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午後一時。合田警部は新宿ホワイトキングシティホテルにやってくる。
取り壊しが決定したホテルの前に停車した黒い自動車の前に北条が立っている。その周りを多くの警察官たちが囲むように。
「北条。現場の状況は」
合田に聞かれた北条は目の前にある自動車を指さしながら答える。
「はい。死亡したのは霜中凛。三十七歳。殺害方法は首に索条痕が見られることから絞殺と思われます。死後硬直の状態から死後一時間程経過していることが分かります。霜中の死体は自動車の運転席に座らされていたのですが、現場には紐状の物がありません。つまり霜中凛な何者かに殺害され、遺体を自動車と共にこの取り壊しが決定したホテルの前に遺棄されたものと思われます。車内には鞄などの遺留品が多く残されていますので、鑑識で鑑定を行います」
「分かった。二手に分かれる。一班は犯人に繋がる遺留品の捜索。二班は現場周辺で聞き込みを行う」
「遺留品なら見つかりましたよ」
北条が声を出し、合田が振り返る。
「本当か」
「犯人を特定する遺留品ではありませんが」
北条は一言付け加えると、合田に遺留品を見せる。その遺留品は二つの鞄。水玉模様が特徴的なショルダーバッグと花柄の手提げバッグ。
合田は水玉模様が特徴的なショルダーバッグを開ける。その中には二つ折りの財布と一冊の文庫本が入っている。
その財布の中には免許証が入っていた。
「横溝香澄。二十八歳。月影が報告してきた女と同じ名前だな」
北条は合田が手にしている免許証の顔写真を見る。
「横溝香澄さんです。月影さんから受け取った写真と同じ顔ですから、間違いありません」
合田が遺留品の文庫本を手にする。
「財布と一緒に入っていた文庫本のタイトルは最期の奇術師。作者はスラント・ティム」
「聞いたことがありません。おそらく事件とは関係ないかと」
北条の見解を聞き、合田は手提げバッグを開ける。その中には財布などの身元特定につながる物は一切入っていなかった。その代りに入っていたのは、ショートヘアが特徴的な小学一年生くらいの女の子がブランコで遊んでいる写真が一枚。
その写真を見ながら合田が呟く。
「北条。この写真は今回の集団誘拐事件と関係があると思うか」
「それは分かりません」
北条が見解を告げると、捜査員たちは目撃証言を得るための聞き込みや遺留品の捜索を行う。だが有力な証言は得られなかった。




