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最期の奇術師  作者: 山本正純
中編
19/27

19

 都内のホテルの一室に金髪碧眼の脚本家、テレサ・テリーがいる。テレサは現在机に置かれたノートパソコンを右手で操作しながらスマートフォンにかかってきた電話に出ている。

「千穂ちゃん。何の用」

『忙しいですか』

「忙しいよ。こっちはホテルに籠って映画の脚本を書いているから」

『そうですか。良い暇つぶしになると思ったのですが』

「気分転換に聞こうかな」

『それは良かったです。実はテレサさんに調べてほしいことがあります。五年前大分県で発生した宝石店強盗事件について』


 テレサはノートパソコンの前から立ち上がる。

「あの事件ね。具体的に何が聞きたいの」

『あの事件に関するディープな情報です』

「あの事件。犯人グループの一人、横溝虎徹が出頭してきたでしょう。女の子を轢き殺したって。その後の捜査で横溝虎徹が犯人グループのメンバーだってことが分かった。その出頭を受けて大分県警の捜査はストップした。なぜでしょう」

『クイズですか。おそらく圧力でしょう』

「正解。あの事件には裏がある。犯人グループのメンバーに現衆議院議員朝風前進がいたのではないかという疑惑があったんだけど、圧力でうやむやになったってわけ。このことはマスコミ発表されていないことだから、知っているのはマスコミ関係者か大分県警の刑事として事件に関わった人間だけ。それと、横溝虎徹の自宅を三人の男が訪ねていたんだよね」

『その三人というのは』

「衆議院議員の朝風前進。横浜中央大学犯罪心理学部教授の花菱後六。青空運行会社の桂右伺郎。この三人は大分県出身。横溝虎徹と面識があり、度々彼の自宅を訪問したり、連絡を取り合ったりしていたことから、大分県警は容疑者としてマークしていたけれど、朝風の圧力によって捜査が打ち切りになる。当時のマスコミは犯人グループのメンバーが四名だと公表していたから、あの三人が犯人グループの残りのメンバーではないかと私は今でも疑っている」

『そうですか。それと朝風前進について何かご存じですか』

「朝風前進は十一年前法務省による使途不明金問題を引き起こした張本人として警視庁捜査二課に逮捕されそうになったけれど、証拠不十分で釈放された。圧力でこの事実も隠蔽されたけれどね」

『分かりました。最後に少し気になることがあります。なぜあなたはそこまで捜査情報に上しいのでしょう』

「結構顔が広いからね。あっちのマスコミ関係者や刑事さんとも知り合い。それだけ情報網が広いということ」

『なるほど。それではありがとうございます』


 江角千穂は電話を切り、隣にいる喜田参事官に報告する。その話を聞き喜田は北条に電話する。

「北条。少し頼みがあります。全都道府県に勤務する警察官のデータベースから、縦林千冬という刑事を検索してください。検索結果はメールで構いません」

 その電話から一分後、北条からメールが届いた。

『縦林千冬。大分県警捜査三課刑事』

 そのメールを読み進めていくと、とある事実が判明する。

「やっぱり縦林千冬は五年前の宝石店強盗事件の捜査員です。ここは聞いた方がいいでしょう。大分県警に勤務するあなたの友達に」

 喜田は江角千穂の顔を見る。江角はすかさず須藤涼風に電話する。

「そうですか。ありがとうございます」


 一分ほどで電話が終わる。江角は電話の内容を喜田に伝える。

「縦林千冬には窃盗事件の聞き込みをしていたという鉄壁のアリバイがあるそうです。即ち縦林千冬は犯人ではない」

「関係者だということは確かですが。それでは次に縦林千春の家宅捜索をしましょうか」

 江角千穂は自動車を縦林千春の自宅マンションまで走らせる。


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