22
今回はなぜか通常の二倍になっているのです。
午後四時三十分。タイムリミットまで残り二時間。
捜査本部に顔を出した千間刑事部長が焦りながら付近を捜査する刑事たちに無線で呼びかける。
「残り二時間。それまでに監禁場所を特定しなければならない。監禁場所を発見次第、人質を救出しろ」
千間刑事部長は無線を切り呟く。
「捜索範囲を広げた方がいいのか」
現在捜査本部には、千間刑事部長と月影管理官、合田警部、北条の四人と、パソコンを操作する警察官が数人いる。
合田は暗号文が書かれた紙に目を通す。
「分からない。この暗号を解読すれば、監禁場所を特定することができるのだが。山羊が柵を飛び越える度に刻まれた烙印。山羊は少しはみ出している。飼い主は心配しない。いつものことだと。虫がお気に入り。虫の近くには必ずそれがある。五番目の惑星へと続く道は遠い。四つの星が集まった幽霊の住処に迷い込んだ。山羊は二度と海を見ない」
合田が改めて暗号文を読み上げると、月影があることに気が付く。
「暗号のキーワードは山羊。もしかしたら山羊が関連する地名かもしれません」
「聞いたことがない。山羊が関連する東京の地名なんてあるはずがない。何か。暗号解読のヒントが文章に隠されているはずだ」
月影は咄嗟に腕時計を見る。その腕時計にはローマ数字が刻まれている。
「山羊。烙印。そういうことですか。暗号が解けましたよ。山羊が柵を飛び越える度に刻まれた烙印。山羊は少しはみ出している。飼い主は心配しない。いつものことだと。虫がお気に入り。虫の近くには必ずそれがある。この文章にはローマ数字の由来が隠されています。古代ローマ人は元々農耕民族で羊の数を数えるのに木の棒に刻み目を入れていたそうです。柵から一匹ずつヤギが出て行くたびに刻み目を一つずつ増やしていったんです。山羊は少しはみ出している。飼い主は心配しない。いつものことだと。この文章ははみ出し者。俗に言う一匹狼を現しているとしたら、刻み込まれた烙印は一。それをローマ数字にすればⅠ.虫がお気に入り。虫の近くには必ずそれがある。Ⅰに虫を近づければ、虹という漢字になる。虹。それが示す場所といえば」
月影の推理を聞き合田が答えを導き出す。
「レインボーブリッジか」
月影は首を縦に振る。
「そうです。五番目の惑星へと続く道は遠い。五番目の惑星は木星のこと。水金地火木土天海と習ったでしょう。惑星の並び順。橋という漢字には木が含まれています」
「残りの文章が示す意味は」
「最後の文章。四つの星が集まった幽霊の住処に迷い込んだ。山羊は二度と海を見ない。幽霊の住処は廃墟のこと。二度と海を見ないということは、海が見えない場所。繋げるとレインボーブリッジを通過した先にある海が見えない廃墟」
「まだ分からないことがある。四つの星が集まったという文章が意味すること」
「それなら分かりますよ」
北条が月影たちの推理を聞きながら声を出す。
「四つの星が集まった。この文章も文字通り。調べたところ、お台場の四つ星ホテルフラワーゴートが経営困難により廃墟となったことが分かりました。このホテルはビルの高さの関係で海が見えません。暗号文とも合致します。さらにホテルの敷地内で腐葉土を人工的に作っていたそうです。ホテルの敷地内で栽培されていた野菜に利用していたそうですよ」
月影たちの推理を聞いていた千間刑事部長は無線のスイッチを入れ、刑事たちに指示を与える。
「捜査員に告ぐ。お台場にある四つ星ホテルフラワーゴートに迎え。そこが監禁場所だ。繰り返す。お台場にある四つ星ホテルフラワーゴートに迎え」
千間は指示を与えると、SATを要請するために電話を取り出す。
合田は疑問を感じる。監禁場所を特定したとしても、犯人を逮捕することができるのか。霜中凛を殺した犯人は誰なのか。その犯行動機は。暗号を解読することはできたが、謎が多い。
すると千間刑事部長の元に一本の電話がかかってくる。その相手は喜田参事官。
「喜田参事官。何の用だ。監禁場所は既に特定された。SATも要請済み。現在捜査員たちが現場に向かっている」
『そちらも暗号解読できましたか。こっちも探偵さんの協力の元暗号を解読したところです』
「もういいか。こっちは忙しい」
『少し話を聞いてください。こちらの捜査報告です。朝風前進、桂右伺郎、花菱後六の三人は五年前に発生した宝石店強盗事件に関与していたのではないかという疑惑があります。情報元は聞かないでください。それと横溝香澄と霜中凛の接点が分かりました。どうやら霜中凛は横溝香澄の家庭教師をやっていたようです』
その漏れてきた電話の声を聞き合田は頬を緩ませる。
「そういうことか。全ての謎が一本に繋がった。月影。今から監禁場所に向かう。早くいかなければ大変なことになる」




