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縦林千春は一呼吸置き、昔話を語る。
「始まりは平成十五年の四月三日。大分県で発生した宝石店強盗事件。逃走する強盗犯が運転していた自動車に轢かれて私の娘が亡くなったこと。私の娘を殺した運転手は逮捕されたけど、私の心に強い復讐心が生まれました。宝石店強盗グループの大半は捕まっていない。宝石強盗犯は四人いたことは千冬さんが教えてくれました。それが事実なら一人しか捕まっていないことになる。それが許せなかった」
「だから宝石店強盗事件の容疑者として大分県警がマークしていたあの三人を巻き込む犯罪計画を企てたということか」
合田が聞き返すと縦林千春は縦に頷く。
「そう。集団誘拐事件はそのための手段。マスコミの過熱報道に賭けたということです。マスコミに集団誘拐事件の関係者は五年前の宝石店強盗事件の容疑者という事実が伝われば過熱報道が始まる。そうして事実を追及していき、あの三人を社会的に殺すつもりでした」
「なぜあの三人を殺さなかった。なぜ関係ない喜田参事官の孫を事件に巻き込んだ」
合田からの質問を受け縦林千春が笑いながら答える。
「マスコミを巻き込んだ劇場型犯罪を装った理由はケイシンランド人質籠城事件と同じです。劇場型犯罪を起こさないとマスコミ関係者は騒がない。ただの殺人事件ではダメなんです。確かに現職衆議院議員を殺害すれば騒ぐかもしれないけれど、五年前の宝石店強盗事件の容疑者という事実から目を反らすような報道になる。だから集団誘拐事件にしたんですよ。誤算は花菱後六まで報道の手が伸びなかったこと。バスジャック事件との関連性を強調せず、暗号や現職衆議院議員を呼び出すという要求をメインに報道したこと。因みに喜田祐樹は横溝香澄を誘拐した後で拉致する予定でした。あのバスに彼が乗り込んだから計画を変更しましたが。横溝香澄があのバスに乗ることは盗聴で知った」
「本当にそれだけか。これは俺の想像だが、縦林千夏の父親はスラント・ティム。即ち霜中凛ではないのか」
「その根拠は何でしょう」
「それだけでは喜田参事官や霜中凛を巻き込んだ理由が分からない。故に悲劇の物語は終わらない」
「その通りです。霜中凛は千夏の父親。あの頃は楽しかった。ルポライター霜中凛と小説家スラント・ティムの二重生活。私は彼のアシスタントとして二重生活をサポートしていました。次第に彼のことが好きになって二十歳の頃赤ちゃんを産んだ。それが千夏。でも結婚は許されませんでした。霜中凛が殺人未遂罪で逮捕されたので」
「このままでは娘が犯罪者の娘になってしまう。そう危惧したあなたは未婚の母になることを選んだ」
縦林千春は首を縦に振る。




