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第96話「草むしりの魔法」

 今日の朝食はホットドッグだ。パリパリのウインナーに千切りにして炒めたキャベツが大量に挟まっていて美味い……。

 俺たちは手早く朝食を済ませて、今日の予定を話し合っている。


「秋物はサキさんが帰って来てからと思ってたが、もう家に居る必要なしと言われたし、今日買いに行こうと思う。良く考えたらサキさん連れて行っても真面目に選ぶと思えんし、あいつのは俺たちで選んで買ってやろう」

「そうね……」

「とりあえず何を買えばいいだろう?」


「家の中で羽織る物と、羽織ったまま外に出ていける上着と、厚手の毛布かしら?」

「そうですね……冬用の掛け布団はもう少し様子を見て買いに行きましょう」

「うん。あと俺はヒラい服ばっかりなんで、ちょっと秋っぽいスカートが欲しいかなあ。青系メインだから色的に夏物ばかりなんだよなー」

「確かにそうね」

「暖炉周りの家具と薪ストーブはどうしますか?」


「暖炉の方はエミリアに本を片付けさせてからやろう。今までは自主性を尊重していたがもう待てん。飯抜きの刑をちらつかせて片付けさせる」

「薪ストーブ?」


 ティナの疑問に、ユナが昨日の会話を説明した。


「なるほど……薪ストーブはサキさんが戻ってこないと無理ね」

「そうなのか?」

「確か鉄の塊みたいなストーブじゃなかったかしら? 三人じゃ動かせないわよ」

「あー……」


 ユナが納得したような声を出したので、今日は薪ストーブを保留にした。






 家の戸締りをした俺たちは、ハヤウマテイオウに乗って服の店へ行く事にした。

 今日はフワフワの店ではなく、俺たちが最初に訪れた服の店だ。

 先日ティナと一緒に街のファッションを研究したこともあって、今回は普通の服を買ってみたくなったのだ。


「よーし、今日はティナに丸投げしないで自分で服を選ぶぞ!」

「がんばってミナト! タイトな服のときはちゃんと試着するのよ?」

「うん!」


 俺は暖色系の落ち着いた感じの色を選んで、姿見の前に立って確認した。似たようなのを何着か持って来てはとっかえひっかえしているのだが、選んでいるうちにどれが良いのかわからなくなってきた。


 先に羽織るやつを選ぶか……。



 ちらりとティナやユナの方を見ると、ユナは部屋着に丈の長いカーディガン、外出用にはデニムのような丈の長いジャケットを選んでいる。どちらも長袖だ。

 ティナの方は、外出用には丈の短い長袖のジャケットを選んだようだが、部屋着の方で悩んでいるようだ。

 俺は二人を参考にして、外出用にはごく普通のジャケットを、部屋着には丈の長いベストのような上着にした。袖は無いが取り外しできる専用の肩掛けが付いてくるのが気に入った。


 羽織るやつは結構あっさり決まったので、この勢いがあるうちにあまり深く考えずに、ベージュ色にブラウンのラインが入ったオシャレなフレアスカートを一枚選んだ。上の服は家にあるブラウスで何とかなるだろう。


「ティナ先生まだですかー?」


 自分の服が決まったので良い気になった俺はティナの方に移動する。

 どうやらティナは、袖の長さについて色々と悩んでいるようだ。


「袖が広いと家事の時にたくし上げてもすぐに落ちて来るのよねえ……」

「うーん……?」

「やっぱりこっちのニット素材にしようかしら?」


 俺とユナは好きなのを選んだが、ティナは自分の好みと実用性を天秤に掛けて悩んでいるらしい。


「両方買えばいいんじゃないか? 家事用の服はノーカウントだろう」

「やっぱりニットにしておこうかしら。調理場に行くたびに着替えるのは無理そうよね……」



 俺とティナの上着がようやく決まったのでユナの姿を探すと、ユナはサキさん用の上着を探しているようだった。

 紳士服の列に入って行くのはちょっと抵抗があるが、ユナは平気なんだろうか?

 他の男性客もいるので、俺とティナは遠慮がちにユナと合流した。


「見てください。このジャケットいいと思いませんか?」

「派手ね」

「派手だな」


 ユナが選んだ上着は、男性用としては細身に絞ってあるダークレッドの中二病溢れるジャケットだ。サキさんみたいなイケメンが着たら恐ろしく似合うだろう。


「まあいいんじゃないか? そのジャケットだと下は黒っぽい暗めの色が無難だな。一応ズボンも買って行ってやるか。あと、普通のジャケットも欲しいな」


 あいつは多分、家と外に別けていちいち着替えるようなことはしない。着たら着たまま出ていくのが目に見えている。

 俺は家の中でもゆったり着れて、そのまま外に出ても良さそうな感じのジャケットを選んでやった。あと黒っぽいズボンも。



 なんか他の男性客がジロジロこっち見てるし、俺は彼氏の服を買いに来た彼女みたいに見られるのが恥ずかしかったので、ティナとユナを連れて足早に店のカウンターへ移動した。

 店のカウンターにはいつものおっさんが愛想の良い顔を振りまいている。


「今日は秋物を買いに来たのかい?」

「最近は肌寒い日もあるからな。まだ冬物が見当たらんが、品替えはいつ頃になるんだ?」

「収穫祭のちょっと前から並べだして、祭りが始まる頃には切り替わる感じだよ」


 なるほど、収穫祭が終わる頃には冬服が必要になる時期なのか。ていうか冬に収穫が始まるのか?


「いやいや! 収穫は秋だけど、収穫の後に流通してみんなが一息付くのが秋の終わりだからだよ。一年で一番忙しい時期に祭りなんて出来ないからね」


 それもそうか。俺は妙に納得して店を出た。収穫祭の始まる寸前に来れば一番品揃えが豊富なのだな。フワフワの店と違ってここは早い者勝ちだし。






 俺は買った服をリヤカーの空きスペースに置いてから、これからのことを相談することにした。近場の店ですぐに用事が終わったので、まだ午前中だ。


「私は特に行きたい場所はないですね。一度帰って洗濯しませんか?」


 ユナが珍しく寄り道なしで家に帰ると言うので、服の臭い消しも兼ねて洗濯しに帰ることになった。

 なんか忘れているような気がしないでもないが……。


 家に帰った俺たちは、早速買ってきた服を洗濯して干した。今日中には乾くと思うが、念のために強駒を置いて強風を吹かせている。


「今日はもう大人しくしておくか。無理に用事を作っても仕方ないし」

「家の周りの草むしりでもして来ようかしら」

「私は部屋で作業していますね」


 俺たちはそれぞれに別れて作業を始めた。ティナは裏手の草むしりを始めたので、こっちは表の草むしりでもしようか。



 一人で黙々と草むしりをしていた俺だが、抜いても抜いても終わる気配がない。

 やっぱり表側は森なので草が多い傾向にある。いつかまた四人でやらないとダメだな。もう少し目立ち始めたら全員でやろう。

 裏手の方はどうなってるのか気になった俺は、そのまま勝手口の方へ回った。


 家の裏側では、ティナが熊手くまでを持って抜き終わった草をかき集めている所だ。家の裏側は、馬小屋の方も含めて雑草が消えていた。


「魔法使った?」

「使ったわよ。表の方は終わったの?」

「一人じゃ無理だった。俺でも使える魔法ならもう一度やってみるが」


 俺も抜いた草を集めるのを手伝って、ティナと一緒に再び表に移動した。






 ティナは魔法の杖をかざすと、草のある方向へ杖を一振りした。

 特に何かのエフェクトが出るわけでもないが、草の方に注目していると、なんと雑草が勝手に抜け始めた……ように見える。


「すげえ。何やったんだ?」

「草の根が張ってる部分を下から土で埋めたのよ。行き場を失った根っこは地面に追いやられて、草が勝手に抜けたように見えるの」

「む、地味に高度なことやってるな。草を引っこ抜いた部分の土がボコボコになるのも防げるわけか……」


 俺も真似してみたが、ちょっと上手く行かなかった。土の精霊石で可能な魔法なんだが、イメージが難し過ぎる。


「規模を拡大すれば大木でもそのまま抜けそうよ。土地が必要になったときは活用するといいわね」


 ティナは凄い方の杖が入っているホルダーをぽんぽんと叩いて見せる。農村だと重宝されそうな魔法だ。


「これは応用で芋を掘り起こすとか畑を耕すことも出来そうだな。俺も練習してみるか」


 俺はティナに習ってもう一度草むしりの魔法を練習してみたが、どうにも相性が悪いのか上達が見込めなかったので、熊手で草を集めることにした。

 結局草をまとめる作業よりも早く草むしりが終わってしまい、ティナには夕飯の支度をしてもらって、残りの作業は全部俺がやった。


 まとめた雑草を裏手の河原に移動させた頃には、すっかり夕方になっていた。

 丁寧にやったおかげで、家の周りはこの上なく綺麗になったと思う。

 前回の草むしりは規模も大きかったし巨大ムカデまで出てきたりして、そこまで丁寧にできなかったのですぐに草が生えてきたが、今回は大丈夫だろう。


 俺は家に入る前に洗濯物を確認したが、強風のお陰ですっかり乾いていたのでそれを取り込んでから二階の部屋へ戻った。






 部屋に戻るとユナがハーブティーの調合をしていた。そろそろ作り置きのストックが無くなったのかな?

 俺は乾いた洗濯物をハンガーに掛けてクローゼットに仕舞うと、サキさんの上着とズボンだけをベッドの上で畳んでいる。


「ハーブの入れ物も増えてきたな」

「そうなんですよ。こっちの世界だと趣味だけで終わらないので小さな入れ物じゃ足りないですし……」

「良く使う素材は大きな入れ物にして、小さな容器がまとまるケースでも見つけてきたらどうだ? 必要なら専用の机や棚を置いても構わんぞ」

「ありがとうございます。この容器、私たちが宿通いだった頃のままなんですよ」


 もっと早く言ってくれれば良かったのに。一緒に居ることの少ないサキさんの方にばかり気を回していたが、それだけではいかんようだな……。



 俺は畳んだ服をサキさんの部屋に置いてから、かかしのように突っ立っているエミリアが待つ広間へと下りた。


「明日はいつ頃帰って来るんだ?」

「午前中には荷物をまとめて川を降りるので、大トカゲの最後の買い取りを済ませた後に……夕方より少し前には帰って来れると思いますよ」


 大トカゲの買い取り……? まあ食材だし買い取ってくれる店もあるのだろう。

 俺がエミリアの相手をしていると、木箱を持ったティナが広間のテーブルを二往復した。今日は木箱が二つあるようだ。

 エミリアは横着して一度に運ぼうとしたが、重かったらしく二往復して消えて行った。


「やけに重そうだったな」

「もう面倒になってきたから土鍋ごと持たせたのよ。ユナを呼んで来てちょうだい。私たちも晩ご飯にしましょう」


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