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第98話「今月のミナトちゃん」

 石の燻製部屋が完成したので俺たちは家の中に入ったが、エミリアは一度寝てくると言って魔術学院に戻って行った。


「さっき冒険者の宿に寄って依頼書を貰ってきた。俺たちを指名した依頼だ。これ以外にもややこしそうな依頼の話があるけど、その話はサキさんが帰ってからにしようと思う……」

「何だか嫌な予感しかしないわね」


 俺の顔色を読んだのか、ティナは一言言うと夕食の支度をしに調理場に行ってしまった。俺は依頼に興味あり気なユナに依頼書の束を手渡してから、干しっ放しの毛布を取り込みに行く。



 昼間のうちに干していた毛布はフカフカに仕上がっている。ちょっと奮発してしまったが、この質感は毎日寝るのが楽しみになってしまいそうだ。

 俺は夏用の掛け布団と冒険用のペラペラしている毛布を二枚取り除いて、早速新しい毛布と交換する。

 掛け布団と毛布は明日にでも洗いたいので、女子部屋の空いたスペースに固めておいた。サキさんは自分の毛布を二枚とも持ち出しているので、今は掛け布団だけが部屋に残った状態だ。


 掛け布団四枚に毛布が八枚か……洗濯も大変だが干す場所はどうするかな?


 毛布を取り込んだ俺が広間に戻ると、ユナはまだ依頼書を読んでいるようなので今朝買って洗濯しておいた服を取り込むことにした。

 なんだか昨日と同じようなことをしているが、俺たちの服はハンガーに掛けてクローゼットへ、サキさんの服は畳んで奴の部屋へ、昨日買った上着の上に重ねて置いてみたが結構な量に見える。


 木窓の外は夕方と言うにはまだ明るい。今日は珍しく時間がゆっくりと過ぎているようにも感じられる。

 普段ならすっかり空も暗くなってエミリアが放置プレイを楽しんでいるくらいの時間感覚なのだが。

 特にやることが無くなった俺は、広間に下りてユナと時間を潰すことにした。



「何か良さそうな依頼はあった?」

「変な依頼が多いですねー。私を指名した依頼もありましたよ」

「へえ、どんなの?」

「ナカミチさん経由だと思うのですが、ハーブティーの調合依頼です」

「ほうほう……」


 ナカミチの工房で出したお茶で噂が広まったのか? ちょいちょい依頼があるようなら、ユナには専用の作業スペースを作ってやる必要が出てくるなあ。


「あとはサキさんの指名依頼がいくつかありますね」

「あいつの依頼は変なのしかなさそうだ」


 残念ながら俺とティナへの依頼は無かったらしい。まあ、大抵家の中に居て街では目立たないしな。






 俺とユナが雑談していると、サキさんとナカミチが帰ってきた。


「やっと帰って来れたわい!」

「ふう、想像していたよりも大変だったわー」


 二人はティナが持ってきたお茶をオジン臭い感じで飲み干すと、休憩もせずに外へ向かって歩いていった。

 俺は木窓から二人の行動を見ていたが、二人で白髪天狗に繋いだ荷車に乗せてある大量の木箱を家の裏に持ち運んでいる様子だ。


「見ておらんで手伝ってくれえ!」

「まじかよ……」


 俺はサキさんに言われて玄関を出ると、どこで貰ってきたのかもわからないようなボロボロの木箱を家の裏側の、微妙に雨が当たらない壁沿いに立て掛けた。

 木箱の底は目の粗い木の枝が張ってあり、魚を乾燥させる為なんだろうが手作り感満載である。

 肝心の魚は30センチくらいで揃えられていて、内臓の部分はきれいに取り除かれている。乾燥しやすいように木の枝で腹を開いた状態にしてあるようだ。


 この丁寧な仕事っぷりはナカミチの仕業に違いない。


「これは風を吹かせておいた方がいいのか?」

「んあ? 出来るんなら風通しが良いと助かるが……」


 俺は弱駒をいくつか等間隔に設置して風の精霊石を置いた。精霊石は寝る前に一度交換すれば朝まで吹きっ放しに出来るだろう。



「わしはナカミチを工房まで送る。帰りに荷車を返したらそのまま銭湯だわい」

「休む間もないとは正にこのことだな」


 俺は白髪天狗の後ろに乗ったナカミチを見送ると、玄関先に投げっ放しのテントを元の場所に戻してから、サキさんの背負い袋を開けて毛布と洗濯する物を取り出した。






 サキさんが戻ってくるまでにかなりの時間が掛かりそうなので、俺たち三人は夕食の前に風呂を済ませて洗濯もしたが、あのバカはなかなか帰って来ない。

 そのうち昼寝から起きたエミリアも席に着いたので、俺はサキさんが戻って来るまでに暖炉脇の本を片付けさせることに決めた。


「エミリアよ、うちに置いてある殆どの本が図書館から勝手に持ってきたやつだと思うんだが、そろそろ返さないとマズいだろう?」

「非常にマズいです」

「テレポートでこっそり返してくればいいだけだから、今から返して来い。そうしないと今晩からエミリアの飯は無しだとティナが怒っているぞ」

「行ってきます!!」


 エミリアは電池を変えたオモチャのようにキレのある動きで本を片付け始めた。

 やればできるじゃないか。あれだけ俺の頭を悩ませていた大量の本は、説明に使ったらしいメモ用紙を残してきれいに無くなった。

 後はサキさんの木剣置き場を何とかすれば、いよいよ暖炉周りにも家具を置ける。



 それからすぐにサキさんが銭湯から帰ってきた。ここ数日分の垢を落としてきたのだろう、もう夜は肌寒いというのに顔を上気させている。


「そうそう、サキさんの秋物を部屋に置いといたから後で着てみろよ。もう半袖だといつ寒いかわからんからな」

「助かる。山の中は随分冷えたからの」


 サキさんは凍えるような身振りで言った。奥の方はそんなに寒かったのか。






 全員が揃ったところでティナが夕食を運んできた。

 今日の夕食はきのことササミの和風っぽいけどそうでもない感じのパスタだ。


「今日はやけに早くから作っていると思ったがこれが原因か……」


 俺はパスタを一本箸でつまんだ。断面があるので手作業で切ったのだろう。サキさんとエミリアは二人前なので合計七人分だし、その手間を想像した俺はゆっくり味わいながら食べた。


「こういう麺とかを作る機械って売ってないのか? 俺は詳しくないが、要は専用のシュレッダーか何かに掛けているだけだろう?」

「随分前にマカロニ機の話をしたじゃないですか、あれから色々探してみたんですけど、オルステインにはそれらしい機械は無かったです。生地を引き延ばす道具なら売ってましたけど……もちろん手動ですよ」

「ミンチの機械では代用できぬか? この前ティナのお遣いで肉を買いに行ったとき、店の奥に置いてあるのを見たわい」

「ミンチ機の出口をパスタやマカロニ用にして売ってるイタリアの道具を見たことがあるわ。もしかしたら使えるかもしれないわね」


 ダメ元で買ってみようか。ミシンみたいに大型で精密な機械じゃないから、そんなに高い買い物でもないだろう。






 夕食も終わって一息付いたので、俺はサキさんに指名の依頼書を渡した。

 ロクでもないとわかっていても気になって読んでしまったが、絵のモデルにしたいだの、一日デートしたいだの、妙な依頼ばかりだ。依頼主は女ばかりだ。


「なんだ女か。わしは女の依頼など受けん」

「わかった。じゃあその依頼書持って親父に断ってこい。もしかしたら依頼人にカッコいい兄貴や弟がいるかも知れんのにな」

「もう少し考えるわい」


 サキさんは依頼書をモゾモゾとズボンのポケットに捻じ込んだ。


「ここからが本題なんだが……」


 俺は強面親父から聞いた巨大ミミズの依頼についてみんなに説明した。



「……何だか良くわからん依頼だの」


 いつもなら我先にと食い付きそうなサキさんでさえ決めかねている。


「条件を聞く限り、その部隊の中心は貴族の御曹司とかじゃないですか?」

「なるほど。箔が付きそうな強敵相手に実績を積ませたいだけなので怪我されたら困る、失敗して経歴に傷が付いても困る、そういう事か?」

「良くある話ですよ。いくら国と民を守るのが貴族の義務でも、戦いに向かない人はいますからね。巨大ミミズ……ジャイアントアースワームだと思いますが、攻城兵器ですか……湿地帯に逃げ込まれた今は討伐のチャンスですよ」

「そうなのか?」


 巨大ミミズは全長30メートルで胴回りの高さは天井くらいあって、さらに普通の武器では歯が立たんのだろう?



「確かに普段は乾燥しているのでその通りですが、体に水を貯えると全長が数倍に伸びるんですよ」

「うげえ……」


 俺とティナとユナは三人でドン引きした。下手すると100メートルくらいになるって事か? 気持ち悪すぎる……。


「氷やいかづちの魔法が効きますよ。乾燥しているときは炎くらいしか有効な魔法はありませんが、巨大化すると皮も伸びるので武器でのダメージも与えやすくなります」

「倒すだけなら特に苦労はなさそうね」

「倒すだけならな」

「問題はどうやって正規軍の手柄になるような理屈を付けるかですね」


 五人で色々と案を出し合ったが、結局この日は良いアイデアが浮かばなかった。






 数日振りに全員で寝る前の支度をして、風の精霊石を交換するついでにおしっこしに行った時のことだ。


「……………」


 先月の事件などすっかり忘れていたが、俺は女の子だった……。

 今回も股に挟むやつのお世話になりそうだ。俺はすっかり気分も沈んでトイレの棚に置いてあるのを挟んだが、前回に比べると着け心地が良くなっていた。

 ユナが色々いじっていたので密かに改良が進んでいるのだろう。


 俺は部屋に戻ってサキさんが買ってくれた腹巻きを着けてベッドに寝転がった。


「あーもー、始まったよぅ。巨大ミミズは無理だあ……」

「あら……」

「なんだかいつも冒険のタイミングが悪いですよね。私の時なんて古代遺跡に出発する早朝からでしたよ」

「私の方はリトナ村まで走った時よ。途中で頭が痛くなって魔法が殆ど使えなかったわ」


 これは良くない傾向だ。冒険者の宿でティナがダウンした日からずっと懸念していた我がパーティーのアキレス腱が完全に決まっている。

 冬になって王都に滞在する冒険者たちが増えたら、女の子の多いパーティーを見つけて相談してみよう。

 俺たちでは思いも付かない解決方法を知っているかもしれんからな。


 俺はこれから始まる数日間の不安に負けそうだったので、ティナにだっこしてもらって寝た。


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