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戦国商人立志伝 ~転生したのでチートな武器提供や交易の儲けで成り上がる~  作者: 須崎正太郎
第四部 太閤昇竜編(1565~1573)

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第五十三話 小谷落城

「次は、小谷を攻める!」


 朝倉氏を壊滅させた信長の動きは、なお続く。

 一乗谷における戦後処理もほどほどに、信長は軍を率いて、北近江へと舞い戻り、浅井家の主城、小谷城を取り囲んだ。そして信長は、藤吉郎と俺を呼び出し、


「藤吉郎、そちは長い間、浅井攻めを担当しておった。小谷のことならば詳しかろう。城攻めの一番手を任せる。神砲衆を任せるゆえ、ただちに取りかかれ」


「承知でごぜえます!」


「承りました!」


 藤吉郎と俺は大きくうなずくと、羽柴軍3000が揃っている自陣に戻り、蜂須賀小六と打ち合わせ、小谷攻めの準備を始めた。


 その陣の中には、武田信玄暗殺のときに負傷した竹中半兵衛も、怪我が完全に癒えぬ中、参加している。さらには、かつて北近江で俺と交易の話をした宮部継潤みやべけいじゅんもいた。浅井家臣だった彼は、だが藤吉郎の誘いに乗って、いまでは織田家の家臣となっている。


「宮部どのよ。小谷を落とすには、夜襲がよかろうな?」


 藤吉郎が尋ねると、宮部さんは大きくうなずき、


「浅井長政の籠もる本丸と、長政の父、久政のいる小丸の間にある京極丸。あそこが見張りの兵も手薄でござるゆえ、夜に押しかければ落とせましょう」


「夜襲仕事ならオラに任せろ。得意だ。隊の中から夜目がきく者を集めて大暴れしてやらあ」


「頼むぞ、小六兄ィ。そうじゃ弥五郎、神砲衆から甲賀の次郎兵衛を、小六兄ィにつけてくれ。あれは良き忍びじゃからの。……そう、貸すといえば弥五郎。神砲衆からは、伊与と五右衛門も貸してくれんかの?」


 藤吉郎が、なぜいきなり伊与と五右衛門の話を出したのか。

 俺にはすぐに分かった。

 お市の方のことだ。


 浅井長政の妻となった、信長の妹、お市。

 このまま小谷が落城すれば、彼女は戦場の露と消えてしまう。


「殿様はなにも言わぬ。しかし、助けてほしいと内心では思っているはずじゃ」


 藤吉郎は、神妙な顔をして言った。


「ゆえに、助ける。……じゃが、わしが小谷に乗り込んだところで、お市様は承知すまい」


「そこで伊与と五右衛門か。……なるほど女性が行けば、お市様も少しは心を開いて、城から出ることを考えてくれるだろうな」


「そういうことじゃ。ま、単純に、伊与と五右衛門は頼りになる戦力でもあるがの」


「それもそうだ。……分かった。伊与たちを預ける。頑張ってくれ、藤吉郎!」


「おうよ!」


 俺と藤吉郎は、がっつりと手を組み合った。


「…………」


 俺たちの隣で、半兵衛は、ただひとり無言であった。




 その日の夜、夜襲は決行された。

 蜂須賀小六率いる夜襲部隊500が小谷城の京極丸を襲撃、占拠。

 やがて夜が明けると藤吉郎は、宮部継潤率いる500の兵を京極丸に走らせ、蜂須賀隊と合流させる。そして蜂須賀隊と宮部隊は小谷城の小丸を攻め、浅井長政の父、久政を自害に追いこんだ。


「あとは本丸のみじゃ。攻めるは容易。じゃがその前に、少し待て」


 藤吉郎は、蜂須賀隊と宮部隊を休息させつつ、残りの羽柴本隊を小谷城内に進軍させると、そこでいったん進軍をやめて、伊与と五右衛門を呼び出し、


「ここから先は汝らの仕事じゃ。浅井備前守どのとよく話し、お市様とお子様たちを救い出して参れ」


「承知しました。お役目は必ず」


「果たすよ、藤吉郎さん」


 伊与と五右衛門は首肯し、神砲衆50人を率いて小谷本丸に接近した。

 神砲衆には女性の兵もいるが、この50人のうち、8割は実に女性だった。

 伊与は、彼女たちを率いて、小谷本丸へと赴き、


「織田家臣、羽柴藤吉郎が使者、堤伊与!」


 と、叫んだのである。




 藤吉郎と伊与が、小谷を攻めている間、俺はというと、カンナ、さらに神砲衆の部下10人と共に、小谷城の西にある小川の岸辺にいた。


 川を見つめていると、やがて、北から小舟がやってきた。

 小舟には、羽柴小一郎が、近侍をふたり従えて、乗っている。


「見つかりました! 見つかりましたよ、山田さん、カンナさん!」


 小一郎は、満面の笑みだ。

 やがて小舟が岸辺についた。

 小舟には、木箱がななつ、乗っていた。


 俺は部下に命じて、木箱を上陸させ、箱を開けさせた。

 すると、いくつものガラス容器が登場した。


「おーっ、シャレとる器やないね、これは! 南蛮ものやないん!?」


 カンナが、目をきらきらさせる。

 俺はうなずいて、ガラス容器を手に取った。


「一乗谷城の奥にあった、ガラスの器さ。あると思って、小一郎に探してもらっていたが、……やっぱり見つかったな」


 朝倉家は、交易に強い大名だった。

 遠い九州、薩摩の島津義久に手紙を送り、琉球国(沖縄県)との交易の話を進めたり、あるいは出羽国の戦国大名、安東愛季に鉄砲を送ったりもしている。


 そして朝倉家は、海外とさえ、交易をしていた。

 琉球を通じて、イベリア半島の鉛や、イタリアで作られたガラス容器を購入し、逆に越前で作られた数々の反物や茶器、日本刀などを輸出していたのだ。


 と、これは例によって俺が知っている未来知識だが。

 とにかく、一乗谷を詳しく調べれば、海外交易品が出てくることは分かっていた。

 そして、交易ルートも……。


「よし、小一郎。悪いが、もう一乗谷に戻って、海外と交易をしていた朝倉家の生き残りや、越前商人を見つけ出して、よく保護してくれ。彼らが持つ交易経験や、南蛮、あるいは他地方の大名との繋がりは重要だ」


「分かりました。お任せください!」


「おー、小一郎。アンタも頼りがいのある男になってきたねえ、ふふっ」


「あ、あはっ、そうですか。カンナさんに褒めてもらえると嬉しいです。この羽柴小一郎に、商いを教えてくれたのはカンナさんですから!」


 小一郎は、ちょっと顔を赤くさせながら目尻を下げた。

 なにを照れているんだか。俺は苦笑いしながら、


「……よし。ではこれらのことは、殿様(信長)にもご報告する。今後、織田家はますます商圏を広げていくべきだ。


 織田家はいま、堺、京の都、越前、坂本、美濃加納、津島、観音寺などの主立った商都を手に入れた。これらの町を陸路、水路で繋げ、交易、物流の道を形成していく。その道を管理するのが、俺たち神砲衆さ。これに海外交易まで加えれば、利益は空前絶後になるぞ。1000万貫さえ、夢ではあるまいぜ」


「い、1000万、貫……!」


 小一郎は、目を丸くした。

 その隣でカンナは、にっこりと笑って、


「神砲衆がなかったら、人々が生活もできん、ゆうくらいに商いの幅を広げたいね。それが織田様のためにもなるはずやけん」


「そういうことだ。……だが、この構想は慎重を要するぞ。神砲衆ばかりが儲けては、ほかの商人は必ず妬む。その妬みは、次のいくさに繋がるだろう。……それは俺の目指すところじゃない。俺が求めるのは、泰平の上に成り立った利潤だ」


 独占禁止法じゃないが、俺達だけが富に溢れても仕方が無いのだ。

 織田家、そして織田家が支配する領土の商人や民衆がみんな平和に豊かにならねばならない。


「だからこそ、既存の座とも打ち合わせ、堺の会合衆や津島衆とも提携していく」


「もっちろんよね。伊藤惣十郎いとうそうじゅうろうさんなんか、そのへんがよう分かっとるけん。あの人とも話しあって決めていかんと」


 俺が信玄暗殺のために動いているとき、カンナが商いを共にしていた尾張商人、伊藤惣十郎さん……。

 彼の力も、当然必要になる。さらに会合衆の今井宗久や千宗易。……それに、桶狭間の戦いの前に出会ったポルトガル人のレオンや、明国人の玉香ゆーしゃんとも、もう一度会いたい。


「ますます忙しくなるぞ。神砲衆はさらに銭を稼ぎ、織田家の力となっていき、それが天下布武に繋がるのさ」


「凄まじいですね、山田さんは。まさに天下の大商人ですよ。兄者が頼りにするはずだ」


 小一郎が賞賛してきたので、俺は、――ニッと笑った。


「……小谷城、もう落ちたやろうか」


 ふいにカンナが言った。

 俺は東の山を見上げた。

 山の中腹には小谷城があり、いま、その城は織田軍に囲まれて――


「伊与と五右衛門が、本丸に行っているはずだ。お市様とお子様を救い出して、……そしてその後、本丸は、藤吉郎が落とすさ」


 遠くに見える小谷城からは、火の手も上がっていない。

 落城寸前とは思えない。ただときどき、変に甲高い声が聞こえてくるのみだ。

 織田か浅井か、どちらかの兵が叫んでいるのか。


「……俺はお市の方を、救えなかったな」


 ぽつりと。

 カンナにだけ、聞こえるようにつぶやいた。


「あの方を、救いたかった。浅井家がこうなると分かっていたから動いたが、……やはり歴史は変わらなかった」


「弥五郎、また始まった。アンタの悪いくせよ。喜んだと思ったら、また落ち込んで。……アンタなりに必死に頑張ったんやけん。……仕方ないやん」


 カンナは、そっと、細い両手で、俺の右手を握ってくれた。

 きめ細やかな、彼女の肌を、指先で感じた。


「分かっている。分かっているんだ。それでも悩む。俺の戦いがまったく歴史に影響を与えないのであれば、……俺たちの、藤吉郎の、織田家の行き着く先は……」


「かもしれん。けれど、アンタのおかげで助かった命もあるやろ。忘れたん? ……ほら」


 カンナが、東を指さした。

 ひとり、男が走ってくる。

 それはよく見ると、……和田さんだった。


「山田うじ。お待たせしもうした」


 かなり走ってきただろうに、和田さんは、さすがに息も切らさずに、落ち着いた声だ。

 信長といまいち折り合いが悪かった和田さんは、信玄暗殺後、甲賀には戻らず、織田家中にも姿を見せず、ひとまず神砲衆の中で俺がかくまっていたのだが、


「ご報告でござる。堤うじと石川うじの説得により、お市様は小谷本丸を離れ、織田本陣におられる上総介さま(信長)のもとに、身を寄せられた模様」


 今回は、使者の役割を果たしてくれたらしい。


「そうか、お市様は助かったか。伊与、五右衛門、よくやってくれた」


 その件については、俺はまず安堵した。

 そして、目の前にいる和田さんを見ながら、カンナの言うことも分かったのだ。


 ――アンタのおかげで助かった命もある。


 そうだ。

 和田惟政さんは、本来、死ぬ予定だったひとだ。

 それを俺が介入することで、生き延びることができた。

 歴史は変えられる。ひとの命は救える。俺はそれを知っているはずだ。


「……よし。まずは勝利だ。喜ばしいことだ。小谷の落城は目前。金ケ崎以来、苦難の連続だった織田家も、これで一息つけるはずだ。神砲衆もますます栄える。……いいことだ! 落ち着いたら、神砲衆のみんなで宴でも開こう!」


「やったあ!」


「いいですね!」


「……山田うじ。なにもかも、感謝いたすぞ……!」


 俺の宣言に、カンナも、小一郎も、和田さんも、そして他の部下たちも笑顔を見せた。

 未来は必ず、明るい。俺は天下の大商人。藤吉郎は天下の大将軍。そして日本中に、繁栄と平和を必ずもたらす。あの大樹村の誓いを果たすために。


 そうだ、未来は明るいんだ!





 これより2日後、羽柴秀吉の猛攻により、小谷城本丸は落城。

 浅井長政は自刃。戦国大名、浅井家は滅亡した。






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