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最期の奇術師  作者: 山本正純
中編
17/27

17

今回も長いですね。

 合田は東京都江戸川区にある縦林法律事務所を訪れる。二階建ての事務所の受付で所長の縦林智晶を呼ぶよう告げると、スキンヘッドにサングラスをかけた男が合田の前に現れる。黒いスーツを着ているその男の胸ポケットには弁護士バッチが止まっている。

 男が合田に声をかける。

「縦林智晶だが、警察が俺に用があるのか」

「警視庁捜査一課の合田だ。横溝香澄と縦林千春について聞きたいことがある」

「二階で話そう」


 縦林智晶の後ろを合田が歩く。智晶は歩きながら合田に聞く。

「二日も無断欠勤している弁護士の風上にも置けない奴のことを聞くのか」

「ニュースを見ないのか。横溝香澄は何者かに誘拐されている。報道規制で名前までは報道されていないが、一目見れば知人だと分かると思うが」

 縦林智晶は階段を昇りながら、握り拳を作る。

「マスコミ嫌いなんだ。世論に耳を貸すべきではないと思っているから。職業病だ。同じ理由でインターネットも使わない」

「それで横溝香澄が誘拐された理由に心当たりはないのか。例えば何かの事件で恨みを買ったとか」


 階段を昇り切った合田が聞くと、縦林智晶は事務所の内開きのドアを開けながら答える。

「それはあり得ない。彼女がこれまで弁護した事件は全て妥当な判決だった。強いていうのなら、彼女の兄絡みだな。彼女の兄、横溝虎徹と縦林家には少し因縁があるからね。だからと言って犯人が縦林家の人間だとは言っていないよ」

「その因縁というのは何だ」

「五年前の四月四日。大分県の国道二百十七号線で千春の娘縦林千夏が交通事故に巻き込まれて亡くなった。交通事故を起こした宝石店強盗グループのメンバーの一人、横溝虎徹は交通事故から三日後に出頭して服役中。そういえば宝石店強盗グループの殆どは逮捕されていなかった。加害者遺族が被害者遺族の弁護士事務所の採用試験を受けると知った時、私は疑ったよ。彼女は縦林家に復讐するために弁護士事務所に入ったのではないかって。まあ面接でそのことを聞いたら、復讐なんて微塵も考えていない。と答えた。成績も優秀だったから採用した」

 

 二人は事務所の椅子に腰かけ、話を続ける。

「横溝香澄に彼氏がいたということを聞いたことがないのか」

「彼女が大学生のころいたのなら分かりかねるが、職場内では恋愛の噂を聞いたことがない。先ほどから気になっているが、なぜ娘の名前が出た。まさか娘が誘拐事件に関与しているのか」

「それは分からないが、今娘さんはどこにいる」

「昨日から旅に出かけた。行き先は大分県と言っていたな。墓参りが目的だろう」

「墓参りというのは」

「この写真に映っているのは縦林千夏か」

 合田は縦林智晶に小学生の写真を見せる。すると縦林智晶は縦に頷く。

「そうだ。この写真は交通事故に巻き込まれる直前に撮影された物だろう。あれは痛ましい事故だった。あの日大分県で刑事をしている千冬姉さんの家に二人が遊びに行かなければこんなことにはならなかったから」

「因みに縦林千夏の父親は誰だ」

「分からない。未婚の母という奴だ」

「形式的な質問だが、今日の正午頃どこで何をやっていた」

「東京拘置所である殺人事件の被疑者と面会をしていた」

「縦林千春はあなたの家に住んでいるのか」

「千春は横浜のマンションで一人暮らしをしている」

「最後に縦林千春の顔写真を貸してほしい。持っていなければ神奈川県警に捜査協力を要請して任意の家宅捜索をするが」

「分かった。写真を貸す」

「それと縦林千春の自宅マンションの住所も教えてほしい」

「図々しいな。分かったよ」


 縦林智晶は手帳を取り出す。その手帳のページの間には縦林千春の写真が挟まっている。

 その写真には縦林千春と千夏が映っている。

 縦林智晶は写真を抜き取り、合田に渡す。


 合田は縦林法律事務所を後にすると、北条に電話する。

「合田だ。縦林千春の写真を入手した。今から送るから照合してほしい。それと縦林千春の住所を入手した。早急に任意の家宅捜索を行う。住所は神奈川県横浜市の……」


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