を抜けてここまで来た冒険者…食料が目的なのは想定済みです」
「では」
牛銀のつぶらな瞳が僅かに揺れる。
「ちょっと待ってくれ…想定済み?」
イヌガミが話に入ってくる。
「最初に、ここはマッサチン国のソウキ辺境騎士伯の領地だと申し上げたはずです」
菜緒虎の言葉に牛銀とイヌガミが顔色を変える。
ここ数年は、国境での小競り合いさえない小康状態のマッサチン国と魏府王国だが、仲が良い訳では無い。
いや、この2年連続の飢饉が間違いなく戦争の火種になるだろう。
食料を売ることが利敵行為になりかねないと指摘する。
「以上を踏まえて、某は、貴殿らが、我が領主と宰相殿に会って話あって貰った方がイイだろうと判断した…と報告してくれ。天城」
「了解ですぅ」
菜緒虎が告げるのと同時に地面から天城がぬっと顔出す。
「ひぃゴースト!」
牛銀が乙女らしい声で悲鳴を上げイヌガミが戦闘態勢をとる。
「天城で悲鳴を上げていたらこの先驚きの連続でスグに喉が潰れますよ?」
菜緒虎は意味深な微笑みを浮かべて忠告するのであった。
ありがとうございます。




