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戦国商人立志伝 ~転生したのでチートな武器提供や交易の儲けで成り上がる~  作者: 須崎正太郎
第三部 桶狭間激闘編(1559~1560)

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第二十二話 転生者の使命

 その後、俺は和田さんの家来である甲賀忍者を使って、清洲城の信長に手紙を送った。

 六角氏との交渉は、万事、とどこおりなく進行したので、安心してほしい、と。


 すると、翌日の午後には返事がきた。

 その手紙には、


「六角氏との本格的な同盟交渉については、丹羽長秀を送るので彼に一任せよ」


 とのことだった。

 彼もまた、田楽狭間の戦いのあと、行方不明だった。

 だが、無事に生き延びて、清洲に戻ってきたという。


 史実でまだ死ぬ人物でないだけに、恐らく大丈夫だろうとは思っていたが……。

 こうして無事を知らされると、やはりホッとする。


 とにかく、丹羽さんなら外交仕事は充分に任せられる。

 なぜ、丹羽さんをわざわざこちらに寄越すのかというと、足軽組頭の身分である藤吉郎さんや、織田家に所属しているだけの商人である俺では、決定的な同盟交渉役としては身分が足りないからだ。


「丹羽様への連絡役には、わしひとりがここに残れば充分じゃ。弥五郎、汝はいったん尾張に戻れ」


 藤吉郎さんが、そんなことを言った。


「なぜです?」


「そろそろ今川が、動き出してもおかしくない。これに対抗するには汝の力が要る。一足先に尾張に戻って、神砲衆を再編成し、武器や道具を揃えておけい」


「なるほど、確かにその通りです。――では、ここはお任せします」


 俺は藤吉郎さんとうなずき合った。

 確かに、時間はもうあまりない。


 大将の今川義元が負傷したことで、一時的に動きを止めている今川軍だが、それもそろそろ限界だろう。

 俺は伊与と共に、尾張に戻ることにした。そして、藤吉郎さんは「ひとりで」と言ったが、観音寺城はしょせんは六角氏の領地。護衛役が必要だ。その役には五右衛門を当てることにした。彼女なら、万が一があっても、うまく藤吉郎さんを引き連れて観音寺城を脱出してくれるだろう。


「石川五右衛門が、藤吉郎さんを守るのも皮肉なんだがな……」


 近江から、尾張に向かって進む道の途中、俺は小さくうめき声を出す。


「皮肉? なぜ皮肉なんだ、俊明」


「ああ、そこらへんはまだ言ってなかったっけ。つまりさ」


 俺は、いったん深呼吸をしてから言った。


「石川五右衛門は、最終的には藤吉郎さんに――豊臣秀吉に殺されるんだ。釜茹でにされてな」


「………………」


 伊与が、息を呑んだのが分かった。


 どんより雲が、空を支配している。

 ぽつり、ぽつりと、小雨が空から落ちてきた。

 雨具もないまま、俺たちは早足で進んでいく。


「俊明。私は、お前の知っている未来を聞いた。――正直、いまでも信じがたい部分がある。上総介さまが天下平定に励んでいく、まではまだ分かるが……藤吉郎さんがそのあとを継ぎ、日ノ本の王者となる……天下人になるなど、未だににわかには信じがたい。……それに」


「…………」


「藤吉郎さんは天下を取ったあと、朝鮮にまで兵を繰り出すという。それだけではない。自分の甥っ子一族を大量に殺戮したり、さらには五右衛門まで釜茹でにするというのか。あの藤吉郎さんが? どういう理由で? ……私には、あの木下藤吉郎が、そんな殿様になるなど、とうてい思えない……」


「俺もそう思うよ。だから戸惑っているんだ。――ただひとつ言えるのは」


「言えるのは?」


「この乱れた戦国乱世をまとめるには、上総介さま……織田信長と、藤吉郎さんこと、豊臣秀吉の力がいる。そしてそのあとには、あの徳川家康の力も。彼らを助けて、本来の歴史通りに日本を泰平に導くのが、俺の使命だと思っているんだ」


「…………」


 人気のないけもの道をひたすら歩きながら、俺たちは言葉を交わす。

 眼前では、赤茶けた草が、風によって波打っていた。

 やけに物憂い気分になる、薄暗い草原が広がっている。


「私は」


 伊与は、風で乱れる黒髪を抑えながら、続けた。


「私は本来、俊明と再会したあの戦場で――7年前の萱津の戦いで死んでいるはずだった人間だろう?」


「いや、それは分からない。未来に残った史料にそう記されているだけで、実際には……」


「違いないさ。きっとそうだった。いや、私だけじゃない。カンナも恐らく、お前と出会わなかったら、ならず者に殺されていたに違いない」


「…………」


「お前がこの時代にやってきたおかげで、私とカンナは助けられたのだ。きっとそうさ」


「伊与」


「俊明。私はお前と運命を共にすると決めた。お前がどういう道を行こうと、堤伊与は女として侍として、いっしょに歩んでゆくだけだ」


「……ありがとう」


 風は、ますます強く吹く。

 隣を歩く、伊与の長い黒髪が舞う。

 白いうなじが、やけに印象強く、俺の網膜に焼き付いた。


 俺の使命は、三英傑を助けて歴史が誤った方向に行かないこと。


 だけど、それだけじゃない。

 俺を慕って集まってくれた仲間たちを守りぬくのも大事なことだ。


 特に、堤伊与と蜂楽屋カンナを。

 このふたりだけは、なにがなんでも守り抜き、幸せにしてやりたい。絶対にだ。


「カンナ……」


 未だ行方知れずの彼女のことが、気がかりだった。




 歩き続けていると、雨はいよいよ激しくなった。

 雨具がないのが、あまりに痛い。これ以上動くと、風邪を引いてしまうかもしれない。


「俊明。気付いているか? ここはもう、海老原村の近くだぞ」


「ああ、分かっているさ」


 伊与に言われて、俺はうなずいた。

 ここは、あのあかりちゃんの親戚がいる海老原村の郊外だ。

 清洲にも津島にも、まだもう少しかかるところだが……。


「この雨と、いまの俺たちの体力を考えれば、海老原村で一泊したほうがよさそうだ」


 もう、空も暗くなってきているしな。

 この村なら、宿泊と食事くらいはなんとかなる。


「よし、八兵衛翁のところに行こう。あそこで休んでから、明日、改めて清洲に向かう」


「分かった。明日も雨が降るようなら、雨具も借りていきたいな」


「だな」


 二人揃って、八兵衛翁の家におもむく。

 雨のせいか、村人はまったく外におらず、人と出くわすことはなかった。

 しかし、八兵衛翁の家に行くのも久しぶりだ。最後に顔を出したのは京の都に行く前だったか? 忘れられてなきゃいいけど。


 そう思いながら、八兵衛翁の家の前に立つ。家屋は雨戸で閉ざされていた。

 雨はいよいよ土砂降りだ。早く屋根の下に移動して、身体を拭きたいところだ。


「よし、尋ねるぞ」


 そう言って、ドンドン、と家の雨戸を叩く。


「すみません。どなたか、いませんか? 津島の山田弥五郎です!」


 大声で、叫ぶ。

 家の中から返事はない。……留守か?


「雨宿りに参りました。……お留守ですか?」


 我ながら、滑稽なことを言っていると思った。

 返事がなけりゃ、そりゃ留守だよな。自分で苦笑してしまう。

 しかし参ったな。まさか八兵衛翁が不在とは――そう思ったときだった。


 目の前の戸が開き、雨戸の間から、瞳が覗く。

 青く美しい、その見慣れたまなざし。それは紛うことなき――


「「カンナっ!?」」


 俺と伊与が、揃って素っ頓狂な声をあげた。

 そう、八兵衛翁の家から顔を出したのは、なんとカンナだったのだ。


「弥五郎! 伊与! アンタたち、無事やったとね……!!」


 ずいぶん久しぶりに聞く気がする、彼女の博多弁。

 まさかカンナが海老原村にいたなんて。過程は気になるが、とにかく無事でよかった!


「カンナ。本物だな。足もちゃんとついているな?」


「当たり前やし。オバケやなかよ! 伊与も元気そうでよかったぁ……!」


「カンナ。とりあえず、中に入れてくれないか? 雨に打たれて寒いんだ」


「あっ、そうやった。ごめんね、気が付かんで。はよ中に入りんしゃい」


 カンナに言われて、俺と伊与は家の中に入る。

 すると家主の八兵衛翁も現れて、すぐに手ぬぐいを出してくれた。

 俺と伊与は、その手ぬぐいで濡れた身体を拭きながら、衣服を整えたわけだが――


 さしあたって俺は、豪雨から逃れられたことにホッとしつつも。

 カンナの金髪を眺めながら、ある事柄を考えていた。

 すなわち。――彼女にだけは、伝えねばならないことを。


 そう、俺と伊与が結ばれたことと。

 俺が、未来から生まれ変わった人間であることを――

最近、投稿ペースが遅れていて申し訳ありません。いろいろ立て込んでおりまして。

ところで、別作品ですが規約違反ではないそうなので告知させていただきます。


2019年1月10日、一迅社のメゾン文庫様より『銀行ガール 人口六千人の田舎町で、毎日営業やってます』という作品を発売します。イラストレーターはtoi8さんです。私のライト文芸初挑戦作品で、田舎の銀行を舞台に働く女性を描いた物語になります。「戦国商人」とはずいぶん毛色の違う作品で、一般小説に近い作風になりますが、きっと楽しんでいただけると思うので、チェックしていただければ幸いです。


「戦国商人」の商業に関する動きも、なかなか報告できなくて申し訳ございません。もうしばらくお待ちください。


では今後とも「戦国」をよろしくお願いいたします。第3部はかつての部より短く、30話ほどで終了予定です。そして第4部も続けてやっていきますので、なにとぞよろしくお願いします。

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