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第97話「石の燻製部屋」

 今日の夕食はハヤシライスだ。昨日手間の掛かるソースを作ると言っていたのはこれの事だったのだろう。

 向こうは鍋ごと渡したので普通のハヤシライスだが、こっちは一段グレードが上のオムハヤシ仕様になっている。


 道楽パーティーの好みに合わせたのか、玉ねぎに対して肉が多めだ。俺はカレーよりハヤシライス派なのでいつもより食が進んだ。


「おかわりある?」

「あ……。エミリアに土鍋ごと持たせちゃったわ……」

「なんてこった。エミリアのバカ野郎」


 俺は暫くの間ブツブツ独り言を言っていたが、ティナがまた作ってくれると言うので機嫌を取り直すと、食後の後片付けをしてから風呂に入った。






 日課の洗濯と寝る支度をした後、いよいよベッドに潜ろうとペラペラの毛布を掴んだ時、俺たちは思い出した。


「毛布買い忘れたわね」

「忘れましたね」

「なにか忘れているような気はしてたんだが……」


 今日は晴れていたのでそれほど肌寒さもない。毛布は明日にでもと言って、今日は寝ることにした。



 翌朝も天気は良かった。俺は昨日買った秋らしいスカートに着替えたのだが、家にあるブラウスと合わせておけば大丈夫だと思っていたのに、俺の普段着はノースリーブだの半袖だのしかなかった。

 今日の所は仕方がない。以前カッチリした店で買ったノースリーブのブラウスにケープを羽織る。


「ユナは長袖持ってる?」

「実は私も袖なしか半袖しか持ってないんです」

「なんか服ばっかり買ってる記憶しかないんだけど、改めてクローゼットの中を見るとあんまり服無いんだよな」

「不思議ですよね。私も今確認してるんですけど、普段着は四着分しか持ってませんでした」

「俺は三着だな。ティナの方は……四着か。今下で着てるのを合わせて五着、確かフワフワの店で一着多く選ばせた記憶があるから間違いないな」

「ティナさんは長袖も半々で買ってますね……」

「スカートだけは余分に4枚くらいあるなあ。確か馬に乗ったときにパンモロしたからミニ以外のも色々買い足したんだっけ」


 俺とユナは、ギリギリのミニスカートで馬に乗って三人ともパンモロした時のことを思い出して笑い合った。


「とりあえず朝の準備してから考えよう」






 朝の支度を終えて広間に戻ると、ゾンビのような佇まいのエミリアが居た。


「徹夜か?」

「はい」

「大変だな」

「はい」


 イエスマン・エミリアは、ティナから木箱を受け取ると、だらしなく前傾姿勢になったままテレポートで消えて行った。


「最終日だと思って絶対最後に欲が出て徹夜したんだろ?」

「誰が言い出したのか気になる所ですね」


 今日の朝食は熱々のアップルパイだった。焼きたては香りも良くて美味い。これを食えばエミリアのパワーも回復することだろう。



 朝食の片付けを終えて一息付いた俺たちは、今日の予定を話し合っていた。


「俺とユナは一枚も長袖持ってなかった。仕方ないんで二着ほど買おうと思う。ティナもいるだろう。あと、サキさんも半袖二着しか持ってなかった気がする」

「全員二着ずつ長袖を買うんですね?」

「厚手の毛布四枚、忘れないようにしないと……」

「すでに忘れてた。毛布は先に買おう」


 俺たちは家の戸締りをした後、ハヤウマテイオウに乗って街に出かけた。まずは寝具店に行って厚手の毛布を手に入れるのだ。






 服の店の通りから、一つ奥の道にある寝具店に入った俺たちは、厚手の毛布を選んでいる。


「あんまり厚手なのは重くて寝苦しいかも知れんな」

「やっぱり値段の高い毛布は分厚くなくても暖かそうですね」

「それかあ」

「カシミヤみたいな軽さね。肌触りも良いしこれにしましょう」

「毎日使うものだしな……サキさんにも同じのを買って行こう」


 ティナが決定を下した毛布は二重になっていて、そこそこの厚みはあるが持ち上げてもズッシリとは来ない。肌触りも良くて気持ちよく寝れそうな毛布だ。

 かなり理想的だと言える。値段以外は。

 他の毛布もいくつか見て回ったが、最初の毛布を知ってしまうと安っぽさを感じてしまっただけなので快適性を買うことにした。


 毛布はクリーム色、薄い水色と薄いピンクの三種類があるので、それぞれ色違いを一枚ずつ買って、サキさんのは水色にしておいた。



 まあ、なんというか、毛布四枚となるとリヤカーが埋まってしまった。服の店までは近いので、俺たちは歩いて店まで向かう。

 俺は昨日散々悩んだ服を覚えていたので、昨日選び掛けていた長袖のブラウスを二着選んだ。ユナも昨日色々見て回っていたせいか、俺と似たような感じのをすんなりと決めて、サキさんの服を選びに行ったようだ。

 ティナは相変わらず自分に合わせながら悩んでいるので、それを待つ間、俺もユナの方に行ってみた。


「灰色っぽいのと茶色っぽいので選んでいるのか。あいつのはあんまりピチピチじゃない方が良いだろうな」

「やっぱりそうですよね。普通の無難な感じの服にしておきましょうか……」


 ユナとしては攻めて行きたいようなのだが、あんまりチャラい感じの服だとサキさんは好かんだろうな。似合いそうではあるが……。



 俺とユナがサキさんの服を選び終わる頃になって、ようやくティナも自分の服が決まったようだ。


「あれ? 今日も来てくれたのかい? おじさん嬉しいよ……」

「長袖持ってないのを忘れてたんだ。俺たちが脇出してブラブラしてるのも今日で見納め。明日からは長袖だな」


 店のおじさんは露骨に残念そうな顔になって、しんみりと会計をした。このおっさんも最初の頃からブレないなあ。






 服の店を後にした俺は、ティナとユナを先に帰らせて、毛布を干したり服の洗濯をしておいてもらうことにした。

 どのみち毛布がかさばって馬には二人しか乗れないので、俺は徒歩で帰ることにした。実際の所は、そろそろ冒険者の宿に立ち寄りたかったのが主な理由だが。

 俺は久しぶりに「強面親父と冒険者たちの宿」の入り口を跨いだ。


「久しぶりだな」

「おう。珍しいな。今日は一人か?」


 強面の親父は相変わらずだ。この時間は暇なのか、親父はカウンターに肘をついたまま書類を整理している所だった。


「そう言えば少し前に巨大ミミズの依頼があったの、覚えてるか?」

「あったなー。結局ワイバーンの討伐依頼にしたんだっけ」

「そう、それだ」


 親父は冒険者が出払って誰も居ない店内をわざとらしく見渡してから、俺に耳打ちするジェスチャーを取った。


「実はな、あれから王都の正規軍が動いたんだが、湿地帯に逃げ込まれちまったらしい。要するに虎の子の攻城兵器が使えない場所になっちまったわけだ」

「それは大変だな。まあ逃げたんならいいんじゃないのか?」

「所がどっこい、一応正規軍が討伐に出た手前、逃がしてしまいましたじゃ面子が立たねえって訳よ」


 親父はぐいとカウンターを乗り出して、ここからが面白いとでも言いたそうな面を見せる。


「面子って……そんな街のチンピラみたいな……」

「まあ聞けや。そこでだ、これは非公式な依頼だが、その巨大ミミズを攻城兵器の射程範囲まで追い立てる依頼がある。特に倒す必要はねえ」

「んー」

「非公式なだけあって報酬が良い。条件は二つ、一つ目は正規軍が倒しましたって実績を作ることだ。二つ目は正規軍の被害を出さないことだ」

「なんだか茶番のニオイがするなあ……もし勢い余って俺たちが倒してしまったらどうするんだよ?」

「ハハッ、冗談も大概にしろ。誰もそんな期待はしてねえ。やるか?」


 やるか? って言われてもな。それに湿地帯で囮とか、確実に馬は使えないだろうし、足を取られて身動き取れないような場所で何をさせるつもりだよ。


「サキさんが出払っているから、帰って来ないと相談もできないな。一応報酬額だけ聞いておこうじゃないか」

「銀貨20万枚」

「ほー……」

「うちの店に来る連中で何とかできそうなのは今のところお前らだけだ。当分睨み合いが続くだろうから返事は急がなくても良いが、早い者勝ちだぜ」

「その巨大ミミズ、もし逃げたまま放っておいたらヤバいのか?」

「ちょっとわかんねえな。まあ安全が保障できる相手じゃねえのは確かだ」


 それもそうか。なにかの弾みで人里や街道にでも移動されたら大変だ。


「巨大ミミズの件は俺一人で判断できんな。それよりも指名の依頼とかは入ってないのか?」

「あるぜ。数は多くないが……」


 強面親父は依頼書の束を俺に手渡しながら、もう面倒臭いから家に帰って勝手に吟味して来いと言われた。

 なんだかロクな依頼じゃない事だけは理解できる。






 強面親父から依頼書の束を受け取った俺は、徒歩で家まで帰ってきた。

 二階の木窓には買ったばかりの毛布が干してある。俺はそのまま家の中に入ったが広間には誰も居ないようだ。

 勝手口から外を覗くと、今日買った服が干してある。微かではあるが河原の方から声がするので、俺は依頼書を広間のテーブルに置いて河原へと向かった。


 河原では一足先にテレポートで帰ってきたエミリアが、ティナと一緒に魔法で石の壁を作っている。ユナは何かの紙を見ながら指示を出しているようだ。


「何してるんだ?」

「石の魔法で燻製部屋を作っているんですよ」


 エミリアは腕をガラス拭きのように動かすと、石の壁の側面に新しい壁が生成された。ティナの方も反対側の壁を作っているが、魔法の精度に関してはエミリアには及ばないようだ。

 俺はエミリアが出した石の壁を見て、まるで古代遺跡のように角度や位置が正確なことに感心してしまった。


 やはり導師と言うのは相当にレベルの高い魔術師なのだろう。


 俺とユナは少し離れた場所から石の燻製部屋ができるのを見学していたが、部屋自体は壁の一面を残してすぐに完成した。穴が開いている面は魚を入れてから閉じるらしい。

 燻製部屋は畳一畳分くらいの広さで、高さは2メートルくらいある。壁に厚みがあるせいで外観はもう少し大きいのだが。


「このサイズの燻製部屋が必要なら、結構な量がありそうだな」

「燻製はナカミチも一緒に作るらしいわよ」


 流石のティナも呆れた口調で言う。とりあえず後はサキさんとナカミチが戻って来るのを待つだけだ。


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